「というわけで……扶桑さんには脱走疑惑がつくだろう俺の監視をお願いしたいんだ」
大和にお願いをして、中枢棲姫の監視についてもらい、執務を長門達に丸投げすることも言った後、俺は扶桑さんに自分自身の監視をお願いしようとしていた
「……流石に言わせてください
不幸だわ…………」
ゲンナリした表情の扶桑さんの非常に珍しい1シーンをとらえた後
何かを考える顔になって
「……となると、この指輪は外してしまった方がいいのでしょうか?」
「いや、外さないでおいてくれ
主に俺のメンタルに響くから」
NTRはまだ俺には早いし
指輪を捨てられるのはわりとキツい
特に扶桑さんは前世の前垢(つまりこの世界のモデル)における最初の嫁艦であり
唯一ゼロ円の指輪を持っていた艦娘
他の700円の指輪の艦娘とは違うのだ
今更同一視するつもりはないが、やはり心残り程度には意識がある
「……すまない、扶桑さん」
「いいえ、提督の頼みですから」
いつも通りのいたたまれなくなる笑顔で応じる扶桑さん
「まぁ俺の監視なんて24時間ずっとやる必要はないし、基本は盗聴と盗撮用カメラ任せだよ
営倉には絶対設置されてるしな
出てくる時とかを含めた必要な時の監視を頼見たいんだ、お願いするよ」
「……はい、それが提督の望みなら」
なにやら覚悟を決めた顔で頷く扶桑さん
「迷惑をかけてすまないね」
「いいえ、これも提督のためですから」
そっと指輪を手をかけて、それを見つめる若奥様
それを見送って
「……よし」
営倉に引きこもる準備を終えたことを確認し、仕事の書類を一応見直して
最低一週間ほどは問題ないことを改めて確認した上で長門に託す
「すまない、迷惑をかける」
「構うな、このくらいはなんでもないさ
それに忘れたのか?私は昔、ずっと提督の代わりに書類全般をやっていたんだぞ
……それに、身内にいちいち迷惑がどうで謝るような事はない」
ニヤリと笑いながら、自分の左手の指輪を見せてくる長門
「お前……」
「忘れられているのならば悲しいがな
私とて提督の嫁なのだぞ?」
[可愛すぎませんか?だれですかこの長門さん]
[言ってんじゃねえか、うちの長門だよ]
頭の中で駆逐棲姫がボヤくのを封殺して、ひとまずうなずく
「じゃあ改めて、しばらくの間
鎮守府を預ける、頼んだよ長門!」
「あぁ、提督の気が済むまでは私がここを守る、安心していろ」
いつも以上に格好いい笑顔で見送ってくれた長門に背を向けて、『一応設置されているだけ』という様相を見せる営倉へ赴いたのだが……
「卯月を呼ばなくては」
そこにあったのは
菓子の山や用途不明なプラスチック製の玩具類、2世代ほど前のポータブルゲーム機とそれに対応するROMカセットとディスク
艦娘としての給料でそういうものを買う子は多いが、もっぱら営倉に叩き込まれるのは卯月、掃除もなんらかの懲罰に卯月がやっていることが多い
最初は確認のために大淀達が見にくることもあったから隠していたか、それとも最初は真面目に掃除していたかで、確認されなくなった頃にこういった『持ち込み品』を増やしたのだろう
「すまない」
しょっぱなから出歩くことになってしまったが、兎にも角にも、ひとまずこの環境をどうにかして『営倉にふさわしい環境』に戻さなくてはならない
[私から春雨に伝えられたらいいんですけどね……]
[出来ないのか?]
