くーはいつも通りの食欲を取り戻した。最近のくーのマイブームは『八宝菜』。お気に入りなので毎日17人前もりもり食べている。食欲旺盛でいつも食費を圧迫している。
でも本人はまったく気にせずに笑顔で「育ちざかりだから仕方ないよ」と言ってまたご飯食べ始める。昨日まで頑なに食べることを拒否していた本人は
「もごもおごごごご?」『これでおしまい?』
「くーちゃんまず口の中のもの食べ終わってから喋ろうね」
君尋に注意されくーはもごもご言っていた口を閉じ、んぐんぐと飲み込んだ。
そして同じセリフをもう一度言う。空になったどんぶりを片手に首を傾げながら。
「これでご飯おしまい?」
「うんおしまい」
君尋は爽やかに終了宣言を出した。ちぇ~とくーは拗ねた顔して我慢することに。
だってこれからおでかけなのだ。侑子がくーと君尋に言った。
「さっそくくーが元気になった所で占いにでも行ってみましょーか」
「わーい待ってました!おでかけおでかけー」
「は?いきなり?」
なんで?と君尋は突然のことに混乱してしまう。あれよあれよと言う間に、一行はお外へおでかけに。くまさんの耳がついた紫のパーカーを上に着込んで下は黒のプリーツスカートをはいて紫のチェック柄のスニーカーを履いたくーと、いつもの制服におっきなカバン片腕に持ちもう片方の手でくーと手を繋いだ君尋。彼の表情はどこか納得いかない様子で
「なんで俺がコイツ持って行かなきゃならねぇんすか…」
と愚痴る。その隣でくーは無邪気に声を上げて喜んでいる。
「わーい!モコナとお出かけー」
「わーい!くーとおでかけもごっ」
「喋るな!バレるだろ!?」
「アンタがデカい声ださなきゃバレないわよ」
侑子のツッコミに君尋は「あ」と気がついた様子。
すでに行き交う女性たちはモコナをぬいぐるみと勘違いしてそれを君尋が持っていることにくすくすと忍び笑い。だがそれだけが理由ではないらしい。
仲良さげにくーと手を繋いで歩いているので仲良し兄妹と微笑ましいとも見て取れたのだろう。
さて突然のお出かけ先は一体何処やら。
◇◇◇
「そいでどこ行くの?」
「くーちゃん聞いてなかったの?」
「うん腹空いて全然聞こえなかった。君尋~おなかすいた~」
「えっ!ここで!?」
いつものことながら突然である。くーのおなかすいたコールは。が、しかし君尋は思った。
これが俺のくーちゃんだよ、やっぱコレなんだよ!俺が求めてんのは…
「やっぱイイ!」
声に出してることに気がつかないで本人は叫んだ。くーがこうして自分に飯を要求してくることに快感を覚えてきているのだ。これは人を末期症状と呼ぶ。そんな変な君尋を無視して侑子は
「さて…おばあちゃんの家はあっちね」
と言った。が、くーは突如「違うよ」と否定した。侑子は目を細め無言でくーを見つめた。
君尋は彼女の雰囲気がガラリと変わってしまった事に戸惑いながら声をかけた。
「くー、ちゃん?」
「違うよ、そっちじゃない。こっち」
くーはまるで何かに導かれるかのように君尋の手を無理やり引っ張りながら歩き出す。侑子は黙ってそれに続いた。
「くーちゃん…。一体どうし」「静かに」
心配して声を出した君尋に侑子は口元に指先を立てて静かにしろとジェスチャーする。
「え?」
「見なさい。くーは今何かを感じているのよ。声を掛けない方がいいわ」
侑子の言った通り、くーの瞳にさっきまでの無邪気な様子は一切なくまるで神の宣託を受けた神子のように感じられる。まっすぐに目的地が分かっていて迷わずに歩いていき結局住宅街。そして一軒の家の前までたどり着いた。くーはその家の前まで来るとピタリと止まり
「……はれ?…なんでこんなとこ来てんの?」
と周りをきょろきょろ見回すばかり。見かねて君尋が教えた。
戸惑いを無理やり隠しながら。決してくーに悟られないように。
「くーちゃんが連れてきたんだよ」
「ほえ、そうなん?わからなかった」
