くーside
どこまでが【夢】でどこまでが【現実】なのか。
境界線はどこで区切られているのか。ただハッキリしているのは、これが【悪夢】なのだということ。
わたしは部屋で寝ていたはずだ。そう、今日は面白いことがあった。だから興奮してなかなか寝付けなかったはずだ。昼間、わたしは一人で部屋でゴロゴロと
「退屈退屈退屈のすけ~」
と退屈しのぎにゴロゴロしていたら突如ガラッとゆうこが襖を開いて現れ何を言うかと思えば、
「行くわよ!くー。何処に行くかって?それはヒ・ミ・ツ・よ」
と、尋ねてもいないのに律儀に答え、尚且つどこかウキウキなゆうこにあっという間にお着替えさせられて強制的にお出かけ。いつも一緒にいるはずの黒モコナは侑子のお使いで出かけていていなかった。
侑子はヒミツなどと言ってはいたが、ヒミツにする意味すらない道路の真ん中で寝ていた君尋の背中に乗ることだった。ゆうこは遠慮なしに君尋の背に腰を落とすからわたしは指先で君尋の頭部をツンツンしてみた。
「はっ?!お、俺は一体何を……ってか重っ!?」
「君尋起きたー」
「重いとは失礼ね」
どうやら話を聞くと君尋曰く、アヤカシに襲われかけた所を百目鬼さんのおじいさんがアヤカシに矢を射って、助けてくれたらしい。でもそれは夢のようで夢じゃない。現実に君尋の手にはおじいさんが放った矢が存在する。
ゆうこの説明によると、それは【正夢】というもので実際に君尋は危なかったらしい。
わたしは百目鬼さんのおじいさんに感謝した。だって君尋が怪我したら悲しいし、そのモノノケを無理やりにでも見つけ出して潰しにかからなきゃいけないもの。
そんなの面倒だし、何より君尋が無事なのが嬉しい。
この後、異世で大阪弁でしゃべる夢カイのバクさんとの面白い出会いとかあったり、ゆうこがバクさんとのやりとりのなかでいい感じに追い込んでる場面とか見れたので楽しかった。バクさんは君尋のことをいたく感心した風に言っていたけど、途端わたしの顔を見た途端、ぎょっ?!と円らな瞳を大きくさせて手をわたわたさせた。
「あ、あんさん………大丈夫でっか!?そ、そないな怖ろしゅうモン抱えて……」
「へ?」
いきなりなんですか。人の顔見て怖ろしいて。
見た目の可愛さに半して失礼だと思った。
「わ、わてこないなモン見たこともないわ………」
怖ろしいわ怖ろしいわとガタガタ震えるバクさん。
わたしと君尋は突然どうしたのかと首をひねるばかり。そんな中、ゆうこがわたしの頭にぽんっ!と手を置いてバクさんにしっかりとした声音で言った。
「大丈夫よ、この子の事なら」
「ゆうこ?」
ゆうこまで一体なんだ?
「…そうでっか?……まぁ、侑子はんがそう言いはるなら。……小さな竜のお嬢さん、気ぃ、しっかりもつんやで!」
バクさんに手をとられてブンブン振ってはファイトや!なんて励ましを受けて、「はぁ~どうも」とお礼を言いつつ内心は、はてな状態なわたしでした。
バクさんから対価としてもらったたくさんのふよふよと浮かぶ風船の紐をしっかりと握った君尋と手を繋ぎつつお店へと戻った。今日は君尋もお店に泊まった。
だから嬉しくて子供のようにはしゃいで、一緒に寝ようと君尋の元へ枕持って向かおうとしたけど、廊下で待ち伏せしてたゆうこに邪魔されて結局別々に寝ることに。
むぅ~と唇を尖らせて文句アリアリと無言に訴えるも「ダメはものはダメ」と却下された。
肩をがっくりと落としてトボトボと部屋に戻ろうとした。
すると、ふわりと背後から突然抱きしめられた。
「ゆうこ?」
「くー、頑張りなさい」
ゆうこの顔は見えない。後ろから抱きしめられているから。
少しゆうこからいい匂いがした。
それにしても頑張れってなにをだ?
