鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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15 『おかえり』

四月一日side

 

雨が降っていて俺とくーちゃんいて俺の手元には傘が一つしかない。これすなわち…相合傘じゃないかっ!くぅ~、俺って今日最高についてるのか!?

 

なんて、幸せに浸っていた俺だったけど、それも短い夢でした。なぜかって?あははは、お決まりのパターンってやつさ。奴の姿をロックオンしたくーちゃんの行動は目にも留まらぬ速さだった。腕を広げ雨の中を濡れるのをいとわずに走る走る走る。

 

「百目鬼さぁーんんんんん!」

むぎゅっ。

「よう」

 

と言いながら抱き着いてきたくーちゃんの髪を優しく撫でやがった!

 

「はにょーん」

 

ヤバい、あれは!

 

「くーちゃんが『はにょーん』状態になってるー!?」

 

説明しよう。『はにょーん』状態とはくーちゃんが特定の相手の前だけに発生する特殊な状態。すなわち『撫でられて気持ちいい子猫みたい』な感じなのだ!って冷静に分析してるんじゃねぇよ俺!?……くぅ~、やはり俺よりもやっぱり百目鬼に懐くのか?普段からくーちゃんの腹を満たしてきた、この俺よりも!?あの、あの百目鬼に!

嫉妬で腸煮えくり返りそうだ。

 

「何アレ、べったりねっちょりしてるの」

「クソぉぉおお!俺から説明するんなんていう酷な事出来るかぁぁああああ!」

 

雨童女(アメフラシ)がひょっこりと顔を近づけて説明求む!と要求するが俺は頭抱えて叫ぶのに忙しいので無理だ!地団太踏んで悔しがる俺を傍目に二人は仲睦まじく(?)会話を続ける。

 

「くーも一緒だったのか」

「うん、ゆうこに言われたの。君尋と一緒に行きなさいって」

「そうか」

「うん」

「あの変なのは妖怪か?」

「ううん、違う。雨童女(アメフラシ)だってさ」

「そうか」

「百目鬼さんも一緒来てってさ」

「俺もか」

「そうそう」

 

俺以外の人間からしてみれば微笑ましい光景。

 

なんだよなんだよくっ付いてくっ付いてくっ付きやがって!

 

「くそぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉお!」

 

俺からしてみれば腹立たしい事この上ない衝撃展開!歯ぎしりしそうな勢いだつ俺の横で雨童女は

 

「うーん!なかなかに清浄な場所♪」

 

と傘片手にくるりんと嬉しそうに回って楽しんでいる様子。お寺の清の気に喜んでいる。

 

(アレとコレとソレがあれば足りるかしら?)

 

◇◇◇

 

くーside

 

ひまわりちゃんの家に行ってリボンを借りてバイバイと手を振って目的の場所まで来て、紅く染まった紫陽花がなっていて雨童女が「助けてあげて」と切なそうに顔を歪ませて君尋にお願いして君尋の足に紫陽花がからまってそれを取り外そうとした君尋がフッとわたしの目の前からいなくなりかけてわたしが「ダメっ!!」と声を上げた彼の制服の裾を掴もうとして手を伸ばして―――そこからだ。そこからわたしの記憶はパタン!と本を閉じたように途切れたんだ。

 

「ここはどこだろ」

 

行けども行けども真っ暗闇の先は真っ暗闇。なのに自分の躰が見えるってどーいうこっちゃ。光ってるとかそういう意味じゃないんだけどね。闇の先、深くなっていっている。どこまでも、どこまでも。なんだかよくない場所のようだ。はっきりわからないけど、よくない。深く潜り込んでしまうと戻れないみたいに。ともかく進むことはやめて、その場で彼の名前を叫ぶことにした。

 

「君尋~」

 

「君尋やーい!」

 

声だけが吸い込まれていくだけ。いない。何処にもいない。大丈夫かな、君尋……。不安が広がっていくと同時に心細さが増していく。

 

「誰も、いない…」

「誰も応えてくれない……」

 

そうだ、こんなこと『前』にもあった?

 

「わたし、一人ぼっち、だ」

 

一人ぼっち、だった。そうだ、誰かに置いて行かれそうになった。

ちょっと思い出した。誰だかわからない自分だけど、思い出があったんだ。

わたしは、誰かにこんな気持ちを抱いていたんだ。悲しくて、苦しくて胸が張り裂けそうになって何かを叫ばずにはいられなかったんだ。

 

何を?わたしは、何を叫んだんろう?

 

思いだそうとした、けどダメ。思い出せない、頭にかかった霧が晴れない。

わからない、わからない。どうして思い出せない。思いだしちゃイケナイから?……いけない…?

