「……新年、あけましておめでとうございます」
「提督、あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうございます」
ほぼ同時、年が変わったその直後
異口同音に新年を祝い、年を越した己等を祝う
「……」
くいくいと時雨が袖を引っ張ってきたので、視線を合わせる
「……」
どうやら無言で何かを要求しているようだ
とりあえず……頭を撫でてやろう
teaching feelingでもそうやって来たし、さほどイケメンではなくても
ナデポ補正というのは役に立つ
「ぁ……」
俺の手を静かに受け入れた時雨は
僅かに微笑みを見せてくれる
「それじゃあ帰るよ、扶桑さん、時雨」
「はい」「はい」
それにたしかな満足感を覚えた俺は
寺に併設されていた出店を素通りして……足を戻した
「せっかくだし、一杯やろうか」
白玉ぜんざいを3杯分購入して、二人に渡す
「はい、一緒に食べよう」
「良いんですか?」
「別に我慢する必要もないしな?……いらなかったか?」
「い、いえ……ただ、提督がこういう所で何かを買うのは珍しいと思いました」
どこまでも控えめな扶桑さんに萌えながら、一緒にもらった割り箸を割って
「おいニィちゃん、随分な別嬪さんを連れてるじゃないか」
そんな、不愉快な声を聞いた
「なんだ、アンタ等」
「んなこたぁどうでも良いんだよ
お前はその女と釣り合ってないってんだよ!」
それは三人組の典型的な不良
お揃いの髪飾りをつけている時雨と扶桑を、姉妹か何かと考えて
そこにくっ付いている俺を邪魔者と認識したのだろう、不良たちは俺を二人から引き剥がそうとしてくる
それならば好都合だ
「扶桑さん、時雨、少し待っていてくれ」
「はい」「良いの?こんな連中扶桑と僕なら……」
「ダメだ時雨、立場ってものがある」
ぜんざいのお椀を扶桑さんに持ってもらって、声をかけて来た男連中に振り返る
いくら不良とはいえ、艦娘が人間に暴行を行えば問題になってしまう
その辺は社会の厳しさという奴だ
「悪いな、待たせた……それで、なんの話だ?」
「お?なんだよ調子乗ってんのか?」
「俺達は軍の教練だって受けてるんだぜ?!」「パンピーが相手になると思ってんのか!?」
時雨も扶桑も、そして俺も私服
故に奴らは俺たちが提督と艦娘であると認識できていなかったのだろう
「……軍の教練……」
そんなものをまともに受けていれば
こんな性格にはならないだろう
おそらくこいつ等は箔付けか何かのために軍学校に入って即中退したか
それとも親父か誰かが軍人でその教練を受けた、と言い張っているのか
そう言った似非関係者の類だろう
しかし、俺は油断せず、相手を見つめて
……ポケットの中から片手を抜く
「へへっビビってんのか!?
だったら大人しく下がってそこの嬢ちゃん達をよこしな!」
「今なら5万で許してやるぜ〜?」
「そうそう、お前金もってんだろ?」
耳のピアスや腕の刺青を見せつけるようなポーズを取る不良、確定だ
誇りある日本軍人で、こんな格好をする奴はいない
「ぐ、軍人が民間人に武力を振るうのは禁止されているはずだ!」
わざと怯えたように振る舞ってやると
やはりテンションが上がっているのか、簡単に釣れた
「ゴタク垂れてんじゃ……ねぇっ!」
大振りのテレフォンパンチ、というわけではなく、さすがにそこは鍛えているのか
そこそこの威力のあるストレートが胸に直撃し、そのまま俺の体を浮かす
2メートルほど吹き飛ばされた俺は
二人に当たらないようにわざと前側に倒れるように着地、そして
「1発は1発だ……武力行使を確認した、これより、正当防衛権を行使し、応戦する」
拳を構える
「雑魚が、調子乗ってんな!」
「潰せ!」「死ねゴラァっ!」
三者三様のリアクションと共に
一様に殴りかかってくる不良達
その拳はみな直線的で、どこまでも甘い
「普段の服なら、まるで通さないレベルだな」
軍服ならば、この程度の拳
不動でも防げるくらいだ
「オラァァっ!」
「ふっ!」「ごえっ!?」
最初に殴りかかって来た金髪の腕を殴って逸らし、横から出てきた茶髪に当てて
金髪の腕をロック、そして
横から膝蹴りを叩き込んで
構造上不可能な方向へと曲げてやる
ピアスが後ろから襲ってくる
それに合わせて跳躍し、その首を蹴って転倒させ、念入りに片足の脛を破壊する
茶髪は逃げようとしたところを低空ドロップキックで転ばせて、首を掴んで持ち上げる
こうしてみると、いかに自分が人間離れしているかを実感できるが
さすがにこのまま首を折るのは忍びないので、空中に放り投げてからトーキックを鳩尾に叩き込むだけで許してあげることにした
ポケットの中からボイスレコーダーを取り出して、呻いている金髪に見せてやる
「おい、これがなんだか分かるか?