「何を頑張ればいいの?」
そう問いかけたけれどゆうこはそっと腕をといて躰を離した。
「いいえ。なんでもないわ……オヤスミナサイ」
うーむ。まったくもってなんじゃらほい。
「…変なゆうこ…。おやすみ!」
ゆうこにそう言ってわたしは自分の部屋に走って戻った。
お布団に潜って、珍しく今日は黒モコナが一緒にいないのを不思議に思いながら。
【そしてわたしは悪夢に堕ちる】
◇◇◇
【グシャ、どシュっ】
耳に不快な音。まるで、何かを裂く、そう、肉を突くような生々しい、音だ。
わたしは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
『ーーー』
彼女が、いた。
気になって気になって仕方ない人。神崎天姫さん。
天姫さんの胸には一輪の真っ赤な花が咲いていた。綺麗な混じりっけなしに咲き誇る純粋な薔薇の花。彼女が纏うのは上下黒のスーツのようなものだから余計に薔薇は目を引く存在となっている。
『ーーー』
あの人はわたしを『ーーー』と呼ぶ。
わたしはくーなのに、そう呼ぶの。でも天姫さんが言う『ーーー』が音として聞こえない。雑音になってわたしの耳に入る。
『ーーー』
違うよ、わたしはくーだよ?
そう何度も必死に否定しようともあの人はそう呼び続けた。
『……イ、……テ…………』
……?なんて、いったの。イキテ、いき、て?
わたしがそう、口を動かすと天姫さんはゆっくりと頷いた。綺麗な笑みを浮かべて。
口の端に赤い液体をぽこっと零しながら。
それは首筋につぅと落ちていき、服に染みこんでいく。
天姫さんの胸に咲く赤い薔薇はなおのこと色みを増して赤くなった。
まるで、天姫さんの血を吸い込んで艶やかに色づくように。
(私の分まで、貴方には生きて欲しい)
(終わりのない定めだけれど、生きていればいい。)
(大切な君だからこそ、この命を捧げてもいいと思った。)
(私は置いて逝く貴方に手を差し伸べられないけれど、この命は捧げられる。)
(この命は貴方に救われたようなものだから。)
(だから返すべきなのだろう。ただ、その時が来た。そう思って欲しい。)
(大切なんだ、誰よりも。)
(何よりも、貴方が大切。)
私のたった一人の【 】。ごめんね、こんな【 】で。
天姫さんは微笑みながら涙を瞳に溜めていた。零れそうで溢れそうで、それでいて我慢して無理やり笑みを維持してる。
それはわたしの為?
わたしに心配を掛けまいとする虚勢?
そんなことしなくていいのに。わたしはただ天姫さんが無理してるのが嫌で悲しい。
一人じゃないって言いたい。
こんなわたしだけど、何か、何か役に立ちたい。だから手を伸ばした。
一人じゃないよ。
そう、意味を込めて。
天姫さんは先ほどと変わらぬ微笑みでわたしに手を差し伸べて、わたしは手が触れ合う。重なり合う。そう思った。だから自然と安堵した。
これで、大丈夫だと。
だが違った。触れるだろう直前、わたしの手に届かぬまま彼女の手とすれ違いになり天姫さんは、まるで支えを失った人形のように、パタリ、と倒れた。
あ。何だろ、コレ。なんだ、なんだこれは。なんだか嫌だ。
【ああこの人は繰り返すんだ】
あああ。嫌だなんでどうして!?
【幾度となく繰り返し続けるんだ】
何かの線がわたしの頭の片隅で切れた。プチン、って切れちゃった。そこから、何も考えられずただ叫んだ。
あ、あああああああああ、いヤヤやだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
タスケテ、誰かタスケテ
わたしはこんな結末を望んだんじゃない!ただ、助けたかっただけなのに!
ただ、ずっと一緒にいたかっただけなのに!あの人はいつもいつもわたしを置いて逝く。
【違うコレはわたしじゃない。わたしじゃないわたしの感情でグチャグチャになりそう】
教えてっ!誰か助けてっ!これは、これは夢なんだよね?ねぇ、そう言ってよ!
【誰か、あの人を。あの人を……助けてぇ】