鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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16 『餌』

雨童女がいなくなった途端、一気に梅雨が明け暑苦しい夏がやってきた。

照りつける太陽の日差しの中、庭先ではなんとも気持ちよさそうな光景が広がっていた。

 

「うわーい!冷たい~」

「やっぱり暑い時にはプールに限るわね~」

 

お子様プールにて楽しそうにはしゃぐくーとモコナ。勿論水着はちゃんと着て、だ。

侑子といえば優雅に水に浸かりながら日焼けを避けての日傘を差しつつくーとモコナの遊びを見守り中。一応、大人としての責務は理解しているようだ。

 

「モコナ、くらえくー様必殺!水鉄砲!」

「ぐわぁ~、ヤラレタ~。けどモコナ必殺!水返し!」

「じょわ!?ぐふふふお主なかなかやるなぁじょわっ!?」

 

突如勢いよく水が降りかかる。何とも意地の悪い声が後ろから発生。

 

「おほほほほ、後ろががら空きだったわよ」

 

魔女だ、魔女が参戦してきたのだ!

なんと大人しく見守っていると扮して実は機会を狙って自分も参加する気満々でいたとは。だが基本、くーは気にしない。

大人相手だろうが容赦はなしだ。

 

「ぬぅ~ゆうこが参戦しおったぞぉ!モコナ!共に反撃と行こうぞっ!」

「合点承知の助だー!」

 

争っていた一人と一匹であったが、ここは共闘と意気投合し勇猛果敢に侑子に襲い掛かる。

なんとも楽しそうな面々ではあるが、すぐそばにて

 

「………おれ、は無視……ですか……」

 

息も耐え耐えな少年が一人地面転がっていたのは誰も気にも留めない。

可哀想ではあるが、実は彼の首元にすり寄るある生き物がいた。

 

にゅるるん、にゅるん。

 

雨童女からの対価の品として侑子の手元にやってきた『管狐』。

いたく君尋がお気に入りに召したようでぴったりと彼から離れようとはしない。いつもどこかに潜んでいる。

 

『♪』

 

今も一緒にいられて嬉しそうに喜んでいる。

 

「うぅ、嬉しいようなあんまり嬉しくないような……」

 

どうせだったらくーちゃんと遊びたい…と残念な君尋君だった。

 

(今日は学校で『羽根』が生えた女の子と逢うのです)

 

◇◇◇

 

学校で背中に羽根を生やした女の子を見かけて、なんだか変だなと違和感を感じた一日を過ごした君尋。すっかり懐かれた管狐がやっぱり君尋の制服ににょろっと隠れてたりして「侑子さんに嫌味言われる!?」と慌てたりなんやかんや忙しい日だった。

『偶然』拾ったと一枚の『羽根』をズボンのポケットにしまい込んだことなどすっかり頭から抜け出ていた。夕飯の冷麺の材料をスーパーで買ってお店向かう帰り道、あーでもない、こーでもないと一人ブツブツ呟きながら歩く。

 

「どーするか…」

 

君尋の頭を悩ませる原因は一つしかない。

 

『そういえば座敷童にホワイトデーのお返し何にするか考えてるかしら?』

 

なんてニマニマ笑う侑子から言われた時、君尋はぎょっと驚いた顔で

 

『あれってもらったって言うんですか!?』

 

と反射的に言い返していた。

あの特製『百目鬼魂フォンダンショコラ』が自分に向けてのバレンタインデーとな!?

君尋は一切もらった覚えはないというのにあの座敷童の少女は自分に差し出した気でいるのか、驚くばかり。そういえば前に侑子は君尋に言っていたことがあった。

百目鬼の魂チョコを本人に取り込ませている時の会話で、君尋が首を捻りながら自分は今チョコをもらった事になるのかと疑問を抱いていると侑子は

 

『『言葉』でいうならまさにそうでしょう?』

 

と言ったのだ。

 

「言葉、で…?」

 

