鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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24 【雪月花】

昨日は騒がしい一日。家の冷蔵庫が壊れたと意気揚々と侑子が眠そうなくーと君尋を引っ張って、雨の中電気屋さんへレッツゴーしたその日、なんと店先で見た目可愛いぬいぐるみなのに、声は威厳あふれる老人というギャップ的な『雷獣』と出会うという幸運に恵まれた一日を過ごした。その雷獣は君尋の無礼な態度に電気びりびりの刑を与えたり、くーにはちょっとしたアドバイスをしてみたり。

さすが!電気屋さんで挟まってただけはある雷獣である。

まー、でも最後に君尋が入れてくれたお茶がおいしかったのでそのお礼として、雨降る庭先にふわりと自身の躰を浮かばせ、電気をびりびりと放出させ雨降る中の見事な花火を見せてくれた。

 

毎日が、出会いと別れの繰り返しの日々。くーはどんどんと学んでいくのだろう。

自分が学ぶ本当の理由を得ないまま季節は過ぎ去っていく。

 

◇◇◇

 

さぁ、今日は雪合戦!君尋は積極的に動いた。

いつもはただ情けなくも羨ましげに見ているだけしかできなかったが、今は違うぞ!四月一日君尋。そう生まれ変わった気持ちで、アタック!

 

「くーちゃん、寒かったら俺に、って…」

 

期待が大きい分、現実という壁にぶつかった時、人は果たして立ち直れるのか…。

まさにその厳しい現実が起きたのだ。くーに差し出した手は、スルリ、とスルーされくーが向かった先は四月一日の先に佇む寡黙の青年。

 

「百目鬼さぁぁぁんんん―――――!」

 

ぼすっ。大きな体に自ら体当たりして抱き着いたくー。百目鬼は自然な動作で

 

「くー、寒くないか」

 

となでなでする。するとくーの顔は緩み切ったパンダのようだ。

 

「はにょーん。大丈夫!百目鬼さんにくっ付いてれば温かくなるから~」

 

そう言ってくーは尚更百目鬼に引っ付いた。

百目鬼は無表情でさらに撫でてあげるという対応にした。君尋は尚更、叫んだ。

 

「くーちゃぁぁぁあああああああんンンンン―――――――!?」

「ぷくくく。四月一日凍り付いちゃったわ」

「カチンコチンー!」

 

侑子は心底可笑しそうに、モコナは君尋の躰をツンツンして固まってる~とのんきに感激。

 

「フッフッフ、負けてたまるか四月一日君尋!お前は生まれ変わったんだろ!?」

「うわー、自分に向って喋ってる~」

「ついにキタわね」

「勝負だ百目鬼!!この勝負に勝って俺はくーちゃんに」

 

引っ付いてもらうんだ!そう喉元から出かかった声は、くーの

 

「わたしに?」

 

と不思議そうに問いかけられ言葉として出る前にしぼんでしまった。

 

「……くーちゃんにつきたてのお餅を食べさせてあげるんだ!」

 

言ってしまった四月一日君尋……。まったく違う事を言ってしまった。

後悔の念に渦巻く彼であったが、そうでもなかった。

 

「うわー!?本当?つきたてのお餅食べれるー!よしっ!」

 

結果オーライ。くーは満面の笑みで喜んだ。

 

(くぅううう~、可愛い――――やったな俺!)

 

「ってなわけで百目鬼勝負しろっ!」

「断る」

「なんとなっ!?」

 

男らしくキッパリ断られて君尋は反射的に叫んでみたり。

この後、なんだかんだ君尋と百目鬼の勝負は行われた。

 

題して『雪あそびで青春しちゃいまショー』(侑子命名)

 

少年二人による降り積もった白銀の世界でアート制作。

勝敗を決したほうにはご褒美として腹空かせたくーのために餅つきをするというビックイベントが待っている。

君尋は猛烈に燃えた。燃えまくった。いつもよりも倍に燃えた。そして、結果、

 

「百目鬼くんの勝ち~」

「わー!!さすが百目鬼さんチョーかっちょE-!」

「やるなー百目鬼かっちょE-!」

「ぬぁぁぁぁぁああああああ!」

 

侑子の宣言でくーとモコナは腕組んで余裕綽々な百目鬼に尊敬のまなざしで抱きついたり君尋はズドーン!と暗い影を背負って雪の上にのの時書いてたり。

百目鬼と君尋が作った作品たちが動いて雪合戦したり。

今日も今日とて、不思議な事あったり~。

 

【君に捧げる勝利の雪の冠】

 

◇◇◇

 

ああ、今日は何が起こるんだろう……。そんな期待に胸ふくらませていた日、

わたしが知らない青年がゆうこを訪ねてやってきた。

パイナップルみたいな髪型をした背の高い青年で身の丈ほどの槍を携えて。

 

このお店にいると毎日、とはいかないがゆうこを訪ねてくる人物は後を絶たない。

勿論、このお店に入るには強い願いがなければならないらしいが……。

ん?今まで深く考えた事なかったが、お店にいるわたしも強い願いがあるということか?

