「無理よ、私は行けないわ!」
「無理じゃない、そもそも無理だとすればお前はこの通路を開いていない」
一方的に引っ張られていた手は
今度は逆に引っ張る側へと回り
「俺はお前と話をしたい、お前がなぜそんな悲しそうな顔をするのか
お前がなぜ俺を逃してくれたのか
お前はどうすれば笑ってくれるのか、俺は知りたい」
「……ダメ……深海棲艦と人間では分かり合えない、どうしても
この憎しみの連鎖は途切れないわ!」
「だとしても、今の俺たちにその憎しみの連鎖は関係しない、俺とお前、この二人は最小単位であって、他から独立している以上は他の大多数には影響されない」
「そんなのは詭弁よ!」
「ならなぜ、お前はそんなに嫌がるんだ?お前はそんなに俺を拒絶しながら
他の連中から隔離し、隠蔽してまで庇ったんだ?そもそもそんなに嫌ならあの部屋から放り出せばよかった、お前の力なら俺一人を投げ飛ばすくらいは訳もないはずだ、だというのにお前は今繋いでいる手を振り払うこともしない」
軽く手を引いて、その存在を示す
「……行くぞ、もう言い訳は聞かない、どうしてもというのなら……」
軽く引いていた手を、一気に引き込み
よろめいた瞬間に膝裏に手を入れて
そのまま抱え上げる
「強引にでも攫っていく」
私服なのか、緩いドレスを纏った中枢棲姫をお姫様抱っこしてやると
その反応は激甚だった
「きゃぁぁっ!?なにっ!?何する気なのっ!?」
「言ったろ?強引にでも攫っていくって
まさかハワイから姫様攫ってくるなんて誰も思わねぇだろうけど」
そのまま駆け出して、一気に道を走る
感覚的には約5000メートル
一度も足を止めずに駆け抜けた
「ふぅ………到着だな」
すっかり静かになった中枢棲姫を下ろして、その手を取り、巧妙に隠蔽された天井板を外して、岩場に出る
「……本当に走り切ったのね……」
「うん、俺も驚いている
だが、これで犠牲となった妖精達にも報いることが出来ただろう……羅針盤妖精」
(はい、旧機能を使いますね
でも、これを使ったらしばらく従来の羅針盤の能力は使えませんよ?)
「構わない、それで十分だ」
針が回転する仕組みになっているジャイロコンパス型の羅針盤から
画面下に出てくる回らないタイプの羅針盤へ、妖精が飛び移る
入れ替わるように拡大した回らない羅針盤は、その針をゆっくりと動かし
鎮守府の方を指し示した
そう、これがはるか昔、第一次深海大戦時に開発され、今や全艦娘に標準装備される装備
追加艤装・基礎機能拡張『
その機能はたったひとつ
常に鎮守府に設置された要石と引き合い
何があろうと、鎮守府の方向を指し示し続ける絶対的な道標である
「……よし、向かうぞ」
「向かうって!どこにっ!」
「決まってるだろ?日本本土」
「ここは南東に遥か遠くのハワイなのよ?!」
「そんな事は関係ないね、6300キロ?知ったことか、潮流に乗れれば一日半でたどり着く」
日本周辺には鎮守府が多い、その何処かにたどり着ければ真っ当な移動手段を得ることも可能なはずだ……とはいえ、中枢棲姫を連れて行けば間違いなく敵襲と勘違いされてしまうな
「……やっぱり無理よ、あなた一人で行きなさい、私まで付いて行ったら
深海大戦の時のように人間同士での殺し合いが起きるわ、あなたを巻き込んで殺してしまうわけにはいかないの」
「…………いやだ」
ならば泳いででも……流石にそれは無謀すぎるから、中枢棲姫の艤装のアレ(主砲部分)に乗せてもらって移動するくらいなら出来るはずだ
いくら基地型の深海棲艦といえど
北方棲姫のように完全陸上型ではなく、砲艦としての性能を有する中枢棲姫なら
海上でも移動できるのは画像を一目見た時から予測の範囲内だ
「……分からず屋」
「お前と一緒でなければ帰らない、これは俺の我儘だがな、それだけに
一切の道理を無視して叫び続けるぞ」
「何言ってるのよ!……バカじゃないの?」
「だが、それが必要だと感じた
俺は不思議なことに、必要なことを見過ごさないんだ」
そっと小さな頭を撫でて
ひび割れた体を抱きしめる
「一緒に来てもらうぞ、中枢棲姫」
「…………はい」
驚くほどに従順になった中枢棲姫の手を取って、島の中を走る
いつまでも敵の拠点のすぐそばに歩いているわけにはいかないので、一応程度に身を隠す場所を探しているのだが、なかなか都合のいい場所は見当たらない
「ちょっと止まって、ここはたしか
周回ルートから外れていたから、みんなが本腰を入れるまでは見られる心配はないはずよ」
オアフ島の山の裏手、
切り立った崖と海の境の岩場
峻厳な崖と荒く白波を立てる海の間にわざわざ割り込んでくるような奴はなかなかいないのだろう、たしかに何か潜んでいるような気配もない
「じゃあここで隠れよう、少し前に一旦通信を試みたけど……」
(ダメでしたね、全然通じてない
衛星通信が使えるならそれが最善だったんですが、残念ながら通信衛星はほとんど機能停止してますし、私達の無線は短波ですから……)
短距離通信では流石に島を超えての通信は無理がある、遠洋に出撃している艦娘との連絡は鎮守府の大型通信装置が必須だし、大和、大淀や瑞鶴のような通信機の性能が高い艦娘もいない以上は本土もしくは近海の艦娘との連絡を取るのは難しいと考えるべきだろう
「電探を撒くための囮電波としては有効だったと思うんだが、な」
妖精一人で飛んで行ったと思ったら突然無線を打ち出して急に飛んできたから驚いたけど
まぁ、その発信位置は島の西側で、今いるのは北端なので発信位置を特定して急行しても、その真反対に向かってもダミーというわけだ
「……さて」
まずは移動手段を確保しなくてはならない、ハコとて鋼材だけで作れるようなものではないし
正直に言ってお手上げである
明石が居ればその艤装の能力で鋼材を加工できるのだが、フライス盤と旋盤、マシニングセンタとそれ以前に注湯機、圧延台……必要なものは数多い
「中枢棲姫」
「……なに?」
「お前の鋼材、もらっていいか?」
「ダメ…って言ってもどうせ使うんでしょ?何を作るの?」
「最低限モーターボート、充分ラインは小型クルーザー(現代準拠)」
何を作るのかと言われた俺は
理想としていたものを取り敢えず提示すると
「……なら、出せるわよ?
駆逐艦サイズで良ければ、内火艇で良い?」
「え?……できるの?」
「作るんじゃなくて、出すの
私は基地型深海棲艦だから、艤装の中にはいろいろ施設があるわ」
「マジか……んじゃ、脱出といこう」
600話記念番外編は
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過去編深海勢
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裏山とかの話を
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……