浮かれたいけどくーの事が気になって気になってしょうがない君尋。いつもの自分だったら隣にひまわりちゃんがいることに喜んでいるが今はその実感すらない。
「あのさ、普段ご飯をバクバクおいしそうに食べてた女の子が急にご飯を食べれなくなっちゃうことってあるのかな?溜息ばっかりついてぼうっとしたりして話しかけても上の空みたいな感じで」
ひまわりちゃんは、首をかしげて思った事を口にした。
「うーん、それって『恋煩い』?」
「こっ!恋煩い!?」
君尋の頭に『恋煩い』のデカい字がガーン!と衝撃を与えた。それは相当強かった様で半分君尋は放心状態へと陥った。
「くーちゃんがくーちゃんが俺のくーちゃんが」
頭の中ではなぜか花畑を走るくーを妄想中。ひまわりちゃんはその様をおかしそうに笑みを浮かべながら眺め「四月一日君ってその子のこと好きなんだね」と言った。
だが君尋は放心してるので彼女の言葉は必然的にスルー。彼の頭を占めているのはくーが誰かに『恋』をしたことだけ。ひまわりちゃんはカバンからごそごそと何かをとりだした。
「ね、その子って何座?」
「え?」
「相性占いの本持ってるの、四月一日君はいつ生まれ?調べてあげる」
「ええ、俺?…4月1日…。くーちゃんは……知らなかった。そういえば…」
(俺は何も知らない。くーちゃんの事を)
それもまた君尋にある意味ショックを与えた。
「その子の誕生日はわからないんだ…うーん、私と相性はばっちりなんだけど」
「ありがとう、わざわざ教えてくれて」
「ううん、気にしないで。もしだったらその子に誕生日分ったら教えてあげるね?」
「…うん、聞いてみるよ」
なんとか返事だけをかえすことはできたが、君尋の意識はお店にいるであろう一人の少女へと囚われていた。今もまだ、あの子は空を見上げているのだろうか、と。
学校が終わったらすぐに君尋はバイト先を目指し息が切れるくらい足を駆けていた。玄関を開けていつもよりも早足で開いた襖の先には侑子がぐびぐびと酒を煽るように飲んでいた。
「バイトしにきましたーー!って昼間から酒かよっ!?」
「あらそれがあたしだもの」
「少しはくーちゃんの心配とかしないんですかっ!?」
目線はすでにくーちゃんの背中を捜している。が、ここにはいないらしいと分ると君尋の足は自然に動いていた。そこに侑子が声を掛けた。
「心配したところで解決するものでもないでしょう」
ぐさっ、確かにその通りである。でも、理屈じゃない。そう強く思った彼は、
「そりゃ、そうですけど…でも俺は……心配なんです…」
後半絞り出すように切なげに言ったのを本人はわかっていない。
その様子に侑子は何かピン!とキタようだ。
「アラ…」
口元に手をやり面白そうなもんを発見したような顔になっていく。君尋はそれを訝しみ「……ナンスカ…」と睨んだ。
「…いぃ~え~?オホホホホホ。楽しそうな事でいいじゃない?『若い』って」
「は!?」
「オホホホホホホ」
「モコナもオホホホホホ~」
いつの間にか出現した黒モコナと侑子と同じ動作をして君尋を見やる。
二人?に「オホホホホホ」と言われ続け我慢できるほど君尋は大人ではなかった。
「だから何なんすかっ!?」
笑われる理由が理解できなくて君尋は我慢できずに叫ぶ。
そんな時、黒モコナが突然メキョっ!と目を大きく開き口をぱかりと大きく開け
「届いたー」
とのんきに何かを吐いた。
「何かキター!?」
「さっそく届きものが来たようね」
侑子の手にほい!とブツを渡しモコナは「くーのとこ行ってこよー」とぴょんぴょん飛んで行った。残された君尋と侑子。視線は侑子に預けられた一つの果物に注がれる。
「…それ林檎ですか?」
「サぁ?どうかしら。これで何か作ってよ。四月一日」
「…別にいいですけど…それってどっから」
「小狼達が送ってきてくれたものよ」
「へぇ~、すごいっすね。普通に」
感心する君尋にほいっ!と林檎?を投げ侑子はこんなことをアドバイスしました。
「もしかしたら」
「はい?」
「くーも食べるんじゃないかしら?珍しいものだから」
「すぐ作ってきますっ!」
君尋は音速の如く台所を目指して消えた。独り残る侑子は「フフフ」と妖しく微笑んだ。恋ねぇ~?と思いながら。
◇◇◇
食べて欲しい。いつものくーちゃんに戻って欲しい。
その願いを込めて君尋はいつもより丁寧に心こめて作った。そして、縁側でぼーっと座り込んでいる彼女の隣に座る。彼女は君尋が隣に座ったことに気がつくこともなく空を見上げるばかり。君尋は意を決してバッとくーの前に出した。
くーはいきなり目の前に差し出された皿をぱちくりと見て間をあけて一言。
「……なにこれ…」
「林檎?のコンポートだよ」
なぜ?をつけたかは名前がわからないからだ。でもそこは大した問題にならないのでスルー。くーは興味なさげに一蹴した。
「……いらない…」
だが君尋はめげないしょげないあきらめないの精神で言葉を続けた。
「異世界の林檎らしいよ、小狼君たちが送ってきてくれたんだって。だから「食べる」え?」
言い終わらぬ間に用意していたフォークは消え、目の前のくーの手に。そして彼女はむしゃむしゃごくりと大きな口で食べていた。君尋は驚いて固まって台詞も止まる。
「…おいしい…」
「くーちゃんが、食べた…」
これは奇跡?それともおなかがすいていたから?どちらでもいい。もうなんでもいい。
心底、君尋は思った。
「おいしいね、君尋」
久しぶりに見るくーの笑顔。こみ上げてくる想いが君尋を動かす。身体が動いてただ嬉しかったのだ、彼は。
「良かったー!」
むぎゅっ
「おわっ!?」
「良かった良かったー!」
嬉しさのあまりくーを抱きしめていることにすら彼は気がついていない。
くーは理解できずにただ君尋に抱きすくめられたまま一時呆然。だが悪い気はしなかった。ぎゅっと君尋の首に手を回し
「ありがと、君尋」
と小さく礼を言った。
(迷い子は少しだけ温かさに包まれた)