。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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19『冒険心は何歳まで?』

私が元の世界から旅立ってから何回目の朝だろうか。数える気にもならないのはこの旅で自分の命が終わることを知っているからだろう。実際安心して眠ることは今までとしてなかった。いつも浅い眠りと懐かしい記憶に想いを馳せている。

夢の中でさえも。ああ、やっぱり私は狗楽から離れて生きていけない躰になっちゃったみたいだ。

 

元気にしてますか?風邪とか引いてませんか?

狗楽、君が私を覚えていなくても私はずっと、ずっと片時も忘れたことはないよ。

遠く遠い異世界にいてもいつも君の事を気にかけているおねーちゃんです。

君の世界でも朝日は昇るよね。ここもそうだよ、一日の始まりも同じな様に出来れば君の目覚めが爽やかなものでありますように。

 

反対に現実の私は絶賛二日酔いみたいです。

 

「うぅ……胃が…爆発しそう……しかも頭痛がする……」

 

窓辺からカーテン越しに分かる朝日がこれほど憎たらしい日はないと思った。

妙な倦怠感に包まれベッドから起き上がるのも億劫と感じてしまうのはきっと自分の身に何かあったからだと直感する。だがその記憶が今は定かではないのだ。どうにもふらふらとおぼつかない歩みでスリッパを履き終え、胸元を抑えながらとりあえず冷たい水を求めてドアを開けて階段を降りることに。シンとした家の中、ゆっくりと手すりを頼りに階段を下りていく。

どうやらまだ誰も起きていないようだ。その証拠に苦労してたどり着いたお店のキッチンにはまだ人影らしいものはなく静まりかえっていた。

 

「……一番のりか……」

 

誰に言うでもなく小さく呟く。ゆっくりとシンクに近づき傍に置いてあった硝子のコップを手に取りきゅっと蛇口をひねった。

透明な水がコップの中に注がれていく。並々と注がれて溢れそうな所で蛇口を閉じコップを口元へと持って行く。ごくごくっと喉に流し込む水の冷たさのお蔭でぼけた思考を一気に覚醒させることができた。

 

だが昨夜の記憶が曖昧すぎてはっきりと思いだせないのが気になる。

情報収集の為に酒場を目指している途中で鬼児の襲撃にあい、そこでアイツが怪我を負ってその流れで目的の酒場であるクローバーにたどり着いた、まではちゃんと覚えているのだ。だがそこで出されたカクテルが異様においしくて数えて三杯目を手にした辺りから記憶が定かではない。天姫は酒に強いというわけでもなく弱いというわけでもない。

人並みに飲めるし酔いもする。だがその酔うレベルが今だ本人にも把握できていない。

なんせ付き合いで飲むなんてことはめったになく、それこそ20歳のお祝いにと会社の同僚に無理やり連れられて行った居酒屋で飲まされたビールぐらいなもんである。

ああ、こんなことはどうでも良かった。今更思い出した所で何の役にも立たない。

天姫はぶるる!と頭を振って気持ちを切り替えた。

とりあえずは部屋に戻って着替えそれから朝食づくりをすることに決めた。

なんせいつもファイが天姫よりも早起きして皆の分の朝食づくりをしていたのだ。

今日こそは自分の自慢の腕を振る舞う時!

と勝手に対抗意識を燃やしている。独り相撲状態であるにも関わらずに何とも損な性格である。

さて、そんな天姫さんは思い立ったら即行動!と静かに静かにでも駆け足で二階に続く階段を目指した。

朝、久しぶりの和食を頑張って作った結果意外と好評で天姫はルンルン気分が最高潮。あの黒鋼でさえズイッと御替りを要求したくらいなのだ。

これには天姫も大盛りで応えたくらいである。

 

さて、喫茶店を開くという案は素晴らしいのだがいかんせん、店の名前がまだ決まっていなかった件はあっさりと決まったようだ。あの侑子からの提案、もとい命令。

 

『だったら『CAT’SEYE』にしなさいっ!黒猫と言ったら『CAT’SEYE』でしょう?』

 