ボイスレコーダーだよ、
お前たちの言葉が入ってるんだ……これを警察に届ければどうなるだろうな?
お前等の未来が明るいとは思うなよ」
最後にきっちりと釘を刺してやってから、ボイスレコーダを再生する
その中に不良の声がきっちりと録音されていることを確認した上で
再度ポケットに収める
「言っとくがな、俺は本職の軍人だ
喧嘩を売って来るだけなら許した、だが彼女たちを手にかけようというのなら
次はこの程度ではすまさない」
「ひ……ひぃぃいっ!」
「おいてかないでくれぇぇ!」
腕を掴みながら走っていく金髪と、それに縋ろうとして置いていかれるピアス
ひたすらにえずく茶髪
三人組の結束は見事に砕け散ったわけだ
「緩い結束だこと」
俺は振り返って、扶桑さんからぜんざいのお椀を返してもらうために二人の元に向かった
「格好良かったです、提督」
「あんまりやりたくはないけどな……」
「しかし、提督、ボイスレコーダなんて持っていたのは何故だい?」
疑惑の色を湛えた時雨の水色の瞳に射抜かれた俺は、あっさりとそれを吐く
「実はな、このボイスレコーダー
里見君が買ってた奴なんだ、前の提督の悪事を暴いたあと、お役御免になっていたものなんだがな?……こういう外出の際は必ず持っていく事にしているんだよ
いつ必要になるか、わからないからな」
「そう、ですか」
「あぁ……にしても、不良に絡まれるなんてな、ツイてないや」
「いや、そうでもないんじゃないかな?」
時雨が差し出してきたのは
初詣は神社でやるんじゃないのか、寺
「さっき引いたんだけど、それ」
中身を見てみると
それは大吉
「年明けから提督のかっこいいところを見られた、僕たちにとっては良いことだよ」
「なんか複雑な気分だな……っていうか時雨お前!そんな暇どこにあった?殴り合ってる最中に引いてきたのか」
「ううん、さっき提督がお汁粉を買った時に、隣の出店はおみくじをやっていたから」
「なるほど……って、時雨
こいつはお汁粉じゃなくてぜんざいだぞ?」
「お汁粉じゃないの?」
「お汁粉とぜんざいは……そうだな、バッタとイナゴくらい違う」
「それほとんど同じじゃないか」
「そうだよ、関東と関西で呼び方が違うってだけ……厳密には区別があるらしいが
あの出店で出しているのはどうやら『白玉ぜんざい』であるらしいからね」
出店の暖簾に書いてあるのは『ぜんざい』の文字、故に俺はこれをぜんざいであると判断している
「提督、はやく食べないと冷めてしまいますよ?」
「ん、それもそうだな」
「それじゃあ扶桑も」
「「「いただきます」」」
三人で食べたぜんざいは、どこか甘く感じた
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戦争が終わった後の話を!
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