鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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04 『斬鉄剣げっと』

侑子のお手製通り抜け道から銀座へとやってきた一行。

 

「うわっ!おいしそうな匂いがいっぱい!」

 

興奮気味に四月一日の腕にしがみ付いたくーはさっそく「おなかすいた」とねだってきました。ウサギの耳がついたしま模様の青のパーカーに黒のショートパンツに茶色のショートの格好のくー。パーカーを羽織った姿は可愛らしいものでした。四月一日と歩く姿はまるで仲の良い兄と妹のよう。

 

「あとでね」

 

と四月一日は苦笑いしつつ、侑子の目的地へと到着します。

 

「ついたついた」

 

「スポーツショップ?」

 

「ゆうこ、運動するの?酒ばっか飲んでるから健康に気を遣う年になったんだね。歳よりだしねゆうこは」

 

無邪気に毒を吐くくーは

 

「くーは一言余計よ」

 

と侑子にほっぺをぐみょーんと伸ばされお仕置きされてました。

 

「いしゃい」(痛い)

 

「いいから何買うんですか」

 

と冷静な四月一日に言われ満足したのか侑子はようやくくーを解放しました。

そしてお目当ての品物を見つけたご様子。

それを手に取りご満悦に浸ります。

 

「これよ、これ!」

 

彼女が手にしたものをみて「結構柔らかいな」とくーのほっぺをぐにゅぐにゅしてる四月一日と「うみゅ!」文句ありまくりそうなくーは怪訝な顔をしました。

 

「赤い金属バット?」

 

「そうよ、赤ってなかなかないのよねぇ」

 

「ゆうこ、その格好で野球はないと思うよ」

 

歳考えろとくーはまた毒を吐きます。

 

「誰が野球やるって言ったかしら」

 

「野球以外で何に使うんですか?」

 

四月一日の疑問に侑子は自信たっぷりに言い切りました。

 

「決まってるじゃない、斬るのよ」

 

まったくもって意味不明。

 

◇◇◇

 

ゆうこの突撃!お宅訪問でゆうこは『ハナハナさん』家に突入した。

 

『ハナハナ』さんはサイト上の知り合いの『キンドーちゃん』ことゆうこに助けを求めたらしい。パソコンばかりに気になってしまって家事や育児に手を付けられないからどうすればいいか?と。

 

ゆうこは『ハナハナさん』にパソコンをやめる『覚悟』はあるか?と尋ねた。

 

『ハナハナさん』はやめたいんです、と涙ながらに言った。

 

ゆうこはなら『あの』パソコンをやめる手伝いをしましょうと言った。

 

『ハナハナさん』はあのパソコン?と首を捻った。

 

ゆうこは対価に子供椅子を要求した。

 

『ハナハナさん』はそれを承諾した。

 

ゆうこは、君尋が背負っていた赤いバットに『斬鉄剣』とマジックで字を書いて机の上にあるパソコンだけを斬った。

 

君尋は驚愕してた。わたしは面白い!と喜んだ。

 

『ハナハナさん』は呆気にとられてた。

 

ゆうこはこれでおしまいと微笑んで『ハナハナさん』に別れを言った。

 

『ハナハナさん』は呆然と斬れたパソコンを見つめていた。

 

帰り際、わたしは君尋が背負う、斬鉄剣が気になって気になって仕方がなかった。

 

「斬鉄剣ってこういうのなんだ、本物初めて見た」

 

「くーちゃん、これはバットなんだよ、只の赤いバットなんだよ」

 

君尋はすごい怖い顔して言ってくる。でもそれはわたしにはどうでもいい。

 

「ゆうこ、これ頂戴?遊びで使う」

 

「ダメだよ?!こんな恐ろしいモノで遊んじゃダメ!」

 

君尋はすごい怖い顔して言ってくる。でもそれはわたしにはどうでもいい。

 

「駄目よ、金払いなさい。安くしといてあげるわ」

 

「侑子さんも売ろうとしないで!」

 

君尋はすごい怖い顔してゆうこを怒る。でもそれはわたしは気にしない。

 

「えー、幾ら?ゆうこの安いって高いなんだよね」

 

「くーちゃんも買おうとしないで!」

 

君尋はすごい怖い顔してわたしを怒る。でもそれは気にしない。

 

「出世払いにしといてあげるわ」

 

「え!ホント!?やった!」

 

「侑子さーん!」

 

最後は泣きそうな声になって君尋が叫ぶ。あんまりにも君尋が怒るので

しょうがないから『斬鉄剣』はいずれ遊ぶときに使おうと思ってしまうことにした。

出世払いっていつなんだろうと思いながら。

 

(きょうは『本当に大切なモノって何?』についてまなびました。)

 

◇◇◇

 