一体何処からの情報筋なのだが知らないが『猫の目』に決まった。(モコナ談)

あの謎の生物のことも問いただしたかった天姫であったが、終わった話を掘り出すのもなんだしそれにあれは無事に野生に帰ったからいいや!とあっさり納得。

ではでは、若干二日酔い気味になっている(三名)メンバーのご予定尋ねてみましょ。

 

本日のご予定

 

ワンココンビ:仲良く『ワン!』とお買いものー。

にゃんこコンビ:お店で『にゃーん』といらっしゃいませー。

こぶたちゃん:商売繁盛やったる『ブー!』

白まんじゅう:今日はいつもよりも大目に回るよ~。

 

気合十分やる気十分。

それじゃあ今日も張り切っていきましょー。

 

closeと書かれた木の板をドアノブに下げてドアをガチャンと閉めてからどっと身体に浸かれて天姫はテーブルに顔から突っ伏しては気の抜けた声で呟いた。

 

「はぁ……くたびれた……」

「たくさんお客さん来てくれましたからね、はい。天姫さん」

「ありがとう、サクラちゃん」

 

クスッと可笑しそうに小さく微笑みながらサクラが入れたてのコーヒーを差し入れ。天姫は弱弱しい声で礼を言いました。

そうなんです。今日は一日大忙しな日でした。どうやらお店の乗り込んできた鬼児狩りの『あの』お客さんたちが色々口コミで噂を流してくれたらしいのです。そのおかげがひっきりなしにお客様が訪れてはあたふた対応しながらも満足気に帰ってまた来ます!と言ってくれる人がいたり、なんとも嬉しい日となりました。

慣れない接客業にも率先して笑顔で対応したサクラちゃんも勝ることながらファイが作るお菓子を目当てにやってきていた女性のお客さんも多く、やはりイケメンってのはどの世界の女子も好むものなんだなと再認識できた天姫。

小狼と黒鋼の方も首尾は上々の様で、黒鋼のスパルタ修行も今日からスタートした。なんせ彼が帰って来た時などはサクラちゃんがびっくりするくらい擦り傷やら何やらをいっぱいこさえてきたのたのだから。

とにかく双方に忙しい日であったのは間違いないでしょう。

普段振りまかないスマイルを作りまくった所為か、たれ具合がハンパない天姫。後片付けが残っているのですがそれはファイに任せ、まったりとサクラちゃんが入れてくれたコーヒーをのんびり頂きながら休憩することに。

 

「ふぃ~」

 

心に余裕が生まれたことであれ、そういえばなんてちょっと思い出したことが。

 

昨夜の記憶が曖昧な点である。だが徐々にはっきりとではないが思いだせてきたのだ。

確か、あれは……あれ、は。

頭の中でリピートされていく昨夜の出来事。徐々に遡っていくごとに天姫の顔色がサァーと青くなっていく。なぜか?

それはとんでもない過ちを犯してしまったからです。

でも天姫は認めません。ここで認めてしまってはとんでもないことになるからです。

ましてやサクラちゃんに事実を知られるわけにはいかない。

可愛い可愛いサクラちゃんにもし、万が一知られるようなことになったら………。

 

妙にテンションアゲアゲだったような。いやいや、きっと酒の勢いに負けてしまっただけなんだろうさ!

間違ったテンションのまま男子トイレに突入してしまってないですよね。そうそうまさかそれを止める為にバーテンダーのおねーさんに「はやまったらアカンでねーちゃん!」と羽交い絞めされてたのを無理やり逃げてなんか叫びながらドア開いたとかきっと記憶違いだろうさ!大丈夫だよ私。

乙女心に癒えない傷を負ってしまった為その場で気絶してしまって悔しいことに黒鋼に喫茶店まで運ばれたこととか関係ないさ。ドア開いた先に見てはいけないモノを見てしまって悲鳴あげて白目向いたとかないさ!きっと関係ない、全部全部間違いなんだよ。

