それは仕組まれた事。誰かの仕業?そう、誰かの企み。たった一つの願いが生み出したいくつもの螺旋の数の内の小さな欠片の現象。
『あれは何なんですか?』
と君尋の疑問に『蟲』(コ)だと魔女は君尋に教えた。
人の心の抑制力を奪いじっくりとじっくりと己と力として吸い込んでいく。
背中に生えた『羽根』はその証。
君尋が見て認識した少女は抑制力を奪われ吸われ暴走し、果てまつのは抜け殻の器だけ。
少女の心に巣食った『蟲』は少女の魂を喰らい大きく翼を広げ夜空に舞う。
魔女は言う。
「アレは大きな術を使うために集められているわ」
と。何の術に?と君尋は疑問をぶつける。
魔女は答えずにすぅぅっと夜空を見上げた。つられて君尋も頭上を見上げる。
おっきな、おっきなお月様。貴方は光浴びてなお光り輝く。
それにつられて踊るモノも現れた。ホラ?見上げてごらん。
(今日も『羽根』が月明かりを浴びて舞っているよ)
◇◇◇
四月一日side
今だかつてないほどのピンチが俺に襲い掛かっている。緊張感から生まれる汗が額に背中に浮かんで仕方ない。だかそれを拭うことさえ今の俺には許されていないのだ。
なぜかと言うと…。両隣から殺気にも近いほどの視線を向けられている。じと~。
「あの」
虫が鳴くようなか細い声なれど出してみる。けど無視された。
どうすれば!?
なんて脳内で頭抱えて叫ぶ俺であるが視線は止むことはない。
じと~×2。
再度チャレンジしてみるんだ!俺!勇気振り絞って声に出す。
「いやその」
が、これも無視。誰か助けて!?と助けを呼ぼうにも、ここは俺達三人しかいない。
そう、俺と、くーちゃんと、座敷童しかいないのだ。侑子さぁぁぁんんんーーー!恨みますホント、恨みますから!
どうしてこのような状態になっているかというとほんの数十分前にさかのぼることになる。
『羽根』を背中に生やした少女に襲われかけた時に一緒にいた管狐に助けられた俺。
管狐はあの『羽根』の影響か、いつものにょろにょろろ!とした姿ではなく大きな狐の姿のままで俺に懐いたりしている。背中に頭を押し付けてきたりべったりと離れないものだからまるで親鳥になった気分になった。けどくーちゃんも「わたしも負けないぞー!」となぜか対抗意識を燃やして
管狐と張り合って俺に引っ付こうとする。それはそれで嬉しい限りだ。
実際怪しいくらいニマニマと顔が緩んでしまった。その時の表情を侑子さんに見られた時
『ぷッ』
と吹かれ小馬鹿にされた感じがするのはなぜだろうか。
いやいや今重要なのはそれではない。管狐の事だ。管狐には実際助けられた、すごく感謝している。けどずっと大きいままなのは正直なんだかなぁとも思う。
しばらくそのままでもいいかと思ったがさすがにお店の品物を整理整頓していた時、「管狐が大きいままなのは良くないわねぇ」と一言呟いた侑子さんの命令で何に使うのかも知らされないまま、夜、外の裏の井戸から水をくみ上げてきてそれを壺の中に流し込んでさらに水晶をザラらと落としていく侑子さんの行動を俺とくーちゃん、それに管狐は不思議そうに観察していた。
すると侑子さんが「壺の水に映し出された月を覗き込んで」と唐突に言いだすから俺達は素直に覗き込んだってわけだ。
ゆらゆら揺れる水面の上に浮かぶお月様。その瞬間!俺の躰が揺れる感覚と共に
『バシャン!』
「成功!行ってらっしゃーい」
の声でしてやられた!と後悔するもすでに遅し。俺の意識は水の中に引きずり込まれて急いで口元抑えて半分パニくっているくーちゃんの腕を掴んで上に引っ張って泳ぐ泳ぐ。さすれば
『ザバァん!』
「ぷはっ!」「げほほほっ!」
何とか水面から顔を出すことに成功した俺たち。けれども俺は目の前の光景に呆然とした。
「なんだ?」
だってミラクル・ワールドが広がっていたんだから。
(そこからAliceな世界気分)
◇◇◇
