鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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22 『あそぼ』

座敷童が女郎蜘蛛の所へ君尋の右目を取り戻しに乗り込んだ。そう鴉天狗たちに聞かされた君尋は彼らと共に侑子の元へ行った。鴉天狗たちは座敷童を助けて欲しいと侑子に願った。対価として鴉天狗達の秘宝である【天狗の扇】を差し出した。

侑子は対価が大きすぎると、ぷらすに君尋を一緒にくっつけ座敷童の元へ向かわせることに。慌ただしさの中にも、くーは無表情だった。

君尋が出ていく時には彼にだけ向けて、場違いにも微笑んだ。

 

「君尋、わたしは君尋が大切だから。だから自分を大切にしてね」

「くー、ちゃん?」

 

訝しむ君尋ではあったが鴉天狗たちにさっさと行くぞと催促され、侑子が持つ【天狗の扇】を扇がれた事でくーと別れも言えないまま一瞬にして風と共に景色が一変し座敷童の元へ行くことに。

 

「…………くー、アンタはどうするの」

 

君尋が座敷童の為に鴉天狗たちと共に行ってしまった後、黙って見ているだけだったくーが侑子からの問いかけにより口を開いた。それは淡々と、己の意思を伝えた。

 

「ゆうこ、わたし行く」

 

一体、何処へ行くというのか。

洋傘の下で椅子に座りながら寛ぐ侑子はくーに視線をやり、低い声で問うた。

 

「許さないって言ったら?」

 

静かな圧力さえ感じられる雰囲気の中、くーはキッパリと言った。

 

「行く」

 

侑子は最初から見通して言っていただけに過ぎない。くーの意思は初めから決まっていたのだから。だから、侑子は促した。くーに手招きをし、呼ばれたくーは不思議そうな顔をして近づいたところに腕を伸ばした。柔らかな髪をぽんぽんと撫でながら、

 

「そう、行きなさい。くーがそう強く望むのなら」

 

それが、『必然』なのだから。

 

「うん!」

 

くーは満面の笑みで頷き返す。理解してもらえて嬉しいと表現するかのように。

でも侑子は釘をさすことは忘れずに。

 

「【遊び】過ぎないように、ね」

「大丈夫、加減するよ。わたしだって学んできたんだよ」

「ええ、わかってるわ。…いってらっしゃい」

「行ってきます」

 

くーは侑子の見送りを受けて向かった。

彼の地へ彼女に逢いに。

 

◇◇◇

 

君尋の目は飲み込まれた。今頃は管狐と共に侑子のお風呂にでも浸かっているだろう。

彼にはゆっくりとする必要があるのだ。重大な選択を選ぶための、時間を。

 

わたしは、やらなきゃいけないことがある。だから、来た。彼女の元へと。

 

「女郎蜘蛛」

「これはこれは……貴方様みたいな高貴な御方がこのような場所にまで来られるとは」

 

禍々しい邪気に身を染める女。蜘蛛の糸に自身の躰を絡め蜘蛛の巣を作りだしている。

アレに絡まれたら剥がすには手間だろう。

それにしてもなんて白々しい言い方。全然そんなこと微塵も思ってないくせに。

どうせ、わたしも美味そうな餌に見えるのだろう。

だいたい高貴だからって?そんなものどうだっていい。

わたしは自分の事を身分が高い人だとか一度として考えたことはない。

周りが勝手にそう敬ってくるのだ。この女もそうだ。身分で態度を改めるのか?

