戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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二人は幸せなキスをせずに終了

「なぁ提督、いるかー?」

 

返事を待つ事なく

ガチャ、という音と共に天龍が入ってくる

 

「いや返事」

「提督!いるなら返事しろよな」

 

「……あのなぁ……」

 

あまりの無茶振りに閉口しながら

俺は天龍に視線を合わせるべく立ち上がる

 

「寝てたのか?」

「あぁ、だがもう覚めた」

 

「……本当にか?」「大丈夫だよ」

 

疑わしげな視線を向けてくる天龍に、その目を遮るように手を張って応える

 

「ふぁぁ……」

「やっぱ眠いんじゃねえか!

大人しく寝とけよ、また今度にするから」

「いや、それには及ばない

用件はなんだ?」

 

珍しく及び腰な天龍に用件を尋ねると

言葉に詰まるような吃音を出してから

 

「ただ、良い砲を作って欲しいってだけだ、コストはかかるけど

龍田のやつに、持たせてやりたくてな」

 

「……なるほど」

「アイツの左手、なんでもないようにしてるけどさ、まだ麻痺が残ってるんだ

風呂場とかだと分かるけど

お前には見せないようにしてるんだよ

だから、左手がうまく動かなくてもちゃんと当てられるように、照準補正機能の強いやつを作ってやってほしい」

 

「……わかった、系統と径はどうする?」

「連装砲が使いやすいな……径は……龍田がいつも使ってるのは12.7センチだ」

「わかった、照準のクセは把握している、出来るだけ素直な子を仕上げてやる

2日後、また来い、その時に渡す」

「お、おいおい、本当に大丈夫なのかよ、オレから言っといてなんだけどよ

今のお前、本当に倒れそうだぞ?」

 

「問題ない、珍しく武装を仕上げろという注文だからな、気合を入れて掛かろう」

 

ゴキゴキと音を立てて関節を回し

深呼吸した俺は、完全にギアを入れて

 

「……よし、行くか!」

 

久しぶりに、技師として働く事を決意する

 

「お、目つきが変わったな」

「……そうか?」

「おう、男の目つきをしてるぜ?」

 

「そうか」

 

話を打ち切って、腰の状態を確かめながら全身の関節を動かしていく

レンチ一本でも頭に直撃すれば大事故となる、修理や改装のためには自分自身のコンディションも保たなくてはならない

 

「よし、行くぞ、ついてこい天龍」

「おう!」

 

俺は天龍を連れて、少し離れた工廠に向かった

 

「……うぉぉ……」

「驚いている暇はないぞ、ほらお前の古い方の主砲をよこせ、それ龍田が使ってるのと同じ砲だろう」

「あ、いやそうだけどよ……まぁいっか、あいよ」

 

受け取った主砲を分解して

パーツごとに検める

 

傷みは少ない

パーツ同士の擦れや熱による変形・消耗

発砲時の衝撃による変形はあるものの、うまく流せているからか、砲自体の寿命はまだまだ先だ

 

「よし」

 

同じ材質である防錆鉄材のsus-304

要するにステンレス鋼材を使う

 

「……」

 

暖機のために旋盤を起動してマシンのモーターを回す、同時にマシニングセンタも起動しておく

 

同規格の砲の兵装構造設計図(ユニットメイク)を出して、それを踏まえてプログラムを設定し、NCの形式にしたそれを機械に転送する

 

なに、特に変わることもなく一部のパーツを差し替えるだけだ、そもそも天龍の使っている砲は俺謹製のパーツを使って組み立てられている

自分で言うのも難だが高い精度で加工されているため、龍田のクセに合わせて改修するだけで済む

 

数十分後

 

天龍の目の前には、バラバラに分解された上で一部パーツを差し替えられ

防錆油が塗布されて薄茶色の光沢を纏った砲が横たえてあった

 

「さぁ、それを持っていけ」

「お……おう!」

 

なにか言葉に詰まるような声を咎めると、バツの悪そうな表情になる天龍

 

「悪いな、その……手間かけさせちまって

資源もずいぶん使っちまったみたいだしよ、遠征に行くなら、オレを使ってくれよ

使った分はオレがちゃんと取ってくるから」

 

「……いや、良いよ

俺が好きでやっているんだし、そもそも資材を個人用に着服はいかんよ?」

「分かってるよ!そんな事しねえって!

さっきのは言い方が悪かっただけだ!」

 

慌てる天龍の目の前で軽く手を振る

 

「分かってるよ、揶揄っただけだ

ほら行くぞ」

 

「は?行くってどこにだよ」

「決まってるだろ?」

 

俺は人差し指を真っ直ぐに伸ばして

一言と共にそれを指し示す

 

「龍田のところに、だよ」

 

工廠の外には、いつからか

龍田が立っていた

 

「な!龍田っ!?」

 

「天龍ちゃん!違うの!覗き見とかじゃなくて、これはその……」

「龍田……」

 

「ご、ごめんなさい〜っ!」

 

どこぞのキャラクターのような台詞と共に龍田は逃げていき、天龍はそれを追いかけようとする

 

「天龍、ほら、これを持っていけ」

 

油を拭き取り、組み立て終わった

龍田専用・12.7センチ連装砲を天龍に渡して、先を促す

 

「ほら、いけよ天龍

早くしないとプリンセスが逃げちまうぜ?」

「おう!行ってくる!」

 


 

「龍田!待ってくれ!」

「天龍ちゃん!?」

 

俊足で龍田に追いついた天龍はその進路を塞ぐように立ち

 

「これ、お前に渡したくてな、受け取ってくれよ」

「…………主砲?」

「提督に頼んで、無理言って用意してもらったんだ、お前が使ってくれよ」

 

「天龍ちゃんが使うんじゃないの?」

「オレより、まずは龍田だよ」

 

その手を取って、主砲を渡す

 

「ありがとう、じゃあ受け取らせてもらうね?」

「おう、遠慮なく使えよ!」

 

向かい合った二人は

お互いに微笑んだ

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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