喋る水仙とか大きくなる水仙とかそんなのばっかりだったけど、管狐が元のサイズに戻るという目的は達したのだ。そこまでは良かった。けど!そこからが問題だった。喋る水仙に脅されて脅されて走ってきた先がなんと俺がホワイトデーのお返ししなきゃと思っていた相手、座敷童が住まう山へと繋がっていたのだ。
「四月一日さん!?」
「君は…座敷童」
見つめ合う俺と座敷童はこれで二度目の出会いになる。けれど違う二人がいた。
「…………誰、その子…」
「貴方……は!?…」
不機嫌そうなくーちゃんと驚きを隠せない座敷童は初対面だ。
「………」
「…………」
「………」
そこから剣呑した雰囲気へと突入したと言う訳。俺たちは『仲良く』三人で岩の上に腰掛けている。
じと~×3。
「勘弁してください」
泣きたい、今すっごく泣きたい。くーちゃんに左腕をぎゅっと握られ上目づかいにお願いされた。
「君尋、早く帰りたい。ね?帰ろう?帰ろうよ!」
座敷童に右腕を遠慮がちに掴まれ顔を上気させながらおずおずと喋る彼女。
「…あの、私は!そ、の……」
少女二人に腕掴まれて間に挟まれて俺は身動きできない。否!身動きどころの話ではない。
息すらできないんじゃないかというくらいの膠着状態である。
これは俺に死ねと言っているのか?
うぅ、怖い。怖すぎる……う、胃がキリキリする……!
(人生初のモテ期突入か!?)
結局俺は座敷童にホワイトデーのお返しを渡すと力強く引っ張るくーちゃんに引きずられる形でその場を後にした。去り際、座敷童が悲しそうな顔をしていてちょっと悪いことしたなとも思ったが、それよりも気になったのはくーちゃんの態度。
座敷童に対して嫌悪感すら隠そうとしないくーちゃんが気になって仕方ない。
ずんずん!と歩いていたけど、くーちゃんの方から手を放されて今は歩く二人の間にほんのちょびっとの距離が空く。
管狐がにょろっと手首に絡みついてくるのを撫でながら俺は恐る恐るくーちゃんに話しかけた。
「…あ、の……くーちゃん?」
「君尋!」
「ハイ!?」
強く名を呼ばれ反射的に姿勢を正した俺。
ギッとくーちゃんに睨まれた俺は、まさに蛇に睨まれた蛙状態。
「バレンタインのお返し」
ハッ!?そうだった、すっかり忘れていた!
結局くーちゃんへあげるホワイトデー用は何にするか考えておらず、それがずるずると続いて今に至るのだ。これは究極にマズい展開だ。
くーちゃんの事だ、目の前で座敷童に渡したんだからわたしにも頂戴!と言ってくるに違いない!?ど、どうしよう!?
『まったく用意してませんでした』なんて面と向かって言えるわけねぇじゃんか!
俺の脳内では怒ってくーちゃんに嫌われて泣き叫ぶ俺がグルグルと巡る。
嫌だー!?くーちゃんに一生無視されるなんてー!
ある種の絶望感に襲われかけていた俺にくーちゃんが告げた言葉は
「君尋はこれから先ずっとわたし専用のお菓子作る事!」
「ずっと?」
視線を若干逸らし、上ずった声でくーちゃんは言う。
「そう、バレンタインのお返しはそれでいい、それだけでいい…」
「………ずっと、なの?」
俺の視界に映るくーちゃんのほっぺが紅いのは気のせいだろうか。
そして俺もなんだか体が熱いような、気がする。
「そうなの…君尋のお菓子食べていいのわたしだけなんだからっ!」
小さな独占力の塊。けれどそれは俺を独占したいから?
「……ず、っと……」
ずっと、ってどういう意味で?
ずっと、ってずうぅっとって意味で?
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ズット。
同じ言葉がリフレインして『ぼんっ!』一気にそれは高まって爆発。
俺は顔真っ赤、口元抑えて、同じく、顔を紅く染める少女を見ることしかできなかった。
だって、
(『ずっと』って意味を深読みしてしまったから)