元々、彼と私は一番目の彼から生じました。
彼は最初の彼を濃く受け継いで。
私は一番目の彼と二番目の彼の欠片が集まってできたもの。
一番目の彼は一途に彼女を愛しました。
神であるが故に許されないものだとしても彼は貫き通して消えました。最後まで彼女のことを想って。
その想いの欠片が私の心を作りました。
二番目の彼は優しすぎました。優しすぎた彼だからこそ、彼女は今もその想いに縛られているのです。それが不老という望まぬ躰を与えられたまま。
彼の底のない優しさで私の躰は創られました。
三番目の彼は異常なまでに彼女を溺愛していました。一番目と二番目の生まれ変わりである彼は以前の彼らを逸脱した存在。彼は感情のままに動きます。
そう、彼は赤ん坊のような存在なのでしょう。
彼が見聞きするもの全ては、彼女を通して見るのです。
彼女の言葉に耳を貸し彼女の言葉を全て受け止めて叶える。
それが彼の幸せであり彼の望み。
一番目が叶えられなかった事を三番目の彼は叶えようとするのです。
その感情が果たして正しいものなのかどうかはわかりません。
私達は生まれる事を決められていたのです。抗うことなど無理なのでしょう。
いいえ、最初からそのつもりなどない、ように創られたといったほうがいいのかもしれません。私達は本来ヒトに深く干渉することなど、ましてや加護を与えるものをたった一人のヒトだけにするなどないのです。
一番最初の彼に親しい彼らはまさにその代表と言えます。
彼らは世界を見守る役目を担っています。
白と黒。鏡合わせな彼らのように、私達も二つに分けられたのでしょう。
どちらかが欠けることなくお互いがお互いのたった一人のヒトに加護を与える為に。
全ては彼女達の支えとして。
元々、彼と私は一番目の彼から生じました。
彼は最初の彼を濃く受け継いで。
私は一番目の彼と二番目の彼の欠片が集まってできたもの。
一番目の彼は一途に彼女を愛しました。
神であるが故に許されないものだとしても彼は貫き通して消えました。最後まで彼女のことを想って。
その想いの欠片が私の心を作りました。
二番目の彼は優しすぎました。優しすぎた彼だからこそ、彼女は今もその想いに縛られているのです。それが不老という望まぬ躰を与えられたまま。
彼の底のない優しさで私の躰は創られました。
三番目の彼は異常なまでに彼女を溺愛していました。一番目と二番目の生まれ変わりである彼は以前の彼らを逸脱した存在。彼は感情のままに動きます。
そう、彼は赤ん坊のような存在なのでしょう。
彼が見聞きするもの全ては、彼女を通して見るのです。
彼女の言葉に耳を貸し彼女の言葉を全て受け止めて叶える。
それが彼の幸せであり彼の望み。
一番目が叶えられなかった事を三番目の彼は叶えようとするのです。
その感情が果たして正しいものなのかどうかはわかりません。
私達は生まれる事を決められていたのです。抗うことなど無理なのでしょう。
いいえ、最初からそのつもりなどない、ように創られたといったほうがいいのかもしれません。私達は本来ヒトに深く干渉することなど、ましてや加護を与えるものをたった一人のヒトだけにするなどないのです。
一番最初の彼に親しい彼らはまさにその代表と言えます。
彼らは世界を見守る役目を担っています。
白と黒。鏡合わせな彼らのように、私達も二つに分けられたのでしょう。
どちらかが欠けることなくお互いがお互いのたった一人のヒトに加護を与える為に。
全ては彼女達の支えとして。
◇◇◇
最近お店に泊まることが多くなったある朝、ぼんやりとした頭で布団から起き上がった君尋は呟くように言った。
「………俺、今日変な夢見たんです…」
「大きな翼を持った優しい瞳をした紅い竜でした」
そう、アレはとてもとても優しい竜だった。
寂しそうに大きな翼を閉じて、悲しい唄を紡ぐ一頭の竜。
俺に誰かを頼む、と言っていた。鋭い牙はヒトを襲うにあらず、むしろ深い慈悲を与え慈しみ、耳に心地よい唄を唄う。その大きな翼はヒトに夢を与え、その大きな体躯はヒトの夢を乗せ高く空を舞う。自由な竜はただじっと待ち続けている。誰かを待ち続けて。孤独に耐えている。
その声に応えたのはいつの間にか、戸に寄りかかるようにして部屋に入っていた侑子だった。侑子は黙って君尋の言葉を聞き終えて、いつもの妖しい笑みで言う。
「四月一日が呼ばれたか、四月一日の夢が【彼女】の夢に繋がったのか。それは分からないわ」
彼女、と侑子が言うのはあの竜の事だ。
「どちらにせよ、アナタは知った。後はどう選択するかよ」
「俺の、選択…?」
いつになく戸惑いを浮かべる君尋に侑子は四月一日の傍へ腰を下ろしスッと四月一日の頬手を伸ばしさするように撫でた。侑子の顔にはなんの感情も見当たらない。
喜びも悲しみも驚きも怒りも不安も戸惑いも、全ての感情が籠っていないその言葉は、強く君尋の胸に響いた。
「ーは選んだわ。【拒む】という選択を」
ー、ちゃんが?
