戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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マクガフィンは効果的に

「……おやすみー」

 

「白雪、起きなさい白雪」

 

「…………ぐー、すー」

 

「寝たふりをするな、神経が苛立つ」

 

アサルトライフルは持っていないがとりあえずこれだけは言わせてもらおう

仕事をさぼるな

 

白雪が教室の床に突っ伏したままわざとらしい寝息を立てているのを見捨てて

執務室へと向かう

どうせ吹雪か誰かが拾いにくるだろう

 

「しかし……あれで隠れたつもりだというのか……?」

 

まさか吹雪達を撒くために一棟の二階まで上がってくるとは思えないが

そのありえないを体現してしまう可能性を否定することはできない

 

「……まぁいいか」

 

今日の遠征・演習には白雪は入っていないし、構うことでもないだろう

 

「てーとくー!」

「うわっ!?」

 

廊下を歩いていると北上が走ってきた

 

「提督!ちょっと後ろに居させて!」

「どういうことだ?」

 

「きたかみさーん!」

 

若干混乱しながらも大井が廊下を駆けてくるのを確認し、俺は北上を逃すための作戦を脳裏に浮かべる

 

10秒で考えた作戦はこうだ

まず北上を全力で後方に走らせ

白雪がいた教室の窓から飛び降りて中庭から工廠、または二棟に行かせる

白雪と北上の髪質はよく似ているし

床に突っ伏している白雪をデコイにして視線を誘導できる

工廠なら艤装があるし二棟は放送室や機材予備室など隠れる空間には事欠かない

 

「北上逃げろ!後ろの向かって左の教室の窓から飛び降りて隠れるんだ」

 

そっと耳元で囁いて

その作戦を提示する

 

「2棟なら隠れる場所には事欠かない、工廠もそうだ!早く!」

「おっけー!」

 

北上は凄い勢いで逃げていく

 

「きたかみさーんッ!」

 

俺には目もくれずに走っていく大井だが

流石にその様子は黙って見ているわけにもいかない

 

「大井?!」

 

すぱっと袖をつかんでその進行を止める

「邪魔しないでください提督!

わたしは北上さんを追いかける義務があるんですッ!」

「明らかにそれは義務じゃないしその殺気は味方に向けるものじゃないだろう!」

 

そう、北上を追いかける大井は

某バスケ漫画で言うゾーンに入った状態のように左目から稲光のような残影を迸らせて

顔の上半の影を濃くしていた

 

どうみても味方に向ける視線ではないし

それを向けられて平静を保てるものでもない

 

過去に闇堕ち時雨や半深海化した鈴谷が似たようなオーラを放っていたが

それにしたって闇堕ちも半深海化したわけでもない大井が放つ要素はない

 

「提督邪魔どいて北上さん殺せない!」

「殺ッ?!」

 

なにやら凄まじいワードが飛び出してきたところで

俺は決断した

 

「時津風!来い!」

「ハイっ!司令官っ!」

 

瞬間移動とも思えるほどの速度で

窓ガラスを蹴り砕いて廊下に突入してくる時津風(改造個体)

憲兵隊に編入していても機械化された脚の出力が落ちるわけではない

むしろウチの駐在になってからさらに訓練を受けて脚の力をを引き出せるようになり

改二金剛をすら引き離すほどの速度を発する陸上戦最速の俊足を得ていたのだ

 

「時津風!大井を拘束しろ!」「ハイ!」

「ちょつと違うきゃぁっ!」

 

いかに改二発現者であっても

艤装なしでの実力は異様なほど高いわけではない、金剛や響がおかしいだけで

艤装なしの実力は本来、人間と大きく違うというほどではないのだ

 

時津風改造体の身体出力は艤装無しの状態にあってなお、艤装をつけた状態の駆逐艦の平均を上回っていく、大井が勝てる道理はない

 

「確保っ!」

「よーし!」

 

あとは北上を追ってそちらから話を引き出す必要がありそうだ

 

「北上さん!提督これ外してください!

わたしは北上さんを追わなきゃいけないんです!」

 

「まぁ落ち着け、いったいなにがあったというんだ?」

 

見るからに怪しいのは大井の方なのだが、この大井の言動からするに

北上がなにがやらかした可能性は大きい

 

「北上さんが!北上さんが!」

「…………」

 

「北上さんがわたしの大切にしていた間宮券使っちゃったんです!!」

 

「間宮券?」

 

コクコクと頷く大井(かわいい)

涙目になりながら吐く言葉が間宮券とはこれいかに

「あれは特別なんです!

絶対に使いたくなかったの!」

 

甘味への執着の強い大井を以てなお保存の決断をさせるほど大切なものなのか

 

「それはもしかして……」

 

昔にもらった古いものなのか?

そう問おうとした直後、大井は

 

「…………提督がくれた最初の一枚なんです!」

 

言い辛そうに表情を歪めて、

なにやら葛藤したのちに、その一言を吐き出した

 

「……あぁ〜……うん、ごめんね」

「うぅ……」

 

真っ赤になった大井を尻目に

俺は時津風に大井を離すように行ってからそっと現場を抜ける

 

そして

 

「ごめんまみやさーん、いるー?」

「はぁい?」

 

食堂に行って間宮さんに話しかける

ちょうど朝食ラッシュが終わった頃らしく、皿洗いをしていた間宮さんは

すぐに顔を上げて、俺と目を合わせる

 

「大井がさ、もってた間宮券を北上に使われちゃったって泣いててね

そんで問題起こしかねなかったからひとまず確保したんだけど、北上が使ったっていう間宮券の原物って、ある?」

 

「ありますよ、北上さんだから……これですね!」

「使用済みの切符穴とかスタンプとか有れば本券も返してやれるかな」

 

俺の言葉に頭上に疑問符を浮かべた間宮さんが尋ねてきた

 

「えっと、『使用済みの』チケットですか?『間宮券が』欲しいという話ではなく?」

「あぁ、それさ、俺が一番最初に大井に渡したものなんだ、大井はそれをずっと持っていたらしくてね?」

 

「なるほど、だから勝手に使われて怒ってしまった、ということですね

わかりました……そうですねぇ

別段使用済みチケットの処分については規定はないので、使用済みとわかるようなものなら券自体は返却しても構わないと思いますけど

どうしましょうか……?」

 

少々思案顔になった間宮さんは

券を俺に渡して問う

 

「あぁ、昔の駅員の改札機みたいなのがあれば……あ」

 

書類ファイル用の穴開けパンチをうまく使えばそれこそ改札機のように穴を開けられる

大井にそれでもいいか聞いてやらないとな

 

「これ、もらっていいかな

ちょっと大井と相談するよ」

「はい、どうぞ持って行ってください

……北上さんはどうしますか?」

 

一瞬怖い雰囲気を出した間宮さんから目を逸らして、早口で言い切る

 

「それについては当人同士の問題だから本人達に解決してもらう!

それじゃあ!」

「いってらっしゃい」

 

手を振って送り出してくれる間宮さんの笑顔に薄寒いものを感じながら

全力スプリントして執務室に近い1棟廊下まで走って戻り

 

「大井ーっ!」

 

俺は経緯の説明のために大井を探すのだった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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