鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

20 / 31
20 『嫌いの嫌いの好き』

百目鬼が選択をして四月一日を救い

四月一日は百目鬼の選択を認めた上で平然とすることを選び

ーはあの女性の最後を一生忘れることはないと心に刻んで。

三者三様、変わったものはあるがそれは必要の事だったのだ。

きっかけは些細な事。けどそれが重要な足がかりでもある。

 

「ゆうこー帰ってきても酒ばっか」

「一仕事したんだからイイじゃない!」

「まぁまぁ!ーちゃんにはホラ!特大シュークリームだ」

「君尋大好きだァァアアアア!」

「ー、ーちゃんが俺に愛の告白を!?」

 

侑子がお店に戻ってきて、ーはあいかわらずの食欲で、君尋はあいかわらずのー馬鹿でまたいつものメンバーでぎゃいぎゃいと騒がしく楽しく過ごす日が戻ってきた。君尋が侑子のお使いで夜にモコナと道中に『しりとり』をしながらお店まである品物を届けたりなんてぷちイベントも発生したりしたけど、なんら平穏に過ごせていたのだ。また、君尋に降りかかるあの事件が起きなければ。

 

(何気ない行動に怒るモノもいる)

 

 

◇◇◇

 

これもゆうこが言う『必然』なのだろうか。

百目鬼さんの御実家お寺の境内でたまたま通りかかった君尋が境内を掃除中の百目鬼さんとばったり出会い、いつものじゃれ合いの中で君尋の腕が蜘蛛の巣に引っかかった事で百目鬼さんがその蜘蛛の巣を壊した。

そう、言葉通り壊した。人の目でみればなんてことはなかった。

けど、蜘蛛の目からしてみれば大切な家を壊されたも同じ事。

苦労して作り上げてたそれを壊した原因、腕を引っかけた君尋よりも巣を直接壊した百目鬼さんを恨んだ。その恨みはすぐに彼を襲う事となる。蜘蛛の怒りを買ったのだ。

それは執念深く、取り払っても取り払っても絡みついてさらに絡まってもがけばもがくほど酷い有様へとなるだけ。

百目鬼さんの右目の不調は蜘蛛の巣を壊した事で起こった。

右目に蜘蛛の巣の形をしたものが覆い、瞬きすらできなくなった右目。

この事実をゆうこから伝えられた時、君尋はじゃあ俺の右目を差し出します。だから百目鬼を助けて下さいと迷わずに願った。

蜘蛛の恨みを自分に向けるように願った。

そうすれば、蜘蛛の恨みを受けている百目鬼さんの右目は元に戻るから。

 

なんて優しい君尋。

 

眼帯をつけた右目は何も宿さない。わたしも君尋の左目にしか映っていない。

アンバランスな視覚に彼はお店の中でおでこをぶつけたりしている。

わたしは君尋の手を引いて縁側に座るように言った。君尋は言われた通りにしてくれて、わたしも隣に座る。

 

「君尋、ゆうこにお願いしたんだね」

「うん」

「百目鬼さんの為だね」

 

君尋は優しいね。百目鬼さんの事気に入らないみたいな態度とって本当は信用している。

大切な友達だから、そうしたんだね。

 

 

「そう、だね。でもそんなに不便じゃないし」

 

強がって笑顔作って見せてもわたしにはわかる。

本当は不便だろう。今まで見えていたものを半分失ったんだから。

 

「君尋はいつも強がる、一人で生きていたからそうやって強がって全部を引き受けようとする。わたしはそれが嫌い」

「ー、ちゃん」

 

嫌い、嫌いなんだけど。

自分の手を君尋の手に重ねた。

 

「嫌いだけど、なんだか好きなの」

 

不思議だね、矛盾してるね。

わたし。

 

「わたしにはそんな人がいたような気がする」

「君尋みたいに、自己犠牲が強い人」

「そんな人の為にわたしも同じことしてた気がする」

 

どこまでいってもendless。同じことを繰り返し続けて繰り返し続けて終わりがないみたい。endがない童話。幸せがない御話。

 

「君尋が望むものを否定したくない。これは必要だから選択したんだよね」

「うん」

「そっか、わかった。君尋が決めたんならわたしは反対しないよ」

「でも、諦めない」

 

百目鬼さんだって諦めないはずだよ。だって君尋が大切だから。

あの人も君尋馬鹿。わたしも君尋馬鹿。

馬鹿同士考える事なんて一緒だと思う。重ねた手に力を籠めた。

 

「君尋の右目に光を戻す方法はきっとあるはず。わたしは諦めないよ」

「ーちゃん」

「だから自分の身体、大切にして?」

 

じゃないとおしおきしちゃうよ?なんて冗談めいて言えば君尋は苦笑して

 

「ーちゃんのおしおきは怖そうだね」

 

て二人でおかしくて笑いあった。

 

(諦めない姿勢こそ大切なのだ)

 

◇◇◇

 

くーside

 

君尋の右目が見えなくなってから数日後。ある女が転がり込んできた。文字通りゆうこにたすけを求めて。何者かに怯えて追われている犯罪者のように。

 

「助けてください!」

「…………アナタの願いを聞きましょう」

 

女は酷く怯えた表情でゆうこに縋り付いた。

 

助けて下さい、何でもしますからお願いします。

 

何が女をそこまで追い詰めるのか。わたしにはまったく興味はなし。

他人事なのでこうして黙々と君尋が作ったわたし専用特大フルーツタルトを口の中にダイブさせるだけ。

 

もぐもぐ、うん。美味い!フルーツ盛りだくさん最高だね!