ああ、暇だな~。

ぼんやりとくーは縁側の部分に座り込み降りしきる雨空を見上げました。

そしてずっと振り続ける雨の中、衣裳が濡れるのを構わずに外に出ていく彼女に言いました。

 

「ゆうこ、気合入ってる。っていうか雰囲気が違うね」

 

「アンタはだらけてるわね」

 

「だってわたしには関係ないもん」

 

そういってくーは眼鏡少年=四月一日君尋が用意した肉まんをひょいっと手に取りぱくっとかぶりつきました。

 

んぐんぐ…

 

「……うま~!」

 

ほっぺがおちそうなほどとろけた笑みを浮かべ、君尋が作った肉まんを大絶賛しました。

 

「君尋、これめっちゃうまいよー!」

 

彼女はどうしてこれが好物なのかわかりませんでした。

ただなんとなく好きな感じが残っていました。

 

「そう?良かった。」

 

君尋は素直に感情を出すこの少女が可愛くて仕方がありませんでした。

まるで妹が出来た気持ちになれたからです。

 

「くーちゃんは好き嫌いとかしなくて嬉しいな、細かい注文とかしないし。どっかの誰かさんと違って」

 

「うん、食べるの大好きだし。食べられれば何でもいい」

 

「だからって君のその小さな体に16人前の特盛親子丼があっという間に消えていくのは不思議だなっていうかちゃんと消化されてるのか心配だよ」

 

「ミラクルだね」

 

「七不思議でもいいかもしれないよ」

 

「不毛な会話は終了しなさい、来たわ」

 

ゆうこが会話をストップさせると同時に彼らはやってきました。

 

『くー』は肉まんを手にしたまま頬杖ついてお客様とやらに視線を向けました。

この雨は誰が誘ったかそれはさておき、目の前に魔法のように現れた少年と少年の腕の中に眠る少女。

 

「貴方が次元の魔女ですかっ!?」

 

「そうとも呼ばれているわ、ね」

 

ゆうこが淡々と言っている…。ああ、何かが始まるのかな、なんて考えつつまた一口で肉まんを食べ終える。そしてまた肉まんを片手に持ち必死に叫ぶ少年を見守りました。

 

「さくらを!!さくらを助けてくださいっ!」

 

少年と眠りについた少女、黒装束に身を包んだ目つきが悪い長身の男にへらへらと笑みを浮かべる青年。

 

皆、様々な異国の衣装に身を包みゆうこに何かお願いをしにきたという。

 

少年たちは侑子に『対価』を払って異世界に行くらしい。モコナがぴょんぴょん跳ねている。でもまた行かないらしい。侑子が「もう一人来る」と言って少年たちは怪訝な様子だった。

 

ああ、暇だな~。

 

バクバクと肉まんを食べるスピードは緩むことはなくただすべては風のように過ぎ去っていくのだとくーは思った。

 

けど、違った。最後に来た人物を目にした時にくーは囚われてしまった。

 

あの紅い瞳に。龍の咆哮のようなものが庭に響き渡り天から一筋の雷が地面に突き刺さった。

 

あの異国の少年たちが驚き身を竦ませ君尋は仰天しまくっていてくーも顔を庇って目が眩みそうな視界の先を見定めた。

 

侑子だけが平然とし、「派手な登場ね」と呟いた。光が収まった場所には片膝をつき頭をたれている形でいる人物。艶やかな黒髪が揺れ顔がゆっくりと上がっていく。

整った顔立ち、それよりも目を奪われたのが紅い瞳だった。

 

少女と呼んでいいのかわからないがその人はまず侑子に目をやった。

侑子はその少女の視線を黙った受け止めた後こういった。

 

「………こうして逢うのは初めてかしらね…。蒼龍姫」

 

「…貴女が次元の魔女、か」

 

「ええ」

 

「私の対価は」

 

「既に払ってもらっているわ」

 

「……どうか、あの子を頼む……」

 

頭を下げて侑子に懇願した。侑子は浅く頷き「わかっているわ」と言う。あの人がゆっくりとくーを見た。

 

黒髪で血のような真っ赤な瞳がくーを捉える。

 

くーはなぜか、身動きできなくなった。

肉まんを持っていた手が力が入らなくなりもったいなくもあるが肉まんは床に落ちてしまう。

でもくーはそれを気にする余裕もなくむしろ眼中にあらずだった。

ただ、目の前の少女に釘付けになってしまった。

少女は言った。たぶん、くーに向けて。

 

「………かならず、また逢えるよ。『  』」

 

寂しそうに顔を歪めでも無理やりに笑顔になってその少女はくーに言ったのだ。

 

「………っ!」

 

ひゅっと喉が鳴った。

 

何か言わなくちゃ、何か言わなくちゃ!

