「全軍!攻撃開始!彼女達を、誰一人この場から逃がしてはなりません!」
「「「「「クルルルァ!!!」」」」」
燃え盛る炎の中、
「ッ!総員!回避行動!」
しかし、彼女達もまた訓練された兵士。いち早く我に返った彼女達の部隊長らしき女性の声にしっかりと反応し、動揺しつつも襲い来る矢や槍盾兵達の鋭い突きを躱し、又は手に持つ武器で防いで見せました。続いての2撃目、3撃目も防ぎ切りました。なかなか練度が高いですね。
「新種の精霊!?どうして!?ここには《ハーミット》と例の精霊しか居ない筈じゃ!?」
「落ち着きなさい!総員!目標を目の前の新種の精霊と、虫の様な生物に変更!各自攻撃開始!」
「「「「「りょ、了解!!」」」」」
敵の部隊長が指示を出すと、彼女達は銃身が複数本束なっている巨大な機関銃や、刀身が青白い光の集合体の様な不思議な剣を駆使して我が軍の兵士達と交戦を始めました。兵士達は力と数では彼女達に勝っていますが、扱う武器の性能や仲間同士の連携等では彼女達に敵わず、徐々に我が軍の兵士達が討ち取られ始めました。
「ふむ……兵士達よ!1対1の戦闘は避け、複数で1人の敵と戦いなさい!敵に反撃の余地を与えぬよう、絶えず仲間と交互に攻撃し続けるのです!」
「「「「「クルルルゥ!!」」」」」
ならばとこちらも兵士達に指示を出すと、兵士達は雄叫びを上げて指示通りに1人の敵に対して3〜4名程で襲い掛かりました。すると不思議な剣を使って戦っていた者は回避する事に手一杯となり、次第に距離を取って巨大な機関銃で攻撃する者が増え始めました。
「よ、避け切れな……きゃあ!?」
パキィィーン!!!
「…………おや?」
未だ距離を取れていなかった1人が遂に避け切れなくなり、弓兵が放った1本の矢が当たると思ったのですが、まるで見えない透明な壁にぶつかったかの様に、矢が数メートル手前で弾かれました。その後他の者にも矢や槍の穂先が当たりそうになりますが、その全てが同じ様に弾かれてしまいます。衝撃はあるのか、当たる度に少し後ろに飛ばされていますが、傷1つ付いていません。
(バリア……の様なものでしょうか?この世界の科学がかなり進んでいるのは、あの空を飛ぶ女性達の武器や装備から分かっていた事ですが、まさか御伽噺の様なものまで存在するとは……驚きですね)
しかし彼女達の放つ無数の弾丸も、槍盾兵の持つ大楯を貫く事が出来ていません。互いに攻撃による損害を与える事も受ける事もない拮抗状態に近い状態になりましたが、彼女達は弾や体力を消耗するのに対し、兵士達には矢が尽きる事も体力が削られる事も無いので、こちらが有利に立っています。
(しばらくはこの状態を維持しましょう。無理に倒す必要はありませんからね)
私の使命は、彼女達の使命…
……正直なところ、お付き合いしている女性が居るのに年下の少女と口付けをする方と一緒にするのはかなり心配ですが、この状況で彼等を置き去りにする事はどうしても出来ませんでした。やはりカオスを身に纏ってカオステラーとなったとは言え、元聖女としての
一応護衛の兵士達も居ますし、五河さんは十香さんの面倒も見なければならないので、手を出したりしないとは思いますが……心配が消えた訳では有りません。やはり念の為、早めに合流した方が良さそうです。
「その為にも、少しでも早くこの場を片付けなければなりません………ねっ!!!」
ガキィィィン!!!!