選択とはどんなものか。あのーが何を拒むというのか。
拒むどころかーは己の事さえ何も知らないままなのに何を拒めるというのか。
何もかもが分からない。ただ流されているようにも思える。曖昧すぎて、でも確実に真実に近いそれ。
「果たして四月一日は何を選ぶのかしらね?」
この人は決して教えてはくれない。自分で気がつくその時まで。それだけはすぐに理解できた。
【彼と彼女の出来事】
◇◇◇
ちみっこいくせして四月一日を電気びりびりの刑に処した雷獣様。あの雷獣様、以前こんなアドバイスをくーに残していた。
いつもの如く、くーは四月一日にへばりついては満たされぬ欲求を満たすべく切実に訴えまくっていた。
「君尋~、今度はきなこもち食べたい!」
ちなみに今くーが食べているのは甘いあんこが絡んだあんこもちと香りのよいゴマが使われたゴマもち。両手に握っては口に運んでもぐもぐと動かし、はにょーんと頬を緩ませる。四月一日はその幸せそうな顔を見ては
「はいはい。喉に詰まらせないようにゆっくり噛んで食べてね」
と注意を促して内心はああ、俺って幸せ~。と一人知らず知らずにニヤニヤ顔になり、雷獣の隣で侑子は「ぷっ」と面白そうに吹いたことを四月一日は知らない。そして雷獣も「欲望むき出しじゃな」と呆れてたり。くーはくーで注意されたにも関わらず、
「だいじょうⅤっ!……うぐぐぐっ!?」
と喉にもちを詰まらせて苦しそうなうめき声を出した。
「言った側から!?ちょ、ちょっとほら!水水飲んで…あ!お茶だった!?」
その間にもくーの顔色がどんどん変色していく。
水を求めて宙をさまよう手がピクピクと痙攣している。
「うぐぐぐぐぐ!」
「ああくーちゃんの顔が青くなってく!?待ってて水持ってくるからっ!」
ドタバタと慌ただしく台所へ向かった四月一日は水が並々注がれたコップを片手にくーの所へ転がるように戻って来た。コップを受け取ったくーは無我夢中でそのコップをぐいっと飲み干して、四月一日はくーの背中を軽く叩きながら心配そうにくーの様子を見やった。何とか飲み込むことに成功したくーとほっと安堵の息をつく四月一日。侑子はくーのほっぺを意地悪そうにみょーんと伸ばしては「食い意地張り過ぎよ」と叱る。
くーは「むげー」と呻いては必死に抵抗するも結局いいように遊ばれたり。
さて、流れを戻して瀕死から復活してお仕置きされてほっぺが真っ赤なくーから始めましょう。
「冷蔵庫元に戻って良かったね。ゆうこ」
そう言いつつ、侑子の酒のつまみに手を出そうとするが、侑子は何気ない動作でそれを俊敏に叩き制する。
「そうね。これでお酒も安心して飲めるってものよってことで。四月一日!宴会といきましょう!」
くーは負けてたまるか女が廃るぜやけにやる気を見せ
シュッシュッ!!
どうだ!わたしの高速手さばき対ゆうこversionに敵うまい!