 

わたしが傍観を決め込んでいる間にも物語は進んでいく。

 

「何とかしていただけるんですか?!対価を払うんでしたよね?私は何を払えば?」

 

恥もプライドもかなぐり捨てて女は必死に魔女に縋る。だがゆうこはその前にと表情を変えずにいう。

 

「その前にアナタは『何を』望むのか教えてくれないかしら」

「……あ、あの……」

 

途端女は口を噤んだ。まるで言いたくない、知られなくないと言わんばかりに死んだ貝のように口を閉じた。不思議な女だ。自分の願いを言わなくてはかなえようがないではないか。それはそうだろう。後に分かることではあるが女が一番恐れるのは、写真の内容を知られてしまう事。己の過去が赤裸々に写し出された写真一枚におびえ恐怖していたのだ。

結局女は何を願うのかを言わずゆうこに「写真は預かるわ、その間に自分が何を願うのかよく考えることね」と言われ店を後にした。

 

わたしは縁側でコンビニアイスをのんびり食しながらたまにある場所を見つめた。

ゆうこお手製封印写真立てに収まっている一枚の女性の後ろ姿が映された写真。

うん、いるね。いるとはすなわちあの女の人の魂魄そのもの。と、いうことはあの女の人はすでに死んでいる可能性が高い。そうまでもして彼女が伝えたい真実とは果たしていかなるものか?

 

「うーん冷たい♪」

「くーちゃんホラ掃除するから」

「ほーい」

 

君尋が叩きとほうき持って登場。わたしはごろごろと転がりながら移動する。

君尋から器用だねなんて言われた。

そうでしょうそうでしょう!と胸を張っても君尋はぱたぱたとお掃除に熱中。

むーん、つまらん。もっと構ってくれやと残念な気持ちであるが今はアイスで我慢してやろう。

 

「うわ!?写真の中身が動いた!?」

 

うーん、君尋の驚く声が背後からする。が!実直真っ直ぐにわたしは真剣にアイスと向き合っているのだ。

写真の女性が振り向こうが封印が解けようが全然構わないのだアハハハハ。このアイスは非常にまろやかで甘さ控えめでおいしい。

しかし!何かこー、足りないような?

ハッ!?そういえばゆうこは風呂に入りながら酒を飲んでいるみたいだ。

のぼせて湯船の中に沈まなければいいが。

 

…ちょっと心配なので後で様子を見に行こう。緩く溶けだしたアイスを口の中に流し込んで「よっこらしょ」と声に出して立ち上がった。

 

(案の定、半分ゆうこは沈みかけていた。おいおい)

 

 

真実から目を背き嘘で自分を着飾った女。

 

タスケテ助けてタスケテ助けてタスケテ助けてタスケテ助けてタスケテ助けて

タスケテ助けてワルクナイタスケテ助けてタスケテ助けてタスケテ助けてワタシは悪くないタスケテ助けてタスケテ助けて

タスケテ助けてタスケテ助けて

 

耳を塞ぎ瞼を閉じて背を縮こまらせて小さくなれば逃げられる。なんてこたぁない。

世の中というのはちゃんと仕組みがある。因果応報。女はまたやってきた。

 

「あ、あの…」

「見ての通り封印を施しても写真の彼女は徐々に動き出すわ。そうまでして彼女は一体何を見せたいのかしらね?」

「!?」

 

女の顔が青くなり引きつった。写真の中で徐々に明らかになる真実。

微笑んでいた女性に近づくある女。女性は顔見知りの女に何の不信を抱くこともなく笑いかける。だがあっという間に女性は突き飛ばされた。ほんの一瞬の事。

女性は背中から綺麗に消えて行く。写真の枠から。女性を突き落した女は女性が落ちて行く場所を上から覗き込んで、にた、りと嗤った。

 

依頼人の女は写真に写る彼女を殺した。正しいことをすればそれは幸福となって自分に訪れる。悪いことをすればそれは必ず自分の身に降りかかってくる。

写真のなかで微笑みかける女性は見せたかったのだ。

 

私は。ココニイルよ。 だから、わすれさせやしないわ。

 

嗚呼、過去がある彼女が羨ましいなんておもったり。

 

「いや、いやもう見たくない!」

 

女は何度も首を振って涙を流す。逃げたい自分の過去から逃げたいと叫ぶ。

 

「貴方の願い、かなえましょう」

 

だからゆうこは願いをかなえた。写真はゆうこの手からドロドロと融けて消えてなくなった。女は安堵する、心の底から。これで解放された。二度とみなくていいだと。

けれど女は気がついていない。自分が対価に払った代償は人を殺す事と同じ同等の対価であると。女の対価は『なにものにも己自身を写さない事』。

 

「まったく世の中には色んな種類の人間がいるもんですな~」

 

とわたしの頭の上で和んでいるモコナに話しかけたら

 

「そーいうくーも色んな種類の人間の中の一部だろ」

 

と言われてしまった。うん、まったくもってその通り!

 

(きょうはヒトの『罪の重さ』についてしりました)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。