戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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川内さんと、提督と

「結局大井には券だけ返して北上には反省を促したが……どこまで効果があるかだな

……というか大井が北上を相手にキレる事があるとは初めて知った」

 

かなり北上に甘いイメージがあった分

北上にキレた大井はかなり新鮮だった

 

「まぁ仕方ないよね、人の間宮券勝手に使ったっていうより、間宮券を軸とした取引で入手した券がたまたまそれだったってだけみたいだし」

 

棚の中のそのへん、みたいな雑な指示しかしなかった大井にも責任はあると言えるだろう

後の調査も検討する必要がある

 

まぁ限られた権利は保存可能ならそうするものもいるだろうし、それ自体を否定することはできない

間宮券を転用して取引するようなことも現場レベルでは……あるのだろう

 

「今日調子悪くて〜……間宮券あげるからシフトかわってくれなーい?って感じ?

結構あるよそういうの」

「練度の平均化を試みてるのに勝手にメンバー交代されると練度が偏るんだが……」

 

まぁ、その辺は仕方ないと考える他にないだろう

考えうるのは間宮券の転用行為を一切厳禁とすることだが、さすがに艦娘の私生活やちょっとした交換行為くらいにまで規制を入れたくはない

一度でもそこにメスを入れれば似たようなケースを繰り返し、徐々に規制が増えていって幸福度が下がっていくのが目に見えている

 

「……まぁ今回の件は憲兵まで出てもらった訳だし、鎮守府全体に『こういうケースがあった』ってとこは告知するよ」

「まあーしゃーないか、

ん、コーヒー淹れるよ」

「ありがと、すまないがそのソーサーの上に置いてくれ」

「はーい」

 

ペンから手を離して指差すのは机の隅に置いてあるソーサー、以前金剛が茶器を揃えた際に無用となった廃棄品だが、適当な再利用先を見つけられてよかった

 

「仮にも書類仕事だしな、コーヒーがついたりしたら目も当てられない」

「そだね、はい、冷めないうちにどーぞ」

「はい、ありがとう」

 

またどこからかクマァっ!だのオネーサマっ!だのと奇声が聞こえるが

それらをまるっきり無視して耳から追い出し、そのまま書類を書き続ける

予算申請やら定期報告やら通知書やら人事の内示やら内容はさまざまだが

部類ごとにまとめられているお陰でなんとか混乱せずに済んでいる

 

「ほんと、手伝ってくれる子たちがいてよかったよ」

 

俺も艤装のメンテナンスに集中できる時間が取れるし、深海組のみんなの協力によって

周囲の深海棲艦も制圧状態

ここ最近は不穏だ事件だと騒がしかった分、久しぶりに落ち着いた気分だ

 

「なぁに、そんな藪から棒に」

「いやね、平穏の大切さを思い知ったというかなんというか……訳の分からない指示も意味のない出撃命令も理不尽な作戦もやたら積み上がる書類もない、落ち着いた日々

素晴らしいとは思わんかね」

「はいはいバルスバルス、あのグラサンウルラピュラはしまっちゃうよ」

 

川内は少しだけ口角を上げながら話を遮って

俺の前の書類を数枚取る

 

「んーと、報告書とかもだいたい片付いた感じだね〜……たしかにしばらくは平和って感じだ」

 

しばらくというかかなり前から

ずっとイベントの準備やら青葉やらそのお仲間さんやらと大騒ぎをしていた

数人大本営の士官将官が検挙されたとも書いてあるし、まぁ少しは大本営にも効いたらしい

 

「この分だと俺の退任時期も近い

そうなる前に深海組を通じて海の意思にも接触しなきゃならないな」

「……海の意思を鎮めて、深海棲艦を全部滅ぼす、そうしたらついにこの仕事も終わり」

 

「ん?滅ぼすわけないだろ、現状維持か定期的に深海棲艦を暴れさせるくらいのことはしてもらうぞ?」

 