「………くっ!!」
私は背後から迫っていた不思議な刀身の剣を、私の愛剣である魔剣…〈否定の劫焔〉で振り向きながら弾き返す。私に斬り掛かって来たのは白髪の少女。彼女は弾き飛ばされながらも空中で見事に体勢を立て直して着地し、油断なく剣を構えながら私を睨み付けています。
「………おや?どなたかと思えば、あの時の少女ではないですか。お元気そうで何よりです」
「………私は貴女と会った覚えは無い」
?そんな筈は……あぁ、そう言えばあの時彼女は気を失って居ましたし、私はカオス・ドロシーの姿でしたね。それなら会った覚えが無くて当然でしょう。
「すみません。こちらが一方的に知っているだけですので、お気になさらず」
「………貴女の目的は何?何故《ハーミット》と例の精霊の討伐の邪魔をする?」
「先程言った筈ですよ?私の使命は、貴女方の使命の妨害。今貴女方が倒さねばならないのは、貴女方が《ハーミット》と呼ぶ
彼女の問いに軽く笑みを浮かべながらそう返すと、彼女はそれ以上何も言わず、私に再び斬り掛かって来ました。
どうやら彼女達の中では上位の腕をお持ちの様ですが、私の言葉に怒りを抱いているのか、太刀筋が分かり易い。剣が来るであろう場所に〈否定の劫焔〉を構えて置くだけで彼女の攻撃を容易に弾けてしまいます。
「どうしました?その様な剣では、私を殺す事など叶いませんよ?ほら、隙だらけです!」
「ウグッ!?」
再び剣を弾き、隙だらけとなった彼女のお腹に蹴りを入れる。当たる直前にバリアで身を守った様ですが、衝撃を殺しきれなかったのか、彼女はそのまま吹き飛ばされてボロボロとなった床の上を転がり、元は商品を並べる棚であったであろう残骸にぶつかって止まりました。
「折紙!?あんた、また無茶して……!」
「ハァ……ハァ……問題ない」
ふむ、あの白髪の少女は折紙さんと言う名前なのですね。敵の部隊長の言葉から察するに、どうやらよく無茶をして部隊長を困らせている様ですね。以前お会いした時も無茶をして大怪我を負ってしまったのでしょうか?
おっと、今は余計な事を考えている場合ではありませんでしたね。もう十分時間は稼げたでしょうし、そろそろ私も撤退するとしましょう。
「兵士達よ。我々の使命は果たしました。戻りなさい」
私は生き残っている兵士達を消して魔力に戻しました。負傷度合いによって戻る魔力の量は変化しますが、こうする事で、使用した魔力を回復……と言うより、回収する事が出来るのです。このまま兵士達にこの場を任せて私だけ撤退する手段もありますが、
「あれ?化物達がどんどん消えていく……?」
「精霊が天使を解除した?でもなんで……?」
「………どう言うつもり?」
敵の兵士達が次々と紫色の煙の様なものに包まれて消えていく我が軍の兵士達に困惑している中、折紙さんだけが私から視線を外さず、剣を構えて問い掛けてきました。
「時間は十分稼げたので、そろそろ私も撤退させてもらう事にしたのです」
「……逃しはしない」
「えぇ、貴女方が見逃すとは思っては居ません。ですので、少々強引に行かせて貰います!絶望をもたらす万象を砕き散らす我が魔剣の力!お見せしましょう!」
左手に持つ軍旗を掲げ、右手に持つ〈否定の劫焔〉に魔力を込めると、我が魔剣は全てを虚無に還す力を持つ炎に包まれ、それは次第に軍旗の旗棒へと移って行く。私がこれから行うのは
「ッ!?………炎!?」
「そ、総員警戒!何か仕掛けて来るわ!折紙も早くその場から退がりなさい!」
敵の部隊長は慌てて味方に指示を出し、速やかに私から距離を取らせる。折紙さんは何やら驚いた様子で動きませんでしたが、軍旗が纏う凄まじい炎の熱を感じてハッ!と我に帰ると、すぐに他の方々の後を追って、少し遅れながらも距離を取りました。あれだけ離れてくれれば、巻き込まれる心配はないでしょう。
さぁ、準備は整いました。
「全てを燃やし尽くす!“希望を護る聖女の剣”!!」
そして私は前へ跳び、着地と同時に炎を纏った軍旗を勢い良く地面に突き立てる!
「みんな灰になれ!!」
ドガァァァァァァァァァァン!!!
