。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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11『二人のマリオネット』

天姫side

 

気を利かせたつもりだった。けど本当は違う感情も入ってた。

たとえサクラちゃんが思い出せなくても、二人は手の届く距離にいるから。

面と向かって話せているから。私はそれが羨ましくて眩しくて、同時に妬ましいとも思ってしまった。こんな汚い感情を持ったまま、二人の邪魔をしてはいけない。

何より、私自身が耐えられなかった。湖から少し離れた森の中で、私は独り立ち尽くした。

 

なんだ、結局私は嫉妬してたんじゃないか。小狼君に。

優しく接してる裏で、メラメラと嫉妬心を燃やして、笑顔繕って、巧みな言葉で仮面作って、好印象与えて?…馬鹿みたい、馬鹿みたいだよ。あまりの馬鹿さに反吐が出る。自己嫌悪か。くしゃっと自分の髪を掴んだ。

なんて嫌な女だ。なんて、最低な奴だ。と自分を愚かさを嘆いて。

 

「だから君は猪娘なんですよ、君は。まったくあの時から進歩していませんね」

 

……耳に聞き覚えるのある声が、背後からした。

この声はたぶん一生忘れない。

忘れられないほど、インパクトを与えるに相応しい人物の声だからだ。

いるはずない、こんな場所に。

そう思いたくても、声は私を呼ぶ。

 

「………なんで、アンタ、が……?」

 

その男は姿形変わらずに、あの頃のまま存在していた。

年も取らず、まるでその男自体の【時】が止まっているかのように。

アリエナイ、ありえない在り得ない。

この言葉ばかり脳内は埋め尽くされて思考停止。

私があだ名をつけた男。【ウサ男】はあの頃と変わらない毒舌さと、よくもまぁ舌が回る口達者で私に数年ぶりの挨拶をする。勿論、彼なりの方法で。

 

「私は仕事が忙しいんですよ。君に逢いにくる暇などないというのに、口うるさい上司が貴方の様子を見て来いとしつこくいので仕方なく来てしまいましたが。……また君は相変わらず突っ走りの人生を歩んでいるようですね。さすがです。見事なまでの君の空回りに盛大な拍手をしたい所ですが、君の為に仕事で忙しい私は拍手を送る暇がないで代わりと言ってはなんですがヘソで茶が沸かしてあげしょう」

「……アンタ、神出鬼没ってわけ?」

 

昔から歳も取らない見た目で若い若いと思っていたが、今私の目の前にいるウサ男は以前とまったく、何も変わっていない。

 

「アンタとはなんですかアンタとは。まったく口の利き方に気をつけなさいとあれほど頭スリッパで叩きながら教え込んだでしょう」

「えぇえぇ!今でも思い出せますわ。きったねぇトイレのスリッパで叩きやがってこの野郎!後から知った時何回、いや頭皮はげるんじゃないかってぐらい髪洗いまくった今でも私の中で最悪の出来事ワースト10の中に入ってるって事ぐらい感謝してますよぉ?ああこの陰険野郎が」

「猪娘が今だにそんな些細な事を鮮明に覚えているとは、根暗なのもその性格ぐらいで大概にしておかないと周りの人間がひきますよ。いやすでにもうひいているのか。良かったですね。これ以上ないくらいもっと変人扱いされればその内ギネス扱いにされますよ」

「はははその程度の悪口で私がへこたれると思ったら大間違いだぞ鬼畜眼鏡こちとら壮絶な人生歩んでんだぞコラおう?半分以上はアンタの所為だどう責任取ってくれるんじゃコラぁ」

「まったく汚い言葉使いを堂々と使い込んで君はそれでも女性ですか?……一応女性ですね」

「私が男だっていうんかい」

「いいえ。貴方は男性にしては小柄でしょう。まぁ、頑張って可愛い女装少年って所でしょうか」

「んな回答求めてねぇよ!」

「しかし、君も無駄な事をわざわざ選択しましたね」

「……どういう事よ。わざわざ妙な現れ方までして、何がいいたいのよ」

 

もう疲れた。この際奴の素性などどうでもいい。

不思議な奴だから、不思議人間ということで無理やり納得させた。

問題なのは奴が、どうして私に逢いに来たか、だ。

 

「ただ、真実を知らぬまま死ぬのはあまりに不公平のような気がしまして。どうせだ。もうすぐ死を迎える君の冥土の土産にでもなれば、と思ったまでですよ」

「………アンタ、人を馬鹿にするのも大概にしなさいよ…」

 

そんな、軽々しく言うな。

言われたくない、何も知らないくせに。

私の死を、まるでゴミ箱に捨てるごみのようにあっさりというな。

私の死は、あの子を救う唯一の手立て。他に方法なんかない。あったらとっくにそっちを選んでる。私だって死にたいわけじゃない。けど死ななくちゃあの子は助からないんだ!

