戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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番外話 セントバレンタイン

「提督!起きてくださいっ!」

 

朝、飛び起きる

強引に揺すり起こされるということは、なんらかの緊急事態が起こっているということだ

 

「なにがあった……!?」

「早く逃げてください!襲撃が来ました!」

 

起こしに来たのは、間宮さん

どう見ても緊急事態だ、非戦闘艦種である『間宮』がここまで駆けてくるなどほぼあり得ない

 

「どういうことだ!?」

「話は後です、『艦娘達に襲撃されるよりも早く』提督は脱出してください!」

 

間宮さんに押し出されるように廊下へ出た俺は、速やかに服装を整えて

間宮さんの先導の元、鎮守府を脱出すべく走り出す

 

「どうなってるんだ一体!」

 

運動不足な体に鞭を打って

本棟の一階から外に行き、そこで合流した里見くんは

 

既に大量のチョコレートと思しき包装を抱えていた

 

「まずいな……」

「はい!」

 

それで事情を察した俺は

ひとまず工廠から避難艇をドック側に出すために工廠に向かい

 

「提督ゥーッ!」

「いた!司令官!」

「やっと会えた!」

 

金剛・暁・陽炎の三人に発見されてしまった

 

「まっず!」

 

瞬間、全力で走り出して逃げつつ

スロープを飛び降り、壁を蹴って駆ける

 

「うごおぉおぉっ!」

 

多少汚い声を出しながらも

壁を見事に走り抜け、一気に工廠の奥にたどり着く

工廠は明石、夕張、俺くらいしか使わないので(ほかは翔鶴、龍驤や川内がまれに使う程度〕

遠慮会釈もなくさまざまなものが置かれていて、扱いを間違うと危険な道具も多いことは周知している、流石にその中で駆けるような度胸はなかったのか、追跡は諦めたようだが……

 

「burning……」

 

ふと、小さな声が聞こえてた

 

「ラァァアァァアブッ!」

 

うん絶対に聞き間違いではない

というかこの声の聞こえる方向はどう考えても上であって俺と同じルートを使ったとなればなにを蹴飛ばしているか分かったモノではないしそれがなにを起こすかもわからないのだが取り敢えず今は上を見るのが怖いので隠れさせてもらうぜそうだそうしようそれがいいよ一番冴えたやり方だよ!

 

「テートクーーッ!」

 

さっと伏せてなぜか置いてある角灯やタンスの元に積み上がっていたガラクタ(開発失敗)と変換分の余り資材の山の中に飛び込み、傍目にはわからないように偽装を施す……とは言っても小物を投げてそれらしく山を崩し、その下に潜り込んでから適当な小物を遠くに放り投げて

『いかにも焦って走った結果何かを引っ掛けて落とした』ような音を立てただけだが

うまく金剛は騙されてくれたらしく、どこぞへと走り去っていった

 

よかった、金剛はチョコレートをくれないということはないだろうが

貰いすぎてしまえば大量の甘味に体を壊されてしまう、ただでさえ糖の甘味もろくに感じないこの舌では自分の状態すらも把握できない

 

したがってもらわないように隠れる他にないのだ

 

アイドルのように『受け取るどころか個数スコア取った後はマネージャーが捨てている』というヤツをやるべきかは一瞬考えたが、それはアイドルだからであって距離感が近い提督⇔艦娘の間ではマネージャーもいないし間に入りようがないのでサヨナラはできない

 

糖尿病などかかりたくはないので致し方ない、特に神風や如月は持ってくるブツが大きいため、胃腸へのダメージが厳しはずだ

 

「どうにかできるといいが……」

 

本当のことを言えば艦娘からもらえるものは貰いたいが、それでも上限はある

バケツをひっくり返すような代物は流石にダメだ、浜風のバレンタイングラくらい大人しい体積ならまだしも、バケツやロールはダメだ

 

「どうしようかな……」

「提督、大丈夫ですか?」

 

ふと、頭上から声が聞こえた

 

「明石か、すまない、今金剛を撒いていてね」

「さっきすごい形相で走って行きましたよ?……あとで謝った方が良いです」

 

「分かっている、だがチョコレートは量が多すぎて体を壊すことが目に見えている、ゆえに受け取れない」

「……あぁ……」

 

一瞬で全てを察した声になる明石

 

「そりゃあ……バケツとかそれこそ戦艦のプラモサイズのやつ持ってきたりしますものね……

間宮さんが焦っていた理由もわかりましたよ」

 

