『人』とは何だろうか?
ある一人の龍を内に潜めた女は産まれたばかりの赤子を抱きながら言った。
『私は『人』よ、あの人も『人』。鬼と呼ばれ蔑まれてもそれは外見だけに過ぎない。人間めいた異能を持っていたとしても、それはその人を彩る部分に過ぎない。ただ外見がそうなだけ、ただ『人』から逸脱した存在なだけ。だから私は幸せよ。たとえ迫害されようとたとえ恨まれ蔑まれようと私とあの人の『子供たち』が『人』として幸せに暮らしていけるのならこんなに『幸せ』なことはないわ』
そして一人の龍を内に潜めた女は静かに眠った。兄と従兄を残して永遠に眠った。
では『化け物』は何であろうか?
ある一人の黒髪に紅い瞳を持つ少女は美しく微笑みながら言った。
『私は『化け物』、『人』ではなくなった。だからなんでもできる。目をえぐられようが耳を斬られようが鼻を削がれ口を引き裂かれ四肢を切り落とされ臓器を引っ掻き回されようが心臓を喰われようが何をされても私は『あの子』を救う為なら全てを捧げる。私は『化け物』だからなんでもできるのよ。私はただ『あの子』に『幸せ』になって欲しい。ただそれだけを願うの』
そして黒髪に紅い瞳を持つ少女は死んだ。器として相応しいのに器として覚醒する前に死に堕ちた。
そして、そのどちらとも言えない『人形』である茶色の髪を、黄緑色と灰色の異色の瞳を持った少女は淡々と言った。
『わたしは『人』でも『化け物』でもどちらでもない。わたしは生きる意味を理解していないもの。わたしは誰なのか誰の為に今生きてそして誰の為に喜んで悲しんで苦しんでいればいいのか。まったく理解していない。だから『幸せ』が何なのかわからない。ねぇ、教えてわたしは何をすればいいの。わたしは誰であればいいの。わたしは誰の為に泣いて笑って怒って生きればいいの。わからないワカラナイわからない』
『人形』である茶色の髪を、黄緑色と灰色の瞳を持った少女は今日のぼんやりと空を見つめた。生きる意味を模索しながら、今日も少女は空を見上げる。
侑子は少女の頭を優しく撫でながら言った。
『時はかならず満ちるわ、だからゆっくり勉強しなさい。くー』
さて、ぼんやり少女はいったいどちらに当てはまるのだろう。
◇◇◇
四月一日少年は今日も憑かれていた。なんともどよよんとしたモノに。
「だから、離れろっつーの!」
大声で叫び「くそーくそーくそー!」と言い続け疾走しても背後のどよよんは離れない。周りの行き交う人間たちにはまったく四月一日少年がわめきちらかしていても理解していなかった。それどころかちょっと怪しい学生と思っていた。当然だろう。
だって『視えていないのだから』。
四月一日少年はいつもこんな感じに何か背負っていた。日常的に毎日毎日。けど、今日だけは違っていた。何かが。
「重てー!この―!」
どよよーんとしたモノは四月一日少年に覆いかぶさった。
「ウグ!」
四月一日少年は押しつぶされ息苦しさを感じ、倒れこむ直前、民家の塀に手をついた。すると、
「……あれ?消えた…」
どよよーんとしたモノは一気に霧散した。さっきまでの息苦しさや重苦しさはまったく消えていた。そして自然と目に入ったのは、ビルが立ち並ぶ中ポツンと隠れるように存在する民家。何とも言えぬ雰囲気に四月一日少年は不思議な気持ちになった。そしてなぜか、
「おわ?!体が勝手に動く!?」
自分の意思とはまったく関係なしに体が動くことに驚きまくる四月一日少年。自分の体はまっすぐに民家に侵入してく。己の意思とは関係なく。なので四月一日は踏ん張ろうとするもまったく抵抗すら無駄に終わる。民家の扉がガラリと開き、驚く彼を出迎えたのは同じでないようで同じな女の子二人。二人は声を揃えて彼を出迎えた。嬉しそうに嬉しそうに。
「「いらっしゃいませ!」」
「主サマにオキャクサマ!」「主サマにオキャクサマ!」
勿論、勝手に侵入してきた四月一日少年は慌てる。
「ちが、俺は客じゃっ!?」
少女二人が言う「客」という単語に気がついたから、四月一日はここはなんかのお店なのかと思った。問答無用で少女二人にぐいぐいと引っ張られ無理やり奥に連れていかれると、ある女の声が耳に入った。