 

浮かんだ言葉にひっかかりを覚えた。記憶がすっぽり抜けているはずのわたしにある記憶。

それを思い出しちゃいけないって誰かが言うの。わたしは思い出したいんだ。なのに、誰かがストップをかけてくる。

 

 

「思い出したい、わたしは思い出したいの!」

 

抗おうとして止まっていた足を動かした。一歩、一歩踏み出しただけなのに

 

『ずぼっ』「あっ!?」

 

足がずぶりと沈んだ。闇が濃くなったんだ。闇の中から手招きしてわたしを引きずり込もうとしている奴等がいた。わたしを狙ってる、逃げなくちゃ、でも足が、足がはまっちゃったの。動かせないの、もがけばもがくほど闇にはまり込んでしまう。

 

「助けて、誰か…助けて」

 

ゆうこ、もこな、マル、モロ、百目鬼さん、ひまわりさん、えれなさん

 

「君尋、………天姫、さんっ!」

 

助けて!

ふっと、聞きとれないほどの小さな声がした。わたしの後ろから。

 

『………………』

「…?…」

 

わたしはすぐに周りを見渡した。アイツらがすぐ迫ってきているからだ。でも違う。前方から集まってくるアイツらじゃない。

 

『…………っ……』

 

これは?

 

「……誰……?」

『……こ…………』

 

わたしを。

 

「………呼んで、る?…」

『……………だ…』

 

徐々に声が聞き取りやすくなってきた。わたしは足を引っ張りだそうともがきながら叫ぶ。

 

「君尋?ねぇ君尋なの!?」

『……………』

「君尋、君尋!」

 

彼だ、彼が助けにきてくれたんだ!わたしの心に希望が生まれた。

 

『…こ……だ…』

 

呼んでいる、わたしを呼んでいるのだ。わたしは力込めて闇から足を引っ張りだした。そして勢いよく駆けだした。声のする方へ。

 

「待って、待ってってばっ!」

 

息を切らして走って走って走った先に一筋の光が現れた。声がはっきりとしてきた。確実にわたしを呼ぶ声。闇から引き離す為に、声をだしてくれている人がいる。

 

『こちらだ』

「君尋!」

 

光目がけて飛び込んだ。その先に彼がいると信じて。でも、違った。

 

「貴方、誰…」

 

君尋じゃなかった。わたしを呼んでくれていたのは彼じゃなかった。

見知らぬ男の人。綺麗な金髪に紅い生地の上に蜘蛛が描かれた着物を着こんで目元は不思議な模様の仮面。彼はわたしの問いかけに冷たい声で答えた。

 

『……必要なかろう、名乗ることに意味があるのか』

 

なんだ、君尋じゃなかったのか、と落ち込みそうになったが助けられたのだ。

礼を言おうと思った。でもお礼を言う前に名前を教えて欲しいと思ったから自分から先に名乗った。

 

「わたし、くーって言います」

 

すると彼は、一つ溜息ついて

 

『…………人の話を聞かぬ所はアレにそっくりだな…』

 

と零すように言う。

 

「アレ?誰かの事言ってんの?」

 

彼はわたしの問いに答えることはなく自分の言いたいことだけを告げる。

 

『この場はお前には似合わぬ、上に戻れ』

 

だがわたしも聞きたいことはあるのだ。負けていられるか。

 

「だから名前は?」

『………鬼の首領、と呼ばれていた時もある』

「鬼の首領?変な名前…じゃないなんか名前じゃないじゃん。悪っぽい悪だ悪なんだ怪人Xっていう役職とか?決め台詞は『イー!!』とか?それとも雑魚キャラじゃなくて悪のボス?」

 

とわたしなりの解釈を伝えれば、彼はまた大きくため息をつき

 

『………………アクラムだ…』

 

と教えてくれた。わたしは満足して感想を言いつつ礼を述べる。

 

「やっぱり悪っぽいね。ありがと!親切なあくらむさん」

『さっさと行くがいい』

 

言い方が雑。だけど別にいいや。君尋のとこに還れるなら。

わたしはあくらむさんに手を振ってわかれた。 

 

「じゃーね~」

 

 

くーがいなくなった後、残された彼は

 

『………フっ……一言二言余計な所も似過ぎだな』

 

と苦笑気味に一人笑うと闇に溶け込んで消えて行った。そして、闇はまた闇に戻る。

 

(そして上に戻ったくーは心配していた君尋に抱き締められるのでした)

 

◇◇◇

 

四月一日side

 

お寺にて意識が回復した俺は布団の感触を肌で感じ取りながらぼんやりと天井を見上げ思った。ああ、そういえばあの女の子に引きずられそうになって上から垂れてきたリボンに掴まって地上に戻ってこられたんだよな、と。女の子は無事にたどり着けたんだろうか。

ダルさが若干残る躰をのそりと起き上らせると横に百目鬼の姿があった。

奴の顔色がいつもとどこか違う表情なのは俺の気のせいだろう。

百目鬼の顔色読めたって嬉しくもなんともないしな。

そういえば、くーちゃんの姿がないなと視線で捜すもやはりあの騒がしい少女の姿はどこにもない。俺は百目鬼に尋ねた。

 

「くーちゃんは?」

 

百目鬼は一瞬躊躇った顔を見せたが、意を決したかのように俺に言った。

 

「くーは消えたまま戻らない」

 

そう百目鬼に告げられた時、俺は頭は真っ白になって動くこともできなくなった。

声が、掠れてまともに喋れない。

 

「な、んだって?」

 

コイツ何言ってんだ。頭イカレタのか?