俺の言葉は川内には衝撃的だったらしく

ぎょっとした表情でこちらに強い視線を向けてくる

 

「どういうこと!?」

「言葉通り、そもそも艦娘と深海棲艦は相補性を持っている

深海棲艦と艦娘というお互いに相反する存在は表面上では敵対しているが、元来は共に海の意思に起因し『人を滅ぼす意思』と『海へ還った人々の意思』の二面を切り出す形で生まれている表裏一体の存在だぞ

どちらか一方でも欠けたら途端に人類は滅ぶ」

 

そう、人は深海棲艦と戦う手段を持たず

艦娘に戦力を頼る

艦娘は独力では生きられず、人に生活環境を頼る、そうして人類と艦娘は共存し、共に深海棲艦という目に見えた脅威と戦う

 

この関係を崩すわけにはいかない

そうなれば、世界は滅ぶ

 

深海棲艦を失えば武力保持の正当性を喪失した艦娘は人類側から新たな脅威として認識され、攻撃されるか追いやられる

だが艦娘がいなくなれば遅発再生したネームドや沈められた艦娘らを素材として再び発生した深海棲艦が幅を利かせ、今度は人類が人類の独力でそれらと争う必要が生まれる

それも『人類を生かす意思』の現れである艦娘を裏切った人類には無論艦娘側の勢力も敵対的な存在であり

自動的に『艦娘+深海』vs人類という圧倒的なハンディキャップマッチが組まれてしまう

 

反対に艦娘が滅べば無論『人類の滅び』が到来する

タイプムーンシリーズで言うORT(人類を殺すもの)の到来やGOD EITERシリーズで言われている『終末捕食』のように増えすぎた支配種族の殺戮による生命リソースの再分配

 

故に深海棲艦は人を殺し、人以外を殺さず、人の作りし物を破壊し、自然を穢す事はない

 

人類の操ることができない霊体による上位次元からの物理圧殺という超常的手法による完璧な人類メタ、これに対応するには同じ手段で対抗する必要があるわけで

だからこそ人間を守る艦娘と妖精が現れて提督という形で人類をゲーム盤に取り込んでいるわけだ

 

それはつまり資源や食料、人類側の犠牲や深海棲艦の復活などの複合的要素を持つとはいえストラテジー(戦略)ゲームや将棋と同様の『人類』vs『世界』というカードを『艦娘』と『深海棲艦』に置き換えた代理戦争(ボードゲーム)をやっているという事でもある

(深海棲艦)を失えば人類は艦娘を相手に自滅し、艦娘(自軍の駒)を失えば人類はゲームに敗北し、滅亡する

 

故にこのゲーム、始まってしまった時点で徐々に不利になる戦争を永遠に続けるしかない

唯一のエンドルートである『艦娘を人類と完全に同一化する』という最終目標(グランドクエスト)をクリアするまで

 

「……とはいえ、幸いにも俺達は

世界の核である中枢棲姫を確保している

深海棲艦の支配者としての機能は残念ながら失ってしまったようだが

単純なリソースとしても大きな存在であることには間違いない

深海棲艦の無尽蔵な復活は世界そのものの力が集中する中枢棲姫の霊力量によって賄われていた以上、中枢棲姫が失われれば復活ペースも落ちてくる筈だ

戦力を制限した深海棲艦達を相手取るポーズを続けて茶番で時間を稼ぎ

その間にプロパガンダを使って民衆にとっての艦娘のイメージを上げる

そして、最終的には

 

「将来的に、この世界が世界としての完成度を上げていけば……徐々に艦娘の人間の間は詰まっていく筈だ」

「???」

 

理解不能的な表情の川内に改めて説明をする

 

「この世界は非正規的な方法(中枢棲姫の意識の目覚め)で作られた矮小な世界、本来なら世界と呼ぶスケールじゃないくらいに小さい、だから『成熟した』大きな世界とは力に差がある

