鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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13 『君が隣にいてくれてありがとう』

四月一日side

 

桜舞う季節になるといつも思い出す。俺の初めての友達の事を。

俺の誕生日会を祝うと張り切って侑子さんは公園へと向かう。

でも誕生日を迎える俺がどうして重い荷物を持たなくてはいけないんだ?

納得できないけど侑子さんに正面切って抗議できるほど俺は強くない。

だから黙って溜息ついて従うしかできないなんて!そんな俺の唯一の癒しは

 

「君尋ー?どうしたの」

 

彼女だ。記憶を失った、ちょっと不思議な女の子。

すごく大食いで彼女が作り上げるお菓子は世にも奇妙な生き物に変化してしまうという特殊能力を隠し持っていたおかしな女の子。

……バレンタインの日には恐ろしいくらい無視され続けたがなんとか機嫌は戻ってくれたことが一番嬉しんだけど…。…俺がどうしてか気になって仕方がない女の子。

可愛い仕草でくーちゃんが立ち止まった俺を不思議そうに見上げた。

俺は苦笑いしてちょっと「昔を思い出したんだ」って伝える。

すると、くーちゃんは俺から視線を外して、どこか遠くを見つめた。

 

「『昔』、かぁ」

 

あ、そうだった。くーちゃんにはこれはマズイワードであった事をすっかり忘れてしまっていた馬鹿な俺。気づいて誤魔化そうにもくーちゃんの意識はすでに俺に向けられていない。

 

「わたしの『昔』ってどんな事してたのかな~?」

「…………………」

 

俺はくーちゃんにかけられる言葉を知らない。だから黙るしかなかった。

 

「わたしって一体『ダレ』なんだろ、…ね?」

 

どこか寂しそうに力無く微笑む彼女。俺は重い荷物を手から落として、くーちゃんの小さな手を取った。

 

「俺は、どんなくーちゃんだってかまわないよ」

 

昔だろーが、今だろーが関係ない。

 

 

「ん?」

 

君と俺。出会った事で何かが起こることは定められていた。

現に今、俺はすごく充実した毎日を送れている。

それは、君のおかげなんだ。人生バラ色、なんて言わないけど灰色の曇り空から、淡い空には昇格したんだ。それって俺にとってすごいことなんだよ。

 

「俺はくーちゃんがくーちゃんだからこうして一緒にいれて嬉しいんだ。他の誰でもない、くーちゃんだからこそ」

 

想いを籠めて、伝えた俺。くーちゃんは目を瞬かせて、しばし固まっていたけどすぐに表情は一変した。

 

「………ありがとう、君尋…」

 

はにかむ君に俺は一瞬にしてノックアウト。

あ、落ちた。何が落ちたかってわからないけど、とにかく落ちた。

 

「さ!行こう?君尋のお誕生日を祝いに」

 

引っ張られて指先からじんわりと温かさが伝わる。

俺は我に返りあわてて荷物を持ってくーちゃんと共に走り出す。

 

「君尋にバースデーケーキ作ったんだ!」

「まさか!?踊りだすとか言わないよね?」

「ははは、まさか!」

「良かった…」

「歌うにきまってるじゃん!」

「歌うんかいっ!」

ビシィィィンン!

 

小気味よい音と共にツッコミが炸裂。

俺と友達なれて嬉しかったと笑顔で言ってくれたキミ。

見てるか、俺はまた、誕生日を迎えたんだ。

 

「四月一日、くーも、遅いわよー」

 

大酒飲みの女店主さんと

 

「モコナ、一発芸やるー」

 

喋る黒いぬいぐるみと

 

「どんな一発芸だ?」

 

目つき悪くなんか気に食わない奴と

 

「くーちゃん、とっても嬉しそう!」

 

クラスのマドンナと

 

「おめでとう!君尋」

 

気になる女の子が差し出す歌うバースデーケーキと

 

「…ありがとう…」

 

迎えられた今日が俺にとって一番の日なんだ。

 

(ずっと友達だから)

 

◇◇◇

 

くーside

 

昨日のお肉はおいしかったな~と思い出してじゅるじゅるると涎が出る。

おっと!レディとして恥ずかしい。昨夜の出来事。ゆうこは偉そうに腰に手を当てて

 

「あたしから焼肉を奪おうとするなって1万年早いのよ!」

 

なんて言う間にわたしがルンルンと鼻歌歌いながら焼きあがったお肉を頂いた。そうしたらゆうこは

 

