。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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20『火のない所に煙は立たぬ』

ちょっとつかの間の平和が懐かしいものでずっと続けばなんて甘い考えが浮かんだりした。こうやって皆で喫茶店をやってのんびりちょっと忙しない日常もいいもんだ、なんて買い物帰りに考えたり。どっさりと買い込んだ紙袋を両手に抱えての帰り道。賑やかな町にたくさんの人が行き交う通りの中、天姫たちが買ったのはお店で使う材料と皆で食べる用の食材である。

 

「サクラちゃん、重くない?」

 

ファイが負傷している為、持ち手として頑張っているのは細い腕に量は少なめながらも荷物を持つサクラ。天姫からの気遣いにサクラは笑みを浮かべて答えた。

 

「大丈夫です。天姫さんも大丈夫ですか?そんなにいっぱい紙袋抱えて」

 

そうなのだ。サクラの私的通り天姫の方が重そうに持っている。だが足取りは重さからふらつくことなくしっかりと歩いている。だからこそ天姫は余裕そうに言い切った。

 

「大丈夫大丈夫!こう見えて力もちだから。それに今日の夕飯はビーフシチューだからね。野菜たっぷりで栄養満点、成長期&修業中な小狼君も喜ぶこと間違いなしよ」

「わぁ、楽しみ!わたしもお手伝いします」

「うん、よろしくね」

 

まるで姉妹のように仲良く微笑み合う二人にファイもつられて笑みを浮かべた。

 

「オレも楽しみだなー」

「もちろんファイにも手伝ってもらいます。働かざるもの食うべからずだから」

 

一応怪我人ということで杖をつきながら少量の荷物を片手に歩くファイ。足取りゆっくりな彼に合せて天姫も歩調をゆっくりと進める。斜めちょい前を歩きつつ、時折ちろっと視線だけを送ったり。まぁ一応彼を気遣ってのことのようだ。口調ではああいうこと言っているが天姫の素直ではない分かりやすい行動にファイは尚更頬を緩める。

 

「うん、了解」

「なんか妙に聞き分けがいいわね、怖い……」

 

いつものファイよりも素直な態度なので天姫は訝しむ。けどファイの心情は始終晴れやかなものらしい。

 

「えへへへ。気にして欲しいけど後でいいや」

「は?」

「今はわからないままでいいってこと!」

 

ファイの意味深台詞に天姫は目をぱちくりさせて呆けた。サクラはそんな二人のやりとりを見てクスッと小さく笑ったことは二人は知らない。

 

天姫side

 

この旅に平穏なんてないんだ。

あってもそれは偽りみたいなもんですぐに日常から非日常へと切り替わる。

テレビのチャンネルを簡単に変えるみたいに。

最初の兆しは、新種の鬼児が現れたと店に駆け込んできた龍王くんと小狼君からだった。でもその新種とは彼の、小狼君の知り合いだったとの衝撃的事実。目深にかぶったフード姿が印象的な星史郎という名の青年。小狼君はその彼から戦い方を指南してもらったらしい。恩師とも言うべき人。その彼が、もしただの人であるならば鬼児を従えさせられるなんてできはしない。であるにも関わらず彼は事実、鬼児を従えて現れた。

ということは何かしらの『力』を所有または、秘めている可能性は高い。

一番の有力候補としてはサクラちゃんの『羽根』だ。

この力は世界のバランスを崩すほどの強力な秘めたる力をもっている。これを所持していることで何かしら不可能なことでも可能になってしまう恐れがある。

未知なる脅威を生む原因にもなり得るのだ。その力は計り知れない。だからこそ集めなくてはいけないし、何よりサクラちゃんや命を賭けて旅を続ける小狼君の為に集めてあげたい。そんな必死な想いをあざ笑うかのように運命は残酷だ。

食器を洗っている時にいつもの睡魔に襲われサクラちゃんを見せの奥にあるソファに寝かせた頃、招かれざる客がドアのベルを鳴らして入ってきた。

 

『カラン、カラン』

「こんにちは」

「いらっしゃいませ……」

 

営業スマイルで出迎えたファイの表情が一瞬にして固まり、そして近くにいた私に彼にも聞こえないほどの小さな声で耳打ちをしてきた。

 

『サクラちゃんの側にいて』

 

油断ならない相手というのはすぐに感じ取れた。私はファイから距離を取って昏々と眠るサクラちゃんの側に歩み寄った。勿論、背後の彼に注意を向けつつ、だ。

だが誰が予想できただろうか。

 

「色々と言いたいことはあるんですが。消えてもえらえますか」

 

ファイの身の丈よりも倍な狂暴そうな面をした鬼児たちが複数店の中に現れ、ファイを取り囲んだかと思ったらアイツラは狙いをファイに定め攻撃を仕掛けてきた。

私は思わずファイの名を叫ぶ。

 

「ファイ!」

「天姫ちゃんはサクラちゃんを守って」

「でも!」

「いいからっ」

 

