鸞ト己テリモ積モ塵   作:サボテンダーイオウ

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全てはあの子達の『成長』の為。


09 『竜の娘よ、感謝する』

くーside

 

今日の君尋はやんちゃだ。さっきから百目鬼さんにケンカばっかり仕掛けてくる。眉間に皺寄せてこれでもかっていうくらい怒ってた。

 

「百目鬼てめぇ~、くーちゃんから離れろ!」

「だとさ」

 

百目鬼さんに視線で離れたらどうだ?と言われてもわたしは首を振って

 

「嫌だ」

 

拒否してむぎゅっと百目鬼さんの腕にくっ付いた。そしたら、君尋は頭抱えて

 

「ガッデムっ!?」

 

って叫んだ。面白い、そして何がしたいんだ?なんで百目鬼さんにくっ付いてはいけないのだろう?別に悪い事してるわけじゃない。好きだからくっ付いているだけなのに不思議でたまらない。いつも君尋にくっ付いているのは好きだから。

今日は普段一緒にいれない百目鬼さんだからこそくっ付いていたいのに。

君尋の意図がわからない。ま、いっか!今は百目鬼さんとくっ付いていれていいから。

時々すりすりと顔を寄せると百目鬼さんは

 

「ん」

 

と頭を撫でてくれる。わたしはそれが嬉しくてたまらなくて

 

「はにょーん」

 

と顔が緩む。自然とこうなってしまうのだから不思議だ。まったくもって不思議。ことさらわたしとは反対に君尋はだんだん青ざめていく。しまいには

 

「俺の、俺のくーちゃんが……」

 

と魂半分飛ばし気味。あれ?抜けていく寸前?それは困る、非情に困る。

君尋がいなくなるのは嫌だ。おなかがすいたら誰がご飯をつくってくれるの?

意地悪ゆうこは絶対レトルトカレーで誤魔化そうとするから栄養が偏る。

それは絶対避けなくちゃ。わたしは百目鬼さんの腕を離し、君尋に駆け寄った。

 

「君尋ー、帰ってこいー」

 

今にも召されようとしている君尋の魂の尾をむんずっと掴んで無理やり彼の躰に収める。

 

「……ハッ!?俺は何をしていたんだ?」

 

「君尋ー、家に帰ったらプリン食べたい」

 

ぱぁぁああああああ!

「…うん!バケツプリン作るよ!」

 

顔が緩んで本当に嬉しそうに笑う君尋。なんか機嫌が一気に良くなった。なんでだろう?

わたしもなんだか嬉しい。?なんでだろう?ま、いっか!所で今日は野球をする為に来たわけじゃないらしい。ひまわりさんがゆうこに頼みたいことがあるから来たらしい。

なんかひまわりさんの知り合いの学校で「エンジェルさん」が流行っていて怪異現象が発生しているらしい。困ってしまっているからゆうこに頼みに来たらしい。

とりあえず君尋と百目鬼さんがその学校に行くことになった。わたしも行きたくなってゆうこに頼んでみたら了承してくれた。でもゆうこはわたしに言った。

 

『百目鬼から離れないように。くれぐれも『力』を使いすぎてはダメよ』

 

わたしは意味がわからなくて首をこてんを傾げた。『力』なんてわたし、持ってない。

 

『使ったらどうなるの?離れたらどうなるの?』

 

ゆうこはわたしの頬に手で軽く触れてきて

 

『くー、いいからいう事を聞きなさい』

 

普段のゆうこらしからぬ、強い口調だった。わたしはなんだか不安になった。ぎゅっとゆうこの手に縋った。

 

『ゆうこ?』

『今はあたしが傍にいるから防げているけど、くーも本当は四月一日と同様に』

 

(アヤカシに『いつも』狙われているのよとゆうこは言った)

 

◇◇◇

 

四月一日side

 

気味が悪かった。本当は気乗りしなかった。俺と百目鬼だけならまだしもくーちゃんも一緒に学校に潜入することに。最初に止めておけばよかったと後悔した。止めておけばくーちゃんがああなることもなかったのに。俺達は夜になって怪奇現象が発生するという学校に潜入した。侑子さんに『絶対はずしちゃ駄目よ』なんて言われて仕方なくつけているヘッドホン。が、俺は納得したわけじゃねぇ。というか俺と同じようにヘッドホンをつけているくーちゃんにこそあるべきものだ。

 

「君尋、おそろいだね」

 

「え、あそうだね!」

 

屈託なく笑うくーちゃんに言われれば、これってある意味おいしいよなと思えた。

 

「GJ!侑子さん!」

 

俺は嬉しさのあまり、いつの間にか叫んでいた。そんな俺を残して百目鬼は

 

「届かない…」

 

と門でうろうろしてるくーちゃんに

 

「くー、手、貸せ」

 

と俺のくーちゃんの手を差し伸ばしてくーちゃんは嬉しそうに

 

「かっちょE-!」

 

とその手に飛びついて引っ張り上げてもらい無事門を乗り越えていた。そして、百目鬼に抱き着いていた。

 