一般出の民間人の俺がこの世界じゃチート無双スーパーマンになれるくらいに

でも俺が死んだり、俺の後に来るであろう転移者が死んだら徐々にその魂のエネルギーはこの世界に充溢していく、つまりリソースが満ちていくわけだ」

 

「う〜?わたしそういう難しい話苦手なんだけど……」

「要するに膨らませた風船に水詰め込んで重さを増してる」

 

「おk、完全に理解した」

 

理解が十分とは思えないが

とりあえずの説明はわかっている前提で話を続ける

 

「俺や俺の後の転移者が死んだり

この世界自体が徐々に完成度を上げて成熟していけば、やがては他の世界と同じように拡大して、ディテールを増していく

それと同時に一般人の平均霊力量も上がって、世界法則の強度なんかも上がる、艦娘や深海棲艦の霊力量に並ぶものも現れる

俺が『川内と瑞鶴と五月雨と陸奥と大和』なんて無茶苦茶をしていたようにはいかなくなるだろうけれど、逆にそれが起これば……」

 

「つまり、深海棲艦の霊力による物理防御が効かなくなる?」

「イグザクトリィ、霊的資源、エネルギーが云々なんて小細工必要なく

純粋に自分の保有する霊力で深海棲艦に並べるものが現れれば

それが平均的な人間のレベルならば……もはや深海棲艦は敵ではない

同時に艦娘も『脅威』と呼ぶような存在ではなくなる、たとえ敵として立ちはだかったとしても『格闘性能に於いて我が方が有利』であり、『お互いの攻撃はお互いに十分有効』であり、『我が方が優秀な兵器を保有している』のなら、艦娘が反乱を起こしたとしても既存防衛兵器が火を噴くだけで赤いお花畑が広がることになる」

 

顔を青ざめさせて僅かに背筋を震わせる川内の背中を指でなぞりたい衝動を抑えつつ

俺は説明を続ける

 

「まぁ長々と話したけれど、要約すれば

『①深海棲艦は滅ぼしてはいけない』

『②艦娘達の世間的印象をよくしていかなくてはいけない』

『③深海棲艦の霊的防御を抜けるレベルに世界が成熟するまで①・②が崩れてはいけない』

という事だよ」

 

指を三本立てて川内に見せつつ微笑む

 

「さて、これを守るために俺達が考えるのは『弱体化させた深海棲艦を相手に故意に膠着を保ち、時間を稼ぎつつ艦娘達の社会的地位を確保する』事、だから海の意思には今まで通りに深海棲艦を作ってもらうんだ」

「うん、わかった」

 

なんとか納得してくれたようだ

 

「あとは俺も退任したら大本営の方にいって将官に昇進して自分の派閥作るから

そん時は何人かココの艦娘達連れていくかもな」

「え?……じゃあ私!私連れてって!」

「……どうしよっかな、改二発現者だけで考えていたけど、まぁ希望は受け付けるよ」

 

軽く話を切りながらコーヒーを飲む

若干冷めてしまったが、それでも構わない

 

「このコーヒーをまた飲めるなら、それも良いかもしれないな」

 

着任した時にくらべてずいぶんと膨れ上がった名簿、そして顔写真

机の引き出しから出したそれらに視線を移す

 

「今は入っていない青葉達も、いずれはここに加わる……異動申請をしている子達も将来的には加わったりもするだろう」

 

「そうだね、そのアルバム

提督が着任して最初に作った所属艦娘名簿でしょ?」

「そう、そして俺がこれから先、守っていくべきものの名簿でもある」

 

俺はゆっくりと装丁を閉じて

 

「いつか、武力を持たずに生きていける世界になるまで」

 

そっと、引き出しの中に戻した




これで本編は完結です
着地点がよくわからなくなってしまった本作ですが、なんとかストーリー上のやるべきことは全て終わらせ、穏やかに締めることになりました
ご愛読ありがとうございました。

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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