ならば君尋に対してはどんな風に接したのだろうか。

気になる、気にはなるが今はどうでもいい。必要なのは気にすることじゃない。やらなければならない。

 

「貴方を消しても君尋は喜んでくれない」

「それで?じゃあ貴方様は何をしようと?」

 

「右目の事に関しては何もしない。君尋が選んだ選択肢だから。彼自身が選び取った道だから」

「でも、君尋は無駄に血を流した。貴方が挑発するから。わたしはそれが許せない。彼を傷つけたんだもん。彼が流した血の分だけ苦しんだ分だけは責任をとってもらう。同じ事でしょう?貴方の眷属である蜘蛛の巣を壊した責任を君尋は友人の為に右目を失うという対価を背負った。その右目は貴方のおなかの中に収められ二度と君尋の元に戻らない。けれどわたしは納得していない。君尋が座敷童の為に危険をおかしてまでわざわざこの場所まで来たという事実。そもそもこの事実を大っぴらにしなければ座敷童がわざわざ貴方の所まで来ることもなかったし君尋が来る必要もなかった。ゆうこがこの場にいるのならこう言うね。『必然だから』と。つまり貴方が君尋の右目を得ることは『必然』である。同時にわたしがこの場に赴いた事も『必然』貴方が責任を取るのも『必然』何も不思議な事ないよね?」

 

有無を言わせない圧力をかける。

そう、君尋が右目を失うのならばそれ相応の代償を貰わなくては話にならないじゃないか

 

「その右目を飲み込んだ妖力、見せてよ」

 

足掻いてみせてよ。奪った分だけ強くなったら、その分叩き潰してやるまでだ。

ああ、なんて楽しいんだろう。君尋の右目を飲んだ奴を自分の手でいたぶれるなんて。

 

わたしが大切にする君尋の右目、あんな蜘蛛風情にいってしまうなんて悲しい。

悲しい、がそれよりもわたしの気持ちが昂るのだ。

ゾクゾクする、もっともっと。血がたぎって仕方ない。

感情が高ぶって制御できない。そうだ、する必要がない。

どうにかしてこの気持ちを受け止めて欲しい。ありったけの想いで彼女を満たしてあげたい。この、狂いそうな何かから。

 

わたしは元来、執着心が人一倍強いのだろう。君尋が大切だから、君尋に害なしたモノが許せない。君尋でなかったら、ここまで来ることもなかった。だから、違う意味で感謝してる。遊ぶ場所を提供してくれて遊び相手になってくれてほんと、感謝してるよ。

 

「女郎蜘蛛、ねぇ」

 

今は貴方で我慢してあげる、だから

 

「あそぼ」

 

わたしの誘いに女郎蜘蛛は綺麗に顔を引きつらせた。

 

(高ぶる気持ちは、トマラナイ)

 

 

◇◇◇

 

くーは帰って来た。大層ご満悦と言った表情で、侑子は庭先で出迎えた。

 

「お帰り、くー。楽しかった?」

「うん!あのねあのね」

 

くーは侑子の側に駆け寄り楽しかった出来事を包み隠さず話した。

 

「あの女郎蜘蛛と遊んだの。最初は嫌々って首振ってたけど本人も乗り気になってさ。それはそれは夢中で遊んだんだ」

 

侑子は言葉少なく返した。

 

「そう」

「しかもお人形さん遊びして遊んだんだよ?土台が綺麗だから遊びがいあるよね」

 

侑子は言葉少なく返した。

 

「そう」

 

くーはどんなに楽しかったかと頬を上気させて無邪気に伝えた。

 

「可愛い可愛いお人形さんにピッタリな赤いドレスを着せてあげて、真っ白な肌にたっぷり色鮮やかなお化粧してあげて、髪型も前とは全然違うものに変えてあげた。彼女ね、泣きながら叫びながら喜んでくれた。よっぽど嬉しかったんだね。ホラ!しかもわたしが髪切ってあげたんだよ。持って帰って来ちゃった。綺麗な髪だね、つるつるしててサラサラで君尋の右目はよっぽど栄養価が高いんだね。お肌もつるつるしてて。たまに暴れちゃうから彼女の糸で縛らなきゃいけなかったけど蜘蛛の糸って意外と頑丈なんだね。全然切れなかったから良かった。だってせっかく綺麗にしてあげてるんだもん。邪魔されちゃつまらないし」