と不敵に笑った。
「おお!?『冷蔵庫直ってよかったね会』だね?わたしお寿司が食べたいー!骨付き肉食べたーい!」
「無駄よ」
だが侑子の方が上手であった。
お皿を移動させるという簡単な方法でくーの技を見事破ったのだ。
くーは
「のぉぉぉぉぉおおおおおお!」
と叫んで頭抱えて盛大に落ち込んだ。
「モコナも食うぞ~飲むぞ~」
「アンタらは食べるか飲むかしかないのかっ?!そしてくーちゃんちょっとは気がつこうよ」
四月一日のツッコミ&指摘が華麗に入り、はぁ~やれやれと腰を浮かして立ち上がる四月一日は台所へ向かった。四月一日がいなくなった後、
「ほぅほぅ~それにしても、貴方が雷獣なんだ。丸っこいんだね。一つかしこくなった!」
「面白き娘よ、もう一つかしこくなるがいい」
「え?」
四月一日がビビりながらお茶を準備しに台所へ行っていた時、雷獣様はみょーんみょーん!とモコナの頬を引っ張って無邪気に遊んでいたくーにこう唐突に告げたのです。
「力に飲み込まれてはいけない。幼い竜の娘よ」
くーは目を丸くして雷獣様を見つめたのに、こう言い返した。
「力って?わたし、そんな大層な力なんてないし。大体竜の娘ってナンスカ?」
頭上にはてなマーク飛ばしながら訪ねるも雷獣様は見事にスルーなされ、侑子は黙って事の次第を見守っていました。
雷獣様は威厳ある言葉で語ります。
「力とは様々だ。執着して初めて発揮するものであろう。譲れぬ願い、はたまた大切な者の為。己が心を強く持つ事で力は大いに発揮される。だが、お前はどの人間よりも執着心があり、【あの者】以外は全てに興味を抱かない。良く言えば一途、悪く言えば極端。だからこそ不安定なのだ。時折自身では想像もつかぬ『力』を操る時があるだろう。安易に不安定な『力』を使ってはお前自身が『力』に飲み込まれてしまうぞ。むやみやたらに使うものではない。その『力』は今のお前では御しきぬ」
「……知らない、だってわたしは使いたいと思って使ってるわけじゃないもの。
ただ無性に、『消してやりたい』って思う時がある。それはとても抗えないもので、逆に心地よくて大切なものを守れるようにしてくれる。それはわたしにとって大切なもので、どうしても奪われたくないものなの。誰にも盗られくないの。ならどうやって使えばいい?わたしはどうやって守ればいいの?」
「己を知るのだ。お前という己を」
「……どうやって?そのやり方を教えて。皆卑怯だよ、言うだけ言うって教えてくれないなんて……。わたしが一体誰なのか、どうしてここにいるのか。
それなのに、どうしてわたしと会うとわたしを心配して励ましてくれるの?わたしは貴方達を知らないのに。ズルいよ、みんなズルい」
「幼い竜の娘。お前が皆を知らぬとも皆はお前を知っている。それだけお前は名の知れた存在なのだ。さすれば【道】は開かれる」
「み、ち…?」
その道とは何処へ繋がるものなのか。
その先に一体何が待ち受けているのか。
雷獣様は多くを語ろうとせずに、ただくーに助言を授けた。
「いいか?己を知るのだ」
と。その助言が果たして活かされたのかどうか。それは本人のみぞ知ると言った所なり。
「マルー、モロー。追いかけっこしよー」
「くーが鬼だ」「くーが鬼ね」
「なぬっ!?わたしに鬼をすれとな!!?ぬほほほほほ、いいだろういいだろう!このくー様から逃げられると思うなよ子猫ちゃんたち~へいかも~ん」
「くーが変態だ」「くーは変態だ」
だだだだだだ!だだだだだだだ!
「待て待てまてぇぇいぃぃぃ!わたしを変態呼ばわりするとは生意気なマルダシとモロダシめぇぇぇえええええ」
「きゃー」「にゃー」
保護者、侑子は目を細めてその様を見守っていた。
「……自分で自分に忘却をかけたのね。器用な子」
「侑子」
黒モコナの呼びかけに侑子は頭を振った。侑子は知っていたのだ。
くーがあの夢を視ることを。そしてくーが何を選ぶかを。
わかって、侑子は『頑張りなさい』と声を掛けたのだ。今の己に出来ることはそんな些細な事だけ。
「いいのよ、くーは自分でそうなるよう望んだ。知らなければならないことを知った上で今は拒むことを選んだ。それもあの子の選び取った選択肢なのだから」
そう、全ては選ぶことこそが大切なのだ。今は何よりあの子の意思を尊重すべき。
たとえ、
「あの子が悲しむことになっても、ね」
少し、心が軋んだ音がした。
【選び取る自由】