戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

517 / 649
扶桑と時雨と除夜の鐘

「んじゃあ除夜の鐘つきにいくぞ」

 

年越し蕎麦勢は置いて行っても

鎮守府に在籍する艦娘は多い

なので、希望者に限定しているのだが

 

今年に希望した艦娘は、たったの二人

というわけで

 

「提督、行こう……一緒に」

「お供します、時雨もね」

 

扶桑と時雨と一緒に、寺へと(と行っても、かなり遠いので車でだが)向かった

 

「そういえば、扶桑は大型乗用車の第二種免許取ってたんだよな?」

「はい、バスの運転も出来ます、お客様を乗せてだって運行できますよ?」

 

扶桑さんは大型乗用車の免許をランクアップさせ、第二種免許にしたことで

バスの車掌でもやれるようになったという

 

「私、乗り物に乗っている時はとても落ち着けて、気分が楽になるんです

だからなのかは分かりませんが、あまり不運に見舞われる事もないのです

……免許の試験の時には、豪雨になってしまいましたけどね」

 

軽く笑っているが、笑い話では済まされない

豪雨の中では運転も難易度が格段に上がる、視界が通らない中で自動車を運転するのはとても難しいのだ

 

「そういうわけで、私は乗り物が好きです……好きが高じてなのか、とんとん拍子に大型の免許をとりましたけれど……今度はフェリーやセスナの免許に挑戦してみようかしら?」

 

「そうだな……ふふっ、それも面白いかもしれない、艦娘がフェリーの操縦ともなると……ふふっ」

「あ、いま笑いましたね?」

 

運転先なので、視線は前に固定したまま笑う俺に、扶桑さんがじっと目を向けてくる

 

「艦が船を操る、と聞くとね?

そもそも艤装を付けてさえいなければ、普通の女性とほぼ同じなのに

おかしな話に聞こえないかい?」

 

「艦であれば、おかしな話かもしれない、ですが私たちは艦娘です

女性のパイロットは珍しくても、いない訳ではありません、だからおかしいとは思いません」

 

俺の軽い皮肉に、扶桑さんの反撃が帰ってきたので、俺はそのまま話を流す

 

「……時雨、静かだけど……寝てる?」

 

その一言に、扶桑さんは振り返って後ろを確認して

 

「……あらあら、かわいい寝顔

寝ちゃってますね」

「じゃあ向こうに着いたら起こそう」

 

どうやら、時雨は寝てしまっているようだ

 

「……雪、か」

 

すでに年の瀬、大晦日である

当然ながら季節は冬、雪も降ろうというものだ

 

「タイヤ、スタッドレスに替えておいて良かったな」

「提督?……もう、風情が無いですね、こういう時の感想はもう少し雪の方を見てあげるものですよ」

 

扶桑さんに笑われながら

それでも路面の心配をする俺は

とりあえず道の半ばまでを走り切り

 

扶桑さんと運転を交代する

「提督、後ろで良いのですか?」

「あぁ、時雨も寝てるし別に助手席じゃなきゃいけないわけじゃないからな」

 

運転席に座る扶桑さんの後ろの席

助手席の後ろに座る時雨の隣に座り

 

「んじゃあ後は頼んだよ」

 

俺は扶桑さんにハンドルを任せた

 

「1時間くらいで着きますから、それまではごゆっくりどうぞ」

「あぁ……うん」

 

時雨の横顔を見ていると

自分まで眠くなってきてしまった

なので遠慮なく寝させてもらう

 

「……うふふっ……こうしていると

まるで家族みたいですね」

 

どこかで声が聞こえた

 


 

「提督、着きましたよ、起きてください」

「!……おう、わかった、ありがとう」

 

身を起こして、ひとまず

周囲を確認する

 

「提督、どこに車を置きましょうか」

 

寺の前の駐車場はどこも埋まっているだろうが、少し離れた場所にある

有料駐車場を使うという条件なら問題はない

 

「えっと……たしか、その三叉路を右に行ってくれるか?そっちに駐車場がある

それを使おう……時雨、起きろ」

 

時雨を起こしながらオペレートして

扶桑さんを駐車場へ誘導して

 

「少し歩くが、良いかな?」

「はい、構いません」

「ん……」

 

車を降りる

 

寝起きの時雨は俺の腕を掴み

反対の手で扶桑の袖を掴んだ

 

「ふふっ……提督、こうしていると……ふふっ」

「なんだよ、はっきり言ったらどうだ?」

 

「いえ、なんというか……

夫婦と娘の三人家族のようですね」

「……そうだな」

 

それにしては嫁が美人すぎるし娘が随分と大きい気がするが、まぁ構うまい

 

「俺も良い嫁さんを貰ったものだな

3年前はまさかこうなるとは思ってもいなかった」

「うふふっ……そうですか?

私も三年前は、提督と結婚なんて思ってもいませんでした」

 

俺の三年前といえば士官学校の入学直後という時期、当然ながら扶桑となどあってすらいない、翻って扶桑からすれば三年前はドロップ前の深海棲艦であろう

 

「……ほら、時雨……」

「扶桑にも、負けはしないよ」

 

そっと目をやると、なにやらゲームでもしていたのだろうか?

時雨が扶桑に対して対抗心を表すのは珍しい気がするが、明確にそれを示す言葉が出てきた

 

「私は簡単には負けてあげないわよ?」

「いつまでもそう余裕ぶっていられると思わない方がいい」

 

随分と剣呑な雰囲気だ

大丈夫だろうか?

 

「ほら、二人とも、列に並ぶから静かにね」

「はい」「うん」

 

そっと並び方を変えて

俺の腕にすがり付く時雨と、反対の腕を絡める扶桑さん

 

周囲からどう見えているのかは知らないが、確実に美人を連れている男として

嫉妬の視線を受けることは分かる

 

「………………」

 

鐘つきが始まるまでの間

俺は時雨と扶桑さんの柔らかい感触に理性を攻撃されながら耐え忍ぶことになった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。