「ああああああああああああああああ!」

 

と年甲斐もなく大声あげてがっくり項垂れてた。あはははいい気味だって指差して笑ってやったら

 

「くーのお肉っておいしそうよねぇ~ほっぺぷにぷにしてて」

 

と舌なめずりしてギランギランに目を怪しく光らせていた。わたしは恐怖を感じてすぐに君尋の背中にくっ付いた。君尋は野菜を乗っけた皿を手にもっていて「おわっ!?」とバランスを崩しそうになったけどそこは根性で持ちこたえた。そしてジト目でわたしを後ろ越しに見下ろした。主に非難する意味で。

でもわたしはゆうこから命からがら逃げたんだと必死に説明した。

けど君尋は信じれてくれなかった。むしろ苦笑いして「それはないよ」と手をぱたぱた振って否定する始末。

だが、恐怖は迫っていたんだ。

苦笑いする君尋の背後から、奴がやってきている事を。

 

「あ、ああああ後ろにゆうこが鬼ババの包丁持ってるっ!」

「もう、くーちゃん?そんな嘘ばっかり言うとおやつ抜きにするよ?」

「違うってっ!!ホントにゆうこが鬼ババに変化してるんだってば!」

『うふふふふふ』

 

涙目になってるのに、鬼ババが目前に迫っていると言うのに君尋は全然わたしの話を聞いてくれなかった。

 

馬鹿君尋め!

 

ゆうこによって捕まったわたしは

 

『猛犬につき餌を与えないでください』

 

という字が書かれた紙を首から紐で下げられおやつ禁止令が下された。この紙はゆうこ特製の紙で破ろうとしても敗れないし、首から下げようとしてもまったく外せないというオプションが設定されていた。

 

「うぅ~、ゆうこの執念深い呪いがわたしを縛るぅぅううう」

「誰が執念深いですって」

 

みょーんとほっぺを引っ張られてもわたしはめげなかった。

 

目の前の鬼ババだと指で指してやった!ふん!ざまぁみろ。

 

「さらにおやつ禁止令長引かせてやろうかしら」

「ゆうこサマー大好き!」

 

フッ!世間一般的には手のひら返したみたいにとられるだろうけどわたしは違う!これは序幕でしかない、なぜなら

 

「これがわたしの作戦なのだっ!」

「全部聞こえてるわよ、このあっぽー娘」

 

(さらにわたしのおやつがボッシュートされた)

 

◇◇◇

 

四月一日side

 

俺は昨日見た事を顔を真っ青にして侑子さんに伝えた。

 

「俺見たんス」

「へぇ~、何を?」

「白い女の人みたいな細いう、腕が…ニョキッ!って地面から生えてきたとこウォ!?」

 

突如俺の背中に重みが発生しにょっと腕が伸ばされた。

 

「やっとおやつボッシュート期間が解放された!」

 

おしおき期間から解放されたくーちゃんであった。というか一日も経ってない。

 

 

「うわっ!?…ってくーちゃんかぁ。びっくりした…」

「オムライス食べたい!お子様ランチでもいいよ!」

「なんでお子様ランチ!?おやつじゃないの!?」

「腹が減っては戦はできぬと言うではないか」

「なんで戦するの!?っていうか誰と戦うのさくーちゃん」

「言わずもがな」

ビシィイ!

「悪女めー!このくー様が成敗してくれようアイタっ!」

「だまらっしゃい」

「えーん毒牙一発女が苛めるよー」

「他に呼び方ないのかしら?アンタらは」

 

アンタらというくーちゃんだけでなく他の人物を指し示すような言い方。たぶん、あの人だろうと直感した。

 

「いや俺の話聞いてくださいよ」

「アラなんだったかしら」

「いやだから腕が」

「君尋ー、巨大オムライス作ってぷりーず」

「あーハイハイちょっと待っててね。だから腕が」

「あー四月一日、酒追加して」

「君尋ー君尋ーきみぃひろぉぉー!」

「酒酒さけーー」

「お願いだから人の話を聞いてェェェェエェエエ!」

 

俺は泣きながら叫んだ。

この人の話を聞かない人種は絶対己のスタイルを崩すことはないとわかりきっていたからだ。案の定、侑子さんとくーはまったく人の話すらきいてくれなかった。

結局、俺の見た腕の事はうやむやで終わってしまったんだ。

 

(腕はどこにでもキミの側にいるよ)

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