。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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01『対価とはこういうもの』

皆に言っておきたいことがあるの。

ずっと黙ってた、内緒にしてた事。今言わないともう終わりだから私、さ。

そういったら、皆シンと黙った。口を噤んで私を見つめた。

 

『私の対価はすでに次元の魔女に支払い終わってた、貴方達と出会う前から』

 

そう言ったら、愕然した皆の表情。普通ありえないよね?だってまだこうなるなんて予想できなかったはずでしょう?普通は。でも私は普通じゃなかった、状況は定められたものだった。過去から未来へと。最初に出会った時のことを覚えている?

 

サクラを助けようと小狼は世界を渡った。

ファイは彼から逃れようと世界から逃げた。

黒鋼は世界を見てこいと知世から締め出された。

そして、私は狗楽を救う為、三国からやってきた。

 

三国って私の最初の世界ね。そこであの子は自分の体を投げ打ってまで次元の魔女に対価を差し出した。私を家族を助ける為にあの子は身を差し出した。

でも私は狗楽がいなくなるなんて考えられなかった。

呼吸を奪われたも同然よ、だって私が今まで生きてきた理由って『狗楽』の為だったんだもの。あの子がいたからあの子がいるから私は生きてこようと決めた。

なのに、あの子が死ぬなんて考えられなかった取り戻したかった何を犠牲にしてでも救いたかった。だからあの時願った。

寝床で冷たくなった幼い狗楽を見て、医者があの子は死んだと言って

私は紅く紅く輝く三日月に願った、泣きながら衣の裾を踏んづけながら走って走って願った。

 

『私の元から居なくならないで!なんでもするから助けてよ!助けてよ!助けて!誰か助けてぇ!』

 

声が枯れ果てても枯れ果てても叫び続けた。

 

『私の妹、狗楽を生き返らせて…助けて……』

 

縋る者が異形だろうが死者であろうが悪魔であろうが何でも良かった。

誰か応えてくれれば私はそれでよかった。

 

『ねーちゃん』

 

その声は確かに狗楽だった。生きて微笑む私の妹。顔を上げて尚更理解できた、アレハ違う。狗楽ではない、そう頭で理解できていたのに、分かっていたのに私は手を差し伸ばした。

 

「……狗楽…」

 

彼女は当たり前のように笑って、私に手を差し伸べていた。小さい頃の二人に戻ろう、そういっているように見てたんだ。

 

【思い出の中に還ろう、そうすれば何もかも捨てて一緒にいられるよ】

 

そういっているみたいで、私は夢中になって、彼女の元に走った。その時の私はたとえそれが偽物の映像であったとしても縋り付きたかったの。先ほどの出来事は全て夢なんだと言って欲しかった。だから彼女に縋ろうとした。

でも違ってた、当たり前よね。狗楽は確かに死んだもの。死者が生き返るはずがない、何かを犠牲にしない限り。『対価』とはそういうもの。

その声が、見たことのない女の姿が、彼女を遮るように前に立ち、私の手を乱暴に取った。グイッと引きちぎるみたいに痛みが走った。

 

『対価はこれで払って貰ったわ』

 

女は否応なしに私を包んだ。

そして、心を引き裂かれるような鋭い痛みと共に頭に直接叩き付けられる『映像』を視た。

君たちと出会う事、色々な世界で『色』を感じ『温かさ』を感じ『悲しみ』を知り『憤り』を感じ、そしてこの旅を終え三国の世界に戻った後に起こる宴で『曹夏輝』を暗殺し神男とラビットによって『私』は抹殺される。そこで『今』の私が終わるの。

勘違いしないで。やんでる訳じゃないし、死にたがりなわけじゃない。

ただ必要なものが私自身なだけだから、の全てを対価にしてあの子を救うと決めた。

たとえ狗楽でなくなったとしてもあの子は私の大切な妹。『人形』として生まれたんだとしても何よりも大切なの。

 

私はあの両親にとって『人形』としてでしか愛されなかった。

私の代わりが見つかったから簡単に捨てられた。

私のようになって欲しくない、狗楽には『人』として歩んでほしい。

今度こそ、成長してほしい、あの子なりの考えを持って。

『私』に縛られないように、ワタシ』から逃れられるように、あの子なりの幸せを見つけて欲しい。そして、出来るならば『私』を忘れて欲しい。

もう、あの子の人生に私は必要ない。あの子は守られるだけの『子供』じゃなくなった。

私の存在理由に値する『子供』じゃなくなった。

もう『大人』なのね、そう感じたらスッとした。今まで執着してた分、こうアッサリ感じられるとは思わなかったけど。

 

目をえぐられようが耳を斬られようが鼻を削がれ口を引き裂かれ四肢を切り落とされ臓器を引っ掻き回されようが心臓を喰われようが何をされても私はあの子を救う為なら全てを捧げる。大切な仲間たちとの思い出さえも全てくれてやる。

 

侑子は言ってくれたわ。

 

『時が満ちるまで傍に置くわ』と。

あの子に必要なものをじっくりと与えてあげられる、の子が大切だと思えるものをかんじさせてあげられる。侑子だから託せた、あの子を傍に置いてくれる。

今の私が消えてもあの人が覚えていてくれている。私は本当に最後の意味で貴方達と共に歩めない。脱落しちゃう。でもどうか悲しまないで 苦しまないで。私は最後の瞬間、こういうわ。

 

『貴方達の終わりなき旅路に『光』あれ』

 

もし貴方達がどこかの世界でどこかの国のどこかの場所で記憶がない私と出会った時、笑ってこう言って。

 

『君は、ホントに破天荒だね。お嬢さん』

 

そう言って無理やり笑った。でも皆笑わない、唇を噛んだり泣きそうに口元を覆って必死にこらえていたり、瞼を伏せて苦しみを隠したりしてた。

 

小狼、サクラ、黒鋼、ね笑って?ね、笑ってよ。

じゃないと私も笑えないだから、ね?ファイ

 

震える口から洩れたのはその言葉。今、私震えてるみたい、その理由、ね。

別れがつらいからじゃない思い出が消えるからじゃない

君への想いを忘れてしまうから

貴方の手が私の頬に触れて吐息が混じりあうほど近くなって

 

『君って残酷だね』

 

彼は絞り出すみたいに言った。私はそれに目を細めて彼の手にすり寄るようにして両手を添えて『だってこれがワタシだもの』と言った。

そう、神崎天姫は残酷で酷い女なのよ。

 

(終わりの始まり)




設定

神崎 天姫

19歳
黒髪に紅い瞳を持つ少女。
自分の妹の為『対価』を支払って『旅』に同行する。必要以上の馴れ合いを嫌う。
武器は日本刀『月光』。
何らかの形で次元の魔女と繋がりがある。妹の名前は『狗楽』。
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