鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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伏線アリアリ。


08 『唄』

誰かが、唄っていた。透き通るような泉にも勝るであろう透明度の高い声。心にすぅっと溶け込んでいくような優しい声。でもどこか悲しい唄。

 

私はアナタの半身、私はアナタの鏡。求めてください、手を伸ばしてください。

 

私は正義です、私は悪です。私は両方を叶えます。私は賛成を反対をします。

私は全てを受け入れるでしょう。私は全てを拒むでしょう。

 

アナタが千の都市を壊せと言うなら私は千の都市を壊しましょう。

アナタが一万の人を癒せというなら私は一万の人を癒しましょう。

アナタがいて私、私がいてアナタ。

 

私は唄います。私は唄いつづけます。アナタが目覚めるその時まで。この声が枯れ果てようとも私は唄いつづけます。

 

アナタの為に、アナタの為だけに。私はアナタの竜、私はアナタだけの竜。

 

求めてください、手を伸ばしてください。私はアナタの隣にいます、私はアナタの目の前にいます。

 

アナタが涙を零すならそれを宝石に変えましょう。

アナタが血を流すのなら全てをなかったことにしましょう。

 

私はアナタの竜、私はアナタだけの竜。

 

彼のものは唄う。声を枯らし真っ暗な闇の中、孤独に耐えながら翼を閉じて飛ぶことをせず天上に輝くたった一つの明かりの為だけに彼のものは唄いつづける。紅い竜はずっと自分の半身を待ち続ける。

 

◇◇◇

 

ずっと頭の中で木霊する歌声はどこか懐かしくてどこか胸を締め付けられてどこか、愛しくて。

 

「…………あ、…れは…」

 

あれは誰の為に唄っているんだろうかとくーは寝ぼけ眼で思った。けど、唄はもう耳を澄ませても聞こえない。だって

 

「くー!あっさだよ~」

 

ぺしっと黒モコナに顔面を蹴られたから。くーはパチリと意識をはっきりとさせ、応戦する。

 

「おう!?いきなり顔面キックとはやるな~お主!」

 

「きゃ~モコナ喰われるぅ~」

 

「妖怪大食いくー様登場也~!悪い子は茹でてマヨネーズかけて喰っちまうぞ~!」

 

「きゃ~」

 

ぴょーんとくーの上から跳びはねてモコナは廊下へと逃げた。それをくーは布団跳ね飛ばして追いかける。

 

「待て待て!」

ドタドタ

「きゃ~」

ぴょーん、ぴょーん!

「待て待て!」

 

ドタドタ、ドタドタタ!

朝から元気に廊下を駆けまわる一人と一匹に「朝からやかましいわね…」と青筋立てて布団からのそりと起き上った侑子の耳にあの悲し気な唄が耳に入った。

 

『―――――― ――――♪』

 

誰も気がつかない孤独な唄。彼の竜の歌声に耳を澄ませました。

 

「……そうね、たった一人の為に唄いつづける。それは永遠とも同じでしょうね」

 

気がついて私を思い出して。決して強要はしない。ただ気がついて欲しいと願い続けて祈り続けて唄いつづける。

 

「まだ、時は満ちていないわ」

 

誰に言うでもなく侑子はポツリと呟いた。まだあの子は知らない、まだあの子は目覚める時ではない。それでも紅い竜は孤独にたった一人の少女の為に唄いつづける。それが少女の為だからと信じて。

 

◇◇◇

 

今日は天気がいいのでお外でピクニック。公園で野球をすることになったいつものメンバー。くーは声を張り上げて最初はピッチャーの君尋に声援を送る。

 

「君尋ー!頑張れ」

 

「よっしゃー!」

 

次は本命の百目鬼へ。若干先ほどよりも気合が違う。

 

「百目鬼さーん!メッチャ好きー!」

 

「ん」

 

「ぬぁあんとー!?」

 

ガッデム!?と衝撃走る君尋に対し、バッターで赤い斬鉄剣で待ち構える侑子は「フッ」

とほくそ笑んだ。くーは侑子には「紅い稲妻見せてくれー!」と無邪気に声援を送る。

 

「それってジャンル違くないッ!?」

 

見事なツッコミしながらボールを投げる君尋。ボールは剛速球…とはまでは行かなくともそれなりの速さでに侑子に迫る。だが「甘いわ!」キラリンと効果音を発生させ目を光らせた侑子には敵わなかった。

 

カキーンン!

 

何とも聞いていてスカッとする音が鳴りボールは見事空へ飛んでいき、見る見るうちに

ヤバい方向と共にがっしゃーん!豪快に窓ガラスが割れる音がした。

 

「あー!?」

 

「君尋」

 

「くーちゃん?」

 

キラキラと良い笑顔で親指をぐっ!と立てながらくーは君尋に言った。

 

「ドンマイ!」

 

「え?」

 

意味が解らずクエスチョン状態な君尋。

 

「ちょ、俺が取ってくるの!?」

 

悲鳴にも近い彼の叫び声にくーと侑子は打ち合わせでもしたかのような見事な同じ動作でキラッキラな笑顔で「「イエスっ!」」と親指立てて送り出そうとした。

 

「そんなぁぁあああああああ!?」

 

理不尽すぎるぅぅうううと頭抱えて絶叫する君尋は大家さんにしこたま怒られてへこへこ必死に謝った。その間に侑子は

 

「さて快くまで運動して体を動かしたことだしお昼にしましょうか?」

 

爽やかに何事もなかったかのように振舞った。それにくーも両手を上げて

 

「賛成ー!」

 

と大はしゃぎ。百目鬼の腕に嬉しそうに引っ付きながらすり寄る。

 

「百目鬼さんの隣に座るー」

 

