戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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600話記念 番外編 こうなるといいな

「というわけで今回は!」

「……前回と同じ入り方するな」

 

陽炎にツッコミを入れると、明石が背後から一撃を入れて来た

 

「仕方ないじゃありませんか、こんな入り方しかないんですから」

「それにしたって色々あるだろ……」

 

「時間が大体5年くらい飛んだ未来の話よ、本編には基本的に関連しないからあんまり気にしないでね!」

 

笑顔で言い切った雷には多少抗議したいところだが、事実本編とは無関係のifなので、『こうなると良いな』程度に考えることにしよう

 

 

 


世界各地を巡って、そこら中に魂の破片を撒いてきた俺は、最後に鎮守府へと戻ってきていた

 

「……さぁて」

 

俺も30を過ぎたおっさんになってしまったが、『中枢棲姫の魂を俺と融合して破片にまで砕いて世界全土にバラ撒く』という遠大すぎる仕事はこれでようやく終了だ

 

中枢棲姫という巨大すぎる魂が内包する一つの世界、その中核になった創造者の魂を世界中に撒いて……世界中の霊力を若干底上げし

それと引き換えに俺と中枢棲姫はほぼ完全に霊力を喪失、同時に世界創造の権能もほぼ沈黙した

 

提督適性も完全に消失し、もはや妖精を見ることもない

 

「司令官、お疲れ様でした!」

「うん、ありがとう、吹雪

今日まで長い間付き合わせてしまったね」

 

「いえ、これが……最後の艦娘としての仕事ですから……むしろ、最後まで司令官について行けて良かったです」

 

最後まで朗らかな表情と声で応じて、その艤装を揺らす

 

「これで最後だ……すまないな、吹雪

 

吹雪改二、貴艦を本土防衛隊総隊長に任命する」

「吹雪改二!拝任します!」

 

吹雪達は鎮守府に……いや、海軍に残ることを選んだ

鹿島や大和達はあっさりと退任し、解体されたり転属したりしたが

吹雪と他数名は鎮守府の建屋の管理であったり、初動防衛戦力としての駐屯であったりということで鎮守府に残留することになっている

 

在軍メンバーは戦艦から『長門』『陸奥』『アイオワ』『ビスマルク』の4人、重巡『古鷹』『青葉』『最上』の3人

空母から『大鳳』『龍驤』2人

軽巡から『川内』『那珂』『神通』3人

駆逐から『漣』『菊月』『島風』『雷』『雪風』『清霜』6人

潜水艦は『伊58』『呂500』2人

海防艦から『松輪』『国後』『占守』3人

そして整備員として『北上』の解体済み個体と居酒屋鳳翔二代目店主となった『サラトガ』解体済み個体、憲兵隊『時津風』改造個体の26人

 

一時期は在籍人数150人を超える場所だったのが見る影もないが

深海棲艦はもう現れないということで、対外的な姿勢(ポーズ)として最低限残らざるを得ない艦娘達を除いて除隊して

吹雪は艦娘でありながら提督としての適性を認められたため、俺の後任として提督に着任する

 

「……それじゃあ、さようなら」

「今まで、お世話になりました」

 

鎮守府に一礼して、最後に帽子を取る

司令官としての白帽子を吹雪に渡す

 

「今日から君が、提督だ」

「……はい!」

 

鎮守府を後にし、本日を以って退職となるので

執務室に起きっぱなしのわずかな荷物を全て回収する

 

「……スマホひどいことになってるな…」

 

着信履歴が秒刻みで更新されているとか怖すぎる、バイブレーション機能オンにしてたらずっと振動しっぱなしであろう

金剛・蒼龍・榛名……まぁみんな掛けてくる掛けてくる

 

「ちょっとは勘弁してくれよな……」

 

鎮守府の敷地を出てから電話を掛ける

相手は姉さんだ

両方とも同時にお互いに掛けていると双方が通話中になって繋がらないからな

絶対に掛けてきていないだろう姉さんを選んだ

 