 

くーは右手に掴んだ髪の束を持ち上げて侑子に見せた。侑子は目を細めそれを見据えたのち、

 

「渡しなさい、燃やしてあげるから」

 

と手を差し出した。くーは

 

「そうだね、持っててもしょうがないもんね。使い道ないし。はい!」

 

そう言って髪の束を侑子に手渡した。

侑子はそれを無言で受け取り、ボォォ!と燃やした。

 

 

 

くーは帰って来た。大層ご満悦と言った表情で、侑子は庭先で出迎えた。

 

「お帰り、くー。楽しかった?」

「うん!あのねあのね」

 

くーは侑子の側に駆け寄り楽しかった出来事を包み隠さず話した。

 

「あの女郎蜘蛛と遊んだの。最初は嫌々って首振ってたけど本人も乗り気になってさ。それはそれは夢中で遊んだんだ」

 

侑子は言葉少なく返した。

 

「そう」

「しかもお人形さん遊びして遊んだんだよ?土台が綺麗だから遊びがいあるよね」

 

侑子は言葉少なく返した。

 

「そう」

 

くーはどんなに楽しかったかと頬を上気させて無邪気に伝えた。

 

「可愛い可愛いお人形さんにピッタリな赤いドレスを着せてあげて、真っ白な肌にたっぷり色鮮やかなお化粧してあげて、髪型も前とは全然違うものに変えてあげた。彼女ね、泣きながら叫びながら喜んでくれた。よっぽど嬉しかったんだね。ホラ!しかもわたしが髪切ってあげたんだよ。持って帰って来ちゃった。綺麗な髪だね、つるつるしててサラサラで君尋の右目はよっぽど栄養価が高いんだね。お肌もつるつるしてて。たまに暴れちゃうから彼女の糸で縛らなきゃいけなかったけど蜘蛛の糸って意外と頑丈なんだね。全然切れなかったから良かった。だってせっかく綺麗にしてあげてるんだもん。邪魔されちゃつまらないし」

 

くーは右手に掴んだ髪の束を持ち上げて侑子に見せた。侑子は目を細めそれを見据えたのち、

 

「渡しなさい、燃やしてあげるから」

 

と手を差し出した。くーは

 

「そうだね、持っててもしょうがないもんね。使い道ないし。はい!」

 

そう言って髪の束を侑子に手渡した。

侑子はそれを無言で受け取り、ボォォ!と燃やした。

 

 

髪は見る見るうちに黒い煙を出して一気に燃え上がり、塵となって消えた。

くーはその様を見届けると、うーん!と両腕を伸ばしながら、

 

「楽しかったー!女郎蜘蛛もきっと喜んでるよ。だってあんなに盛り上がったんだもん。当分は余韻に浸ってるかもね」

「良かったわね」

「うん。そうだ!君尋は?君尋はどうしてる!?」

「今部屋で眠ってるわ」

「そっか。良かった。………良かった……」

「くーも疲れたでしょう。お風呂入って来なさい。沸かしてあるから」

「うん。そうする……」

 

ふわぁ~とあくびをしながら眠たそうに目元をこすりつつ、頷いてくーは部屋に向った。侑子は、くーの後姿を見送りながら小さく、呟いた。

 

「【力】が強まっているのね」

 

くーの内に秘めたる力は本人が理解するよりも強力で制御が難しい。

ましてや、自分の半身に気がついていない今のくーではあまりに【力】に頼り過ぎると逆に【力】に飲み込まれる可能性も高い。

だがそれでも侑子は止めなかっただろう。これが【筋書きの上で必要】な事だから。そうなるよう、決められていたのだから。

 

「時は、近づく。学びなさい、くー。貴方にとって必要な事を。光は、貴方達の幸せを願っているわ」

 

彼女こそがこの【筋書き】を願ったのだから。

 

【抗う事ができない必然】

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