くーside
「暑い~。ゆうこ~エアコン所望する~」
「………」
日本の夏はとても暑い。じめっとしていてカラッとしていない。実際今ゆうこはくたばっていた。次元の魔女も夏には勝てないらしい。
「暑い~。ゆうこ~エアコン所望するぞ~」
「…………」
屍状態。なので呼んでも答えは返ってこず。屍状態だから。
「暑い~。ゆうこ~おなか減った~」
「五月蠅い、なんかあるでしょうが。勝手に食べなさい」
屍から脱したようだ。面倒くさそうに言い返す。
「え~?メンドイ。ゆうこなんか作って」
「あたしが作ると思ってるの」
「思ってない!」
そこはきっぱり言い返す。だって実際そんなことはないと分かり切っているから。
「だったら我慢なさい」
「できん!」
そこはきっぱり言い返す。だって実際そんなことはないと分かり切っているから。
「四月一日が来るまで我慢なさい」
「え~?君尋いつ帰ってるの?っていうか一緒に暮らせばいいのに」
わたしの疑問にゆうこはなぜか苦笑した。
「帰ってくる、ね。ねぇ、くーにとってここは『帰る家』なのかしら?」
珍しくゆうこの意地悪な質問。わたしはそれが当たり前のことなんじゃないかって思った。だからこう返した。
「違うの?」
と。そしたらゆうこは
「それも『選択肢の内』ね」
とわたしの頬に手を伸ばしてきた。ゆうこの指先はすべすべでほんのりと温かかった。
「自分が壊れてしまう前に逃げることも必要なのよ。くー」
「にげる?」
ゆうこの赤い瞳がわたしを捕捉する。それは『あの人』と同じ紅。一瞬でわたしを束縛するの。
「そう。立ち向かうことも必要。見定めることも必要。逃げることも必要。何か欠けても真実は応えてはくれない。最後を迎える瞬間を見誤ってはいけないわ」
「さい、ご?」
さいごってなに。にげるってじゅうようなことなの?
わたしはわたしの頬を撫でるゆうこの手に縋ってた。ぎゅって。放さないように。
ゆうこはそれ以上何も言わずに黙ってわたしの頬を撫でてくれた。
(ひつようなのはにげること?)
◇◇◇
「暑いから怪談話しましょー」
「楽しそうだから賛成ー」
「かいだん☆かいだん。ドロドロ~」
「いきなりなんですか!?」
君尋がお店に来たとたん二人と一匹のテンションはMAX状態。なんか百物語やるぞ~!という雰囲気になったらしい。
理由?勿論、と侑子は不敵に微笑んだ。どこに向けての視線かわかりませんが角度はばっちり。
「ノリよ」
ビシィイ!
「ノリかいっ!」
暑い中君尋のツッコミは反応抜群。日々の修行のおかげかもしれない。
さ~て。今宵は怪談話に華を咲かせるらしい。
なぜか百目鬼君の御寺にていきなり百物語することになったのメンバーも初対面なわけで、皆浴衣姿であいさつ。髪の毛二つにしばってカランコロンと下駄を鳴らして近づいてきた女の子はぺこりと丁寧に挨拶をした。
「初めまして、九軒ひまわりです。侑子さんとくーちゃんですよね?」
「ええ、あたしが壱原侑子。この子が」
「くーです。よろしくおねがいしまーす。最近のマイブームは君尋から餌付けされることでーす」
なんとも爆弾発言かましてくれるのはたとえ初対面の人の前といえど彼女が独自のスタイルを崩さないからか。君尋にしてみればツッコミどころ満載である。
「くーちゃんそれマイブームって言わないから!」
実際突っ込んでいるし。ひまわりちゃんはクスクスと可愛らしい声で笑いながら優しい目でくーを見つめた。
「可愛い自己紹介だね。四月一日君が気になってしかたないのも無理ないかも」
「気になる?ご飯が?最近流行の料理とか?」
「ちょっ、ひまわりちゃん!?」
意味理解できずに首かしげるくーと慌てる君尋。どっちもどっちである。
そんな二人の背後にもう一人メンバー出現。
「よう」
「あ、…百目鬼」
男らしくびしぃ!と見事浴衣着こなしている君尋の友達?の百目鬼。寡黙な男と第一印象を与えるみたいだが実際はどうであろう。くーはなんかわからんが気に入ったらしく、
「くーです!最近のマイブームは君尋に餌付けされることです!」
と気合十分な大声出して百目鬼の前に立つ。君尋は「ガーン!?」とショック受けて顎外しそうなほど口開ける。
「………」
百目鬼は、キラキラと目を輝かせるくーを見下ろし
「ふーん。よろしく」
とくーの柔らかな髪を大きな手で撫でた。
「はにょーん」
とくーは気持ちよさそうにイイ顔してにやけた。
反対に君尋はさらさらと砂のように抜け殻となった。侑子は意地悪そうににやにやしていた。隠れていたモコナもにやにやしていた。
(四月一日にライバル出現?ウフフ面白そうね)
◇◇◇
メンバーは揃った。侑子にくーに四月一日、百目鬼君、ひまわりちゃんの五人。
本来の百物語は話を百回続けていくというのがルールだが今回は一人一つづつ話をしていこうと言う風に変更。ちなみにくーは除外。なんでかって?