 

気がついたら自分の腕が伸びて百目鬼の胸倉掴んでた。絞める勢いで睨んで睨んで訂正しろとって叫ぼうとした。けど「あの子ならまだ『下』よ」雨童女の抑揚のない声音が耳に痛いほどつく。

 

『下』ってなんだよ?まさ、か……あのほの暗い暗闇に取り残されたままって意味、か?

 

俺は体の不調の事など頭になかった。ただあの表情を変えない雨童女に突っかかろうと立ち上がった。けど百目鬼に羽交い絞めされる。

 

 

「ふざけんなっ離せ!」

「おい落ち着け」

「落ち着いてられるかっ!?くーちゃんがくーちゃんが取り残されてるんだぞ!?」

 

俺の激高に雨童女が眉毛をピクンと動かす。

けど、それだけだ。たったそれだけしか表情を変えない。

 

「あの子なら大丈夫でしょう、何をそんなに心配することがあるのかしら」

「アンタに何がわかるってんだ!」

「四月一日」

 

暴れる俺に侑子さんが声をかける。俺は必死に頼み込んだ。

 

「侑子さん俺をあそこへ、もう一度あそこへ行かせてくださいっ!!」

「出来ないわ、あそこは死に近い場所よ」

 

けど、ハッキリ言われた。無理だと。

 

「死、に近い…でも俺は…」

 

俺は、諦めたくない!そう強く願った。その時、寺の境内に突如膨大な光が出現した。

 

パァァァアアアアンン!

「うわ!?」

「くっ」

 

目元を腕で庇うもその大きな光の塊はあまりに強いものでとてもじゃないが直視できるレベルじゃない。あれは

 

「っ、くー、くーちゃん!」

 

雨の中地面に倒れている少女目がけて俺は濡れるのも厭わずに突っ走った。

駆け寄り腕に抱き上げて若干濡れているがちゃんと体温が確認できた事に一安心した。

けど、くーちゃんは意識ないままグタリとしている。

 

「……………」

 

俺は何度も何度も彼女の名を呼ぶ。

どうか目を覚ましてくれ、その一心で。

 

「くーちゃんくーちゃんくーちゃんくーちゃん」

「………んにゃ?……あれ、君ひろ……だ」

 

俺の声にゆっくりと瞼を開き、とぎれとぎれではあるが俺の名を呼ぶ少女に一気に安堵した。

 

「くーちゃん、くーちゃん………よかった……!」

 

君だけがあの冷たい暗闇の取り残されてしまったと。

俺は何をしてたんだ、どうしていつもくーちゃんがこんな目に遭わなければならないんだって情けなくて、でもくーちゃんが目を覚ましてくれて

 

こうして俺と視線を合わせてくれることがすごくすごく嬉しくて思わず、涙腺が緩んでしまう。

 

「君尋、濡れちゃうよ………あれ、なんかしょっぱい……雨降ってるのに……」

「……『涙雨』じゃないからかな…?」

 

誤魔化してみるけど、普通考えてみれば雨がしょっぱいはずはない。けど、くーちゃんは一度瞼を閉じぽつりとこぼす。

 

「そっか、涙雨……か」

「お帰り、くーちゃん」

 

帰って来てくれてよかった。

 

「ただいま、君尋」

 

君の『ただいま』を聞けることがこんなにも嬉しいだなんて。

 

(ますます君から離れられないような気した)

 

◇◇◇

 

その後の魔女と少女のやり取りの一部。お店に戻ってぽやぽやと縁側で過ごしていると

いつも通り昼間から酒を飲んでいる侑子が廊下に転がっているくーに声をかけた。

 

「ちゃんと彼に助けてもらった『お礼』は言ったかしら?」

「うん!言えたよ。あの悪っぽい名前の人でしょ?」

「そうそう」

「ゆうこの知ってる人だったの?」

「ええ、友人の旦那さん」

「へぇ~、意地悪ゆうこに友達いたんだ」

「あんた何感心してるか知らないけどあたしにも友人ぐらいいるわよ」

「あははは絶対ゆうこの友達って一癖も二癖もある人だよ」

「それ以上に強烈よ、あの子は」

「………ふーん」「くーちゃん、特大パフェ出来たよ~」

「やった!!まってろ愛しのパフェちゃんー!!」

 

君尋の呼び声にすぐさま起き上がり喜んで走って行くくー。その後姿を見つめてポツリと一言。

 

「くーにしては大正解よ」

 

と微笑んだそうな。

 

(出会いは必然の内に)

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