「おう」

 

百目鬼は表情変えずに子供用の遊具に腰掛けその隣にホクホク笑顔でくーも座る。

すると、ぴょーん!とモコナも跳んできて百目鬼の頭に華麗に着地。

 

「モコナも座るー」

 

というかモコナはすでに百目鬼の頭の上に座っている。だがくーは気に入らなそうに眉間に皺を寄せた。

 

「ムっ!?駄目、わたしが座るのー」

 

「嫌~モコナも座るの~」

 

というかモコナはすでに百目鬼の頭の上に座っている。

 

「むき―!」「むきー!」

 

似た者同士な少女と黒いのそこに家主に怒られちゃんと平謝りして片付けまでしてさらに平謝りしてボールを取り返して帰って来た君尋が戻ってくると目の前の光景にショックを受けて固まってしまった。

 

「くーちゃんが、俺のくーちゃんが……百目鬼の隣でホクホク笑顔で密着してる………!」

 

「ライバル(恋敵)ね」

 

侑子だけは面白そうにお弁当に手をつけていました。

今日は本当にいい天気。

 

◇◇◇

 

四月一日side

 

異世界にいる小狼君たちから連絡があった。どうやらお城の秘術?とか何とかを突破したいらしんだけどその手だてを侑子さんに頼みに来たらしい。ファイさん?で良かったか、その人が対価として使わない魔法の杖をこちら側に引き渡してきた。そして侑子さんは代わりに黒モコナに食べさせた、この間のアヤカシだった、今は黒い球体を向こうに渡した。話はそれで終わるかと思った。けど、違った。侑子さんはあえて連絡を切らずに向こう側にいるであろう彼女に声を掛けた。

 

「元気にしていた?く」

 

その人はあの最後に派手に登場してきた黒髪に紅い瞳を持つ少女だった。彼女は名を呼ばれるないなや不機嫌そうに見やった。

 

『侑子、…なんで…呼ぶんだ……』

 

その声と表情にはある怒りが含まれていた。関わり合いになりたくないという閉ざされた感情も。でも侑子さんはそんなのお構いなしだ。

 

「アラ?心外。アナタが心配だから声を掛けてあげたのに」

 

『頼んだ覚えはない、サッサと切れ』

 

「い・や♪」

 

『何だと!?…サッサと切れと言っているだろう!?というかそこにあの子はいない事を前提で私に声を掛けたんだろうな?』

 

あの子?とは誰のことだろうか。

その時の俺には分からなかったけど後に誰の事を指しているのかすぐに理解できた。

 

「いるわよ、あっちで無邪気にモコナと戯れているわ。呼んであげましょうか?」

 

『そうか安心…ハッ!?いい、呼ばなくていいっ!?だからサッサと通信を切りやがれっ』

 

必死な形相で怒鳴ってくる彼女は、最初のクールなイメージがどこかに投げ捨ててきたようだった。それでも侑子さんは面白がっている。

ああ、彼女も侑子さんのターゲットにされている。

 

「だからい・や♪」

 

『貴様ァァアアアアア!というかなんで私の躰が動かないんだ!?侑子謀ったな!?この意地悪大酒のみ性悪女!』

 

「オホホホホホホ」

 

『この、毒牙一発女め!』

 

「やかましい」

 

なんかこの台詞、前に聞いたことあるような。というかこのやり取りは俺も耳にしているはず?普段から。そこに騒ぎを聞きつけてきたくーちゃんが侑子さんを追いやるように画面の前に出ようとした。

 

ぐいぐい

「ちょ、コラくー」

にゅっ

「っ!」

 

一瞬、彼女の瞳が揺らいだ。くーちゃんを目の前にしたら。

 

「あ!、あのわたしくーって言いますっ」

 

『………そう、『くー』と言うの。良い、名前ね』

 

安堵と寂しさと悲しさが混じった声。くーちゃんは気がつかずにいる。

当たり前だ、くーちゃんと彼女は出会って、これが二度目なはず。

 

「ありがとうございます!……あの、アナタの名前は?なんていうんですか?」

 

『…私は、…神崎、…天姫。よろしくね、『くー』ちゃん』

 

「ハイ!天姫さん!」

 

また会えて嬉しいとくーちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

でも、彼女はどこか、寂しそうに、何かを堪えている様で必死に笑顔を作っているように見えた。

 

『……っ……』

 

『…天姫ちゃん…』

 

ファイさんが心配そうに声をかけていた。

天姫さんは逃げるようにまだ喋りたいないくーちゃんに背を向けて

 

『………侑子、…礼は、言わないからな…』

 

とだけ残して一方的に今度こそ通信を切った。

 

「ええ」

 

終わった画面に向かって、ただ侑子さんは頷いた。

また、モコナと戯れだしたくーちゃんから少し離れた場所で侑子さんに思い切って聞いてみた。なんだが、もやもやしてしょうがなかったから。

 

「……侑子さん、なんで天姫さん…悲しそうな顔してたんすか?」

 

「さぁ?」

 

「さぁって!?」

 

あれじゃあまるで『他人』以上の間がらだって丸わかりじゃ

 

「四月一日、控えなさい」

 

「え?」

 

「アナタに介入する権利はないわ」

 

「これは彼女が決めた『対価』であり『願い』であり、くーが決めた『対価』でもある。『まだ』、『部外者』であるアナタがが首を突っ込んでいいものではないのよ」

 

「『部外者』ってそんな言い方…」

 

「あたしの話を聞いていた?あたしは『まだ』と言ったわ」

 

「…『まだ』…?」

 

「ええ、『まだ』よ」

 

そういて侑子さんは話を終わらせた。

 

(四月一日君尋は『まだ』部外者。)

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