 

だがくーの意思とは裏腹に体は石のように固まり床に吸いつけられたように動かなかった。声さえもまるで喋るという行為さえ封印されてしまったかのように何も音を出せなかった。

 

手を伸ばしたいのに、待ってと叫びたいのに!

 

「その時まで、さようなら」

 

『  』とあの人の口だけが動いた。

 

あの人の姿は少年たちと一緒に消えてしまった。

くーが動けるようになった時はあの人は行ってしまった後で雨は止んだ。

でもくーの心は晴れない。

 

(どうして『  』とあの少女はそうわたしを呼ぶのだ。どうしてわたしは何も言えなかったの)

 

「…くーちゃん…」

 

君尋がくーの様子を見て心配そうに名を呼んだ。

 

くーは胸が痛くて苦しくてぎゅっと服越しに手で心臓部分を掴んだ。

 

でも痛みは治まるどころか増すばかり。

 

(わたしはこの感情を知らない。知らないはずなのにどうして知っている気がするんだ)

 

「…く、るしい…なんで、……なんで?」

 

なんで、なんでと言い続けた。君尋は戸惑った顔をしてくーを見ていた。

侑子だけがくーの疑問に答えた。

 

「それは『寂しい』からよ」と。

 

「…さびしい…」

 

(わたしは寂しい?どうしてだろう。見ず知らずの人にどうしてそう感じるんだろう)

 

「今の貴女はまるで『母親』に置いていかれた子供みたいね」

 

侑子がそう言ったのに気がつかすにくーはただあの人が立っていた場所を見つめ続けた。

 

◇◇◇

 

あの紅い瞳の少女は一体何なんだ?

自問自答を繰り返し、繰り返しては堂々巡りして撃沈する。

 

なんど問うても答えが見つからない。当たり前かもしれない。だってわたしは、何も『知らない』んだから。ただこみ上げてくるのは『懐かしい』気持ちだけ。

 

それからあの人と出会って、あの人がこの世界を旅立ってからくーはちょっと食欲不振になった。というかぼんやりとすることが増えた。縁側でぼーっと座りこみ、空を見上げてはため息の連続。見かねて君彦が声を掛けた。

 

「ホラ!くーちゃんの大好物の肉まんだよ!?しかも超特大バーション」

 

「………いらない、君尋食べれば」

 

あっさりと振られた。だが彼はめげない。

 

「あ!だったら今俺が考案してるスペシャル特大アップルパイ食べる?すっごいおいしいよ」

「…………いらない、君尋食べなよ」

 

二度目振られた。今度は駄目だった。

 

「くーちゃん……いつものくーちゃんじゃないっ!」

 

ダッシュで泣きながら君尋は廊下を駆けていった。「いつものくーちゃんがいい~」と叫びながら。

 

「…………」

 

くーは内心なんだそら?と言いたかったがやっぱり気持ちが沈んでいた。

だから君尋が駆けていった方向をちらりと見ただけでそっちはおしまい。またぼんやりと空を見上げることにした。

 

「くーは今捜してるんだね~」

 

のんきに彼女の膝に座る黒モコナは喋った。

 

「そう、捜してる」

 

「見つかればいいね~」

 

何を、とはモコナは言わなかった。ただ一緒にいるだけ。

 

「うん」

 

くーはそう返事しまた黙った。

 

あの人は誰?と問うても答えが出ない事を知りながらくーは何度も何度も答えを見つけようとしていた。

 

 

一方その頃、泣きながら廊下駆けて行った君尋は、「くーちゃんが…くーちゃんがぁぁああああああ!」と未だ叫んでいた。

そこに「煩い」と侑子登場。スラリとした長い脚で遠慮なくげしっ!と蹴った。

 

当然の如く君尋は悲鳴あげながら

 

「どぅあ!?」ごろごろごろドガンッ!

 

壁にぶつかった。2回ぐらい回っていた。そして当然の如く復活し抗議の声を上げた。

 

「何すんスかっ!?」

 

「ちょっとくーの食べる量が減ったくらいでガタガタやかましいのよ。男のクセに女々しいわね」

 

「何ってんスかっ!?俺としちゃ大問題ですよ!俺の可愛いくーちゃんにもしものことがあったらどうするんですよ!?」

 

君尋の叫びに侑子は、真剣そのものの表情を作り呟いた。

 

「…そうね…」

 

その雰囲気に君尋は思わず息を呑んだ。もしやそれほど重大な事なのかと。

 

「………」(ゴクリ)

 

そして侑子は口を開いた。

 

「まず食費が浮くわ」

 

「まずそっちかよっ!」ビシィィイイイ!

 

とにかく、くーが心配で心配でたまらない君尋は次の日、憧れのひまわりちゃんとお昼を一緒に食べるチャンスを得たので思い切って相談してみることにしました。

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