戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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沈黙と静寂

「…………」

「…………」

 

いつのまにか眠っていた中枢棲姫と

それを眺めていたら眠くなってきた俺

 

やはり無理をした分、疲労は重いようで

いやに目蓋が重い

 

「…………」

「…………」

 

ただひたすらに眠気に耐える

二時間ほど前から深海棲艦の探知を避けるためにエンジンを切っているが、

うまく潮流に乗っているため

速度はそこそこと言ったところだ

 

羅針盤の示す方角は安定しているし、敵は来る気配もない

 

「………………」

「………………」

 

一切の問題もなく、特に異常もない

心配ごとや懸念とも無縁な状況

久しぶりに何も考えずに眠れる気がする

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

ようやく波の音や揺れも気にならなくなってきた静かな艇内で、蒼い光だけが光源となっている

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

いや、これはおかしい

どこかがおかしいはずだ

この艇には中枢棲姫と俺しかいないのになぜ蒼い光源がある

二人ともそんなものは持っていないはずだ

 

それに中枢棲姫とは違う息遣いのもう一つの呼気はどういうことだ

まさか敵が秘密裏に潜入しているというわけでもないだろうに

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

俺は一旦考えるのをやめて

膝に頭を預けている駆逐棲姫を撫でる

 

「……」

 

ゆっくりと髪を撫でていると

少しずつ思考のノイズが消えて行く

 

頭の中に靄がかかったような不透明な感覚が薄れて、違和感がなくなって行く

すぅ、と駆逐棲姫が寝息を立てる

 

そのたびに俺の頭の靄は消えて行く

 

そう、ここには最初から

中枢泊地を抜けてきた駆逐棲姫と、俺と、中枢棲姫の三人でいるはずなんだ

なぜ駆逐棲姫を忘れていたんだろうか

やはり疲れているのだろうか

 

すぅ、と駆逐棲姫が寝息を立てる

それがどこか、手を止めてまじまじと見つめていた俺への抗議のように聞こえて

俺は頭を撫でる仕事を再開した

 

あぁ、どこかで何かが叫んでいるようだ

 

何かが頭蓋の裏を軋ませる

なにかを間違っているとでも言わんばかりだ

 

だが、どこにも違和感などない

中枢棲姫と一緒に離脱して、

駆逐棲姫と一緒に艇に乗って

そして今、日本の鎮守府に帰るために移動している

 

見事に話が通っているじゃないか

なぜそんなに頭を痛ませるんだ?

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

そうだ、三人いるのはおかしい

三人目だったのは羅針盤妖精であるはずだ

 

なにを考えているんだ俺は

妖精は数に入らないだろう

やはり駆逐棲姫が三人目で合っている

 

「…………」

「…………」

「…………、……」

 

いつのまにか目を開いていた駆逐棲姫が

俺の手を掴んで自分の頭に乗せる

 

あぁ、撫でる手がまた止まっていたからか

 

「……」

 

軽く微笑んで、また頭を撫で始める

ゆっくりと、静かに

 

あぁ、何故だろうか

こんなに眠たいのに、頭が痛い

 

じっと青い瞳に見つめられると

少しずつ頭が冷えて行く

何かが警鐘を鳴らしている

 

--何のために?--

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

違和感の原因を根本的に削除することは出来ず

それを単なる幻覚だと決めつけてしまうこともできないまま、ただ夜が更けていく

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

朝、目覚めると、何故か艇内が広く感じた

二人しかいない艇内はどこか閑散としていて、無闇に静かに思える

いや、最初からこの艇には二人しかいない

そのはずなのに、何故か三人目が居たような気がするのだ

 

何故なのだろうか

全く違和感の原因が理解できない

 

「……」

「……」

 

俺はひとまず、そばに置かれていた黒いベレー帽を取って、その持ち主のことを思い出そうとする

 

--誰だったか?--

 

「…………」

「…………」

 

低く重いエンジン音は、波に躍らされる艇の揺れを一層ひどく感じさせて

突然吐き気に襲われた俺は思考を中断する

 

「……」

 

艇の上に出て、やはり何もない海原を眺める

視界は良好、360°どの方向も視界を遮るものはなく、資料になりそうなものもない

 

スポットは近くにはないようで

光る海面は見当たらない

 

中枢棲姫はまだ眠っているようだが

この帽子は彼女が持っていたものなのだろうか

 

「…………」

 

俺は羅針盤の示す方向を確認して

現在乗っている潮流が北赤道海流であることを思い出して、それから艇の進路を変更するために梶へと戻った




今回誰一人として喋っていない……だと……

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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