「……姉さん、俺」

「蒼羅……まずいわよ、出来るだけ急いで隠れて」

 

「なんで!?」

「あんまりにも連絡が取れなかったからか、一部艦娘が暴走状態に入っているの

もし見つかったら」

「……見つかったら?」

「逆レの数回は覚悟しておきなさい」

 

「わかった逃げるわすまねぇ姉さん!」

 

とりあえず走る

漁村やわずかな施設しかなかった沿岸部には、艤装を解体された元艦娘達が住まうための居住施設やそこに目をつけた一部商店の店舗など、雑多な建物が複雑に立ち並んでいる

 

「……数年ぶりだもんなぁ……」

 

艦娘達をほぼみんな放置してしまったし、連れて行った雪風も中国で退官して向こうに帰化したし、ガングートもロシアに帰ったし

ビスマルクはどうするのかとも思うが……まぁ、その辺は本人に考えがあるんだろう

 

「よし、この辺なら」

 

「……とでも思っているのでしょう」

「ヒェッ……!」

 

猥雑な路地裏の、ちょうど潜もうとした物陰に先んじていたのは霧島

解体、退官後は艦娘としての自身の戦闘記録を活かした自叙伝や詩集を書いていると聞いたがこんなところに居るなんて聞いていない

 

「さぁ提督、みんなのもとに」

「うぉぉぉっ!」

 

跳躍、パルクールと壁跳躍で路地裏の外壁を蹴って飛び上がり、反対側の壁を蹴ってさらに上に

二階建ての建物を壁キックで登り切って、屋根の上に出る

 

「……見つけましたよ、皆さん!

目標は現在エリアD-2地区、屋上を走行して逃亡中!方角は北、D-1地区へ向かっています」

〈了解!〉

 

「嘘だろ霧島ぁっ!」

「これも……お姉様達の為」

艤装なしでも戦艦娘達は尋常ならざる怪力を有していたりしたが、

流石に解体済み艦娘は艤装のバックアップがないため、常人と同じレベルの身体能力しか持たない

 

なので壁を自力で登ってくる可能性は低いのだが、さらに別の元艦娘に連絡されればそれだけで逃げ場を狭められる

何十人どころか100人に迫る元艦娘(ハンター)達からの逃走は容易ではない

 

「うぉぉぉっ!」

 

全力で駆け出し、途中で方向を変えながら屋根の上を駆けていると

「みっけたーーっ!」

 

舌足らずな幼い声、睦月型

ハイテンションで高め、

上からの声だが、その正体は

「皐月!」

「わわっ!分かるんだ!スゴいね!」

 

以前と変わらず明るく振る舞っているが、少し背が伸びている

やはり解体済みのようだ

 

「すまないが平和的に解決できないか?」

「ボクはいいんだけどね……金剛さんとかが」

 

屋上に立ち止まった俺は、皐月に逃してもらえないかと交渉を試みるが

 

「あーーっ!提督!」

「おっそーい!」

 

「クッソ!」

 

瑞鶴と島風がそこに姿を現したことで話はお流れになってしまう

「面倒なことをっ!」

「にげんなっ!」

 

足の速い2人から逃れんと足に力を込めた瞬間を見切られたのか、それより一瞬早く駆け出した瑞鶴が迫ってくるが、それは一瞬の差

直後に駆け出した俺は瑞鶴と反対の方向……つまり、皐月がいる方向に向かって駆け出し

 

島風が急加速で瑞鶴と並んで追いかけてくるなか、俺は皐月の肩を借りて跳躍

道を挟んだ対岸の建物の屋上へと飛び上がった

 

「バカぁぁーっ!」

「遠すぎる……っ!島風!こう……私を土台にして跳んで!」

 

「無理!身体能力が足りない

私じゃ落ちて終わりだよ!」

 