そもそも、わたしはどうしてゆうこの元にいるのだろうか。

 

理由が、わからなくなってきた。最初にわたしを拾ったのはゆうこだ。

ではなぜゆうこはわたしを拾った?ただの気まぐれ?それとも寂しいから?

 

違う。そうじゃない。ゆうこはそんな理由なんかでわたしを拾う事はない。

 

では、なぜ?わたしは、なぜここにいるのだろう?なぜ、ここにいなくてはいけないのだろう。

 

誰もかれもがわたしに『学べ』という。学べとはそもそもどんな意味だ。

何を学べというのか。それすら教えないで学べというのは卑怯だ。

生きる上での知識なら知ってる。必要なのは、生きる理由。わたしが存在する、意味だ。

わたしが延々と答えの出ぬ考え事に没頭している間にも、彼とゆうこのやり取りは進む。

 

「貴方が次元の魔女ですね」

「ええ、人はそう呼ぶわ」

 

ゆうこは小狼君たちを出迎えたあの日の衣装と同じ物を着て出迎えた。

なんと気合の入り振りだ。ゆうこにとって出迎えに値する人物ということか。

君尋は学校に行っていていない。お店にいるのはゆうこにわたしとモコナとマルとモロ。

彼は息を切らし肩を揺らす。独りでここまで渡ったのだろう。

相当な力を使ったはずだ、なんて所詮わたしには他人事。彼のお願いにもなんの興味も抱かない。

 

「貴方が次元の魔女ならば可能なはず、どうか彼女を生贄の台から救ってください!」

 

彼には縋れる人がゆうこだけなのだろう。必死なその叫びは心の底からの響きだ。ゆうこはゆっくりと青年を見据えて伝えた。

 

「相応の対価がいる…。それを承知なのでしょうね?」

 

パイナポーヘアーの青年は迷わずハッキリと告げた。

 

「無論です、元より自分の事はどうなろうと構いません」

 

自分の命さえ惜しくはない、最初から彼女に救われた命だ。

その為に使うのならば、本望だとも堂々と言い切った。なんて熱い人だろう。

自分の命を賭けてもいい大切な人が彼にはいるのだ。なんて、羨ましい。

 

「……そう、ならばアナタが払う『対価』は」

 

ゆうこは告げる。

淡々と、感情を含まない冷たい視線で彼に宣告する。

 

「彼女に一生『愛される』という権利をもらいましょう」

「あいさ、れる……?」

「ええ。六道骸、貴方は彼女から一生愛されることはない。交わす言葉に愛があったとしても、そこに貴方に対する『愛』はないわ。中身のない言葉に貴方はずっと囚われ続けることになる」

 

六道骸、そう呼ばれた彼は意味を理解するまで数秒かかったようだ。

ゆっくり、噛みしめるようにゆうこの言葉を受け取り、頷いた。

 

「わかりました……」

 

これで彼の願いは叶うのだろう。相応の対価と引き換えに。

 

「良かったね、お願い叶えてもらえて」

 

彼は元いた世界へ帰るのだろう。彼の周りを光が包み込もうとしたときわたしはそう声を掛けた。どうせ、二度と会わない存在だ。声くらいかけても構わないだろう。彼はわたしの存在に初めて気がついたかのように、驚いた顔をし息を呑んだ。

 

「君、は…!?」

「なんだ、貴方もわたしを知ってる人?むぅ、まったく不公平だよね。わたしは知らないのにわたしの事を知ってるのって」

 

そんなびっくりした顔しないでほしい。別に幽霊じゃないんだから。

こんなんでも一応生きているのだ。

 

「…そう、でしたね。君がここにいるということは……彼女は……すでに…」

「何一人で納得してんの?」

 

彼女って誰ですか?さっきよりも暗い顔になった六道さん。

 

「いや、スミマセン。まさか久しぶりに君に会うとは思わなかったもので…」

「やっぱり知り合いだ」

「まぁ、そんな所です。それにしても元気なようで安心しました。今の君のお名前はなんというのですか?」

「……くー、ですけど…」

「そうですか。くーさん……良い名ですね」

「ありがと」

 

御礼はちゃんと言います。だって褒めてくれたしね。たとえ見ず知らずの人に褒められたとしても嫌な気分にはならない。一応、気に入っている自分の名だ。

 

「今でも『私が知っている彼女』は君を想っていますよ。遠く離れた場所にいても、ね」

「わたし、を?」

 

なぜ。見ず知らずの赤の他人がわたしを想う必要がある。

でも、なぜか彼の言葉が胸に響く。

ざわめいて仕方ない。

 

「たとえ、二度と会えない定めだとしても」

「君は君の『絆』を信じてください。きっと道は開かれますから」

 

彼は意味不明なことばかり一方的に言って光と共に消えた。

 

「……ゆうこ~、どーいう事?」

「さぁね。自分で考えてみなさい」

「ケチ!」

「ケチで結構。さぁ~て♪お仕事も終わりだし一杯やろうかしら!」

「またか!六道さん来る前に飲んでた癖に」

「おほほほほほ!所詮おこちゃまなアンタにはわからないでしょうね?」

「どうせおこちゃまですよーだ!」

 

『あの時の彼』とはその後二度と会う事はなかった。

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