。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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17『帰る場所』

私が生きると決めたのは幼少時にある女が教えてくれたからだ。私には生きるという意味が見いだせなかった。状況が状況なのだから仕方ないと言えば仕方ない。でも生きる屍に生きろと言うのは酷な事ではないか?全てを諦め絶望しきっていた真っ暗な世界から一筋の光を望めと言う。それは目が眩み立っていられないほどの強烈な光で私には到底手に届かないもの。最初から望むことなど考えていなかった。

愛などと不確かなものに惑わされ騙され虐げられてきたのだ。すんなりと信じれというほうが疑わしい。

けど、でもその時の私はすんなりとその教えを飲み込んだ。

 

与えられる【愛】が幻ならば、与える【愛】を造ればいい。

自分の手で【本物の愛】を。

そうすればそれは【不滅の愛】となる。

満たして満たされ持ちつ持たれつの理想とも言える関係へと繋がる。

憧れていた、ずっと待ち望んでいたもの。それを自らの手で生み出すことができた。

あの女、緋奈には本当に感謝の念を抱くばかりだ。本人は二度と会うことはないと言っていたし、私も熱烈に再会を望むほどでもない。

ただ、今の私を見て欲しいという気持ちと少しある。あの頃のちっぽけでガリガリだった比べようもない私と今の決意に奮い立つ私を。

ありがとう、緋奈。本当に感謝してます。あの出会いを私はいつまでも忘れない。

絶対に諦めないよ。

誰にも奪わせはしない。私の生きる意味を。

もし、仮に、あの子が命を失うのなら。

私は消えると思う。空から舞う雪のように、何も残さずに綺麗さっぱり消える。

からっぽになってしまった私には、生きる指針がないのだから。

 

 

昨夜の出来事などまったく存在しなかったかのように今日は訪れる。期待の新人コンビ、小狼と黒鋼は市役所へ鬼児の情報を聞き出す為に朝から出かけることに。不服ながらもファイに一足早く早起きされて天姫も慌てて朝食の支度を手伝った。そしてファイの料理の腕前に心底驚いては悔しそうに睨むばかりであった。だがファイは気にした素振りもなく機嫌よさそうに天姫と並んで準備をした。サクラは昨夜のアレで今だ夢の世界に浸っている。天姫も起こしに行くという事はあえてしない。これから忙しくなるのだから時間が許す限り寝かせてあげようという気持ちなのだ。ファイの隠れた才能によって朝から豪華な朝食に小狼も目を丸くさせて驚いた。黒鋼には洋食風にはお気に召さないようで渋い顔付きで黙って黙々と口に運んでいた。そんな和やかな朝食も終わり、さっそく二人は出かけることに。

 

「行ってらっしゃい、小狼君」

「あ、い、行ってきます」

 

天姫の送り出しに若干照れ気味ながらも挨拶を返す小狼。ついで天姫は黒鋼にも声を掛けた。

 

「怪我しないようにね?黒鋼、アンタ危ない真似させないでよ」

 

案の定、黒鋼は不機嫌そうに天姫の台詞に噛みついた。

 

「アア?知るか。指図すんじゃねぇよ」

「なんですって!?」

 

これも売り言葉に買い言葉。分かりやすいほどに天姫は眉をしかめて黒鋼に食って掛かりそうになった時にタイミングよくファイが間に入った。「どーどー」と天姫を宥め、

 

「ケンカしないでしないで。ほら!行っておいで」

 

と早くいくように二人を促した。小狼は勢いのままに返事を返し、

 

「は、ハイ!」

「っけ」

 

黒鋼は吐き捨てるように一言だけ残した。天姫にちろっと視線を向けて。主に小馬鹿にした印象である。

 

「この最後までアンタは!」

 

天姫の怒鳴り声などまるで気にした素振りもなく、さっさと出ていく黒鋼の後を追いかけるように小狼も慌てて出ていく。去り際に「行ってきます!」と元気な声を出すのも忘れずに。

 