向こうから何やら小さな声が聞こえるが

気にしない気にしない

 

「……ふぅ」

 

屋根の瓦に寝転んで身を隠した俺に、真上から影が掛かる

 

「通報を受けて休講してきました!」

「明石!お前久しぶりだな!大学楽しんでっか?」

 

「ヘーイ提督ゥー!」

「金剛も!?」

 

鎮守府に置きっぱなしになっていた浮遊するサーフボード儀装『クロウバード』

その量産型を二人乗りしてきたらしい明石と金剛はそのまま屋根に降り立って

 

「さぁテートク、帰りまショー!」

 

あからさまに危険な目をしている金剛が、明石の登場に油断していた俺の手を掴む

 

「こうすれば提督は振り払えないネ」

「すみません提督、金剛さんがどうしてもって聞かなくて……」

 

「で、量産型リフボードを持ち出した、と?」

「はい……」

「生身の人間が高度10メートルから落下したら死ぬぞバカ、あとボードに二人乗りはたとえ重量的にはできても禁止だバカ!危ないだろ!」

 

金剛に手を掴まれたまま明石に説教するのはちょっと間抜けだがしかたない

 

「ほらほらほらほら!早く帰るデース!」

「いやリフボードは三人は無理だろ」

 

「……なら明石とテートクが2人で降りて私は飛び降りれば良いデース」

「お前それ怪我するぞここ高いんだから」

「ならテートクが私をお姫様抱っこして飛び降りて下サーイ」

 

「お前頑なだな、もうちょっとなんか方法の一つや二つあるだろうに……」

 

議論を続けていると、ついに建物周辺に艦娘達が集合してきたのか

春雨のピンク髪やべに色の神風の髪

水色の……涼風の髪?などが見える

 

複数いる茶髪や金髪はちょっと確認ができないが、おそらくアークロイヤルと瑞鳳と比叡と……おそらく球磨と

 

ええい、いちいち数えていられない

 

「これは……マジか」

「みんなテートクを捕まえるために必死になってマス、もう逃げられないネー」

「アッハイ……」

 

その後、日が暮れるまで全力で抵抗した

 

「……提督が帰ってきてくれた……」

「そんなボソボソ言わなくてもいいのよ山城、私たちみんなの慶事なんだから」

「そうですよ、山城さんも扶桑さんも

一緒にお迎えのパーティーです!」

「ありがとう白露ちゃん」

 

なんというか、ウチの艦娘達はみんな解体後もそのままの名前を名乗っているようで、名前を変えている者はごく僅かだ

白露や鈴谷も建造に使われた人間の名前とかは完璧に無視しているらしい

軍解散に伴って団体で一気に辞めて、さらには全体でほとんど一箇所に集中して生活しているとなると、確かに艦名を使ったほうが便利なのだろう

 

「提督、久しぶりだね

那覇で別れて以来4年と6ヶ月に12日ぶりだ」

「時雨、そんな細かく覚えてたのか」

 

何人かの艦娘は俺の欠片撒きの旅(ワールドツアー)に同行したりしていたのだが、その中でも時雨は割と長くいた方で、最初についてきてから半年にわたって同行を続けていた

 

「当たり前だよ、僕はいつだって提督との毎日を忘れたことはないし

これからもずっと過ごしていく、そういうものだからね」

 

「時雨、あんまりぐいぐい行くと引かれちゃうよ?ちょっと抑えたほうがいいんじゃないかなーって」

「蒼龍、キミこそ今更積極的になれないからと周りを引き摺り下ろすなんて浅ましい真似はしないほうがいい、品性を疑うよ」

「何ですってこのっ!」「蒼龍落ち着いて!」

 

俺のいるところに時雨がいるのが当然であるかのように宣言した時雨は

牽制を仕掛けにきた蒼龍を一撃の元に叩きのめし、蒼龍を飛龍が護衛退避させていく

 