確かに言葉通りならそうだ。

だとしたらお返しというものを用意しなくてはいけないという事だ。

女の子に贈り物なんてしたことがないからどういうのがいいのかわからないが、まずあの少女の居所がそう簡単にわからない点で選べる選択肢が限られてくる。

つまり、食べ物とかは無理という事。

手作りのお菓子は無理だろうし日持ちしないだろう。

だったらアクセサリーとか気軽に身に着けられるものが割と好まれるかもしれない。

いやだが、君尋自身はこのお返しになんの気持ちも抱いてはいない。

 

『義理』という意味だ。

 

あの座敷童の抱く密かな恋心に気がつかない鈍感な少年、君尋はあっさりと問題が解決すると次は別の事に意識を向けた。

 

くーにやるホワイトデーはどうしたもんか、と。

 

自分の為に作ってくれた踊るお菓子『ダンシング・カンノーリ』という鬼才輝かしい品物をバレンタインにもらったとなれば、それ以上を凌ぐ品物でなければ君尋の心がくーちゃんを満足させられない!らしい。

だから一体どうしようかと真剣に悩むが一向に解決しないままお店の前に辿り着いてしまった。

 

「仕方ない…」

 

君尋は深くため息ついて玄関の戸に手をかけた。後で家に帰ったらまた考えようと。

だが突如ぐっと背中が引っ張られ身動きが一時止まる。

 

「なんだ?」

 

反射的に後ろを振り返ると、頭にモコナを乗せたくーの姿があった。

どうやら彼女が君尋の制服を引っ張り止めさせた様子。

 

「君尋、お帰り」「変なの持ってきたなー」

「くーちゃん、ただい、ま?…は?モコナ今なんて」

 

じーー、と穴が開きそうなほどある一か所を見つめるくーの姿に君尋はなんだ!?

一瞬焦った。くーはくーで君尋のズボンのポケットを見つめるないなや突如

 

ずぼっ!

「うお!?」

 

躊躇いもなく君尋のポケットに手をつっこみごそごそと何かを掴もうとする。

 

「ちょ?!くすぐった!」

 

くすぐったさに身を悶えさせる彼の隙をついてくーは目的のものを取り出した。

 

「…もう、一体なにが…ってそれ羽根じゃ…」

 

そうくーの手の中にあるのはぎゅっと握りしめられた一枚の羽根。

呆気にとられる君尋をよそにくーは

 

 

「君尋、ダメだよ。『変なの』持ってきちゃ」

 

と顔を顰めるとたったかと玄関を先に開いて中に入っていく。そして玄関に立っていた侑子に

 

「ゆうこー、これー」

 

とほいっと手渡す。侑子はそれを無言で受け取り手の中でふわりと浮かせ、ボォォオオオォオ!と炎を出現させ一気にメラメラと燃やし消滅させる。そして何がどうなってんだ?と色々置いていかれている君尋に淡々と忠告した。

 

「四月一日、気をつけなさい。『エ』にされないように」

「『エ』ってなんスか?」

 

いきなり意味不明な言葉を言われてもすぐに理解できないのは当たり前。

けれどくーとモコナがしつこいくらいに

 

「わかった?」「わかったって言えー」

 

と君尋の周りをぐるぐる回るものだから君尋は「はいはい、わかりましたよ」ととりあえずの返事を返し玄関の戸を閉めるのであった。

 

(いずれ、嫌でも理解する)

 

◇◇◇

 

くーside

 

今日は珍しくゆうこがモコナと一緒にお出かけすると言った。わたしも一緒に行きたい!とお願いしたけど『アンタはお・留・守・番♪』と却下された。

むきー!と抗議するも『ダメ』と言われ、わたしはゆうこの年増ー!と抗議したら『五月蠅い、ちみっこい』と言われながらほっぺをびょーん!と伸ばされの刑に。

ゆうこは『じゃーね!』とわざとらしく手を振って出て行きました。

 

くそー!マルとモロが引っ付いて邪魔していなければ一緒にいけたのに…。これもゆうこの策略か……。

 

うぅ、ほっぺが痛い。思い出してもむかつきつき。

それにしても昨日、君尋が持ってきたあの嫌な気配の『羽根』が気になる。

なんとなくあの気配が気になって君尋から奪取したが君尋はなんであんなものを持ってきたのだろうか。

 

「うーん、心配だ」

「くーはシンパイ?」「くーが心配?」

 

