戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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姉と妹妹

「あの様子は尋常じゃない、すぐに追いかけなくては!」

 

幸い、深海鶴棲姫の行動パターンは知悉している、強烈な感情で横道が見えなくなったあの子が選ぶ道は目的地まで中央一直線というシンプルなものだ

 

そしてそれは、今回のケースで言えば

 

「やっぱそこ(空母寮)か」

 

鎮守府の廊下を駆けていく深海鶴棲姫は、明らかに外に出るコースをとっている

空母寮に戻るつもりだろう

 

追いかけるために、俺は外に向かう

大丈夫だ、いくら瑞鶴の足が早かろうと俺にはショートカットルートがある

 

「普段はお行儀悪くて危険だしやっていないが、仕方ない」

 

空母寮へのショートカットは簡単だ

このまま窓から飛び降りて

そのまま三棟側に飛び出せば良い

ちょうど深海鶴棲姫の進路に重なるようになる筈だ

 

「ふっ!」

 

俺は開いた窓に体を滑り込ませ

外へと飛び降りた

 

そして

 

「深海鶴棲姫!」

「ヤァァッ!」

 

待ち受けていた深海鶴棲姫を呼び止めるも、そのまま弾き飛ばされて轢かれる

 

「ごふっ?!」

「ちょ、ちょっと!……もう!」

 

ゴリゴリに踏み潰された俺はそのまま深海鶴棲姫に担がれて空母寮まで移動するのだった

 

「……なぜ、ここに」

「だって!……提督さん、踏んじゃったし、怪我してない?」

 

「怪我の心配はいらない、大丈夫だ

だがそれより」

 

そっと深海鶴棲姫に手を伸ばす

「何かあったんだろ?様子が普段とは全く違う、取り繕えてないな」

 

束の間、その手に怯えるような表情を見せるも、そのまま受け入れる深海鶴棲姫

 

「翔鶴か?」

「ううん、私が悪いの」

 

「……」

「私がね、翔鶴姉と一緒に居たいって無茶を言ったのが悪いのよ

ホントは一緒にいるべきは『瑞鶴』で、私は『深海鶴棲姫』、いくら魂か同じだからって他人でしかないのに、バカだよね」

 

「…………」

「翔鶴姉より先に瑞鶴(あの子)に言われちゃったよ、『誰なんですか貴女』って

当然だよ、瑞鶴の魂の人格である私は当然、他の瑞鶴と同時に一つの鎮守府には存在できないんだから、私が自分と同じだなんて思わないよね」

 

泣き出した深海鶴棲姫を抱える

 

「……」

「深海棲艦の私と、艦娘の『瑞鶴』

どっちが翔鶴姉と一緒にいるべきだなんていうまでもない、でもさ

私だって瑞鶴なんだよ!」

 

俺はなにも言わずに

そっと深海鶴棲姫を抱きしめる

 

「辛かっただろうな、それは」

「…………うん」

 

「じゃあ、お前はこの状況をどう打開したい?なにを望む?」

「…………わかんない」

 

俺の手の中で泣き続ける深海鶴棲姫は、ひどく弱って見える

 

「わかんないよ!私は私だし、今更『瑞鶴(あの子)』を放り出すことなんてできない!でも翔鶴姉の妹は瑞鶴以外に居ないの!」

 

自分の席が突如として奪われた事に混乱しているのか、瑞鶴と自分の同一性を見失っているのか、その言葉は理解しがたいほどに乱雑で、深海鶴棲姫自身の中でも整理がついていないのだろう事が容易に察せられる

 

「だから私は!私は瑞鶴なのに!」

「……うん」

 

もはや言葉にならない言葉に、一言短く答えて、そっとその背を撫でる

ゆっくり、ゆっくりと

 

「落ち着くまでは、俺が一番そばにいる

落ち着いたら、一緒に翔鶴達と話さないか?翔鶴の妹としてだけじゃなく

『深海鶴棲姫』としてさ」

 

「……ん」

 

今度は語り手を交代して

深海鶴棲姫に尋ねる

 

その間も、背中に回された手は止めない

 

「落ち着くまで、待ってくれる?」

「ああ、勿論だ」

 

「ずっと一緒に、いてくれる?」

「お前がそう望んで、俺が可能な限り」

 

「ちゃんと私を、愛してくれる?」

「お前がそれを許す限りは」

 

「……なら、ちょっと、寝かせて」

「いいよ」

 

ここは空母寮の中でも新たに用意された一階奥の部屋、深海鶴棲姫自身の部屋だ

どうせ誰も来やしない

 

ポツンと置かれたベットに座った深海鶴棲姫と、その隣に座って話を聞く俺

俺は深海鶴棲姫を抱く姿勢のまま

ベッドに倒れるように寝転がる

 

「……ねぇ、提督さん」

「なんだ?」

 

「私たち、ちょっとエッチなことしてると思わない?」

 

ふと頭を巡らせれば

薄暗い部屋の中で薄着の美少女を抱いて寝台に転がっているわけだが

 

「確かに心無い者や短絡的な者が見ればそう見えるのかもしれないがな

俺はそうは思わない」

 

そっと深海鶴棲姫を抱き寄せる

「本当に“そういうこと”がしたいなら、この部屋はもっと殺風景か、インテリアを置いているだろうしな」

「全く、だね」

 

はぁ、と一つ息をついて

深海鶴棲姫は笑う

 

「アハハ、なんか馬鹿みたい

自分だけで悩んで、自分だけで抱え込んでたのに、提督さんはすぐに解決しちゃった」

 

「俺はなにも解決なんてしていない、すべてはお前が解決するんだ

これから、な」

 

そっと深海鶴棲姫を離して、俺は立ち上がる

 

「お前がここにいたいのなら構わない、だが俺はあえてこう言うよ

立ち上がれ、お前の問題は自分で解決する物だ」

「……うん!」

 

元気を取り戻した深海鶴棲姫の様子を喜びながら目を巡らせると

そこにはAM9:12を示す時計が

 

「やっべ!執務執務っ!」

「あ……ごめんね、提督さん

私のせいで」

「いやお前のせいじゃない、断じて違う、これは時間管理のうまくない俺自身が招いた事だ!すまないが行かせてもらうっ!」

 

俺は全力で空母寮の廊下を駆け抜けた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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