何とか気を落ち着けさせた天姫は手を振って笑顔で見送った。カランカラン、とドアの鐘が鳴り二人の姿は完全にドアの向こうへ消えた。天姫はふぅと小さく息をつき、閉まったドアをしばし見つめた。すると背後から何とも意味深に呟く声がする。

 

「行ってきます、かぁ」

 

ファイだ。

何を思ってかは知らないがなんとなく、なんとなく気になったので尋ねてみることにした天姫。別に他意はない。ちゃんと受け応えしてやらないとファイがうるさいからだ。構ってちゃん状態になると手がつけられない。ならば後々の事を考えてちゃんと受け応えしておいた方が身のためにもなる。

 

「何よ」

 

でも素直じゃないので仏頂面に仕事に取り掛かる。小狼たちが食べて行った食器を片づけなければならない。出された物はちゃんと最後まで食べるという作ったものへの敬意というものを黒鋼はちゃんと理解しているようだ。彼のお皿は全て綺麗に空となっている。勿論育ちざかりの小狼も同様である。天姫は満足そうに一人頷いて食器を重ねていく。そんな彼女の様子をファイはカウンターに肘をつきながら見守った。

 

「なんだかほんわかするよねぇ。帰る場所があるっていうのが」

「帰る場所がなかったら寂しいでしょう。それに、サクラちゃんのいる場所が彼の帰る場所なんだもの。間違ってないわ」

 

そうなのだ。小狼はサクラの為に旅を続ける。一人の少女の為に対価を支払って望んだことなのだ。その彼が唯一帰る場所こそ、サクラの元。

 

「帰る場所、か」

 

カチャカチャ、と食器を重ねる音が静かに室内に響く。ずっと背後に視線を感じるようだ。もしかして見られている?だが天姫は気にしない。気にしないように心掛けた。

でも気にしないようにすればするほど意識してしまう、ような。天姫はできるだけファイの近くに行かないようにカウンターに片した食器類を乗せてふきんを手に取った。視線だけは合わせないようにファイに声を掛けた。

 

「アンタは?」

「え?」

「アンタの帰る場所はちゃんとあるんでしょ?」

 

使ったテーブルを丁寧に左から右、左から右と拭いていく。同じ動作を何回か繰り返してテーブルは見る見るうちに綺麗になった。

 

「オレは」

「オレはないかな」

 

ない。そう言い切ったファイの声はどこか寂しそうに聞こえた。

一瞬の間が二人の間にあく。テーブルを拭く手を止めてファイに向き直り、天姫は一呼吸ついてばつが悪そうに謝った。

 

「……………悪かったわね、変な事訊いて……」

 

でも視線だけは絶対合せない。合わせたら、きっと大変なことになるから。

カウンターから誰かが動く気配。天姫は反対に身を固まらせた。もしかして怒ってしまったのだろうかと思ったからだ。自分で領域を決めたはずなのに、他人の領域に足を踏み込むなんてよくない。わかってはいる。でも会話の流れで仕方なくと言うか、そうでもしなきゃ自分がおかしくなってたというか。もう天姫は内心ぐるぐると頭を抱えて叫んでパニック状態。

 

「……だいじょーぶ。優しいねぇ、天姫ちゃんは」

 

緩み切った笑みをみせたファイはそろそろと天姫に近づくとぽんっと自身の手を天姫の頭に乗せた。

 

「…あ…」

 

吐息と共に漏れた一言。

人に撫でられるという感覚はいつ振りだろう。ずっと忘れてしまっていたものだ。

彼の、ファイの天姫を見下ろす吸い込まれそうな瞳。逆に自分が吸い込まれてしまうのではないかと錯覚さえしてしまう。優しいと自分にいうファイだが、実の所彼の方が自分よりも優しいのではないかとさえ思ってしまう。あの発言は彼にとって痛い言葉だったかもしれない。それなのにファイは怒ることもせず文句をいうこともせずに、笑って誤魔化す。何もなかったから大丈夫と自分を慰めるかのように、自分の髪を丁寧に撫でる。

 

