戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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むらしま

「……試製二二式ビームライフル、充電完了です、いつでも」

「了解、使わせてもらう」

 

工廠の明石からビームライフルと、それを使うための諸々の装備を回収、そのままドックの側から海に面する護岸コンクリ壁に立つ

 

「弾は3発、一回も外せない……」

 

バッテリーパックは一つで1発、起電力が無茶苦茶に高いので扱いは要注意

 

絶縁手袋をつけた俺は、これも絶縁性の安全メガネと白衣を纏い

狙いをつける

 

[照準はこちらで、トリガーはそちらに]

[了解]

 

駆逐棲姫がサポを申し出てくれたので

ありがたく照準補正を任せる

ビームライフルは圧縮した微粒子を加速させ、光速のn%の速度で射出する……というような本家とは異なり、探照灯の光量を増幅し、その上でスペクトルを収束させた光線を射る……つまり、レーザーだ

エヴァのポジトロンライフルのような電子的な照準誤差は存在せず、代わりに光学屈折が発生する

 

「……よく狙って……」

 

予測位置は明石が入力していた過去のデータを元に算出し、それを使って狙いを補正する

とはいえ波の高さや水中の微細な状態変化によっても散乱率が変わるような繊細な兵器であるので、データは参考程度

最終的な狙いは使用者本人の感覚に委ねられる

 

倍率の高い狙撃用のスコープを覗き込んだ俺は、その先に見えるであろう

波以外の何かを期待して

 

「!」

 

咄嗟にトリガーを絞った

 


 

「にゃっしぃいいっ!」

水面を蹴って、睦月ちゃんがジャンプする

その瞬間、水が爆発するように跳ね上がり、そこがえぐれたようにすり鉢状に水が無くなる

 

戦艦ル級の攻撃、それも主砲の一撃

どうやっても駆逐艦では直撃に耐えられないそれを、いともたやすく躱していく睦月ちゃんの航行技術はすごいけど

 

「置いていって……!私を!」

「ダメ、曙ちゃん!」

 

脚部艤装が大破して航行不能に陥ってしまった曙ちゃんを抱えて、ドラム缶で応戦しながらではそれも長くは続かない

この場にいる全員が、それをわかっている

それでも、たとえ遠からず全滅するとしても

 

仲間を見捨てる決断だけは

私達にはできない

それは提督との約束だから

 

「うわわっ!?」

「皐月っ!」

 

ロ級の魚雷がカスって体が揺れる

その瞬間を狙い澄ましていたかのように

ヌ級が爆撃を繰り出した

 

「わぁぁあっ!」

 

敵は徹底的に脚部艤装

つまり逃げ足を削ってきてる

もうまともに動けるのは睦月ちゃんとわたしだけ、それも睦月ちゃんは曙ちゃんを、私は菊月ちゃんをそれぞれ背負っている

満潮ちゃんを背負っていた皐月ちゃんもやられた

 

このままじゃ……

 

全滅

 

その2文字が頭を過ぎった

その瞬間

 

「グギガァッ!」

 

目の前のロ級が魚雷を吐き出して

私はそれに反応できなかった

 

咄嗟の迎撃も、俊敏な回避もできず

私は直撃コースに身を晒して

私の背にいたはずの菊月ちゃんが私の艤装をむりやりによじって

私の姿勢を反転させた

「きゃぁぁあっ!」

 

本当は、悲鳴を上げたいのは菊月ちゃんのはずなのに

 

これ以上ダメージを受けたらもう沈んでしまうのに

 

「ありがとう、みんな」

 

そんな優しい声で、いわないでよ!

 

ドォオオン

 

爆発音は私の背後から響いて

そこにいる菊月ちゃんを致命的に破壊した

 

飛び散る鉄の破片が私の頬を切って

涙のように血が流れていく

 

「ぁ……あぁ……」

 

戦闘中に、涙は流れない

艤装をつけている間は私たちは機械になるから

それでも、声は漏れてしまう

 

「ありがとう島風」

 

「あなたのおかげで()()()わ」

 

変わらない背中の重みと、

その落ち着いた、優しい声を聞いて

 


 

先行第三艦隊が赤く染まった赤色海域に突入した直後、通信が不通になってから

私たちは全力で先を急いだ

 

すでに退避してくる遠征艦隊が目視距離までもうすぐの場所に来ていたから

 

それでも敵に追い立てられて、フラフラとした回避行動を繰り返しながらの背面移動は困難を極めるのかこちらに気づいた様子はない遠征艦隊に向かって急ぎ

 

ある地点で、私たちは決断した

 

「島風、あなたの足を貸して」

「うん、私が一番早いもん、いっくよーっ!」

 

島風の緊張感のない声とともに

私はその手に引かれて

人生……いえ、艦生最速のスピードで駆け出していた

 

そして、ついに潮を魚雷が捕らえようというその時に

 

「届いてえぇっ!」

 

改二を使った私は

その腕に絡む鎖を全力で伸ばして

 

飛んでいく魚雷にぶつけることに成功した

 

「ありがとう、みんな」

 

空中で爆発した魚雷は

私の鎖を砕きはしたけれど、それだけで終わり

 

「ありがとう、島風」

「あなたのおかげで()()()わ」

 

「……おうっ!」

 

私たちは、正面敵艦隊を撃破するため

行動を開始した




なにげに潮視点って本作初じゃないですかね

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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