天姫side
私たちが次なる世界についたのは寒い寒い真冬の国、ジェイド国だった。
最初に降り立った町で私たちはとりあえず暖を取る為、酒場に立ち入ることにした。
だが、当然の如く私たちは無一文でこの国の通貨どころか、衣服さえ異国の物で
遠巻きに人の視線を集めるのは仕方ないの事。
読めないメニュー表片手に、とりあえず食べれる物と酒場の亭主に注文をして食事をとることした。もう一度言っておくが、金はない。
ならば食事代はどうしたか。即ち、ないならば稼げばいい!
幸いここは、娯楽の為に賭けをする連中が多い。
サクラちゃんのミラクルな部分がもっとも【キラッ?】と輝くに相応しい舞台とも言えるだろう。
「あの、全然ルールとかわからなかったんですけど、良かったんでしょうか?」
「いいのいいの。サクラちゃんが頑張ってくれたおかげで食事代も払えるしこの国の服も買えるしね」
結果、大負けした男たちから容赦なく、がっぽがっぽとお金を回収して袋にきゅっ!と詰めるファイと、こてんと首を傾げては申し訳なさそうな顔をするサクラちゃん。
どきゅん!その顔、可愛すぎ……。思わずぎゅっとしたくなりそうでした。
でもここは抑えて抑えて!なんとか平静を保ちつつ、
「さすがサクラちゃんね」
と軽く褒めるだけにしておきました。だが心のなかじゃ猛烈に
『あーもう可愛すぎー可愛すぎ可愛すぎ―――!』
とこの胸に抱き締めて頬ずりしたい衝動にかられていた。
だが、奴がいた。私の肩に乗っかりモコナがのんきに、でもずばっ!と、
「天姫悶々してるー。じゃあモコナが天姫の心を表現してあげるー。モコナ108の秘密技のひとつの超演技力でもごっ」
「やらんでええわ――――!?」
フッ、お前がそう行動することはわかっていた。だから未然の防げたのもそのおかげよ。
いつまでも学習しない私だと思うな!
「ふふふ、あーはーっはははははは―――!」
「天姫さんあんなに笑って…楽しいんだね」
「あの、さくら?ちょっと違うと思いますけど」
「黒くろー食べ過ぎだよ~」
「へっ!」
「モコナも食べるー!」
私の事など皆は見事無視してくださいました。
ははは、めげないさ。孤独になるってこんなもんだからさ。
【ジェイド国にいらっしゃーい】
※
むか~しむかし、北に位置する小さな町のお城にそれはそれは美しい容姿に長い長い金の髪を持つ姫がいたそうな。ある日、姫の元に一羽の鳥が飛んできて、輝く羽根を授けた。
『この羽根を貴方にあげましょう』
姫は鳥から羽根を受け取った。
その羽根はある『力』を秘めた羽根だそうな。
姫が羽根を受け取った、次の日、王様とお后様はパタリ、と突然、死んだ。
次の日からそのお城の主は姫になった。
そしてその羽根が姫の手元に渡ってから数日後、城下町の子どもたちが次から次へと消えていくという出来事が起こった。まるで煙にでもまかれたかのようにあっという間に子供たちは消え、二度と帰ってこなかったという。
それ以来、北の町には恐ろしい伝説として恐々と語り継がれている。
と!酒場のおじさんが教えてくれた情報を元に小狼一行は装備を整え馬を調達し、一路、しんしんと雪が降る中、馬を進めていた。
サクラは当然の如く小狼とともに馬乗し、黒鋼はギャーギャーやかましくモコナと楽しげ?に、そしてファイはにっこにこな笑顔で手綱を握り彼の前にちょこんと座る少女、天姫は「クソクソクソクソクソクソクソクソ」とひたすら口にしていた。
本当は一人で馬に乗りたかったのに、馬を四頭も買うとなると大変だし、何よりがファイに「お金の節約だよ!ね~?お金大事だし~」と言われてはぐうの音も出ない。
確かにお金は大切であるし、何より【節約】という二文字にグサッときた天姫は、何も言えずに黙って従うしかなかった。
黒鋼はお断りだしかといって小狼は当然サクラを乗せるのは考えるまでもなくわかりきったことであるし、なら徒歩か?と問われれば…否!というしかない。
この雪道に徒歩など自殺行為である。
ならば、残された選択肢はひとつしかない。
「天姫ちゃん、寒くない?オレが温めてあげ「結構!」最後まで言わせてくれないところがいけずぅ~」
「誰がいけずじゃっ!」
クソ寒いのを我慢して我慢して本当はファイから手綱を奪って蹴り倒して馬乗から落として尚且つ高笑いして見下ろしてやりたいものをサクラちゃんがいる手前、それすらできないので胃をキリキリさせながら我慢我慢と耐えていたものを、この男はまったく関係なしののほほん面で天姫を構うので天姫のイライラはマックスに近かった。
「ほらほら!天姫ちゃんがぷんぷんしてる間に着いちゃったよ。あそこだね」
「誰がぷんぷん可愛く怒ったよ!?」
「五月蝿い、暴走娘」
「誰が暴走娘だって!?黒鋼っ」
「あれなんて書いてんだ?」
「無視すんなっ!」
「SPIRIT……って読むと思います」
「すごいね小狼君。読めるんだ」
「はい、父さんから教わったのでたぶん、そう読むんだと」
「いいよいいよどうせ私なんて……」
「天姫が落ち込んだ。面白ー」
「この白まんじゅうめっ!」
ってな感じで小狼一行は北の町、スピリットに着いたのであった。
だが町の中に入ってみると、どうにも歓迎されている気配はなかった。
小狼たちが入ってきたのを見た町の住人は彼らの姿を確認すると、次から次へとバタ、バタ!とドアや窓を閉めていくではないか。まるで何かから怯えているかのように。
それらに反応するかのように前方で待ち構えていたのは銃を構えた町の男たち。
彼らは私達を見るいなや、銃口をつきつけ威嚇する。
何をしに町に来た!?と怒鳴りながら。
それに機転を利かせてしれっと答えたのが小狼くん。自分たちは本を書いている、と。訝しむ男にファイが書き手であって自分はその助手と説明し、あとはファイがつらつらと後を引き継いで話をした。
「その子がオレの可愛い妹でーその子が優秀な助手でーこっちの怖いのが使用人でー」
「誰が使用人むぐっ」『ぱしっ』
ナイス!モコナよ。黒鋼が完全に言い切る前に口を塞ぐことに成功した。
中々いい仕事するじゃないか!思わず『ぐっ』と親指を立てそうになったが、すぐにそれはやめた。だって、コイツの紹介がまともなわけがないのだ!