「百目鬼さん、おんぶ」

 

「ん」

 

「えへへへへ!」

 

「四月一日、行かないのか」

 

「お、俺のくーちゃんにぃぃいいいいいい!?」

 

ムンクの叫びみたいに絶叫してしまった。だってくーちゃんにためらいもなく触れているのだ。しかも、密着度の高い『おんぶ』を!俺にしか許されない特権をアイツはあっさりと奪った。腸煮えくり返るのをなんとか抑えつつ、俺も門を乗り越えた。

 

「なんか、黒い…?」

 

「だよね~。なんかアレいるし」

 

くーちゃんが指し示した校舎にはまるで大きなとぐろをまいた黒いものが校舎の壁を這っていた。

 

「くーちゃん、見えるの?」

 

「うん!」

 

「そうか、俺には見えないが。それがアヤカシなのか?」

 

「かも~」

 

とりあえず校舎の中に入った俺達。けどすぐに足先はのろくなった。

なぜなら、校舎内は鼻を突くにおいに満たされていて思わず口元を手で覆った。

 

「うぅ、…なんか匂う…」

 

「君尋、手、繋ごう?」

 

「え、う、うん」

 

すると、あれだけ異臭がしていたのがスパッと感じなくなった。なんで?

 

「…あれ?匂いが……無くなった?」

 

「わたしのおかげ?ま、いっか!」

 

くーちゃんはあっけらかんと笑いながら俺の手を引いて暗闇の校舎を迷わず進んでいく。そして、一番、濃い場所屋上に足を踏み入れた。

 

◇◇◇

 

アレは、『残り滓』と後に侑子さんに言われた。エンジェルさんを興味本位でやっていた素人たちが残したモノ。それが怪異現象を引き起こしていた。その怪異現象が、俺に牙を剥いた時窮地を救ったのはくーちゃんだった。いつもの彼女は何処にもいなくて底冷えするような声に、無表情の顔。くーちゃんはただ『言葉』にしただけだ。何もしていない。

 

『消えろ』

 

ただ、『命令』しただけだ。

 

「くー、ちゃん?」

 

くーちゃんはただ繰り返した。『命令』を。

 

『君尋に触れるな、彼に近づくな、視界に入るな、この場所から消えろ、お前たち全部消えろ、邪魔だ、小賢しい、目障りだ、不愉快だ、消えろ、消えろ』

 

その言葉の通り、『残り滓』は苦しみ出した。もがき、もがき苦しみ敵意さえ感じた。けれど、くーちゃんはすぅっと手を翳し

 

『全部、消えろ』

 

その言葉で、全ては霧散した。呆然とする俺と、百目鬼。そこに黒い黒い大きな蛇がやってきてヘッドホンから侑子さんの声が流れたと思ったら蛇は侑子さんからのヘッドホンを丸のみしてぼうっとしたまま立っているくーちゃんをしばし見つめて

 

『――――――』

 

俺に理解できない言語でくーちゃんに語りかけてきてゆっくりと帰って行った。

 

「………はれ?……君尋!」

 

がばっ!急に抱き着いてきて、俺の躰をペタペタ触りまくる。

 

「うわっ!」

 

「君尋、怪我ない?」

 

「くーちゃん…?」

 

くーちゃんは、いつものくーちゃんに戻っていた。

 

「百目鬼さんは~?」

 

「……いや…」

 

「良かったー、……なんかお腹減った…君尋~帰ろう?」

 

「……くー、ちゃん…」

 

「?」

 

お店に帰って、即行くーちゃんは倒れるように眠った。というか実際、玄関で倒れた。慌てて抱き起すと、くーちゃんは完璧熟睡していて俺も正直どっと疲れが出た。

けどまだ俺は帰れないと思った。侑子さんに聞きたいことはたくさんあったから。

 

「無事だったようね」

 

「……くーちゃん、様子が変でした。なんかこう…なんて言ったらいいかわかんないんスけど…とてつもない大きな『何か』に操られていたような……いや、違う……あれは『最初』からある?…のか?」

 

「そう」

 

「侑子さん、くーちゃんは自覚がないんです」

 

それはある意味危険な事ではないのか?あれが無人格であるならば尚更、自覚させた方がいいのでは?

 

「そうでしょうね」

 

「アヤカシは俺だけに惹かれているわけじゃないんですよね?くーちゃんも狙われているんですよね?」

 

「ええ」

 

「だったらっ!?なんで俺達と一緒に来させるようなマネなんかしたんスか!?もしものことがあったらっ」

 

「それが『必要』なことだから、よ」

 

「『必要』?危ない真似をさせることがですか!?」

 

「ええ」

 

「くーの目覚めはまだ来ない」

 

「……侑子さん、一体アナタは何がしたいんですか?」

 

「あたしはただ『願い』を叶えようとしているだけ、全てはあの子たちが願った事だもの」

 

『所詮、あたしも『傍観者』なのかもしれないわね』

 

侑子さんの声が少し、寂しそうに聞こえたのは、俺の気のせいかもしれない。

 

(全ては、あの子たちの『成長』の為)

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