「そうだろう?だから助けてくれ明石、お前だけが頼りなんだ」

「うぅん……わかりましたよ、じゃあまず提督は避難艇で空母棲鬼さんと一緒に沖に行って、北方海域までクルージングて夜を明かしてから帰ってきてください」

 

「燃料は?」「いつもどおり現地補給で」

「いやまず改質装置がないから直接じゃ燃料の純化ができないんだけど?」

 

「もう、面倒ですね!明石特製の装置つけてあげますから、30分まっててください!」

 

なぜかぷりぷりと起こりながら

明石は工廠の隅へと向かっていく

以前の事件以来、避難艇は常時使用可能な状態で置いてあるので、すぐに出られるように位置を決めていて、移動路にほど近いそこに向かった明石はさっと設置するスペースの選定を始めた(推測)

 

何をやっているのか、

細かくは俺にはわからないが

とりあえず何かの作業をしていることはわかる

 

「…………」

 

 

なにやら小声で何か言っているようだが、声が小さすぎて聞き取れない

 

「…………」

 

まぁ、そもそも小声ということは俺が聞くようなことではないのだろう

明石はわりと『ホウレンソウ』が出来ているからな

 

「…………」

 

そのまましばらく待って居ると

明石が資材の山の下に顔を見せる

 

「提督、新装備の搭載終わりました、魚群探知機とかの機能オミットの代わりに搭載する形になったんですが、大丈夫ですか?」

「魚群探知機は正直釣りの時しか使わないし、いらないだろ、大丈夫だよ

それよりさ……手伝ってくれない?一人だと出られないんだ」

「……馬鹿なんですか?……はい、引っ張りますよ〜?」

 

こうして明石によって救出された俺は、いったん深呼吸して呼吸を整え、思考を整えてから避難艇の方に向かった

 

「里見君達は大丈夫かな……」

「里見さんなら、医務室を締め切って対応していましたよ?あれなら確かに誰にも突破できないと思います、提督も同じ方をしてみたらどうですか?」

「馬鹿いえ、俺の執務室を締め切ったら今日の書類が終わらないだろうが

書類慣れしてる神通達がいれば終わると思うけど、流石に一人じゃ終わらせられる量じゃない」

 

「それをみんな艦娘達に放り投げるんですか?」

「流石にそうする予定は無かったんだがな……事ここに至っては仕方ない」

「あきらめますか……まぁ、仕方ないですね、とりあえず避難艇を出すので先に出撃ドックの方にどうぞ」

「了解、待ってるよ」

 

一旦ドックのほうに出て

明石がクレーンで避難艇を運んでくるのを待つ

 

しかし、のんびりと待って居る余裕など俺にはないことを失念していた

工廠と繋がっていても別施設であり、出撃ドック自体は誰もが使う施設、裏手には沖津丸のための修理・停泊ドックもある事だし、隠海棲艦や俺も含めて鎮守府のみんなが使う場所だ

そこに艦娘が来ないかのように気を抜いていた俺には、当然の如く奇襲が行われ

 

「提督!」

やせいの 睦月が とびだしてきた!

 

「睦月からのチョコ、差し上げます!」

 

「うぇ?」

「えへへ……どうぞです!」

 

ほぼ強制的に受け取らされてしまった睦月のチョコ、それを落とさないように反射的に手に上げ直して……敗北を悟った

 

このままでは不平等がどうのこうので暴動が起こる、と

 

「睦月、すまないが俺がチョコを受け取ったことは誰にも言わないでくれないか?」

「え?……良いですよ?

……そのかわりぃ、それ、今食べてくださいにゃ」

 

一瞬で全てを察したのか、睦月がニヤリと笑い、そして悪魔的な条件を提示してきた

つまり、証拠の隠滅と引き換えに自分のは確実に食べさせて、さらに感想を聞こうという魂胆だな

 

「仕方ない……!」

 

那珂や初春のような料理自体に疎い者達や、そもそもなぜそうなるのかわからないような毒物を錬成する錬金術師達を除いては艦娘は基本的に料理上手、睦月も例外ではないはずだ

 

「いただきます」

「召し上がれぇ……うふふっ」

 

なぜか如月か鹿島が乗り移っているような艶のある笑顔を見せながら

俺と俺の手元のチョコを見つめる睦月

流石に視線をぶつけられながらチョコレートを食べるのは気恥ずかしいが、仕方ないだろう

 