「でーこの黒髪の綺麗な女の子がオレの婚約者むぎゅ」
「どうもどうも通りすがりの花売り娘でございますー冬なのに花売り娘か?と思われたかもしれませんが冬はお花がないので休業中なんですーこの人の言っている婚約者ってのは真っ赤な嘘冗談作り話いえいえ笑い話ですのでお気になさらずーというか笑い飛ばしてくださいないやいやむしろ脳から抹消してくださって結構ですので。おっ―――ほっほほほほほほほ!」
さすが私!いち早く奴の口に袋から取り出した非常食用のパンを素早い動きで突っ込むことと同時に奴の言動を訂正するために早口で喋る事によって見事成功を成し遂げた。それに私の完璧な演技に村人たちもすっかり信じ切った様子。ここはもっと私の演技で彼らの敵意を削がねば!
「おっ―――――ほっほほほほほ!」
「「「………………」」」
ほらごらんなさい。皆一斉に無言になったのだもの!
というか、先ほどまで向けていた銃をだらりと下げたし。
これは私の演技にすっかりはまって戦意喪失したという事ね!?
「わー天姫の台詞に皆ドン引き~?」
「なんですって!?私の演技が失敗したとでもっ!?」
この白まんじゅうめ!何を言いだすか!?私の演技は完璧なはず………。
そこでハタリと我に返った。
ファイがにへらにへらムカつきに笑いながらズバッと指摘してきた。
「天姫ちゃーん、皆怖がってるよ?」
え?
そう言われれば、先ほどまで距離が近かった彼等との間に少しづつ差が生まれているような?……もしかして、後ずさりしていないか?
どうして後ずさりする必要がある。それを行うのはむしろ銃口を向けられている私たちの方ではないか?
あ、気がついちゃった。気がついちゃいました。気がつきたくなかった。
つまり、またやってしまったようだ。私の悪いクセ。通称、突っ走り。
「はぅ!?」
ファイに痛い所突かれてしまった。思わず馬上で呻くしかない私である。と、ここで間を割って入るかのように乱入してきた眼鏡をかけた男性。
「何をしているのですか!?皆さん、銃など持って」
すると、ある村人の男性が
「先生……!」
と呼び駆け寄った。別の男性も次いで、
「あの娘が、頭がイカレる感じでその、不憫で仕方なくてなぁ……」
と同情するかのような声で言うし、
「先生、診てやって下さいよ」
「なんですって!?患者は?」
といつの間にか誰か精神病患者でもいるかのような話になっている。
一体誰だ!?と周りを見るうちに先生とやらと視線がぱっちこん☆彼はツカツカと私とファイが乗る馬に近づいてきた。そして何をするかと思えば、私の方に近づいて随分と慌てた口調で、
「ああ、貴女ですか?急いで診察をせねば…。早く村に入ってください!」
と村に入るよう促した。村人たちも無駄だったなとか、可哀想に、とかそれぞれ口にしながら散り散りになってそれぞれのお家へ戻っていく。え?私?私なんですかそれ?
「良かったな。これで村に入れるぞ」
黒鋼は先にパカラパカラと馬を進め、
「イカレた花売りの娘に感謝感謝だねー」
ファイはさすが天姫ちゃんと相変わらず貶してんだが褒めてんだかわからない感想を漏らしながら同じく馬を進め、
「ファイさん、それはあってますけどちょっと言い過ぎじゃ…」
小狼君はフォローのつもりでも全然フォローしきれてないむしろ傷口抉ることを平気で言うし、
「そうです!ファイさん。天姫さんはイカレるじゃなくて最初から天姫さんなだけですっ!」
とサクラちゃんが私を庇ってるように見えて、実はさらにぐさぐさ!くる一言を必死に言ってくれたので私はようやく気がついた。
「って私なんかいっ!」
びしぃぃー!
思わず即行突っ込んでしまった。
【イカレタ娘一向のおなぁ~りぃ~】