あの子を侑子に託す事で、【対価】として自分の命を差し出したんだ。

それを、この男はっ!

 

「おやおや、感情を高ぶらせるのは良くないですよ。只でさえ君は、蒼龍をコントロールする術を持たない。それは自身の身を危険にさらすだけです」

「五月蠅いっ!!今ここでアンタを抹消してやる事だってできるんだからっ!!……私の前から消えるか、その命無駄に散らすか、選びなさい」

 

蒼龍の事まで知っているとなると、もはやアイツと関連を持っているとも考えられる。

腰に装備した月光を鞘から引き抜き、奴を標的に構えを取った。

いつでも、飛び出せるように。

 

「私を殺めますか。君にそれができますか、神崎天姫」

「できるわよ、私は私の道を否定する者を許しはしない。逃しも、しないわ」

「そうですか。それが君の決意ですか……。わかりました、お望み通り消えましょう。私はもう二度と【君の前】には現れませんし会う事もありません。ただ一言だけ、君に送ります」

「君は―――――」

 

『ぷつっ』

 

まるでテレビのコンセントの線を抜くみたいに、私の中から何かが抜かれた。

 

その言葉が、一体なんだったのか。

その時の私にとって相当ショックを与えたというのは間違いないのだ。

カシャン!

月光が、手から滑り落ちて地面で音を立てたのも覚えている。急に力入らなくて握っていることもできなくなったのだ。どうしてか、理由が思いつかない。ただ、なんとなくだが、何もかもが止まったように思えた。私の中で、何かが止まった感覚がある。

ウサ男は自分の言いたい事だけを私に言い放って勝手に消えた。あっさりと。

 

「では。お元気で」

 

奴は、消えた、んだと思う。

断定できないのは、覚えていない。一切記憶がないのだ。

気がついた時、地面に座り込んでいてすぐそばにファイが顔をのぞき込んでいた。

私は「ぎゃあ!?」と乙女らしく悲鳴を上げ、立ち上がり慌てて彼から距離を取った。

 

「ななななな、アンタァ!何してんのよっ。ハッ!?まさか闇夜に紛れてまた変な事しようと!?」

「………天姫ちゃん、本当にオレと一緒にいたさっきの事、何も覚えてないの?」

 

ファイが膝をついたままの形で妙な質問をしてきたけど、私は自分の躰を守りながらじりじりと後ろに下がった。

 

「はぁ?何言ってんの?ちょっと一人でぶらぶらしてたけど、気がついたらアンタがいたんじゃないの。言っときますけどそう何回もひっかかると思ったら大間違いよ!?」

「……………」

「…………何よ、じろじろ見て……」

 

へにゃり。

いつもの緩み切った顔になり、ぱんぱんと手で膝についた土を叩いて立ち上がった。

 

「……ううん、なんでもない♪さぁ、サクラちゃんたちも心配してるから行こう」

「言われなくても行くわよ……」

 

私に向って差し出された手は、やっぱりスルーして先頭を歩いた。

後ろからファイは間を作って歩いてきた。

なんだか、誤魔化されたような気がしたのはきっと気のせいだと自分に言い聞かせて。

【霧の国よ、さようなら】

 

 

ファイside

 

黒りんと楽しく探索中に、突然湖方面からの大きな光にオレたちはすぐに何かあったと察知して元の場所に戻った。その間に目も眩むような光は消えつつあり、サクラちゃんはサクラちゃんでぐっすりとよく眠っていて、一緒にいたはずの天姫ちゃんの姿は何処にもなかった。

何かあったのか、と妙な焦りが生まれてオレは心配になり探しに行こうと足を動かした。

黒鋼は別にどっか言ってんだろ、と軽く言うけど、オレはどうにも気持ちが騒めいてしかたなかった。

 

なんだろう、この感覚。初めて、かなー。自分以外の他人をこんなにも心配してるオレがいるなんて。でも戸惑うとかそういうのは全然ない。むしろ納得してるかも。だって、なんだか放っておけないもん。あの子は見た目以上に危なっかしくて、脆すぎだから。