包装を丁寧に開けると、その中身は大きな……というわけではなく、単にハート型の容器が大きいだけの一口サイズのチョコが入っていた

 

「睦月の気持ちは大きいけどぉ

あんまりいっぱいは胸焼けしちゃうにゃ

どうですかー?どうですかー?」

 

幸い、理解のある艦娘だった睦月に安堵しながら、もらったチョコを一気に口に放り込み

まずは味わうことにする

 

「元がビターブラックのだからあんまり甘くないけどぉ、それは勘弁してほしいにゃ」

「おう、美味しいよ」

 

本当は細泥と区別がつかないのだが、流石にそれを言ったら傷ついてしまうだろうと思って、適当な感想でごまかすことにした

間宮さんにすら言っていない味覚障害をバラすわけにはいかないからな

 

「この微妙な苦味がまた良いんだよ……ありがとう」

 

そっと睦月の頭を撫でていると

満足げな声で喉を鳴らす猫の睦月

 

「よし!じゃ俺はもういくから」

 

「あ、待ってにゃしぃ!」

 

ぱっと現場を離れようとした俺は

すぐさまに袖を掴まれる

 

「睦月も一緒に連れてって?」

「…………すまない」

 

そうして俺は、睦月を振り切るために全力疾走を開始した

 

「というわけだが」

「浮気者はいつも大変だね」

 

「浮気者とは誰のことだ?」

「提督はついに視力を失ったのかな?それとも耳がおかしくなったのかな?

自分の名前を自分と認識できないなんて」

「俺=浮気みたいな扱いにするんじゃねえぞしぐれぇ!」

 

俺は現在、ハイライトのない時雨改二と工廠裏手でやりあっていた

 

「浮気者にあげるチョコなんてないよ、僕からは期待しないでね?」

「分かってる、むしろ助かる

ありがとうしぐ」

 

その瞬間、凄まじい目で睨まれる

 

「気が変わった、なんとしても食べてもらう」

「?」

 

「美味しいよ、一応自分でも上手くできたと思っているんだ、どうかなぁ」

そっと提示されたそれは

片手サイズの小さな箱型包装に入ったチョコと思しきもので

 

「……時雨、すまないが」

「言い訳も逃げ口上も聞かない、いざと慣れば強制給餌も厭わないよ、僕は」

 

「…………いただきます」

流石にフォアグラにつかわれる鴨の如き有様にはなりたくないので、

大人しく自分で食べることにした

 

「どうかな?時雨特製のチョコ」

「……オイシイデス」

 

やはり実際は泥と区別がつかない……と思っていたのだが、これははっきりと感じる

これは血の味だ、しかも甘い

 

「僕の血は美味しいかな?」

「……なるほど」

 

つまり、そういうことか

 

時雨、俺より早く糖尿病を発症したな?

そのせいで血糖値が高すぎて血が甘いんだな?

 

「僕の血は美味しいかな?」

「美味しいよ……とでもいうとでも思ったか!流石に人の血を飲ませるのはダメだろうが!」

 

「僕の血が提督の中に入っていると考えると素晴らしい気分になれるんだよ」

「だからってそれはどうなんだよ……」

 

長々と話していると、ようやく明石の用意ができたらしく、避難艇がドックに入ってきた

 

「提督!乗ってください!」

「了解っ!」

「!」

 

俺は、明石の声に従って

目の前の避難艇に飛び乗った

 

もちろん、鎮守府から離れるために

 


 

「よし、ここまでくれば流石に追いかけては来られないだろう」

 

あからさまなフラグを積みながらも

ひとまず安心できる場所にまで到着し、ゆっくりと足を伸ばす

 

ここは海域のセーフティポイント

元・深海拠点『Lambda・Lanbass』(ラムダ・ランバス)

 

数体の隠海棲艦が拠点としていたという

古い深海拠点の周辺海域だ

姉さんが拠点として使っていた『D・seusill』(ディート・セウシル)より古いというから、その古さは筋金入りだ

 

「さて……」

 

今は人や艦娘も深海棲艦も寄り付かない中間地点となり、無人化しているが

こことてかつてはeliteが使っていた拠点、十分な設備はあるし、岩礁帯の陰に隠れる形で浅瀬があり、非・満潮時は小さな島のようになる

 

「みんなは大丈夫だろうか…?」

「大丈夫に見えますか?なら修理しますから眼球抜いてください」

 

「ブラックジョークは受け付けていないんだ、悪いな」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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