。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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25『地下室の回転木馬』

魔物倒せるぞー!とルンルン気分にいってみたけど、結局魔物の正体は巨大な竜巻でしかもその竜巻とコンタクトができるという新たなスキルを見せつけたサクラの活躍で竜巻の勢いを弱ませることに成功。原因がはっきり判明したわけではない。

だが少なくともあのうさぎ?さん達が言うことは真実ではない、ということがわかっただけでも進展もの。一同、とりあえず報告もかねて戻るため来た道を戻る途中であるが。その内のある意味問題児、黒鋼さんの機嫌はむーんと下降気味。

なぜだろうか。

 

「黒鋼すねってるー」

「…………」

 

これまたちょっかいを出すのが当たり前になってきたモコナが無邪気に黒鋼の頭に乗っかりながら、彼の眉間をむにゅっと触る。黒鋼の額に怒りマーク一つ出現。

彼の些細な変化などに気がつくわけがない小狼とサクラ。二人が頭を悩ます問題は別にある。

 

「羽根は何処にあるんだ?」

「モコちゃんがメキョってならないね」

 

羽根の気配は感じているはずなのに肝心の居所が掴めないという問題点。打開策に頭を悩ませている二人の後方をゆっくりと歩く黒鋼の機嫌はモコナにイジられ、さらにむむーんと下降中だ。

 

「黒鋼どんどんすねってるー」

「…………」

 

この一人と一匹を放っておけば簡単に予想できる展開が待っているだろう。案の定、この後ぷちキレた黒鋼が刀もってモコナにちょっかい出したりで大忙し。小狼とサクラが慌てて仲裁に入るのも予想通りの展開に。

けど予想外のことって起こるもので、天姫と仲良くお留守番していたファイの所にある異変が起こっていたのを到着してから本人に聞かされるまで知らない面々でした。

その異変ってどんなものなのか。

 

「あー実はね」

 

かなりイベント的に大きいもんなのだが、ファイの語り口調が軽いものなのでそんなに大事には思えない面々でした。

 

【回想】

 

サクラたちが魔物と言われる類と対峙していた時、ファイにある人物が接触してきたのだ。そう、このジャングルで初めての人間。しかも特殊な部類にあてられるかもしれない。突然の来訪者、彼、見た目からして男であるその人物は突然の乱入者に驚くうさぎ?さんたちをかき分けかき分けやってくる。

いや、かき分けてくるというよりもうさぎ?さんモドキを投げて投げて放り投げて無理やりやってくる。なぜそのような鬼の所業をやってのけるのか。実は理由がある。

 

「変なの来たー!」

「怖いの来たー!」

 

と言いつつも、うさぎ?さん達はその乱入者に自らの体を何度もぶつけていくという荒業をしているのだ。逃げる方向が違うというかタックルする勢いで走るの行動はまるで野を走るうさぎそのもの。そう、まるで体内に異物が混入したものを排除するが如く。

モフモフとした毛並に一体どれくらいのダメージ効果があるのかわからない。

 

「変でも怖くもありませんよ」

 

この人物も律儀というかなんというか、あわあわと慌てているのかわからないうさぎ?さん達の台詞に言葉を返しつつ、自分がうさぎ?さんの耳をガシッと掴んで、ぶんぶんと後ろに放り投げる鬼の所業をやめることなく目標を定めているのかきっちり定めて歩く姿は迷いはない。ちなみに、うさぎ?さんたちは「キャー!」とか「怖いー!」とか叫ぶものの、投げ飛ばされているにも関わらずしっかりと回転してその場に見事着地するという華麗な動きを見せた。

これには傍観していたファイも「おー!」と感心して拍手を送ったほどである。

さて、話が脱線してしまったが、これまたその人物の格好が不似合いである。この気候に似つかわしくない上下黒スーツをビシッと完璧に着こなし眼鏡をかけた男であった。まるで違和感を背負って生まれてきた男のようだ。ピカピカの革靴で平らじゃない地面をしっかりと歩き、自分のコートに包んだ天姫をしっかり胸に抱き込んで庇いながら片膝をつくファイの手前でピタリと止まる。

じぃぃぃーとファイの顔を値踏みするかのように見つめてくいっと眼鏡を右手の人差し指で押しやった。

 

「……………」

「オレになんか用ですか?」

 

ファイは彼に面識はない。けれど眼鏡の男は警戒するファイに構わず、「ハァ…」と深いため息一つついた。視線をファイが抱く少女へ変えて。

 

「やはり、こういう展開ですか」

 

口ぶりから察するに、ファイが目的ではなく、お眠り中の天姫と面識がある人物のようだ。『やはり』という言葉は示す意味は、彼女がこうなることを粗方予測していたということ。色々と思考を巡らせたままだんまりというのも間が持たないので、一応ファイは確認してみることにした。

 

「天姫ちゃんの知り合いですかー?」

 

どストレートな問いかけに男は、

 

「そんなところです。私の用件は手短ですのでご安心を」

 

と軽く肯定するにとどめた。どうやら彼は何か目的があってこの地にやってきたらしい。この暑苦しいジャングルの中、黒スーツで。ファイは心の内でご苦労様と労いつつ、男の一挙一動を目を逸らさず見つめた。何時でも何かあったときに、すぐ動けるように。ファイの疑念が含まれた視線など全く気にした素振りもなく男は、スッとスーツの内ポケットからファイにある物を差し出してきた。

 

「どうぞ」

「…これは?」

 

ファイは安易に手を出すことはせずに、説明を求めた。

男の手のひらに乗せられたある物体。ファイは初めて目にするもので、透明で丸い形をしたものが二つ紐についていて中身は何も入っていない様子。

 

