あまりにも不憫だったので手伝ってやって掃除を終わらせた後
俺は綺麗に片付けられた営倉を見て、ため息をつく
「ようやく真っ当になったか……」
「ううぅぅぅ……」
「ほら卯月、お疲れ様」
頭をゆっくりと撫でてあげると
若干涙目が薄れる
「もっと……」
「ダメ、早く帰りなさい
帰らないとまた神通が怒るよ?」
「それはやー!」
ぱっと走って逃げていった卯月
反省は十分だろう
「……はぁ」
することもないし、期間的にはだいたい2週間くらい引き籠るのを想定していたらまさか一番最初からつまずくとは思っても居なかった
[おつかれさまです]
[本当に疲れたよもぅ……]
返事を返しつつ、硬い床に座り込む
そのまま壁に背中を預けて目を閉じて
いつのまにか眠っていた
「……提督」
「ん?」
揺り起こされ、視界を取り戻した俺が見たのは、眼鏡を外した大淀の姿
「……なんだと!?」
「提督?どうかしましたか?」
「いや、なんでもない
しかし……メガネを外すと印象が変わるな」
眼鏡補正で目が大きいのかと思っていたが、外しても目は大きいらしい
もともとスタイルの良い大淀は丸レンズの眼鏡を記号的なアクセントとしていたが
それを外してみるとなんというか
一気に垢抜けた美女に見える
「そうですか?ちなみに提督はどちらが好みですか?」
「……眼鏡を掛けている方が見慣れている」
「……どちらが好みですか?」
「さっき言ったはずだぞ?」
「好みを聞いているんですが……まぁいいです、それじゃあ明日からはまた眼鏡の私です
今日はコンタクトで我慢してくださいね」
「分かっているよ……そちらも素敵だと思う」
呆れたようにため息をついた大淀は
そのまま踵を返して去っていった
「あ、そろそろお夕飯の時間ですが、間宮さんに作ってもらいましょうか?
それとも、この大淀が用意いたしましょうか?」
「……大淀の手料理?そういえば食べたことがなかったな」
「私だって軽巡ですから、手料理の一つや二つ、出来ないわけがありません
いくら事務専任として働いていると言っても艦娘なんですからね?」
「分かっているよ、別にできると思っていない訳じゃなくてだな、
単純に食べたことがなかったと言うだけだ」
「なら、召し上がっていただきましょう
今晩は私が作って差し上げます」
なにやらやる気になってくれたらしい大淀が再び踵を返して去っていく
デキる女は立ち姿からして違うものなのだろうか
「……まぁどうでも良いか」
味覚は復活してきたとはいえ、泥水とカフェ・オ・レの区別がつくようになったレベルであるし、サンドイッチの具材を当てろと言われればトマトとレタス以外になにが入っていようと石灰とさしてかわらないだろう
どんなに不味いものでも問題なく食えるという点では味覚の喪失も全てが不利とは限らないのだが、さて、大淀の手料理とやらでは
この状態に感謝することになるのか、それとも悔やむことになるのか……
「まぁどうでも良いや」
味覚喪失状態では、なにを食っても味は同じ
結局味がわからないのだから、
喜ぶも悔やむもない
採点できないテストのようなものだ
「さて……」
暇なので一度、目を閉じる
空間を閉じる
世界を閉じる
悠々・飄々
枯れ葉はこの空
揺蕩いて舞う
このカンバスに描くもの無く
この砂漠に道導なし
「……俺の世界だけあって、ずいぶんだな」
他の艦娘達とは桁違いの広さを持った空間
それらが一面白尽くめの砂漠
「……本当になにもない」
軍艦を由来とする彼女たちはまだ実体としての軍艦を魂に宿していたが
俺の世界は一面見渡す限りに砂漠
足元も硬くはない
「……」
ザリザリと砂を踏みしめながら
少し歩いて、本当になにもないことを確認する
「……」
「司令官」
唐突に、声が掛けられた
振り向くとそこにいたのは
青白い肌で、春雨に似た容姿の駆逐棲姫
「ここにきたんですか」
「あぁ、お前もここにいたのか」
駆逐棲姫は無表情のまま俺の手を掴む
「行きましょう、ここには忘却の怪物が居ます」
「?……忘却の怪物?」
「早く」
ぐっと腕を引かれて、移動する
砂漠の中を駆け抜けて、途中からテレポートまで行って
その果てにたどり着いたのは
木の一本として生えては居ないが、砂漠の中に唐突に湧いたオアシス
「……ここです」
その中でも、砂の薄い場所に立った駆逐棲姫は、なにやら地面を探るようにして
地面に隠されていた跳ね上げ扉を開く
なにがとは言わないが白。
「……この世界における私の拠点です
私が適当に作ったものなので、完成度については気にしないでください」
「いや気にしないわけには行かないが……」
ちなみに、砂漠地下の拠点は
パイレーツオブカリビアンに出てきそうなレトロな風情があってセンスが輝いていた
「かっこいいと思うぞ」
「……それほどでもありません」
駆逐棲姫はちょっと下を向いて
誤魔化すように視線を逸らした
とてもかわいい
「あなた、馬鹿になっていませんか?」
「思考レベルが落ちていることは認めよう、だがそれはお前が可愛いのが原因だ」
「責任転嫁ですか、最低ですね」
冷たい視線もまたよく似合う
「……へんたい」
我々の業界ではご褒美です
……とか言えるなら良いのだが、残念ながら俺のメンタルは柔らかいので今の一言で割と傷ついた
どうやら外で呼ばれているらしいので
さっさと目を覚ますことにしよう
……よし
「提督、お夕飯の準備ができましたよ」
「ん?……あぁ」
どうやら起こしてくれたのは大淀だったようだ
600話記念番外編は
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……