戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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提督の決断

「あ〜……おくちゅり〜〜」

 

トーンの外れた素っ頓狂な声が、暗く狭い部屋に響く

 

目の焦点の合っていない幼い少女が、首にかかった鎖に目もくれずに歩こうとして

ガチャガチャと喧しい音が鳴る

 

「……どうすればいいんですかね……」

 

「青葉センパイがなんとかするかも……」

 

悲観的な声、寂しそうな声

どれもとても良い状態とは言えないものだ

 

「……はぁ……早く助けてほしいかも……」

 


 

みんなを助けて欲しい、爆弾を抜いて欲しい、私自身が大本営の尖兵として利用されていると伝えたい

 

でも自分からそれを言えば私の胸に埋め込まれた爆弾が起爆してしまう

 

それが嫌なわけではないのです

なんなら艤装さえ着けていれば爆発しても死なない可能性はある

でも、それはいけない

言った事実が悟られればそれはみんなが死んでしまう事態につながるから

 

だからなにも言えない私は

ただ悪役を演じるだけ

 

決められた舞台で、決められた役割のままに

 

私がその役を演じているうちは

みんなは観客(きずつかない)でいられるから

 

だから私を見て、私が演じる姿を見て

それで好きなだけ罵ってほしい

私が傷つけられて、嘲り笑われているうちは、私の涙が流れているうちは

みんなが泣かなくて済むから

 

「だから……お願いです……」

 

こんなに優しい人に(どうか)重荷を背負わせてしまうことを許して(わたしをせめて)ください

 


 

「爆弾の摘出ぅ?」

「あぁ、そうだよ

直接大本営に乗り込んでの作戦はそうたやすくない、だからせめてもの策として

最低限青葉だけは生き残れるようにする

おそらく青葉の胸には発信器兼殺害(くちふうじ)用の爆弾が仕込まれているんだ

それを利用して、青葉は密偵役として潜り込まされている」

 

「で、僕にどうしろって言うんです?

そういう人体に直接埋め込む爆弾って、大概心拍とかのバイタルデータが狂ったら起爆するじゃないですか」

「いや、青葉は艦娘だからそれはない」

 

そう、艤装を付けているうちは『人ではない存在』になる艦娘だからこそ

艤装を付けているときはバイタルデータが取れないのだ

大きな手術痕などはそのままだが、多少の火傷や切り傷くらいなら

艤装の存在修正機能で消滅する

摩耶や愛宕が本来なら生活する難しい状態のはずなのに平然と出撃できるのは

『軍艦としての概念』を強化する概念艤装を顕現することで、自分の存在の比率を軍艦側に寄せているからだ

 

人間の神経感度が数百倍になれば自分の血流や皮膚に触れる空気だけで発狂やショック死を起こしかねないが、レーダーの感度が数百倍になれば遠距離・ステルス・環境ノイズの影響といったマイナス要素を無効化できる有利点になるだけだ

 

逆に人間ではなくなるからこそ

妊娠中の艤装装備は厳禁である

極めて短時間であったとしても胎児は脆弱、妊婦という状態の存在が否定されてしまえば胎児は当然死産になってしまう

 

「じゃあ艤装を付けた状態で……って、そんなの無理じゃないですか!」

「そう、普通は犠牲装甲が働いて、肉体を傷つけても制服艤装が破壊するだけ、だがここに例外がある」

 

俺は指を立てて空中に線を描き、里見くんに見せつける

 

「まず犠牲装甲はあくまで制服艤装の機能、つまり制服を着せずに艤装だけをつける、最低限の機能としての艤装本体からの保護も艤装を大破状態にすれば働かない

いわゆる轟沈状態にすればいい

その状態なら脆弱性も出てくるし、おそらくメスも普通に通る……確証はないが

艤装が完全破壊された艦娘は普通に怪我をするし、大破状態で流血する艦娘もいるからこれはほぼ確定と言っていいだろう」

 

「しかし!艤装を故意に破壊すれば!」

「青葉は過剰適合だ、中の人格は関係ない」

 

「ッ!」

「……矛盾するが、これしか青葉を助けられる方法がないんだ、頼む」

 

苦渋の決断と言わざるを得ない

青葉の艤装をわざわざ機能停止寸前まで破壊して、青葉を瀕死まで追い込んで

その後ようやく治療と摘出、だなんて

 

『治すための前提として、まず傷つける』なんて許されるわけはない

だがそれでも、青葉の体内に存在する筈の爆弾を取り除くにはそうするしかない

 

「仮にも医師として取りたくはない手段ですが……場所の目星はついているんですね?

流石に体力の関係上、いや倫理的にも複数箇所を切開して好き勝手に体内を漁るなんてことはできませんから、ピンポイントで一箇所だけに絞りたい」

「大まかなあたりは付いている

青葉自身が教えてくれた」

 

緊迫した表情の里見くんが詰め寄ってくる

「それはどこですか、教えてください

それにどうやって伝えてきたんですか!」

 

「それは……胸部、おそらく心臓付近

自分の胸に手を当てる動作だったから」

「……わかりした、合理的とはいえ意地の悪い連中だ……っ!」

 

破壊を免れやすく、脳、心臓や肺といった重要器官に近く、さらに音声を集めやすい

その条件を満たすなら頭蓋骨か胸部か

その二択になるだろう

 

頑張れば自分で抉り出したり、いざとなれば魚雷や地雷で自ら破壊することができる腕や足とは根本的に異なる部分である『生きることに必須』な頭か胸に発信器を埋め込む、非常に合理的だ、

しかし今はその合理性が恨めしい

 

そもそも高強度で大規模な肋骨・胸骨をすり抜けて繊細な動作をするのは難しいし、

心臓付近のものを摘出する手術は非常に難易度が高い、なぜなら心臓付近には大きな血管が集中しており、心臓そのものも非常に高出力なポンプである

高い血圧を持った血管が多いということは

切開の時に僅かでも間違えば動脈を傷つけてしまうということ

排水ホースの縦割れがホースそのものを引き裂くように、僅かにでも傷付けば

内圧に耐えられなくなった血管が爆発同然の自壊を起こして

当然、被術者は死亡する

 

アニメやゲームで、キャラの胸にものが刺さるのとは訳が違うのだ

 

「しかしやらねばならない、そうでしょう?提督」

「あぁ……手術の成功を祈る」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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