よってらっしゃいみてらっしゃい!
よ、そこの通りすがりのお客さん。ちょっと立ち止まって耳を傾けてみやせんか?
なんと世にも珍しい奇妙でへんてこりんな喋るジンギスカンもどきがどうやって産まれたのか!今日はその謎を紙芝居にしておみせしやすよ。
え?聞きたくねぇよなんでいきなり紙芝居だって?なんでって言われてもおじさん紙芝居屋さんだから紙芝居しかできないしなー。
どうせ金取るんだろって?いらないいらない!
ただそこで座って訊いてくれるだけでおじさん天国にも昇っちまいそうだからさ。
え?本当に昇るなよって?ハハハ!例えだよ、例え。本当に昇っちまったら謎の殺人事件が始まっちまうじゃねぇか。タイトルは『売れない紙芝居屋殺人事件』って感じか。うーん、それはおじさんの分野じゃねぇから勘弁な。
それにおじさん推理はちょっと苦手で……そこはやっぱり高校生探偵の方が…。え?よく考えればそれだとおじさんが第一の被害者じゃないだろうっていうか結局は犯人いないオチじゃんかって?
おう!確かにその通りだな、おっちゃんが勝手に死んじまうからな。
ナイスツッコミじゃねぇか!こりゃあ将来が楽しみだぜ……。
おじさん関心しちまったよ。え?いいからさっさと話しはじめて終わらせろって?
急いでるのか、そりゃすまんな。
このお話の事の始まりはじまり。
それはある一人の男の思い付きから始まったのさ……。
※
深い深い薄暗い森の中、怪しい植物や動物が生息するその地はむか~し昔から誰一人として近づけさせない怪しさに包まれていた。噂では一歩踏み入ってしまえば二度と出てこられないという魔の森。だからだろうか、その噂を恐れて近隣の村人は誰ひとりとしてその地に足を踏み入れたことはない。たま~にその噂を信じない勇気りんりんの若者が度胸試しと森の中へ探検しに行ったっきり戻ってこないまま行方不明となることが、ごくたま~にあったり。村人は誰もがその消えた若者を捜そうとはしなかった。
だって分かりきっていたからだ。
ああ、アイツはイケニエにされたんだって。普段から鼻高々に人を見下した態度をとって、俺は何でもできる、俺は強いのさと自信満々に言うその姿に村人たちは辟易していた。口先だけの中身のない軽い男だと皆は思っていた。
村人の一人がこう言った。
罰が当たったのさアイツは。だから消えた。自業自得だよって。
村人たちはその意見に賛同し、消えた男のことなど頭からすっきり削除した。
噂は噂でしかない。けれど昔々から伝えられてきたことを信じている村人たちだからこそ、言う。
『決してこの奥には踏み入ってはいけない。一歩でも踏み入れれば命はないと思え』
先人からの教訓こそ、学ぶべきことがたくさんある。学び後世へと伝えようとしてきた証を無下にしてはいけない。歴史は、繰り返されるのだから。
憐れな男は一体どうなったのか、それは誰にも分らない。ただ、噂は真実であった。
森の奥にひっそりと住み続けるある屋敷の主とその同居人の友人が実験と称して森に放った走る肉食植物とかツッコミと見せかけタックルかます合成獣とか空を飛べない豚とか、まぁ色々試行錯誤して創り上げた謎の生物が闊歩する危険極まりない森なんて一般人が踏み入れていいはずがないのだから。
というか、踏み入れないのが利口である。その生物たちはどんどんと種類を増やしていき製作者たちでさえも把握できないほど増殖していったからだ。
彼等の最終目的はあるものを創り上げることなのだが、まだまだそこへ行くまでの過程には到達できていない。
とりあえずの目標は『喋れるなんか』を創り上げること。
失敗と失敗とちょびっとの成功を繰り返す日々に、ある発想が生まれた。
無を一から創り上げるから大変なわけで、もう出来上がっているオリジナルにほんの少し手を加えてさらに進化したオリジナルを創るというのは如何なものか、と。
どうせ失敗することには慣れている。
『ここに憐れ人間共用ジンギスカンになってしまう所、かっぱらってきたなんの変哲もない羊がいる。コイツにちょちょいと改造を加えたいと思う』
『お前いつの間に』
退屈大嫌いな屋敷の主とそのツンデレ友人は仲良く実験を開始した。様々な機械と魔法の融合を極めたその装置は画期的かつ独創性に溢れていた。そんな実験器具のある一つに、
緑色の培養液の中にぶち込んだ生きた羊が暴れまくるのを外側から静かに見つめながら和気藹々と会話は続く。
『実験用に色々見て回ったんだよ。牧場とかペットショップとか。そういえばサラのペットもいいよな、バジリスク。私も欲しい』
『アレは駄目だ!大体お前な『ケチ』誰がケチか!?』
『サラ。ってなわけで実験開始だ』
『雪彦、私の話くらいまともに聞けないのか。少しは』
まるっと全て友人の嫌味を聞き流し、手元にあるいくつかあるうちの赤いボタンのスイッチを押す。
『ぽちっとな』
するとなんてことだろうか!
羊が入った培養液に渦がうまれていくかと思えば、あっという間にぐるぐると洗濯機を回すが如く羊を巻き込んで激しく回るではないか。
ぐるぐると。容赦なしの実験に友人は顔引きつらせた。
(というかそのボタンはただ回転させるためだけのボタンだったのか)
普段からこのボタンだけは絶対触るなと注意を受けていただけにどれだけ恐ろしいスイッチなのかと思えばただ回すスイッチ。友人はあとで文句言ってやろうと心に決め、実験の結果を待つことに。
待つ事20分ぐらいだろうか、脱水するがごとく培養液が下に開いた穴から廃棄され流されていく。全て終えた頃にはピッカピカに洗われた羊がぐでりと横たわっていた。
まるで洗濯している様子を見ていたようだったと友人は思った。
『………よし。何か喋ってみろ。ホラホラ喋らないとジンギスカンになってしまうぞー。そうなったら私が食べてやるからありがたく思え』
『羊が言葉を発する訳ないだろう』
どうせ今回も暇つぶしというなの実験は失敗に終わった、そう友人は早々にこの場を切り上げペットのバジリスクと共に気分転換の散歩でも行こうかと歩き出そうとした。
だが!
『どうせ食べられるのなら超美人のおねーさまがいいです!』
むくりと起き上った白い物体、もとい羊が若い男の声で叫ぶではないか。
しかも台詞が特徴的である。
『羊が喋った?!』
友人は台詞の中身は置いといて目の前の事実に驚いた。
実験成功と腰に手をあてて喜ぶ屋敷の主。
『はははどうだどうだ。私の頭脳をもってすればこのような事も可能なのだ。よし!羊。今からお前の名前は『執事の羊だ』良かったな!』
『まんまだな』
『ハハハ、なかなかのネーミングセンスだろう!』
『どうせ名づけられるなら男よりおねーさまの方が良かったー!』
ひつじは器用に前足でドンドンと床を叩き悔しに泣き叫ぶ。
『泣くほどのことか!?』
それほどまでにおねーさまの方がいいという羊にドン引きな友人と
とりあえず実験成功したからいいやと能天気な屋敷の主。
執事の羊は慣れるまで屋敷に住まわせて立派な執事を目指させることに。
どうせなら男よりも若いおねーさまに仕えたいと心底嘆いた羊だった。
(喋るジンギスカンもどきの誕生秘話)