優しさの影に隠れた痛み、それは天姫では理解できないものなのかもしれない。

でも、どうしてか、気になった。

ファイがどうしてあんな声を出したのか。どうして彼が自分に優しいのか。

気になってしまった。時間のことなど頭からすっぽりと抜け落ちていてきっと何も言われなければずっと彼を見上げていただろう。でもそれは突然終わりを告げる。

 

「顔、赤いね」

 

ファイがそう指摘した。彼にとっては何気ない指摘の内の一つだったのかもしれない。

でも半分呆けている天姫には大問題である。

え、顔が赤い。なぜかしら?そう天姫はぼんやりと考えた。

確かに頬はいつもよりも熱を帯びている。店内は熱い環境でもないし心地いいほどだ。

数秒、考えて考えて、ちっちっち、ちーん!

 

「ど!?うぇ!」

 

我に返って初めて気がつく今の状況。変な声を出して天姫はファイとの距離があまりにも近いことに驚いて顔から火を噴いた、ようにファイには見えた。ファイは笑みを浮かべて指摘する。

 

「あははは、さらにまっかっか~」

「う、う、う、うるさいぃっ!」

 

すると分かりやすく怒った天姫はドン!とファイの胸を両手で押してすぐ飛ぶように離れた。ファイの目には天姫が毛を逆立ててふーふーと唸り警戒する子猫のようにも取れたがまた言えば本人が激怒するのでこれ以上からかうのはやめておこうと思った。

 

【この夜微妙な距離のまま酒場へれっつごー】

 

 

愚かな少女の話をしよう。

誰も知らないけれどわたしは知っている。

なぜと問われても答えられない。ただその物語は決められていたからだ。

 

名前も存在自体もあいまいだったドッペルゲンガーがある時、自我を得た。きっかけはある少女にであったからだ。ドッペルゲンガーの名前も存在もあいまいだったけれど、たった一つだけ欲しいと思ったもの。それは自分というものを産みだしたきっかけである、少女。数奇な運命に翻弄されながらも貪欲に生に縋り付く健気な少女こそ自分は欲しいとドッペルゲンガーは願う。

誰かにとってたった一つに存在に、輝ける星となれたら。

その少女はドッペルゲンガーの願いなど知らずに、どこでまでも貪欲にたったひとつの己唯一無二の星を求め続けた。そしてある日、少女は得た。かけがえのない存在を、自分の唯一無二の星を。一生を賭してでも守り抜こう。少女はそう決め、自分の元に舞い落ちてきた小さな星を撫でた。

星は少女の愛を一身に受けてますます輝きを増した。

大きな、大きな愛情をまっすぐに受け止めて、星は大きくなる。

ドッペルゲンガーの熱い眼差しに気づかぬことなく、少女は全てを己の星だけに注ぎ込んだ。天上に無限に輝き続ける光のような星を、消さぬように。

 

それから、幾年が過ぎた頃、ドッペルゲンガーに変化が起きた。

 

ドッペルゲンガーはその星を疎ましいと思うようになった。

ドッペルゲンガーはその星を憎むようになった。

ドッペルゲンガーはなぜかしら?と首を傾げ、そしてはたりと気がついた。

どうして星が邪魔になったか、単純じゃない。

邪魔だから、アレはワタシの邪魔をする厄介者だから。

 

ドッペルゲンガーは首を傾げて困り悩んだ。

どうしようかしら、アレを消すにはどうしたらいいかしら。

ぐるぐると色々な方法が巡っては浮かびそして消えていく。

だってどれもが少女を悲しませてしまう事に繋がるから。例えば、鉈で切り傷を与えて怯えて逃げようとしたところを捕まえて木にぐるぐるに巻きつけて逃げられないよう固定して頭の上にみかんでも置いて矢で射抜いてみようかしら、ああ。これはだめだわ。だったらアレに重しをつけて逃げられないようにしてぼろい空き家に放り込んでその周りに大量のガソリンまいてマッチ一本に火をつけて燃やしてやろうかしら。ああ、これも駄目ね。