寸前の所で攻撃をかわすファイだったが着地の際、左足の痛みから顔が一瞬歪んだ。その隙がまさに命取りとなった。鬼児が鋭利な形に変形させた腕を目にも留まらぬ速さでファイへと振り下ろしたのだ。

 

『ドシュ!』

「ファイ―――!」

 

モコナの悲鳴と鈍く耳に残るリアルな音が私を包む。黒い、黒い鬼児たちがファイを飲み込んだ。

 

「―――」

 

それはあっという間のことで気がつけばいない。彼が、いない。床に残されたファイが身に着けていた黒のリボンがところどころ破けて落ちているだけであの優男が無情に見下ろしているだけ。ああ、消えて、しまった。

 

『天姫ちゃん』

 

妙に馴れ馴れしくてへらへら笑ってばっかりで自分の事を多く語らずにのらりくらりとかわす読めない男。時々ドキッとするくらい温かい優しい眼差しと大きな手のひらで頭を撫でてくる猫みたいな男。干渉してくるなと突っぱねても突っぱねても構ってきた。

いつの間にか、構われることを期待している自分がいた。

誰かとの関わりを不必要だと避けていた私を、彼は元に戻してくれていたのに。

 

『天姫ちゃん』

 

その彼の、ファイの声が聞こえないなんて。

もう、いないなんて。

 

「あ、ああ、……ぁぁあああああああああ―――――!!」

 

悲鳴ともある一種の雄叫びともとれるそれは確かに私から発せられた。

感情が一気に爆発しまるで獣が咆えるごとく私は叫び無我夢中で愛刀、月光を呼び出し鞘から刃を引き抜いた。

 

「天姫!」

 

モコナの呼び止めも聞こえずただ目標を捉え一直線に駆ける。

私は自分の為じゃなくて、狗楽の為でもなくてファイを、ファイを消したあの男が憎くて許せなくて感情をコントロールすることさえ忘れて刀を握る手に力を籠めて横に振り払う。標的はただアイツのみ。

 

がぎぃぃぃんン!

 

もう少しでアイツの首と胴体を真っ二つに出来る所で鬼児の固く太い腕が防御となり防がれてしまう。私は舌打ちしながら後方へと飛んで間合いを取る。

 

アイツがアイツがアイツがアイツが。

私の中の獣が唸りをあげて怒りが奴を喰い殺さんと牙を向ける。

今の私はただ狩る為の獣に成り果てた女。この男の喉元に噛みついて断末魔を上げる瞬間をただ望む。

 

「殺してやる……殺す!」

「僕を、ですか?」

 

まるで可笑しなことと言わんばかりに男は口元に手をあてがって小さく笑う。自分の蟀谷がピクンと痙攣する。

 

「でも貴方に僕は殺せません。赤い瞳のお嬢さん」

 

比喩とも嫌味とも取れる言い方に怒りは増すばかりだった。感情の高ぶりによって私の瞳は変化する。奴が赤い瞳と言うのならば今の私は興奮状態にある。それも全てアイツを殺す為。

 

「五月蠅い!」

「真実を言ったまでです。その武器は仮初で何より貴方の力は半分も出せていないはずなんですから」

「黙れ!貴様に私の、私の何が分かるって言うんだっ」

 

ファイを、彼を殺しておいてよくもずけずけと言えたものだ。

平気で何もかも奪っていく奴に何を言われようとブレることはない。

 

「僕も人のことは言えないが、貴方が人間だとは思えない。貴方からは『創られた』匂いがするんですよ」

 

『創られた』

以前、この言葉『きーわーど』を私は何処かで聞いた覚えがある。

だが気にするな、今はこの男を殺すことだけに集中しろ、と自分に言い聞かせる。

だがこの男は内心の動揺を悟っているかのように付け加えた。

ゆっくりと私と視線を合わせるように。

 

「貴方は、本当に『人』ですか?」

「な、にを…」

 

私は『人』だ。紛れもなく『人』なんだ。だからこそ私は狗楽を愛して守ると決めたんだ。そうせずにはいられなかったから。本能の赴くままに私は行動をしているんだ。

でも奴は私の全てを否定しようとする。

 

「本当に、貴方は『自然から生まれたもの』なんですか?」

 

と。

『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』何を『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』誰が『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』誰かが『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』『創られた』誰かに『創られた』『創られた』

 

胸を貫く敵からの投げかけ。そんなの気にする理由にもならない。

惑わす為か、それとも別の真意なのか。油断した私が悪かった。鬼児の攻撃を真っ向から受けてしまったのだ。避けることには間に合わず、防ぐには遅すぎた。

 

『ドシュ』

 

何かに貫かれる音。身体を貫く感覚。止まる世界。

 

「天姫―――!!」

 

モコナの私の名を叫ぶ悲鳴。眼前には黒い塊。

私という存在が音もなく崩れていき最後はフェードアウト。

 

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