「というわけで、初詣に神社に来たんだが……随分な盛況だな」
「そうですね、これはまた……新年だからこその賑わい、ということなのでしょうか?」
「人が多いね」
やっぱり初日の出を拝みに初詣に来る人は多かった様で、午前2時だというのに
もうかなり人が集まっていた
「時雨、なんか飲み物買ってきてくれるか?」
「僕?……あぁ、うん、わかった」
時雨は神社を出てしばらくの街中にある自販機の場所を覚えていた様で
迷いなく歩き去っていく
「よろしかったのですか?」
「なにが?」
「時雨を一人で使いに出したりした事です、時雨は村雨ちゃんの様に目立つ容姿をしているわけではありませんが、顔立ちの整った子です
先ほどの様に男の人に話しかけられたら……」
「それについては心配ないよ、大丈夫さ」
「心配ない、ですか?」
「あぁ、時雨ならそういうトラブルは回避できる、それにさっきも言っただろう?
『艦娘が人間に暴行を行えば問題になる』っていうのは、時雨も分かっている
それに人間の足じゃ、本気を出した時雨の速度には追いつけないよ」
軽く笑いながら、姿を消した時雨の方を見遣る
「問題はない、時雨が戻って来るまで少し待とう」
「……はい」
依然として降り続く雪を眺めながら待っていると、なんともなしに
互いを見つめあう形になる
「………………」
「………………」
薄白い肌、紅玉のような瞳
スッとした鼻梁に乾燥とは無縁そうな唇
「……」
かつての世界で、『古い時代の女性』をイメージして作られた和装美女
創作物の中でしかあり得ない完璧な容姿
それそのものの顔に微笑みを浮かべてこちらを見つめる扶桑さん
思わず時間を忘れてしまうのは
仕方ないと言えるだろう
「……提督」
「提督」
「提督っ!」
「!?」
頭が空白になっていた俺に
突然声がかけられる
「どうした時雨?」
「もう……さっきから何度も声をかけていたんだよ?ほら、提督の分」
「ありがとう、いくらだった?」
「150円」
時雨の差し出した微糖の缶コーヒーを受け取り、とりあえず値段を聞く
「はい」
「ん」
200円を時雨に渡して
五十円分を返そうとして来る時雨を遮る
「キリいいし、駄賃にもならない端額だからいいよ」
「そう?ならいいけど」
時雨の頭を撫でて、熱い缶コーヒーを開ける
「はい、扶桑も」
「ありがとう、時雨」
時雨は扶桑さんの分もちゃんと買ってきてくれたようで、扶桑さんは同じコーヒーの加糖タイプの缶を受け取る
「……うん、やっぱり美味しい」
「提督、外で物を買うのは久しぶりじゃない?」
「確かにそうだな、ほとんど鎮守府の中で済ませているし、外にはほとんど出ないからな」
熱い缶に苦労している扶桑さんから缶を受け取り、除熱のためにしばらく持つ役を務める
「そもそも鎮守府の提督っていうのは責任ある管理職だが、その実態は『艦娘の暴走に対する抑止力』だからな、本来、鎮守府の外に出てはいけないんだ
艦娘に対しては依然として上層部の姿勢は厳しい、だから建造の際には必ず細工をしたりするし、『縛り』も行う、提督なんて本来必要ない職を置いて『鎮守府』などと言って祭り上げるのさ」
「それは、何故だい?」
時雨の合いの手は、普段よりも深く
重い声で帰ってきた
それを気にせず、俺は普段通りに返事をする
「言っては悪いが、鎮守府を置くことで艦娘を場所に依存させる『護国の乙女』と提督という職業を背負う人物を置いて大本営との間の緩衝材としつつ、その命令に従うように人物に依存させる『心柱』は共に建造時に外部から付加する言わば枷だそれは一重に、『艦娘vs人類の戦争』を避けるため
現状ですら『深海棲艦vs人間』になっているのに、これ以上敵を増やし、戦力を削られるわけにはいかないだろう?
それにそもそも人類は艦娘とそれに由来する技術でしか深海棲艦に対抗できないんだ、だからそれを失うわけにはいかない、万が一にも先例を作らないように、反逆をされないように、何重にもリミッターを作っているのさ」
「それは……あまり、気分の良い話ではありませんね……」
扶桑さんの表情は暗い
それもそうだろう、その対策や縛りとは、つまるところ『艦娘は都合のいい自立機能を備えた、扱いに細心の注意を要する兵器である』という大本営の見解そのものなのだから
「深海棲艦にはこれらの縛りは存在しない、だからこそ練度は初期値固定
つまり、我々は皮肉にもこれらの縛りのおかげで戦力を増強し、勝利しているんだよ
あまりそんな細かいことを気にする必要はないのさ」
「そう、ですか?」
「そうそう、ほらコーヒー」
そろそろ熱さが薄れてきたので、片方を扶桑さんに渡して
もう片方に口をつける
「あっ……」
ほとんど味のしないコーヒーを一口飲んで、灰色に霞んだ空を見上げる
「雪、止んだな」
「はい……いつのまにか、綺麗に」「提督、せっかくだからおみくじを引こう、きっといい結果になるよ」
高い『幸運』ステータスを持つ時雨がそう言うのだから、そうなのだろう
「よし、じゃあ御籤引きに行こうか」
「うん!」「……はい」
ちなみに、現時点で空は晴れています
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しぐ……しぐ……