「来たようね」
彼は導かれるまま目の前の襖に手をかけ開けた。彼の前に広がるのは椅子に寝そべりキセルを吸う着物を着た黒髪の女だった。
「必然の内にアナタは来た」
女はニタリと妖しい笑みをつくり言った。
「ヒツゼン?」
「話せば長くなるから意味を知りたくば辞書を調べなさい」
「誰に言ってんすか?」
「読者によ」
「は?」
女は頭がイカレテいるのかと彼は思った。悪徳商法か何かと危険な香りを感じ四月一日少年は踵をかえそうとした。が、しかし女は止めた。
「名前」
「え?」
「貴方の名前」
女は促すように言った。四月一日少年は素直に自分の名前を名乗っていた。
「四月一日君尋(わたぬききみひろ)」
「誕生日は」
「…四月一日」
女は突然「プッ!」と笑いをこらえるように吹き出した。
「素直すぎ、知り合って数分の相手に暴露しちゃうなんて」
「正直ダ!」「正直ネ!」
遊ばれたみたいだと彼はすぐに直感し、
「何なんスか!?あんたら人おちょくって!」
と怒った。女は態度を変えて名乗った。
「あたしの名前は壱原侑子、この二人は『マル』と『モロ』」
自分の側にいる二人の少女の名前を言い終わった後、「そして」と一旦は言葉を切る。キセルである方向を指し示した。四月一日少年はつられるようにその方向に視線を動かした。
「あの子が『く―』よ」
四月一日少年はある光景に釘づけになりました。思考全てをその『く―』と呼ばれる少女に奪われた。中国風の衣装を身に纏い畳に座りこみ、天井近くまで積み上げられた巨大な皿に乗せられた大量の肉まんを両手で頬張っておいしそうに食べていたのだから。
なんだ、あの子は大食い大会のチャンピオンなのかとツッコミしたくなるくらいの山。
もぐもぐもぐもぐ、もぐもぐモグモグ。
茶色い髪はくるくるとしていてとても可愛らしい。もしかしたら四月一日少年よりも年下である様子。少女の体はスレンダーで、とてもじゃないがあの量の肉まんは食べきれないだろうと思うが、もしかしたら本当に四月一日の予想通り大食いチャンピオンなのかもしれない。とにかく圧倒されて何もいえない四月一日少年の代わりに侑子はピシャリと少女にしかりつけた。
「『く―』、食べてばっかりいないでちゃんと挨拶しなさい」
「うぐ?」
『く―』は注意されてようやく彼にみられていることに気がついた。
もぐもぐさせていたものをようやく噛んで飲み込むのに数秒かかりましたが、『く―』は両手に肉まんを欠かすことなく四月一日少年にあいさつした。
可愛らしくにっこりと、四月一日少年のハートをぶち抜くくらいに。
「こんにちは!」
「お、あ!」
「新しい『おさんどん』入れてくれたんだね!ゆうこ」
彼女の言っている意味がよくわからない四月一日少年。
「は?」
「だってわたしのご飯作ったりするの大変だもんね~。量がハンパないからね~。育ちざかりだから仕方ないね~。だから新しいおさんどんさん雇ったんでしょ?ゆうこ?」
『く―』ちゃんは侑子に言いました。そしてぽんっと手を打った侑子も
「その手があったわね、よしそれ決まり!」
と簡単に決めた。
「は?」
四月一日少年だけが話の内容について行けず取り残されている中、『く―』ちゃんはにま~と笑いながら彼に手を差し出した。
「よろしく、君尋。わたし専属のおさんどんさんなんて嬉しいな~」
「なんでやねんっ!」
とりあえず四月一日少年は全力で突っ込んだ。
『く―』専属のおさんどん=アルバイトを強制的にすることになった四月一日少年にとって『今日』は違う『今日』になった。
設定
くー(仮名)
推定年齢16歳
記憶を失っている居候大食い少女。
見た目の年齢からして少し幼い印象を受ける。極度の大食いで四月一日がおさんどんに抜擢されるほどの見事な食べっぷり。主に食費はくーによって消費されている。侑子が保護者。勘が鋭いところがある。
特定の相手のみ、はにょーん状態となる。侑子に遊ばれるのが定番。なんだかんだ言って可愛がられている。