にへらと笑うくーは、さっきまでの雰囲気がさっぱりとなくなってしまっている。そして家の玄関がガラリと開きある人が出てきた。
「いらっしゃい、侑子ちゃん」
「お久しぶりおばあちゃん」
普段の侑子なら考えられないほどフレンドリーな様子にくーと君尋は顔を見合わせた。
「「?」」
なんか優しそうなおばあちゃんが現れた。
◇◇◇
「くーちゃん、かりんとう食べる?」
「食べるー!」
おばあちゃんはお皿いっぱい入っているかりんとうの山をくーに差し出した。
ニコニコと嬉しそうに食べるくーを見つめ、おばあちゃんもほんわりと微笑み返す。
「さて、じゃあやろうか」
おばあちゃんは占い師だった。
侑子は君尋に本当の占い師を教えようとしていた。偽者ではなく本物を。
おばあちゃんは必要以上の言葉は言わずに君尋にとって本当に聞きたいことを教えてくれた。君尋が今一番聞きたいことは
「…安心しぃ、ご両親はちゃんと成仏されておるよ」
そう、それだった。君尋はおばあちゃんに
「…あり、がとうございます…」
と声を震わせて頭を下げた。
(俺、ちゃんと生きてるから。今、少なくとも前よりは『幸せ』と感じることができてるから。毎日、毎日そう思う。大好きな両親だったからこそそう伝えたいと思ってた。安らかに眠っていて欲しい。それが俺の心に引っかかっていた。だって俺は視えるけど会いたい人は視えないんだ。この力が危ないものなのか、わからない。でも最初からこの力がなかったら侑子さんのお店に行くこともなかった。アルバイトすることもなかった。くーちゃんに、逢うこともなかった。だから、感謝の気持ちで今はいっぱいだ)
思わず零れた言葉は、君尋の本当の気持ちだった。
「俺、両親から生まれてこれて良かったです」
「そうやね~。これからもいい兆しがいっぱいあるかもしれないね~。友達とか。気になる女の子とかねぇ~?」
「え!?気になる女の子!?」
おばあちゃんの言葉に君尋の心臓がドキリ!と高鳴る。そしてなぜか視線はモコナと無邪気に戯れている、くーに向けられた。
「いだっ!蹴るの卑怯だー!」
「モコナ絞め殺そうとしたくせにー」
「してないモン、抱きしめてあげようとしてただけだもん」
「首絞めながら抱き込もうとしてたんだよー」
「モコナの首ってどこかわかんないから別にいーじゃん!」
「酷ー!」
君尋はちょっと首を傾げながら違うような気がしないでもないと思った。
「………ある意味気になってんだよな…」
そう、確かに気になってしょうがないのだ。とにかく。だがこれがどんな意味でなのかは君尋にはわからなかった。
『恋』なんて出だしはそんなもんでしょう。
おばあちゃんと侑子はおかしそうに笑った。
「若いってええわな~」
「若いっていいわね~」
◇◇◇
最後におばあちゃんは君尋にこんな事を教えてくれた。
くーが最後のかりんとうをモコナと奪い合いしている様を微笑ましそうに見守りながら。
「君尋君は、『傍観者』にならんでもええんよ?」
「え?」
最初は何を言っているのか理解できなかった。
「ほんとに大好きな子が困ってんのやったら迷わんで助けにいきや」
「………」
でも大好きな子と言われて、なんとなくわかった。
「苦しゅうて仕方ないかもしれん。その子にとっては必要な『筋書き』なのかもしれんけど、でもその子の苦しむとこ悲しむとこ。大好きやったら見たくないやろ?」
「…はい……」
大切な人ほど、その人が悲しむようなことはさせたくないし見せたくない。出来るなら守ってあげたい。
「やったら、『その時』が来たら迎えに行ったらええ。自分が思うように動いたらええ。『心』は自由なんやから。男やったら気張りぃや?」
「…はい……」
今は『その時』がどんな時なのかわからない。けど君尋は決めた。
『その時』が来たら大好きな子を守ろうって。
(その先で待ち受ける者がなんであろうと、俺は守る)