だったら夜寝込みを襲うとか?料理に毒を入れるとか?2階から突き飛ばしてやるとか?山の中に一人置き去りにしてくるとか?溺死させるか感電死させるか、ああどれもこれもいまいちね。

ああ、困ったわ。あの子を悲しませたくないのに私が考え付くものは全てあの子を悲しませることばかりなんだもの。これもあの子の為なのね。

自分が存在するに値する理由を、奪い取った星そのものを潰してしまいたい衝動に駆られた。けど思いとどまった。いつか、いつかきっと。

少女は気がついてくれる。少女にとって必要なのは儚く消えてしまう星ではなく、自分である、と。少女のドッペルゲンガーとしていつもいつも少女の背中を守り続けてきた、ワタシであると。

 

愛、そうこれは愛なのよ。これほどに真っ白な気持ちは他にないわ。

(愛?いいえ、これは愛ではない。これほど汚れたものはないはずよ)

あの子を愛するのはワタシの役目だもの。

(いいえ、あの子を手放すのが私の役目だもの)

 

どっぺるげんがーはその少女を愛しいと思った

その真っ直ぐさが羨ましくて自分に向けて欲しいと思った。

その身を焦がすほどの情熱を全てワタシに向けて欲しいのに。嗚呼、あの子はワタシに気がついてすらいないわ。なんて悲しい、なんて寂しいのかしら。

でも大丈夫。時は満ちるもの。きっといつか、いつの日にか。

 

あの子はワタシの元に戻ってくる。

(あの子は私の元から去っていく)

必ず戻るわ。

(必ず解放してみせる)

 

彼女はどこまでが私でどこまでがワタシ?

きっと境目なんて存在しないんだわ。

だって、あの子はワタシ、私はあの子なのだから。

 

天姫side

 

侑子からのフォンダンショコラはまことに美味しく頂いた。

なんとも口の中で広がる素晴らしきハーモニーにうっとりとしてしまったり。絶対あの魔女の手作りではないと考えられた。そういえば、少し遅れてまた侑子から届いた丁寧に箱に梱包された包み。なぜか開ける前からガタガタと激しく揺れていて小狼君は警戒心ばりばりだった。なるべくそれからサクラちゃんを遠ざけようとしてたし。侑子曰く、それは私向けだからと念を押して言っていた。私はなんだか一抹の不安を拭えず、だがそのまま放置というのも気が引けるので赤いリボンが結ばれた箱の中身を開いた。すると中から謎の生命体が飛び出して来た時には口から心臓が飛び出そうになった。

謎の生命体というか、もう生き物だと思うが一枚の手紙が添えられてそれの説明書きによるとカンノーリというイタリアのお菓子らしい。面倒くさいが送られてきた中身は単体ではなく複数形。つまりカンノーロが単体でカンノーリが複数。……頭痛くなってきた。この菓子とも言えぬ謎の生物を目の前にして脳が麻痺ってきているのかもしれない。これは早々に始末する必要がある。

何よりこの箱を手にする前からガタガタ揺れている原因はこいつらが箱の中で激しく動いていた証拠。

お菓子じゃないお菓子じゃないお菓子は手足は生えていない。

絶対あの侑子の嫌がらせなのだと冷静に判断を下しその謎のカンノーリは食べずに外へ放した。できるだけ直視しないように視線を逸らすことを忘れずに。

するとそのカンノーリ達はまるでしがらみから解放されたかのように伸び伸びと外で激しくダンシングしながら夜の闇へと消えていった。

うん、立派な野生に戻れよ……。

私は心からエールを送り扉をそっと閉めた。やっと静かになった店内で誰よりも一番口を開いたのは黒鋼だった。

 

「立派な現実逃避じゃねぇか」

 

ジト目でズバッと言う黒鋼のツッコミは何一つ聞こえないふりをして私は小狼君の隣でびっくりさせてごめんねとサクラちゃんの前に移動してその柔らかな髪を撫でるのであった。サクラちゃんはハッと我に返ったのか、はにゃーんと気持ちよさそうに目を細めた。

ああ、荒んだ心があっという間に癒される……。サクラちゃん効果ハンパねぇ。

愛でて良し!撫でて良し!