強く強く自分に言い聞かせ、天姫は気持ちを落ち着かせる為にぬるくなりかけているブラックのコーヒーを口に含みました。カップを持つ手が震えてるのは気のせいよ気のせいね。

 

「ふぅ、そうよ天姫。貴方は何も間違ってないわ。いくつになっても冒険心は必要だっただけであってどこかの誰かは言うけれどさすがにあんな馬鹿げた行動はないわ。あれは冒険じゃなくてただの阿保よ。そう真の阿保ともいうわ。ちょっとした記憶違いって奴ね。慌てた私が馬鹿だったわ」

 

とブツブツと呟く天姫にカウンターからにっこにこのファイが思い出したかのようにお皿をキュッキュと拭きながらこう指摘したのです。

 

「天姫ちゃん、お酒の飲み過ぎは駄目だよ。また男子トイレ」「いやぁぁぁああああああああ!私が真の阿保だったなんて―――――!」

 

忘れていたかった。出来るならば永久に葬り去りたい記憶。

だがそれは許されない、なぜならしっかりと目撃している奴が身近にいるから。

やっぱり覚えていた。忘れるわけないよね、いましたもんね。ええ、立派な目撃者ですからね。

 

「うわぁぁあああああんんん!」

 

ファイの台詞を遮る形で天姫は涙目になりながら頭を抱えて再度テーブルに突っ伏した。当然急に態度を豹変させた天姫にサクラと着替えて二階から駆け下りてきた小狼はびっくりどっきり!

 

「天姫さんっ!?」

「どうしたんですか!」

 

サクラが心配そうに天姫に駆け寄ったり、一体何があったんですか?と小狼が表情険しく黒鋼に尋ねたり。ファイと黒鋼は

 

「所轄、精神的トラウマってやつだね」

「オメーが追い込んだんだろうが」

「えー?オレ?違うよ、オレは昨日のことはさすがに注意しておこうと思っただけ」

「悪趣味だな」

「えへへへ、黒黒に褒められた」

「褒めてねぇよ!」

 

と楽しそうに会話してたり。実はちょびっとだけ意地悪してみたファイでした。

なぜかって?昨夜の出来事は天姫にとって最悪でもファイにとっては特別な夜になったからでした。ですが当の天姫は余計な事を言ってくれたファイをギラリと一睨み。

 

「全部全部アンタの所為よ!ファイっ!」

「責任転換はズルいんじゃないかな、天姫ちゃん」

「うっさい!よくもよくも乙女のハートを傷つけやがって……一度ならず二度までも許せん!ッ覚悟!」

 

天姫の手には何とも物騒な物が。スパッとなんでも切れちゃう日本刀、月光がキラリンと妖しく光ります。そして天姫の目はイッてます。

 

「「天姫さん!?」」

 

小狼は咄嗟の判断でサクラを引き寄せて壁際へと避難。黒鋼はさっさと二階に上がりました。天姫とファイは仲良く一方的なチャンバラごっこを始めました。真剣ですけど。

 

「うわっ。お店の中で刃物振り回さないでよー」

「うるさいうるさい!今度はファイが女子トイレ入りなさいよ!私の気持ち少しは理解しやがれ!」

「えー、遠慮しとく」

「ムキー避けるな逃げるな大人しくしてろっ!」

「んー、遠慮しとく」

「きぃぃぃいいいいいい――――!馬鹿ファイがぁぁぁあああ――――!」

 

ひょいひょい!と身軽な動きに翻弄され怒りのボルテージはどんどん上昇していく模様。

どうやらしばらくは終わらなそうです。

さて、ここで謎が一つ。

襲われかけているというのにファイは嬉しそうにニコニコ顔でした。知らない人がこの現場を見ていたのならば、困惑したでしょう。もしかして彼ってそういうタイプ?とか。

でも違います。到ってシンプルなことが一番嬉しかったのです。

それは一体なんなのでしょうか?

何はともあれ、夜はこうして更けていくのでした。ちゃん☆ちゃん。

 

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