[私は春雨の転化体じゃなくて、あくまで『中枢棲姫の魂の欠片の一部が具体的な形を取ったもの』なので、正確には艦娘ですらないんですよ、だから春雨に接続とかはできません]
[そうか……]
山風とかの俺に懐いている子達はともかく、そうそう営倉の見回りになんて来ないだろうしな……
「仕方ないか」
やはり当初の予定通りとはいかず
すこし歩いて艦娘をみつけることにした
「……あ、いた」
営倉はもちろん本棟の外
というか鎮守府の裏手の工廠に近い場所にあるので、必然的に人が来ることは少ない
そして、俺・翔鶴・明石達以外で来るとしたら
「夕張、久しぶり」
「提督っ!?!!」
不自然なまでにビクゥッ!と反応した夕張は首をすこしずつこちらに向ける
「どうした?そんな不自然な動きをして、首でも痛めたか?」
「い、いえ!そんな訳じゃないですから、お気になさらず!」
やはり必死な様相で否定される
……本当に大丈夫なのだろうか?
「まぁ良いか……艤装の調子が悪いのなら翔鶴か明石、んで体調不良なら里見君に診察してもらえよ
……んでだが、営倉なんだが、あそこの掃除って確認していたか?」
「……んっ……営倉ですか?
はぁ……はぁ……んっ!……いえ、私は知りませんぅん……」
本当に体調悪そうだな
どうまで大丈夫じゃない
「里見君なら医務室にいるはずだ、自力で無理なら運ぶぞ?」
「待って!いま提督に触られたらぅっ!」
ハートが着きそうなとろけた発音と同時にびくんびくんと痙攣する夕張
麻痺性のキノコでも食ったのか?
だとしたら本当に命に関わるな
「悪いが強制搬送だ」
そっと後ろに回り、膝を折って
抱え上げる形にする
びくんびくんと痙攣を続ける夕張を抱えたまま、俺は医務室に向かった
その後、睡眠誘発剤で夕張を強制的に眠らせて、一旦の収束を得たあと
「あー……提督、大変言いづらいんですが」
「明石、ここにいたのか」
「はい、これは投薬実験の結果でして」
「は?投薬?どういうことだ聞かせろよ」
「はい、これは……以前881研究室から回収された資料の中でも特に危険な」
「まさかconnectか!?」
色めき立つ俺を手で制するようにする明石
「違いますよ、あんな廃人製造薬なんて作りません、これはその……愛宕さん達のような感覚器官強化型の改造艦娘のための新型治療薬の実験なんです
神経感覚を非常に鈍化させる薬で、迂闊に使うのは危険だったので、夕張に協力してもらって治験を行っていたんです、24時間ほど感覚機能の低下が認められて、その後は普通に戻ったという話だったので油断していたのですが……どうやら、鈍化していた分の感覚が『戻ってくる』せいで、一時的に異様な鋭敏化を起こす様なんですね」
「…………」
沈黙ののちに、俺は口を開く
それが事実なら、おおよそのストーリーはこうだ
「つまり、だんだん鋭敏になる感覚を抑えるために艤装を取りに行って、その道で俺に遭遇、こうなった、と?」
「はい、提督の存在が関与したのか、それとも周囲全体の情報全てにこんな反応を示すのかはわかりませんが、どうも性的な感覚が特に強烈に反応したようです」
恐ろしい話だな……
愛宕さんは特に神経を強化されている
ただでさえ艤装装備時以外は肌触りの良いベッドのシーツや下着ですら非常に大きな刺激を感じるという鋭敏な皮膚感覚を持っている彼女が、さらに鋭敏化など起こしたら、皮膚に触れる空気だけでショック死を起こしかねないだろう
「……とにかく、その薬は副作用の改善だな、あとで正式に書類にまとめて報告書を出してくれ……長門に」
「はい、って長門さん?」
「指揮及び書類処理は長門に一任した、提督業は一時休業中だ
……そうだ、卯月に営倉の掃除をさせたあと、確認をされていないようでな」
「営倉……?あぁ、なるほど
わかりました、掃除の確認ですね?あとで鹿島さんと神通さんと大淀に言っておきます」
「わかった」
哀れなウサギは地獄行きが確定した
泣き虫な熊と一緒に地獄の3丁目くらいまで往復してもらおうじゃないか
600話記念番外編は
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過去編深海勢
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裏山とかの話を
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……