くーside
わたしにとって、それはどうでもいい話。ほんの些細な日常の中、起こった話。
君尋たちは忙しなく学校に行って勉強したり一緒にお昼を食べたりと学生生活を満喫。
そこに教育実習の女がやってきた。なんてこたぁない。よくある話。
ただ自意識過剰な女が自分を過信しすぎて自分を過大評価しすぎてやらかした出来事。
『石』はコロコロ転がって自分で転がっているつもりが実はただ、蹴られて坂道を転がり落ちているだけに過ぎないことを後に思い知らされる。
止まりたい!けれど止まれない!
どうして?わたしは止まりたいの!
止まれ、止まれよ、止まって、止まってください
止まりやがれ、止まってよぅ、止まれって言ってんのよ
段々言葉は乱暴になって欲望がむき出しに。『石』は叫ぶ、取り乱す、願う自分が望むモノを。
お願い、止まってよ!
『石』は止まった。
ぼきっ、ごきっ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あああ。
首をへし折られて。ようやく『石』は止まった。
ホラ?望むカタチになったでしょう?だって『石』は願った。とにかく、止まれって。
だから願いは聞き届けられた。良かったね。これで叫ばなくていいよ。『石』はようやく、完全に止まれたんだから。
蔵には『猿の手』がひっそりと帰ってきていてわたしはゆうこが『猿の手』を封印するのを横目で眺めて言った。
「帰って来たね、ゆうこ」
「ええ」
「面白かったね、ゆうこ」
「くーにはそう感じたのかしら」
「うん。本当に『人間』って色々いるね?」
「そうね」
『猿の手』はようやくまた眠りについた。ゆうこの手によって封印されて。君尋の声で意識はすでにそれから対象を外した。
「くーちゃん~侑子さ~ん、パスタ冷めちゃうよ~?」
「ほーい!」
「一仕事終わり!」
ルンルンとわたしと侑子は蔵の扉を閉めて君尋の所へ歩いて行った。
(きょうは人の『過信』についてまなびました)
◇◇◇
夜、眠れなくて縁側でぼうっとしていた。あの人の事考えてたら、眠れなかった。あの黒髪に紅い瞳を持つ少女。名前を教えてもらえた。ずっと知りたかったから。
神崎天姫。…なんだか、胸が苦しい。あの人のことを考えると、胸がきゅって鳴る。懐かしい、とも思う。でもわたしにはあの人が誰で、何者なのかわからない。けれど今はこれでいい。なぜだかわからないけどそう思えた。ぽっかり夜空に浮かぶのは綺麗なお月様。周りは闇ばかりで、寂しそうだけど。すると、急に声をかけられた。
『こんばんは』
女の人だった。でも生きてる人じゃない。あいさつをされたのでわたしも返した。
「…?こんばんは」
『綺麗な月明かりね』
おねーさんはふよふよと浮かんでいた。白いドレスに長い金髪の髪で外国の人っぽい。でも喋ってる言葉は日本語なのが変。
「おねーさんは透き通ってるね」
『ええ、私は幽霊だから』
「そっか、でも綺麗だね」
素直にそう思った。まるで妖精みたい。おねーさんはクスクスと小さく笑ってわたしの隣にふわりと座った。…座った形にいるといった方が正しいかもしれない。彼女は幽霊だから。
『ありがとう、緋奈の血縁者さん。ホント緋奈に似てるわ』
「ひ、な?」
誰だそれは?
『ええ、私の大切な友達の名前。今は知らなくともいずれこの先で出会うから心配しないで』
この先?意味不明。
『私は、エレナ。初めまして『くーちゃん』。私たち、お友達になれるかしら?』
「うん、初めまして。『えれな』さん。わたしもお友達になって欲しいな」
こうして、時々えれなさんと夜会話することになった。わたしの友達の話。
(わたしとえれなさんの初めての日)
◇◇◇
コンコン、コンコン。狐のお揚げおいしそうだな♪ホッカホカであっつあつ♪うーん!おなか減った!居てもたってもいられない。君尋の帰りは遅いしおなかも空きすぎて大合唱してるし。くーはんしょんしょ!とコートを着込んで侑子の腕を引っ張った。
「ゆうこ、いい匂いがする。お外出たい」
「駄目よというかくーの鼻はどこまで嗅ぎ付けてるのよ」
「なんでぇ!?」
「駄目だからよ」
「むき―!!ゆうこも来ればいいじゃんっ!」
「寒いから嫌」
「むきー!モコナ連れて行くからイイデショー!?」
そういってモコナを持ち上げる。が「駄目」侑子はダメダメダメと容赦なくくーの意見を斬り捨てる。くーはモコナを放り投げてこれでもかというくらいに頬を膨らませて『わたし怒ってます』とアピールするも無駄に終わる。侑子が面白そうに「変な顔」と意地悪そうにくーの膨らんだ頬を己が両手でばしんっ!とはさむ。最終手段に出たくーは
「ゆうこなんか毒牙一発女だー!」
と捨て台詞吐いて駆けだした。けれど、
「いい加減それからはなれなさい」
と足を引っかけられ
どすん「んぎゃ」
見事顔面から床にダイブ。それを見たマルとモロが
「痛そー」「痛そー」
とくーの傍に駆け寄った。
「生きてる?」「死んでる?」
ツンツンと二人はくーを突っつく。くーは倒れたまま
「お腹減って力でない」
と倒れたまま。侑子はそれを見てしばし思案した後、「しばらく倒れてなさい」と軽く放置。それからしばらくして君尋がようやくお店に駆け込んできたとき、ある光景に度胆を抜かれた。
「スイマセン、遅れ、て……くーちゃんが倒れてるー!?」
大声を上げて荷物放り出して君尋はすぐさまくーを抱き起こす。
「くーちゃん!?くーちゃんってばっ!」
「……君ひ、ろ…」
弱弱しくもくーはなんとか君尋の名を口にした。そして震える手を伸ばすと君尋もそれをガシッ!と掴む。
「くーちゃん!?一体何が」
まさか、何かがくーの躰に起こったのかと青くなった君尋でしたが侑子が平然と言う。
「ただ単に空腹で動けないだけよ」
「……え……」
一瞬、呆けた君尋の耳にぐ~~~~とおなかからの大合唱と共に
「はら、ぺこりん」
と訴える無邪気なくー。いっその事清々しい姿に
「………紛らわしいよ、くーちゃん…」
っと一気に脱力した君尋。それからみんなで仲良くきつねのおでんを食べた。
(一瞬、心臓が止まってしまうかと思った)