侑子がそういうから。が、素直にくーが従う女の子ではない。
それなりに暴れたくーをゆうこが叩いておとなしくさせてさっきから不満げなくーは侑子を睨んでばかり。ジト目で。だが侑子はスルーしまくり。さて準備はあと蝋燭に火を灯してそれぞれが持っていくだけ。ここでくーが動きました。隙をついて蝋燭を奪い
「わたしも蝋燭持つ!」
と一生懸命主張するもあっさりと侑子に蝋燭を取り上げられ
「くー、アンタはあたしと一緒よ。勿論蝋燭はあ・た・しが持つ♪」
「ムー!毒牙一発ゆうこメぇー!」
「引きずるわねそのネタ。くーが持ってて火事になったら洒落にならないのよ」
くーはビシィ!と手をあげ「じゃあじゃあ!」と言い募る。百目鬼の背中に飛びつきながら
「百目鬼さんとがいー?ねー駄目?」
と可愛く訴える。かなり百目鬼がお気に召したらしい。
「………」
「くーちゃん!俺とじゃなくて百目鬼と!?」
ていうか離れろー!と君尋がキレ気味に叫んで百目鬼を睨みつける。抱きつかれて睨みつかれている本人は無表情。すかさず侑子が「駄目」と叱った。くーは「ケッ」と言いながらしぶしぶ侑子の方に戻ってきてドスっと不満そうに腰かけた。
「さて、始めましょうか?」
百物語のはじまり、はじまり~。
◇◇◇
色々と忙しいことは起こった。それぞれが怖い怖い話をしていって途中で雰囲気がおかしくなって実はと百目鬼が言ったのは隣の襖開いたところに明日葬式予定の御遺体を預かっているという暴露に怖さは本格さを増していって「もうやめよう」と言った君尋に侑子が「途中でやめては大変なことになる」と脅してまた再開させてついに侑子の番になった時に変な気配を後ろで感じていたくーは思わず侑子の腕にしがみ付いていて侑子は振り払う事はせずにそのままに君尋たちに言った。
「うしろの、だあれ?」
と。
それから怖い事は次から次へと起こったが、百目鬼の活躍に無事事なきを得たメンバー。
くーは尊敬のまなざしで百目鬼を見つめ、
君尋は嫉妬の睨みを百目鬼に向け、
百目鬼は面白そうだとくーと君尋を交互に眺め、
ひまわりちゃんはモコナと意志疎通していて、
侑子はおかしな光景にどこか、羨望を含ませた視線で若い少年少女を見つめた。
※
さっき話せなかったことわたしも言うよとくーは淡々と物語を唄う。
「あのね、わたしは知らない話なの。でも鮮明に覚えている気がするの」
異国の地、こことは違う場所で一組の男と少女が結婚式をしていた。
見守る身内は少なく、祝福してくれる人も少ない。
でも男と少女はそれで構わなかったの。たとえ少なくとも自分たちの幸せを想ってくれる人がいるなら、たとえ二人しかいなくともこの先一緒にいられるという自信が少女にはあった。たとえ少ない時間の中自分の命の時刻が刻々と迫っていたとしても目の前の愛しい少女の為に自分を全て捧げられるなら構わなかったと男は思った。
二人はすれ違いながらも互いを慈しんで大切に想ってそれはそれは幸せそうに互いに微笑んだ。そして誓いの口づけが行われる寸前、男は笑みを浮かべたまま白い純白に身を包んだ愛しい少女にためらいもなく短剣を突き刺した。
少女の白いドレスは血で真っ赤に染まっていく。少女は徐々に意識を奪われていく。
少女は自分の中に眠るもうひとりの少女と入れ替わってしまう。少女は躊躇いなく男の心臓に刀を突き刺した。男は自分を刺した少女と本当の意味で最後の口づけを交わしそして嬉しそうに死んでいった。
男は死の間際こう思った。
俺はお前の為に今まで生きてきたんだな。この瞬間の為に生きられた。俺は幸せだよって。
男は笑ったまま死んだ。
そして地に伏した男を見て少女はやっと元の自分に戻る。壊れたように少女は泣きながら叫び続けるのだ
『どうしてこうなってしまったの』
血で真っ赤に染まったドレスは男のものなのかそれとも自分のものなのか
それさえ判断できなくなるほど少女は追い詰められ追い詰められただ叫ぶしかなかった。
天に向かってただ叫び続ける。
『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
少女は、どこかに逃げてしまう。全てを投げ捨てて逃げてしまう。
記憶すらも投げ捨てて。何もかもを捨てて。少女は、逃げる。誰も自分を知らない、追いかけてこられない『世界』へ。
◇◇◇
「おしまい、怖くなかったよね」
「くーちゃん……それって」
「君尋、そんな複雑そうな顔しないでよ。ひまわりさんも百目鬼さんも」
「これはただの『御話』、おとぎ話なんだから」
「………」
侑子だけは何も言わずただ黙ったままだった。
「ただ時々頭の隅に浮かび上がるだけ」
そういってくーは夜空を見上げた。
「ただ、そうおもう、だけなんだから」
スイカをかじりながら、くーはひたすら夜空を見上げ続けた。
(果てして本当に『御話』なのだろうか?)