瞬間、まるで火山が噴火した様な大爆発と、天を衝く様な巨大な火柱が立ち、このデパートのフロアを更に2階吹き飛ばしました。
これで後は………。
「〈アリス・アンダーテール〉……」
★
「へぇ〜……
時は少し遡り、カオス・ジャンヌの軍隊とASTの隊員達が空中で激戦を繰り広げている頃、デパートからこっそり逃げ出した士道と、彼に背負われている未だにやる気を失っている十香、そしてよしのんの3人は、護衛として生み出された悪魔を象った不気味な鎧を着たヴィラン…悪魔兵達に守られながら、人目につかない路地を2人で話しながら進んでいた。
『そうそう!でもアリスちゃんってすっごく面倒臭がり屋さんだから、自己紹介も最初は面倒臭がってしなかったし、したらしたで名前しか言わないんだよ〜!』
「そ、そうなのか……なんか、容易に想像出来る」
士道に対しての警戒心が薄れているのか、デパート内の時よりも仲良さげに話すよしのんと士道。何故パペットが居るとは言え、こんなにもよしのんと士道の仲が良くなっているのか?答えは簡単である。
『面倒臭がり屋な性格ねぇ……?確かにこれまでの会話記録を見ても『めどい』とか『ダルい』って感じの言葉が必ずと言っても良い程会話に含まれてるわね。だから選択肢で選ばれた誘いにも乗って来なかったのかしら?』
そう!ラタトクス機関のギャルゲーの選択肢的なアレの力である。カオス・アリスに『うっざい』と言わせてしまったこのギャルゲーの選択肢的なシステムであるが、その後のデートでは十香やよしのんに対して絶大な効果を発揮したのだ!
これには一度信用しなくなっていた士道もびっくりである。
『およ?どうやら目的地に着いたみたいだよ〜?士道くん!』
「あれ?ここって………」
右へ左へと狭い路地を抜けた先には、よしのんと士道が初めて会った場所であり、現在カオス・アリスが住み着いているあの神社があった。
「よしのんと初めて会った場所だよな?カオス・アリスも雨宿りしてた……」
『いやぁ〜それがアリスちゃん。ここに住んでるみたいなんだよねぇ』
「はぁ!?住んでる!?」
『そうそう!お布団や冷蔵庫なんかもあって結構快適なんだよ〜♪』
続くよしのんの言葉に士道は更に驚いた。てっきり雨宿りだと思っていたのに、冷蔵庫や布団なんかも持ち込んで住んでいるとは思わなかったのだ。
『士道くんと初めて会った後も、ここでお菓子やジュースを貰ったり、一緒にトランプをして遊んだのよぅ♪』
「いや大丈夫なのかよそれ?そんな事して、この神社を管理してる人が何て言ぁ!?住んでる!?」
『………ほへ?』
ちょうど鳥居を潜ったその時、隣を歩いていた十香を背負った士道が消え、後方に少し前に発した言葉と同じ台詞を言って驚いている士道を見て、よしのんは驚いてつい変な声が出た。
『し、士道くん?今何したの?』
「え?あれ!?いつの間にそんな所まで行ったんだ!?」
よしのんに気付いた士道は、まるでよしのんが
「凄いな。瞬間移動ってヤツか?そんな事も出来ぁ!?住んでる!?」
『えぇ!?し、士道くん!?』
しかしやはり鳥居を潜った瞬間、士道と彼に背負われた十香は消え、先程と同じ場所で、同じ台詞を言って驚いている。目の前で起きる怪奇現象に、よしのんを嵌めた少女も大きな目をパチクリと瞬かせている。
「あれ?いつの間に鳥居潜ったんだ?どうかしたのか?」
『いやいや!士道くんがどうしちゃったの!?』
「?どうしたってぁ!?住んでる!?」
『ちょっと待ってホントに怖いんだけど!?』
そして不思議そうな表情で歩いて来た士道が再び鳥居を潜って境内に足を着いた瞬間、彼はまた先程と同じ場所で同じ台詞を言って驚く。そんな不気味な現象を目の当たりにしたよしのんは恐怖を感じ、パペットを嵌めた少女も顔を青褪めてプルプル震えている。
「はい!とうちゃ〜く♪」
「…………ッ!?」
そして突然背後から聞こえて来た聞き覚えのない声に驚いてビクッ!と肩を震わせて振り返るよしのん。そこに居たのは、紫色の煙の様なものからふらふらと出て来た、気怠そうなカオス・アリスだった。彼女の姿を見てよしのんは少し安堵した。
『アリスちゃん!無事だったんだねぇ!よしのん助かったよ〜♪……ってそれどころじゃなかった!士道くんがおかしな事になっちやったのよぅ!』
「あぁ〜〜………アレね。アレは……もう説明めんどいから別にいいや。じゃ、疲れたから寝る……おやすみ」
『え!?ちょ、ちょっと!待ってよアリスちゃ〜〜ん!』
ふぁ……と小さく欠伸をしてふらふらと拝殿の襖を開けて中へ消えて行くカオス・アリスを、よしのんは慌てて追いかけた。
「あ!ちょっと待ってくれよしぁ!?住んでる!?」
相変わらずバグった士道と背負われている十香をその場に残してwww