「……んで、さっきから聞くのはやめていたんだが、この屋敷は一体……」

 

「はい、それについては……」

 

赤城さんが指した方を見ると、そこに座っていたのは鳳翔さん

「……もしかして」

「はい、私の持ち家です、実は……」

 

鳳翔さんが伏し目がちに語った内容は、まぁおおよそ想像がつくもので

つまるところ、退役の後に『空母達の宴会で全員入るくらいの家』を前提として屋敷を建築していたらいつのまにか話が拡大していて

『艦娘達全員が入るくらいの大きな家』を建築していた、ということらしい

一応朝潮型や阿賀野型といった複数人が住み込みで基本的な掃除や館の維持をしているようだが、それにしてもかなり広い

 

「まだまだお部屋は余っていますから、いつでもいらしてくださいね」

「アッハイ」

 

「……この家、私が作ったのですけれど……不幸だわ」

「山城さんは3年前に建築師と土木工事の資格を取ったんです、それでこの家の設計を担当してくれました……が」

 

「いつのまにか要求内容がすり替えられていたなんて……不幸だわ」

 

というわけらしい、鳳翔さんの元に艦娘達が集う屋敷、これってもう実質鎮守府では? などと考えていると

 

「……」

 

【速報】霞らしきサイドテールの少女(中高生?)にガン見されているんですが、どうすればいいですか【助けて】

 

「ねぇ、ちょっとは反応したらどうなの?私だって成長したのよ?」

 

「…………」

「ねぇったら!……んぅ……司令官っ!」

 

どうやらクズは我慢したらしいな、そこだけ見れば確かに成長している

「背は伸びたようだな」

「そこじゃないってのこのクズ!」

 

「結局クズは言うのかよ」

「うっさいクズ司令官!」

 

「そこまでです、霞」「大淀?」

 

「はい大淀です、お久しぶりですね、提督」

「あ、うん、久しぶり」

 

さりげなく霞を押しのけて大淀が俺の隣に座る

 

「私、この度成人と相成りました」

「おう、おめでとう……え?」

 

「はい、私、最初期(5年前)に退役して

退役時点の設定年齢が15歳だったので

今年で20歳なんです」

「マジか!……今更だけどおめでとう」

 

「それでものは相談なのですが……こちら」

 

すっと出てきたのは、なにやら物々しげなボトル

 

「上善如水?」

「はい、私の人間としての初酒は

提督にも一緒に飲んで欲しいのです」

 

メガネをずらして上目遣いになる大淀

翡翠色の瞳が揺れながらこちらを見つめてくる

 

「えぇ〜っ!なにそれズルいーっ!」

「お姉様待ってくださいそれはさすがに」「霧島!そんなこと言ってる場合じゃないネーッ!」「金剛姉様!」「比叡マデ!」

 

後ろがジタバタしているが

……まぁ仕方ない

戦争も終わったし俺も退官した

酒を禁ずる必要もない

ここらが年貢の納め時か……というか上善如水ってチョイスがなんか……

 

「わかった」

 

パァッ!と表情が明るくなった大淀に、囁く

 

「鳳翔さんの入れ知恵だな?」

「ぁ……」

 

バレてしまった、と言わんばかりの顔になる大淀に軽くチョップを入れて

「まぁ細かいことはどうでも良い

祝酒を断れるほど俺も無粋じゃないし」

 

「では!」

「はいよ……開けちまうぜ」

 

ちなみに、これ以降定期的に鳳翔さんの家に艦娘達が集まるようになり

近くに住んでいるから、とばかりに俺も結局巻き込まれ

 

結婚カッコカリは退役するとそのまま婚姻関係として扱われるような制度になっていたせいで奇跡的なまでの多重婚をカマした俺は

事実上この自己完結都市(アーコロジー)から出られなくなってしまったわけだが

……まぁそれでも良い

 

大事なのは(ほぼ)全員が幸せに余生を過ごせるって事だ……俺は除くが

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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