マルとモロが今はわたしの遊び相手。さっきまで暇つぶしに追いかけっこして遊んでいたけどそれもつまらなくて途中で飽きてしまった。一人で縁側で座ってあの『羽根』の事を考えていたら鬼役のマルとモロがいつの間にか両隣にいた。

 

「わたしじゃくて君尋が心配なんだよ」

 

と返すと

 

「四月一日気になる?」「四月一日気にしてる?」

 

と言われわたしは目を瞬いてそういえば確かに!と納得。

 

なぜかわたしは君尋が気になる。大事だから?でも大事ってどういう意味だろうか。

『大切』って事?でも、わたしに『大切』な事は必要なのだろうか。

だって何をしたいのか、自分の事さえわからないのに、『大切』を作っていいのだろうか。

その『資格』はわたしにある?この手で掴んでいい、ものなの?

もんもん悩んでいると時間はあっという間に君尋が帰ってくる時刻になっていて、玄関がガラガラと開く音がすると同時に「ただいま~」と君尋の声が。わたしはハッ!と気がついてすぐに玄関に走る。

 

「お帰りー!とりあえず腹減ったぞー」

 

と君尋に飛びついた。君尋は

 

「うわ!?」

 

と声を上げて驚いたけどちゃんとわたしを受け止めてくれた。頭撫でつつ実は今日ね、と言ってきた。どうやら今日はお祭りらしい。勿論わたしは大声で

 

「行く―!」

 

と返事をした。マルとモロはどうやらお店から出られないようなので君尋が出してくれた浴衣を着て下駄をはいてお土産買ってくるねーと手を振って仲良く君尋と手を繋いでお店を出た。

 

(何食べようかなー?)

 

◇◇◇

 

くーside

 

お祭りは楽しかった。百目鬼さんがいて「はにょーん」となってくっ付いてひまわりさんが「クスクス」とおかしそうに笑って君尋が「ショッキング!?」と泣きながら叫んで面白かった。出店の食べ物を全制覇して最後、お店の人に泣きつかれるまで食べて食べて食べつくして今日は最高に良い気分だったのに『羽根』を生やした女の子と遭遇したことで気分はドーン!!と一気に下に落ちていった。せっかく皆で楽しんでたのに…。

ぶーぶーと口をとがらせて暇も持て余す。今日もゆうこはいない。朝起きたらすでにゆうこの姿はなかった。なんと!?素早いゆうこだ…。いつものんべんだらりとしているゆうこにあるまじき行動。明日は雨かもしれないと唸るが、やっぱりつまらない。

 

『くーちゃん』

「あ!えれなさん」

 

幽霊の友達のえれなさんがふわりと目の前に漂っている。ほんわか笑顔はわたしの癒しです。普段ゆうこの『ニヤリ』っていう笑みしかみてないから。

 

『この間は大変だったわね?私すごく心配で…』

 

この間?はて?何のことを言って…。

 

「ああ!あの暗闇に堕ちた話?」

『そうそう、私じゃいけない場所だったから助けたかったのに、ごめんなさいね』

 

申し訳なさそうに謝ってくるえれなさん。わたしはパタパタと手をふって気にしないでという。

 

「えれなさんが気にしなくても助けてくれた人もいたし」

 

あの悪っぽい名前の人に。

 

『あの人の事ね、良かったわ。本当に』

「うん、ありがとう!」

『そういえば侑子はいないのね』

「そうなの、置いてけぼり…」

『それはくーちゃんが大切だからよ、きっと』

「そうかなー、自分だけ楽しいこととかやってそうなイメージしかない」

 

こうー、上から目線で高笑いしてそうなと伝えるとえれなさんは

 

『段々忙しくなってきてるのよ、これからが大変だから。きっと―――色々動き出したのね』

 

と言うがわたしは言葉の意味が理解できない。

 

「?」

『気にしないで、くーちゃんはゆっくり学んでいけばいいんだから』

 

なんだか誤魔化されたみたい。けど気にするなというのならば、気にしないことにしよう。

 

美人が言うんだ。間違いないはず!

わたしは「そうだね!」とその話はそこで終了し別の話題へと変えてえれなさんとのおしゃべりを楽しんだのだった。

 

(君尋がいる学校では色々あったみたい)

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