さて、着任から一月して、
俺はこの鎮守府の生活サイクルを大体把握して、技師と提督の二重生活を楽しんでいた……え?提督の仕事?書類管理と環境保全と艦娘のメンタルケアと稀に艦隊指揮を、連合艦隊の時に第一艦隊の指揮を任されることがあった
技師としては毎日活動しているがね?
俺自身は特に仕事が忙しくて仕方ないと言うほどではないが、俺の仕事のやり方は異常であるらしく
艦娘からも止められる事がある
「先輩?いつまでメンテしてるんですか?いま00:40ですよ?」
桑嶋が交渉に来たり
「提督〜?たまにくらい呑んでもバチは当たんないよ?」
隼鷹が来たり
「提督?私の……ってどうしたのよこの酒瓶…まさか呑んだの?」
神風が来たり
「先輩!あれ?先輩禁酒やめたんですか?え?なんでそう思うって、お酒の匂いがしますし」
総合してみんな結構良い子だが
何故俺の仕事が20時間であることを知っていて来るのか…
[すでにオーバーワークであると分かっているからじゃ無い?]
[俺は倒れた事無いんだけど!]
[はいはい嘘つかない……」
まさかの嘘扱い
俺の生活を知っているはずの川内さえ嘘呼ばわり?!
[だって実際に倒れたじゃない]
[佐世保でな?]
あの頃は養分管理が疎かだったというだけの話だ。何も問題は無い
[それが既に問題だと何故気づいてくれないのよ]
[それは知らんな]
視線をそそくさと逸らしながら仕事に戻る
あの時には二十時間かかったというだけであって、現在もそうでは無い、提督業を含めて二十時間なのだ、
技師業自体は一日あたり三時間とかかっていない
実質提督業の息抜きにやっているレベルだ
俺の本業は技師だが何か悪いか?
そもそも提督に着任なんて望んでないってのに、俺は一技師で良いんだよ…なんで提督になんかならなきゃいけないんだ……はぁ
[書類管理に戻りましょうね〜]
[子供扱いかよ…]
川内にすら腹立つ、まぁ粗雑な対応が苛立ちを誘っているだけだから、川内本人には何の問題もない
[夜中だろうと残業で鍛えた俺の体に影響は無い]
[夜はぁ〜?夜戦っしょぉー!!]
[唐突にツナ義ーズ入れんなよ]
それにもうそれ2年近く前のネタだろ、何で知ってんだよ…[夜は夜戦!朝は寝る!昼は夜戦訓練!]
[お前もう妖怪になったら?
朝は墓場で寝られるぞ?]
笑いながら艤装を修理していく俺に
ボイトレに来ていた那珂が気付いたようで近づいて来た、、が俺だと分かったのかそそくさと去っていった
なんか悲しくなるなぁ
[人の!妹!取るなっ!]
[取らん取らん]
あぁ全くこの子は……手が掛かるなぁ
頭を撫でる、撫でる
離す、手を取られる、頭の方から押し付けてくる
撫でる、満足げな笑顔
よし大体OK
その後しばらく頭の中で川内を撫でては艤装を修理して、午前二時ごろに余裕を持って寝たのだった…
[07:00です][うんおはよう]
笑い合いながら目を覚ます、もちろんそこには誰もいない、はたから見たら頭おかしい奴だが、俺にとっての現実はこっちだ…
サミュエル様マジ天使
[そういえば俺、五月雨に乗った事なかったな…]
[え?私にですか?]
[川内とかは頻繁に引き込んで来るけど、五月雨はやった事なかったよね?」
[はぃ…]
[それじゃあ……やりますね!]
時は流れ 記憶は薄れ
あの日のように、いつものように
また、私は…
「いつかも聞いたけど随分悲観的な声だな」
「ええっと、私はそういう過去が…」
「知ってる、だからいつも引っ込み思案、ミスを恐れる性格だ」
「ひぅっ」
若干怖がる様子を見せる五月雨
「だけど、ミスを恐れるから前に出ないってのは、一つの選択肢だ
それを選択し得るのもまた勇気」
こちらを見上げる姿勢の五月雨に一歩近づき
「君には勇気がある
君にフォースの祝福のあらんことを…」
[必殺のナデポだ!]
[うるさい]
突如頭の中で実況を始めた川内を躱して
五月雨と話し始める
「えっと……私、ずっと怖くて…」
「味方を傷つける事を恐れる。集団戦では当然の事だ、それの何が悪い?」
「私は前に出ない臆病で」
「大いに結構、生存力豊かな性質だ」
「私…わた し……ふぇぇえ」
あぁ泣いちゃった、、おいおい
大丈夫かい?叩かれたか?
なにかNGワード踏んだか?
「ふぇぇん」
「泣くな、せっかくの綺麗な服が濡れるぞ」
「そこは…嘘でも綺麗な顔がって言ってくださいぃ」
「うん、泣くのと話すのが何故両立しているかは置いておいて俺の士官制服に顔を押し付けるのはやめようか、跡になるから」
「わたしより制服の心配なんでずねぇ!」
「バカ言え、お前の顔に跡がつくと言っているんだよ」
「えくっ ふぇぇ」
まだ泣くかこの子は……よほど泣きたかったんだろうな、今までずっと涙を押しとどめていた分の精算としよう
好きなだけ泣きなさい
俺がここに居るうちは
いくらでも泣いて良いから
結局、魂時間で一時間ほど泣き続けた挙句、泣き疲れて眠ってしまった
「はぁ……なんで俺の膝?」
お察しいただけただろうか
現在俺の膝は五月雨に占領されていた
まぁいいか
起きるまで待っていよう
この子の雨も、いずれは上がるだろう
それまで待てば良いだけだ
どうかな……?イヤ?
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