「提督さぁーんっぽい!」
執務室に飛び込んできたのは、夕立
「お前……いい加減飛び込むのと俺にのしかかろうとするのはやめなさい
お前は犬じゃなくて女の子なんだから」
ぽいぬを引き剥がして
「提督さんのならペットでもいいっぽい!撫でて撫でてー!」
ぴょこぴょこと飛び跳ねている夕立
春の陽気にあてられたのか、それとも酒でも飲んだのか、自制が効いていないようだ
「……仕方ない、久しぶりに髪を梳いてやろう」
「!白露たちも連れてきていい!?」
「……せめて5人までに絞りなさい」
「っぽい!」
とたとた、と走り去っていった夕立
まさに『夕立』というべきか
突然訪れては唐突に去っていったな
「……ちょっと待つか」
結局夕立が連れてきたのは
白露・村雨・春雨・江風
なぜ五月雨ではなく江風なのかはよくわかない
「さて……というか5枠全部使ったんだな」
「ぽい!白露!一緒にといてもらお?」
「いっちばぁーん!……お願いします」
ちょこっと頭を下げる様子がまた可愛らしいというかなんというかだが、ひとまずその二人を椅子に座らせて、ブラシを取る
「……はい、それじゃあ始めるよ?」
髪を痛めないようにまずは二人の髪質を確かめる
と言っても御大層な道具を使うわけではなく、己の感覚によって行うのだが
「……うん」
二人の髪は潮風に当てられる環境でもしっかりとケアしているらしく、あまり枝毛やガサつきはない
やや白露は硬く、夕立は意外と細い
白露は少し絡まりやすいようで、伸ばすには勇気が要っただろう
「さぁ、まずは白露から」
天然毛の櫛は硬めの茶髪の白露にも素早くなじむ
「ぁ……」
そっと毛先の方から
絡みやすい癖毛をそっとといていき
丁寧に絡んだ部分をほどく
この時ブラシを垂直にはせず、側面から当てるようにして頭皮に強い刺激を与えないように気をつける、頭皮が傷つくとよくないからだ
ゆっくりと、繊細に
強引に引っ張ってはいけない、髪がひきつれたときの痛みには覚えがあると思うが
割と笑えないくらい痛い
トリマーとしては毎日でもやってやりたいのだが、提督として、艤装技師としては毎日やっている余裕はない
よってこうして本人たちが言ってきた時だけにしているのだが……夕立がみんなを連れて来ようとは思いもしなかった
「……さ、これで終わりだよ」
「…………」
「白露?」
「寝てるっぽい、起こさないであげて欲しいっぽい」
ただ髪を梳いてやっただけなんだが
まぁいい
取っておきだが、仕上げ工程にコレを使ってやろう
「……じゃあん(小声)」
「?」
「あ」
「??」
「ぽい?」
寝ている白露以外は俺の示した小さく、薄い木製の櫛を見て、しかし村雨以外はピンときていない様子だ
「これはね、拓殖の櫛」
本当は今年の初詣の帰りにでも扶桑さんに渡すはずだったのだが、どうせ使い道を失ってしまったのだ、機を逸した贈り物ほど無粋なものはない
未練がましく箪笥に閉じ込めておくよりも
ここらで花を咲かす方が良いだろう
「つげ!?…大丈夫なの?高いんじゃない?」
「12万とちょっとだったから……まぁ高い?ってくらいだな、猪毛のさっきのブラシは荒引き兼下地用なんだ、あれだけでも十分なんだが、サービスしておこう」
そっと毛先の具合を確かめた俺は
そのまま櫛の方へと視線を戻し
その歯に染み込んだ椿油の香りを確かめながらそっと髪の中へと櫛を沈める
「村雨姉さん、つげのくしって、ほかのとどう違うんですか?」
「拓殖の櫛はね、女の子の憧れ兼最大の味方よ
ただのブラシとは訳が違うわ、
嫁入り道具にもなるくらいに由緒ある物なの」
手首は固定して、肩肘で櫛を操る
そっと、そっと
歯を満遍なく通すように
「嫁入り道具……」
「そう、それに平安時代からずっと使われてきた伝統工芸品でもあるの
あの櫛をよく見て」
「わぁ……」
「ぽい〜」
もう癖毛はすっかり大人しくなり
いうことを聞いて引っ込んでいる
特徴的なミミ部分も髪束に埋没してみえなくなった
「あれには椿油が染みていてね、頭皮を傷つけ辛い上に椿油が髪に残って、キューティクルを保護しつつ頭皮マッサージと同じ効果が出るの
あと、縁起物っていうのに掛けて
拓殖の櫛を贈り物として女の人に渡すっていうのは、結婚の申し込みの意味があるのよ」
「「きゃぁぁ……!」」
「もしかして提督……」
おっと、鋭いぞ五月雨
ともあれ
「はい、終わりだよ、次夕立な」
「ぽい」
村雨が髪が艶々している睡眠中の白露を回収していったあと、空いた席には春雨がつく
「じゃあお願いします」
「うん、わかった」
この後、めちゃくちゃ梳いた
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