鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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12 『素顔の魔女』

四月一日side

 

俺は決してやましいことなど一切していない。

だからこそ言う。清廉潔白だ。なのに、なぜか俺は土下座している。

というか土下座しなければいけないヤバい雰囲気なのだ。

 

「スイマセンでした許してください口きいて下さいお願いします」

 

おでここすりつけてまで拝み倒している相手は一向にこちらに顔を向けようとせず、それどころか存在すら否定されているような気がする。

 

「………」(無視)

 

俺はたまらずに叫んだ。

 

「くーちゃぁんんん!?」

 

でもくーちゃんは一度俺をチラ見しただけで

 

「……………」(無視)

 

ぷいっとそっぽを向いた。

 

「なんで?俺何かした!?くーちゃんの機嫌損ねるようなことした!?」

 

誰か助けてヘルプミーと言わずにいられん状況。そこに侑子さんが面白そうに声をかけてきた。

 

「四月一日、アンタデートするんでしょう。若いおねーさん二人と。くーの機嫌を損ねた原因はソレよ」

「!?そ、それはただ単に百目鬼のヤローに付き添いというか」

 

山よりも高く谷よりも深い理由があるのだ。

学校からの帰り道、コンタクトを落した自信なさそうな女子大生のおねーさんと知り合いになり次の日ファーストフードで百目鬼と軽く食事していた時、コンタクトを落したおねーさんの双子の妹と知り合いになり、この間の御礼ということで俺と百目鬼。

双子のおねーさんたちとで映画を見に行こうという感じになったのだ。

決してやましい気持ちでとか、ちょっと嬉しいなーなんて事は一切考えていない!

 

だって、俺は!……俺は?

 

なんだ?自分でフッと湧き出た気持ちの先が何なのか、わからなかった。胸にそっと手を当ててみるが、結局答えは出ず。代わりと言っちゃなんだが侑子さんが上から目線をかましてくれた。

 

 

「フッ、男の言い訳ほど見苦しいものはないわねぇ」

「な!」

 

なんでそうなるー!?と絶叫したかったが、そろりとくーちゃんに視線を向けてみて

 

「………」(無視)

 

ああやっぱり無視なさるんですね…。もう、俺どうしたらいいの?ガクリ、と肩を落としてしまう。喋る気力さえ失ってしまった俺の代わりに侑子さんがポツリと呟いた。

 

「そういえばあたしの古い友人も結構独占力の塊だったわね~」

 

侑子さんの古い友人…。正直、気になる……。

俺は好奇心からちょっとだけ尋ねてみた。

 

「………それはちなみにどんな人だったんですか?」

 

侑子さんはよどみない口調でスラスラと語りだした。その古い友人の事を。

 

「自分よりも年上の男限定、しかもびびっ!とキタ男にしか興味なかったわ。しかも極度の面食い。嫉妬深いし執念深い、自分に逆らおうとする男には容赦なく制裁を与えて悦に浸ってたわ。そのくせ自分は変な所で泣き虫で。イケメンばかり狙っていたしあたしによく言っていたわ。『いつかイケメンだらけの逆ハーレムを作る』って。…本人のその夢は実現したようだしま、結果オーライね!」

 

俺は類は友を呼ぶという言葉を思い出した。

ああ、侑子さんがそうなら友達だってそうだよな、と。

納得できる。納得できるが、聞いているだけでどこか怖いような。

 

「………さすが、侑子さんの友達……インパクト強い…」

「腐れ縁よ」

「その友人って今は?」

「死んだわ」

「……スイマセン……」

「四月一日が謝ることじゃないわ、『光』は悔いがない人生を送ったはずだし」

「『光』、さんって言うんですか」

「ええ」

 

俺はその時気がついた。いつも意地悪そうで、どこか謎めいた部分を見せていた侑子さんだったのにその『光』さんの話をしている時だけ『素』を出しているように見えたんだ。

 

(滅多に見せない、侑子の(カオ))

 

 

◇◇◇

 

「ちょりーっす!侑子」

「モコナ、こんばんは、でしょ?」

 

窘めるように言えば白モコナは悪びれた様子もなくくるり、とその場で楽しそうに回りながら

 

「そーともいう♪フョンダンショコラおいしかったよ!みんなでほっぺた落ちそうになったもん」

 

にゅーんにゅーん、とほっぺを押して押して最高の味だったと誉めたてる。侑子は目を細めにこっと微笑んだ。

 

「それは良かったわ、お礼のホワイトデーは三倍返しね♪」

 

いや、違った。ニヤリ、であった。魔女らしい、イヤラシイ笑みである。

白モコナは普段以上に目を細めて不満そうに手をぶんぶんぶんぶんと激しく振る。

 

