くーside
雨ばっかりで憂鬱。退屈な日々はあっという間に過ぎていった。いっつも意地悪なゆうこは盛大にため息ばかりついている。それも毎日。どうやら小狼君からホワイトデーのお返しがこないことが気に入らないらしい。
ずどーん~
「……はぁ……」
ほらまたついた。わたしはのんべんだらりとしているゆうこの周りで絡んでやった。
モコナはわたしの肩に乗っかり同じ真似をする。
「ゆうこの日頃の行いが悪いからだー。やーい!やーい!」
「やーいやーい!」
「黙んなさい」
にょろっと伸びてきたゆうこの手からわたしは素早く逃げた。あっかんべーと上から目線だ。
「へーん!いっつもやられてるわたしじゃないもん。ねーモコナ?」
「ねー」
「チッ、悪ガキが」
舌打ちしたゆうこはなんてお下品なんでしょう。
「くーが気になって気になって仕方ないあの子からもお返しがもらえないのよね~」
「っ!?」
そうだった、ゆうこが静かすぎたせいで忘れていた。あの人からの連絡がないってことだ…。気になって仕方がない、天姫さんからの。ああ、そうだよって認識しちゃったら
ずどーん~
「「……はぁ……」」
椅子に横になるゆうこと、床に寝っ転がるわたし。一緒に溜息つくことになってしまった。
「二人して一体何がっ!?」
君尋がめっちゃ驚いてた。
「侑子とくーは乙女だから溜息ついちゃうんだよ」
とモコナが説明するも君尋は絶対ありえないよと突っ込んでいた。特に
「侑子さんが乙女だなんてアリエナイアリエナイ」
と。わたしも内心そう思った。でも地獄耳のゆうこはごまかせなかった。
バシッ!
「暴力ゆうこめぇ」
「フッ!これが年の功ってものよ」
優越に浸るゆうこは意地悪すぎる。……天姫さん、なにしてるのかな?
止まない雨に逢いたい想いは募っていくばかりだった。
(貴方に逢いたい症候群)
◇◇◇
君尋が変なのを連れてきた。ここ最近雨ばっかり降らせている原因の元。
ちょっと気の強そうなねーちゃん。これがわたしの第一印象。
どうやら彼女は雨童女『アメフラシ』でゆうこにお願いがあって来たらしい。
「何よ」
ジロリと睨まれた。可愛いのに可愛くない。確かこれにピッタリな言葉が存在するはずだ…。えーとなんて言うんだったけ?ギャロップ立花じゃなくてギャロリンじゃなくて
「そう、…これがギャップ萌え?はっ!?そうっだのか……これがギャップ萌え…」
うんうんと頷いて腕を組んでいたらいつの間にか雨童女は目の前にいた。
それこそ目に穴があくのではないかというくらいにじろじろ見られた。
うわ、何。値踏みされてるみたいでいやな気分になる。
一通りわたしを見回した雨童女が言い放った言葉はこれであった。
「アンタ、なんでここに居るワケ?」
はい?部屋にいてはいけないってことなんだろうか?でもここはわたしの家みたいなもんだし。いいではないか。むしろそっちが勝手に来たようなもんだ。
「むー」
「……わかってないのね、己が何者かを」
………確かにわたしはわたしを知らないが、それを見ず知らずの奴に言われる筋合いはない。ますますわたしは機嫌が悪くなる。眉間に皺が寄っているのが自分でもわかる。
雨童女にはわたしの不機嫌になった理由は理解していないらしい。
自分ばかり口を開く。意味不明な言葉ばかりを。
「本来ならアンタは私たち『コッチ側』のはず……ふぅん、それで四月一日って訳ね」
「雨童女」
いつになく冷たい声だと思った。
いつの間にか、わたしの後ろにゆうこが立っていた。
「あら、魔女ってば怖い顔してそんなにこの娘が可愛いのかしら?」
「ゆーこ?……ゆーこ、怖い顔してどうしたの?」
わたしは不安になって侑子の腕に縋り付く。侑子はわたしの不安を取り除くように優しく髪を撫でてくれた。
「くーは四月一日と一緒に行きなさい」
「ハァ!?ちょっと待ちなさいよ、私はあの子に頼んだのよ」
「この子が必要なのよ。いいわね、くー」
「うん!わかったー」
たったかと元気よくわたし支度していた四月一日に突進して君尋の背中にへばりつき、君尋は苦笑いしながらもそれを受け入れている。わたし達は騒がしくお店を出て行った。
「何よ」
「余計な事をしゃべらないで欲しいわね」
「アラ、私がおせっかいとでも言うわけ?よほどあの子がお気に入りなのね。次元の魔女ともあろう者が」
「なんとでもいいなさい」
「紅竜が世界に与える影響は大きいはず、その『依巫』が不在なままではマズいんじゃない?時間をかけてまで育てる必要があるというの」
「くーは今ゆっくりと学んでいるわ、それでいいのよ。余計なおせっかいは無用よ」
牽制を含めて侑子は言い放つ。だが雨童女は鼻であしらう。
「おっせかいですって?ハッ!『紛い物の姉』よりはあの子の方が格が上でしょうに。珍しくアナタは両方大切にしてるようね」
「口を慎みなさい。蒼龍は天姫に関しては敏感よ、陰口叩くと容赦なく潰されるわ」
「……………紛い物は所詮紛い物よ。どんなに精巧に創られていたとしても永遠に『本物』にはなれないわ」
雨童女は言うだけ言って店を出て行った。一人になった侑子は、降りしきる空を縁側から見上げ呟く。
「紛い物……ねぇ…?」
何が紛い物で、何が本物なのか。
その判断をするのが一体誰なのかその権限が果たしてあるのか。
言葉にすることはできないけれど確実に覆されはしないことがある。
それは余計な介入は許さない、それが、『願い』だもの。
あの子たちの、光の願いだから。
(『紛い物』と『本物』の違い)