雨が、降っている
「はぁ、、技師さん、」
「それ何度目よ」
ため息をつくたびに、誰かに指摘される
もう何度目だかもわからない
それもそうだ
この鎮守府を暗くしていた原因である提督は消えた、けど同時に、この鎮守府を明るくしていた原因の医務官と技師さんも消えてしまった
まるで道連れだ
こんな状況では喜べない
提督が連行された時には
『お見送り』に行こうなんて話も出たけど
同時に技師さんと医務官まで居なくなったと知れればそんな話はすぐに立ち消えた
「最近はずっと何もしていないぴょん!
みんなが一日一度以上の頻度である部屋に集まってるのはなんでぴょん?クスッ」
「仕方ないにゃ、、技師さんと医務官さんはみんなに慕われてたから、急に居なくなったりしたらこうなるのはわかってにゃし」
「そろそろ初春型の哨戒も終わる
第六駆逐隊の方に準備を始めて貰おう」
僕は睦月達を置いて歩き出す
現在の黒杉鎮守府は出撃を鎮守府近海に限定、
執務を凍結している
これは前回、前々回のケースから考えるに、提督待ちのあいだ
とりあえず施設をもたせる為の行動、でも
「いくら哨戒だけとは言え
駆逐艦と軽巡艦ばっかりじゃあ、いずれ進出してくる深海棲艦に攻撃を受けた時に耐えられないぞ?」
「それはわかってるよ天龍さん」
同じことを考えて居たらしい
天龍さんの後ろに着く
今日の旗艦は天龍さんだったようで
帰って来るなり未来の心配を始めている
そうせざるを得ないほどの不安が今
鎮守府に蔓延しているから
現にみんな意気消沈して、
何処と無く雰囲気が淀んでいる
いつもなら騒がしいくらいな金剛さんも
全く声が聞こえない
それと最近龍田さんの姿を見ないけど
なんでだろう?
まぁ、いいや
今は暁型のみんなを呼びに行くことを考えよう
「司令官、、」
「技師さんが居ないのは辛いけど、その分私が頑張らないと!」
「頑張って欲しいのです、、」
「一人前のレディはいつまでも後ろ向いてなんていないの、、一人前のレディは、、」
これは思ってたより深刻なようだ
暁は今にも泣きそうだし雷はあからさまに感情を誤魔化して無理をしている、電は無気力状態に陥っている
響は現実が見えているのかどうか怪しい
窓の外を眺めながら帽子を抱いている響
ん?
よく見たらあれ
第二種軍装の礼装用の帽子じゃないかな?つまり司令官からの貰い物かな?
ずるい
はっ!僕は何を!
ずるいなんて思ってない!
僕も欲しかったとか彼の部屋にまだ私物残ってないかななんて思ってない!
まぁ彼の部屋はいつも艦娘が一人以上いるから物を盗むなんて無理だけど
クローゼットの中になら彼の軍装が丸々一式揃っていたはず、、
フラフラしている暁を無理に揺り起こし、出撃準備を命じる
僕や浦風、響などの長寿な艦は
大体の場合、駆逐艦ベースゆえに小柄な体に対して精神的に成熟した状態になる
だから、響はすぐに戻ってきた
「第六駆逐隊、出撃だよ」
「なのです!」
「出撃するわ」
「出撃よ!」
忙しくも出て行った四人と本日の旗艦
神通の五人編成
鎮守府近海の哨戒任務には過剰なとも言える戦力だけど
それはいつもならの話
僕たちは出力にリミッターを持っている
それは所属国『日本』にいる必要がある
『護国の乙女』という国の縛りと
『提督』という拠り所を持たないと力を出せない『心柱』という精神の縛り
提督、あるいは
「はぁ、、早く帰ってきてよ」
「またため息っぽい?」
「おっしゃる通りさ、存外僕にも影響が出ていたらしいね、あさましい限りだよ
たった一度言葉を交わした程度の中で、信頼を寄せてしまうなんて」
しかもその内容が『早く入渠しろ』
だなんて、風情がないにもほどがあると思う
鎮守府のみんなも大体そんな感じだけど
出撃の多かった艦娘ほど
彼のメンテに与る事は多く、またドックに居座る彼が送迎をするので
顔を合わせ、会話する事も多かった
つまり、出撃頻度 ≒ 好感度という事、
まぁ戦艦二人の好感度は別の方向性で上がったようだけど
駆逐艦たちの好感度は中々に高く、特に六駆は響関係からか司令官と呼んでいたくらいに高かった
提督と区別するために司令官らしいけど、そもそも駆逐艦なら旗艦以外に
間違っているわけでも無いけど、その呼び方はやっぱり不適切な表現だと思う
「あぁ、でも、、司令官、か
なんというか、ふしぎな響きだね」
司令官、司令官、と頭の中で繰り返しながら歩く
そう繰り返している時だけは
心の中で降っている雨が、少し弱まる気がする
僕もそう呼んだ方が良いかな?
何より彼にとって既存の名称の方がわかりやすいだろうし
「司令官、、早く帰ってきてね
みんなも待ってるから」
雨は、まだ止まない
視点が誰かはわかったよね
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