戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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踊る会議

「提督さん提督さん」

 

「ん?どうした瑞鶴」

 

結局事務担当艦全員(大淀・神通・長門・空母棲鬼)を集めてみても話がまとまらず

安易に拒否することも受けてしまう事もできない催事の通知をどうするかと悩んでいたところに、唐突に声がかけられる

 

「これどうぞ」

 

「ありがとう……開けて良いかな?」

「うん、別に食べ物とかじゃないし、いつでも良いよ」

 

差し出されたのは

かわいい包装に入った……長鉢巻

 

「……?」

「翔鶴姉えの赤いのと、私の白いのと、色違いなんだよ」

 

臙脂色のそれは、基本的には紺か白を基調とする軍服の俺からすれば非常に目立つ色合いであり、やはり視覚的に大きな変化を持つだろう

 

「私が結んであげる」

「え?いや自分で」「良いから良いから」

 

さっと後ろに回られ

「ちょっと待っててね〜」

 

そのまま鉢巻を締められる

 

「どう?本当は紫にしたかったんだけど、紺と紫だと色が沈んじゃうし

赤系の臙脂色にしたの」

 

「お、おう」

 

「もう、返事はシャッキリしてよね

どうしたの、提督さん?元気ないよ?」

「昨日徹夜してるんだよ……あぁ、それもある」

 

手元を見つめる瑞鶴の視線を追うと

やはりその原因となった書類は例の催事……つまり、活動説明会の関係書類

 

「ちゃんと寝ないとダメだよ?

それになにこれ、海軍の活動説明会?」

 

「そう、鎮守府を一般に開放して、鎮守府の妖精に暴露させて民間から妖精知覚症を発症した適性者をスッパ抜くっていう最悪な企画、

全員発症するわけでもなかろうし、まともに企画としての体面は作らなきゃいけないし

海軍の活動を説明するっていったって

表面的に鎮守府の長所、利点を並べ立てるだけだろうしな……正直、やってられないんだわ

 

それにウチ、深海棲艦抱え込んでるし?」

「あ、そういえばそうね……レ級ちゃんにあった時は驚いたわ……うぅん〜……」

 

瑞鶴も考え込んでしまったようだ

 

「深海棲艦を連れた提督、なんてどう考えても受け入れ難いだろう?」

「そうねぇ、普通に考えればダメよね

どうやったら開けるのかしら」

 

「①深海棲艦を最低限隠す②各艦種、および鎮守府各施設に相応しい説明を考える、③そもそも予算を確保する④隠すべき書類や物品、設備を隠蔽する

大きくいってこの四点だろうな」

 

「うわ……難題ね、それ

いいわ、一つ一つ解決策を考えていきましょう」

 

随分と乗り気な瑞鶴と

急遽招集した事務艦娘たちは

昨日と同じように執務室で会議を開始した

 

「……というわけなんだが

瑞鶴からはなにか意見はあるか?」

「私から?…………一つだけあるわ

不都合な設備とか、書類とかっていうのはいわゆる機密性の高いもので良いのよね?」

 

「あぁ」

 

俺の言葉に、ほっとしたように息をついた瑞鶴は人差し指を立てて

 

「なら、機密区画は機密区画で分けて、侵入禁止にしちゃえば良いのよ」

 

「すまない、それには反論がある」

 

すぐさまに俺が水を差す

 

「空母棲鬼はともかく、レ級の艤装は定期的なメンテナンスを行なってあってもたまに暴走する、レ級の制御下にある内は良いが、あまり長い間狭い部屋に押し込むわけにはいかない

機密区画を設けるにしても

一般開放する以上、愛宕や摩耶といった改造艦娘たちの身体的な問題点についての対策を練らざるを得ない」

 

そう、881研究室によって行われていた『規定外の改造』つまり、艤装に関係なく

肉体そのものを直接改造された艦娘

改造艦娘たちは皆、なんらかの利点と引き換えに大きなデメリットと傷痕を背負っている

 

時津風は超高速の走行能力と加減速能力が尋常ではなく高いというメリットと引き換えに

脚部艤装を装着できず、海上移動能力を喪失している

 

摩耶は既存のどんな艤装でも装備できるように肉体を改造されて、艤装をつけるたびに、そして運用中常に激痛に襲われる

 

愛宕は皮膚感覚が異常に鋭敏であり、超遠距離の状況も精細に確認できるかわりに

異常に敏感な皮膚感覚は、日常生活に甚大な影響を齎している

 

霞はあらゆる感覚が一つに統合されており、色彩も味も香りも全てが同じ

超立体的な認識能力は異様なまでの知覚能力と狙撃の命中率と引き換えに

彼女からほぼ全ての感覚を奪った

 

全員、どう考えても表には出せない

特に愛宕は生活にすら甚大な影響を受けている、最初の頃は一般的な愛宕の制服を着るのにすら抵抗を示し、物音一つにすら過敏に反応していて、気温・湿度を一定に保った部屋で突っ立っているのがやっとだったのだ

 

時間が経って慣れてきて

神経の制御ができるようになったのか、制服は着られるようになったが

いまでも直接的な接触はしないようにしている

 

「……のだが、なにか対案はあるか?」

 

「うっ……愛宕さんたちも『そう』かぁ……」

「そう、彼女たちにも部屋から出るなと言いつける事はできるが、一日中独房に放り込んでおくというのは流石に良くない」

 

愛宕さんたちは艦娘としては十分以上に有能であり、人としても素晴らしい人格を備えている

だがだからといって部屋に閉じ込めるのは違うだろう

 

「そもそも壁の向こうの人間の位置くらい把握してしまうのだろうし、壁一つで隔離が成立するとは思えないな

それに、執務室や食堂を開放することになれば本棟も封鎖は不可能だぞ、深海3人、艦娘4人、どこに納めるというんだ?」

 

「そうねぇ……各寮にっていうわけにはいかないし」

「演習場とか弓道場にいてもらうってわけにもいかないかな……」

 

「あ、私、それについて解決策が出せるかもしれません」

 

そこで声を上げたのは、大淀だった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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