こうして私はサクラちゃんの癒しにしばし触れるのであった。

 

まぁ!まぁ人生色々。何が起こるかわからない。だからこその旅の醍醐味を言いますか。

本当は小狼君とサクラちゃんだけにお店を任せるなんて躊躇いがでた。でも少ない二人の時間を作ってあげたいという気持ちと、男共二人だけじゃまともな情報も聞き出せないような気がして仕方なく私も酒場へと共にいく事にした。決して酒欲しさに行きたいわけではないと説明しておこう。これも旅を円滑に進めるための重要な任務。

途中までは何事も問題なく進めた。だけどアイツらは突然襲い掛かってきた。鬼児たちは特定の武器でないと倒せないらしい。

 

「うわー。こんな時にくるんだね。タイミング良すぎ」

「ちょうどいい。憂さ晴らしだ」

「アンタらどっか楽しんでない?」

 

軽い口調のファイにうきうきと闘争心を露わにする黒鋼。私だけはまともです。

この戦いは予期せぬ出来事で仕方ないと言っても過言ではない。私だって自分の武器は持っているもののどうにもこの鬼児とやらには効果が半減されていまいち倒すこともできないのだ。実践済みでの証言なのて本当である。

そんな中アイツだけはダーツの矢で鬼児たちを倒そうとするのだ。命知らずである。身軽な動きでひょいひょいっと敵の攻撃をかわす姿はまぁ、かなりのもの。だがどこか危うさも感じられる。まるで、自分の命などいらないと言わんばかりの行動に私は目を疑った。

 

「ひゅー。さすが天姫ちゃん!様になってる」

「褒めてる場合か!?アンタの方がヤバいでしょうが」

 

緊張感の欠片もない。武器が効かない敵目の前にしてこの余裕。

まぁ普段の私も似たようなものだから人の事は言えないが。でもアイツがやられるなんてないと思ってた。だってアイツだから、と妙な決めつけてた部分もあったのかもしれない。だからか、アイツが、鬼児の攻撃を受けたのも、すぐに理解できずにいた。

 

「伏せろ!」

「あれ?」

 

黒鋼の怒鳴り声が響いたと思ったら、ファイが鬼児の眼ビームを真正面から受けて勢いそのままに地面に背中から突っこみ瓦礫からの噴煙が舞う。

 

「え」

 

まるで一瞬の出来事に私は愛刀を手にしたまま敵目の前にして固まってしまった。どうやら私も標的にされかけていたらしい。ドンっ!と黒鋼に体当たりされ勢いそのままに地面に顔面から倒れこむ。

 

「いだっ!?」

「お前もぼさっとしてんなっ!『地龍・陣円舞』!」

 

黒鋼の強力な一太刀が巨大な衝撃波を生み鬼児たちは飲み込まれるように消えてく。まるで先ほどの騒ぎなどなかったかのように静寂が訪れる。ヒリヒリと痛む鼻を抑えつつようやっと庇われたことを理解した。理解したが、こんな助け方ありか!?

抗議の声をぶつけてやろうと立ち上がると、煉瓦まじりに背中から倒れこんでいた彼が、いた。そうだった、ファイが攻撃を受けたんだった。

情報として頭には入るが事実として受け止められるほど先ほどのダメージから回復できていない私はただ、黒鋼とアイツが深刻そうに会話をするのを眺めるだけだった。

 

攻撃を受けた。

そうアイツは怪我をした。

アイツが?あのへらへら男が?余裕そうに避けまくっていたアイツが、怪我をした。

ケガヲシタ。

バクバクと心臓が早鐘のように動く。視線が一か所に集中してとらわれる。

 

「ファイ!」

 

無我夢中で駆けだす私がいた。その拍子に手から刀を落してしまったことに忘れて私は、駆けた。

 

(きっと、それは)

 

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