「天姫は嫌々食べてたのー。毒牙一発女からの差し入れなんて余計な事起こらないって」

「あら、天姫も素直じゃないわね。くーが作ったモノだったら喜んで食べたかしら?」

 

二足歩行するお菓子でも食べたかしらねと含み笑い。それは天姫でも嫌だろうと思う。

 

「今度送って?モコナもくーが作ったの食べたーい」

 

侑子は白モコナのお願いをサラリと流した。

 

「ええ、わかったわ。それでモコナは何処にいるの?」

「今桜都国にいるよ。サクラの部屋のトコ。みんなねー部屋がひとつづつあるんだよ!」

「さくらちゃんたちは?」

「今ね、サクラと小狼は下でお店やってるの。ファイと黒鋼と天姫はお出かけ。喫茶店やってるんだー。でもお店の名前まだ決まってなくてファイが看板に黒猫の絵描いたのー」

 

そういって白モコナが見せたのはファイ作、黒猫画であった。

それを目にした侑子は、表情明るくテンション高めになった。

 

「だったら『CAT’SEYE』にしなさいっ!!黒猫と言ったら『CAT’SEYE』でしょう?」

「「それ名案!!」」

 

白モコナと黒モコナとぽんっ!と一つ手を叩き喜んだ。その時、白モコナ側で変な音が発生。

 

『ガタッ、ガタタ』

「んぅ~?なんだろ。ちょっと見てくる」

「ええ、わかったわ。それじゃあね」

「うん!まったね~」

 

通信は終了し侑子はフゥ―と一息ついた。目まぐるしい日常はあちらも同じという事。

 

「『あっち』も、『こっち』も良い方に進んでいるみたいね。この先どうなるかわからないけど」

 

けど

 

「あの子たちなら、『絶対大丈夫だよ』…ね…」

 

無敵の呪文がある限り前へ進んでいけるんだから。

 

(見上げた先に未来はある)

 

◇◇◇

 

くーside

 

今日、君尋が双子のおねーさんとデートする日だ。

なんか気に入らない。

 

「くーがプンプンだ」「くーはプンプンね」

「違うもん!」

 

マルとモロがわたしの周りでぐるぐる回って楽しんでいる。

わたしはそれを否定しながら逃げるように部屋を出た。図星さされた気がしたからだ。

ハッ!?これは認めてしまったようなものだ。

断固否定する!わたしは認めない!

 

でも、強気でいた気持ちは空気が抜けていく風船のようにみるみるしぼんでいった。

 

「……………」

 

廊下を歩いていた足は自然に止まる。苛立ちから無意識のうちに拳を握っていた。

 

君尋はわたしのご飯作ってればいいのに。わたしのご飯作る時間割いてまでおねーさんとデートするのが気に入らない。わたしよりそのおねーさんが大事なんだ。

きっとそうだ。………なんか悔しい……。

 

「くーは外に出たいのかしら」

「ゆうこ」

 

音もなくゆうこはわたしの後ろに立っていた。スゥッと手が伸びてわたしの頬を撫でる。

仕草は優しいけど、ゆうこの瞳は底がない井戸のようだ。

ゆうこがどういう意味でわたしにそう問いかけてきたのかわからない。

ただ漠然と理解できた。これは『誘惑』だ。魔女が白雪姫に差し出す、紅いリンゴのように。手に取ってしまえば甘いあまい夢がみられる。

 

「あ……」

 

外に、出たい。君尋にしがみ付いてデートに行かないでって伝えたい。

リンゴを受け取ればいいのだ。素直に受け取ってしまえば『駄目』いいのだ。

警鐘が鳴る。でもわたしが口に出すことはできない。

今はいっちゃいけないって誰かが頭の中で囁く。

 

『まだ外には出てはいけない』

 

言葉は言霊となってわたしを縛るんだ。縛って隠れてそれが当たり前だと錯覚させる。

それではだめなんだ。

 

「わたしは、自分の意思で外にでない」

「今はまだでない」

「まだ」

「その『時』ではないから」

 

『それが願いだから』ダレの願い?

知らない、わたしは願いなど知らない。わたしはわたしを知らないのだ。

願いなど最初から存在しない。ならばこの操作されている感覚はなんだろう。

抗えることができないとても大きな存在。理解できない感情に支配されてわたしはただ同じ言葉を繰り返す。

 

「わたしは、出ない」

「そう、それでいいのよ」

 

魔女は紅いリンゴを自ら投げ捨てた。拒まれたことを嘆いてじゃない。

否定されたからでもない。それが魔女にとって必要な行動だったからだ。

 

(『筋書き』は幾重にも繋がって先を隠す)

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