戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

630 / 649
番外話 細波溶ける声

「……ん」

 

ぱちり、と目が覚める

 

「んぅ〜……」

 

頭をいちどだけ振って、しっかりと目を覚ます

 

 

時計を見ると、時刻はAM4:30

随分早く起きてしまったようで、少し後悔する

 

「……はあ……」

 

でもそれはそれで仕方ないと割り切って

私はいつも通りに髪を括って

 

「よし、今日も一日、頑張るぞい!」

 

またピンク色の殻をかぶった

 

「ご主人様!おはようございますっ!」

「ん?……あぁ、漣か、おはよう……ん?お前今日の秘書艦じゃなかったよな……?」

「そうですよ、今日はたまたま早く起きたのでご主人様も巻き込んじゃおうかと!」

 

「迷惑をかけるのはやめなさい

多少の問題なら俺も許すけど、あまりに迷惑だとついにはキレるぞ」

「またまた〜カスミンにもぼーのにもキレてないのに私なんかにキレるわけ無いじゃないですか〜」

 

煽るように言ってみると

司令官はとても嫌そうな顔をして

 

「キレたよ、一回だけ

その時は流石に霞も曙も焦ったみたいだけど」

 

「うぇ?!ご主人様キレたんですか!

あの愛溢れるツンデレに!?」

 

すごく早口で短く返してきた

 

「俺はツンデレや暴力ヒロインがどうも好きになれない性格なんだ

つまりは『表面上しか人を見ていない』ということなんだろうな

行為一つ一つの事象にばかり目が行ってその裏の真意までには考えが及ばないんだ

だから霞と曙にもキレたし、そん時は本気で人を舐め腐ってるガキだと思っていた」

 

偉く俯瞰したその言葉に微妙な感覚を覚えながら、どうにか一言だけを絞り出す

 

「うわ……ドン引きですよ……」

 

「おい、流石に傷つくぞ……それに初対面でクソ呼ばわりされれば印象も悪くなるってもんだろうが」

「あ、それはそうですね

私もクソ呼ばわりされればキレる自信ありますゾ」

 

「掌ドリルかよ」

「天元突破ギガドリルブレイクしますよ、いいですゾ〜コレ」

 

必死になってかき集めて聞き齧ったような単語をつなげて、司令官を躱す

 

「天元突破って、おまえグレンラガン知ってんの?」

「知ってるに決まってるじゃないですか!あの巨大すぎるドリル!何にでも付けるドリル!そんでなんでもブチ抜くドリルッ!まさにロマンですよ、アレはいいものです!」

 

そう、知っているに決まっている

司令官がどんな趣味でも大丈夫にするために、色々漁って勉強したから

 

どんな話でも交わせるように

どんな話も躱せるように

必死になってあさったから

 

「……まぁいいや、とりあえず部屋に帰りなさいな

もう5時だけど朝食までにはまだ時間あるし」

 

「えぇ〜もっとお話ししましょうよ〜

漣ぃ、もっとお話ししたいな〜?」

「延長は受け付けていない」

 

「ケチなんだから、もう!……それじゃ、部屋戻りますね」

「静かにな?」

 

お店の嬢のようなポーズでやってみても聞く耳も持たない司令官

やっぱりお堅い人のようです

 

時計を見るとAM5:15

やはりまだ少し早いようです

 

「ちょっとだけ、休めそうですね」

 


 

その日、夢を見た

とても恐ろしい夢を見た

 

スラバヤ沖海戦

珊瑚海海戦

ガダルカナル島

さまざまな戦いがあって

『漣』はそれに参加したり、しなかったりして

 

そして最後は、沈んでしまって

その後も

 

「………………」

 

何も聞こえない何も見えない

ただ寒くて、そしてとても悲しい場所

私はそこに、漣に乗っていたたくさんの人と一緒に取り残されてしまった

 

「…………」

 

私はそれに、()()()()()()()()

まるで心まで、魂まで

冷たい海に沈んでしまったように

鋼の塊に還ってしまったように

 

何も感じなかった

 

「……!!」

 

目を覚まして、私は自分のベッドから飛び起きる

 

「はぁ……はぁ……」

 

震える腕を見つめて

冷え切った体を抱きしめる

そんな動作もひどく億劫で

今この時は、体が軋んだ

 

「いや……いやだよ……」

 

唇からこぼれた無意味な呟きが耳を打つ

何も聞こえない部屋に

私の声が静かに響いて、消えた

 

時刻はAM4:19

目を覚ますには早すぎて、眠るには遅すぎる時間

 

「司令官……!」

 

私はそこに既視感を感じて

昨日のそれを辿るように

司令官の元へと急いだ

 

寝巻きのままで廊下を走って

息を切らしながら司令官のいる本棟へ

 

開けた扉の向こう側で

司令官はまだ眠ったままで

その姿を見た私は、何故だかとても落ち着いた

 

「司令官……!」

「ふぅ……すぅ……」

 

静かな寝息を間近に感じながら

彼のベットに潜り込む

とてもはしたないけれど、そこはとても暖かくて

彼の命に満ちていた

 

「……ん」

 

ぎゅっと彼を抱きしめて

出来る限りその熱に触れる

冷え切ってしまった体は、そうでもしないと冷えたまま

 

背だけじゃなく、肩幅も胴回りも

子供の体の私とは違う

私が精一杯に手を伸ばしても

彼の身を周る事は出来なくて、少し半端になってしまった

 

「……さざなみ?」

「!!」

 

寝ぼけたような声で問われて

思わず離れようとして、離れられなかった私はおずおずと答える

 

「はい  漣です」

 

「……寒いか」

「……はい」

 

「起きるよ」「待って!」

 

いま起きてしまったら

離れなきゃいけない

今離れたらまた凍えてしまう

 

ぎゅっと腕に力を込めて

司令官の体を強く抱く

 

「……司令官、その……聞いてくださいますか?」

 

「……」

 

沈黙は肯定とみなして、

いや、黙って続きを促してくれていると思って

 

「私は……漣はずっと、司令官に嘘をついていたのです」

 

「…………」

 

私は、私自身が思っていたよりもはるかにたやすく、その秘密を吐露した

 

「私は、話すことが苦手です

ですからひどく人に嫌われてしまう」

 

「人に嫌われて、遠ざけられて忘れられる、私はその孤独に耐えられませんでした

ですから私は、演じることにしたのです」

 

「『誰とでも話せる私』を演じて、『誰とでも笑い合える私』になる事にしたのです」

 

黙って背を向けたまま、

呼気だけで続きを促してくれる司令官に感謝しながら、半ば自動的に流れて行く私の秘密に意識を戻して

 

「司令官が着任する前、

それよりも前の司令官のさらに前の司令官

ロス提督の頃でした

私が建造されて、そしてまもなく

私は私自身の経験を以て、『人とわかり合う事』など絵空事だと理解しました」

 

「私は人とわかり合うことを諦めて

上辺だけで付き合う事にしました

そのために人に受け入れられやすい人格を作り上げて、その中に現代的な思考と表現を詰め込みました

それが今まで、司令官に見せていた仮面(わたし)なのです

今までの私はずっと、司令官に嘘をついていました」

 

司令官の熱を奪いながら

 

「司令官、わたしを許してくださいますか?わたしにもう一度、呼ばせてくださいますか?」

 

 

一度言葉を切って

彼の耳元に寄って、囁く

 

「ご主人様、と」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。