 

その時、ちょうど湖に潜っていた小狼君が大きな光る魚の鱗を一枚持って上がってきた。

どうやら湖の中で見つけたらしいけど、さっきの光は湖の大魚が発する光だったみたい。

おっきなおっきな魚だったって小狼君はちょっと嬉しそうだった。

冒険心を擽られたのかも。

小狼君が天姫ちゃんがいない事に気がついて、まだ戻って来てないんだと呟いたのを聞いてオレはあ、もしかして小狼君とサクラちゃんに気を遣って二人っきりにさせたのかな?って考えが生まれた。

だって、天姫ちゃんが眠ってるサクラちゃんを放置して勝手にどこかに行くほど無責任だとは到底思えない。

彼女がサクラちゃんを見る時の視線は、とても優しいもので、まるで自分の家族にするように接しているし、何より天姫ちゃん自身がサクラちゃんに過保護のような気もする。

大切に大切にしたい。

そういう気持ちが傍で見ているこちらにもビシビシ伝わるくらい。

それは小狼君にだって同じことだ。

彼の置かれている状況に同情していない素振りをみせて、冷たくしてる風を装っているけど、彼と会話するたびに接している度にわかる隠しきれていない彼女の優しさと不器用さ。

オレは、ここまで素直で不器用すぎる女の子に出会った事がない。

 

「ちょっと天姫ちゃん探してくるね。だって次に行かれなくなっちゃうしー」

 

次なる世界に旅立つ為には彼女がいないと始まらない。

そう言葉ではいうものの、実際はただ心配だから捜したいって気持ちの方が勝ってた。

 

 

湖からそれほど遠くない場所で天姫ちゃんの姿を見つけたのは、数分ぐらい捜し回ってからだ。暗い森の中、ゆっくりとこちらに歩いて来る彼女。

一体何をしていたんだろうか。

訊いてみたいものの、また天姫ちゃんは『関係ないっ!』って怒鳴るんだろうなと勝手に予想。

 

「天姫ちゃん随分と遅かったね~」

「………………」

 

オレの脇を素通りして、天姫ちゃんは歩いて行く。あれ?また機嫌が悪いのかな。

無視されちゃったみたい。まー、いっか。無事な様子だしオレは後ろから彼女の後に続くことにした。けど様子が変なのは一目でわかった。

 

まず彼女の足取りがおかしいのだ。ふらっ、ふらっとした安定性のない歩き方。右へ行ったり左へ行ったり。まるで夢遊病者のように意識がないまま目的もなく歩いているみたいで様子がおかしい所の話じゃない。オレは彼女を止める為肩を掴もうと腕を伸ばした。すると天姫ちゃんは、急にへにゃりと力無くその場に座り込んだ。

 

「天姫ちゃん!?」

 

オレはすぐに天姫ちゃんに駆け寄った。大丈夫?そう、訊ねるつもりだった。

けど、言葉にできなかった。彼女はオレを見ていないから。彼女の表情は生気が抜け落ちたかのように、無表情で、瞳からは光が消えていた。

 

「……………」

「私が、私が………」

「……私の、生きてきた意味って何」

 

オレがいることすら彼女は気づかずに、両手で顔を覆いながらブツブツと独り言を繰り返す。

 

「私が生きてきた意味って何なの」

「天姫ちゃん」

「私は死ななきゃならないのよ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃじゃあアレはなに???」

「私が死ぬのは決まっているんだ。なのに、どうして私が存在するっての?私が死んだ後にどうして【私】が存在できるっていうの?何で私が【   】存在なの?」

 

彼女は正気じゃなかった。狂っていた、とも表現できる。両耳を抑えて抑えて体を丸めて首を小刻みに振り続ける。

 

「天姫ちゃん!!落ち着いてっ!!」

「………嫌イヤイヤ嫌いやいや信じない信じない信じない信じない!!」

「全部ゼンブ全部嘘よ、嘘よ嘘よぉぉぉおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ――――――――!!」

 

彼女は誰にいうでもなく狂ったように叫んだ。息継ぎさえ忘れてしまったかのように、ただ叫ぶ。オレの声は彼女に届かない。その後、天姫ちゃんはいつもの天姫ちゃんに戻った。オレの前で豹変していた事、オレと会うまえにあったと思う記憶、その間に起こっていた出来事を天姫ちゃんはすっぽりと覚えていなかった。

【心の傷】

 

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