「それは魂を呼び戻す為の鈴。それを天姫の耳元で鳴らしなさい。辛抱強く根気よく諦めなければ『向こうの彼女』が何かしら対処するはずです。あとは任せて待つだけです。これくらいしか今の貴方ができることはありません。まかり間違っても魔力を使おうなどと馬鹿げた行動はとらない事です。この娘の為に予定外の行動をとることはありません。貴方にとってもそれは無駄な行為ですしこの子にとってもありがた迷惑でしかありません」

 

何ともぶっ飛んだ話になってきたとファイは思った。

 

魂を呼び戻す為だとかなんとか。身体だけ残してどこかに魂が飛んだとでも言うのだろうか。男の口ぶりはいたって真面目そのもので冗談で言った風にも見えない。

しかもそれ以前にこの男に話したこともない、ましてや自分の頭の中だけでちょっと浮かんでいた考えをこの男はしっかりと否定して言ってのけたのだ。嫌味もぷらすして。

余計なお世話なのはこっちのことである。当たっていることとはいえ、まるで指図されている様な言い方にファイは小さく言い返した。

 

「……それってオレが決めることなんだけどな」

 

だがファイの言葉に逆に男は聞き返した。

 

「本当に?」

 

本当にはっきりと天姫を救うために魔力を使う気があったのか、と。

 

「………」

 

まるで胸の内を見透かすかのような問いかけにファイは押し黙る。

いや、ある種嫌がらせのようにも感じられたのだ。

自分と天姫の微妙な関係性を見抜いたうえで釘を刺したようにも思える。

今の関係性を壊すとするならば、それは『進展』である。

 

「私がやるべきことはただ一つ、これを貴方に渡すこと。後は貴方が決めるといい。使うもよし、捨てるもよし。強制はしません。ですのでさっさと受け取ってください」

 

まるで事務的な言葉にファイは分かりやすく顔を顰めた。

 

「やなカンジー」

 

ついでに嫌味を言うのも忘れずに。

だが相手にはこれっぽっちも通じていないようだ。

 

「仕事ですので」

 

と簡潔に終わらせた。かと思いきや、そうでもないようだ。彼の言葉には続きがあった。

 

「……と言いたい所ですが。この馬鹿娘ときたらへっぴり腰の泣き虫な癖に貴方がたの前では意地張って強がってばかり……。本当に、馬鹿なんですから」

「…………」

 

言葉だけ聞くならなら酷い言いようだが明らかに男の表情は天姫を身を案じ、気にかけてのものだった。親愛を込めてならいい。仮に親愛以上の想いが込められていたとしてもファイにどうこう言えるものでもない。

男と天姫との間柄は謎でファイにとってはどうでもいいことに過ぎないのだ。

 

けど、ちょっと、心は誤魔化せないというか感情は素直で

ムカッときた。

だからだろうか、ファイは男の視線から天姫を遠ざけようとむぎゅっとさらに胸に抱き寄せた。

 

「女の子の寝顔ガン見するなんてどうですかねー?」

 

そういうファイは先ほどまでガン見してた訳なのだがそれは置いといて。

にっこりと笑みを見せつつ、さっさと消えろオーラをそれとなく送ってみた。

男にはどうとられたかはわからないが、

 

「あ、そういえば。貴方方が探している羽根でしたよね。そこのうさぎもどきが持っているはずですよ。さっさと返してもらったほうがいいのでは?」

 

とサラリと言ってのけた。こう、『お茶が入りましたよ、おじいさん』的な感じで。

 

「黒ポンが聞いたら暴れちゃいそうなことサラッと言いますね」

「いえいえ、あくまで仕事ですので。それでは失礼します。あ、そこの馬鹿娘にはくれぐれも私のことは内密に願います。二度と面見せるなと言われましたので」

 

男はまるで嵐の如く去って行った。

 

 

「ってカンジかな。名前聞くの忘れちゃったなー」

 

さも軽い口調でファイからの回想は終了。要約すると超怪しい男が現れて天姫を目覚めさせるアイテムを勝手に持ってきてさっさと受け取って帰らせろと言ってさっさと言いたいだけ言って消えたってカンジなのだ。その流れで受け取った鈴を興味津々に見つめる小狼。

 

「これって鈴、なんですか?」

「違うの?彼はスズって言ってたよ」

 

小狼の問いにファイはこてんと首を傾げた。

いまいち発音が可笑しいのは仕方ない。なんせ彼の世界にはなじみのないものだから。

 

「でも、これって。透明ですし、何より」

 

小狼はそこで言葉を一旦閉じた。ファイが持つ鈴を見つめて、

 

「これじゃあ鳴らせないと思います。だって鈴を鳴らす為の中身がありませんから」

 

小狼の指摘通り、鈴の中身はからであり中身がなくては鳴らしようがない。

けれど男はこれを天姫に聞こえるように休まず鳴らせと言う。

試しにファイが鈴を手に取り軽く横に揺らしてみる。

 

「鳴らないね」

 

ファイが言う音は鳴らなずそれに頷く小狼達。だがモコナだけは首を振り

 

「鳴ってるよ」

 

とはっきりと否定した。小狼が疑問を浮かべながらモコナの名を呼ぶ。

 

「モコナ?」

 

モコナはぴょんぴょんと黒鋼の肩を降りてファイの手のひらに飛び乗った。

小さな手で鈴に持ち上げモコナは再度鈴を横に振った。

 

「コレ、鳴ってる。モコナ、ちゃんと聞こえるよ。コレは魂を呼び戻す為の鈴。侑子の宝物庫にあったの」

「ってことは、ソイツはあの魔女と面識ありってことか」

 

黒鋼がげぇと嫌そうな顔つきをした。どうやら次元の魔女のことは思い出したくもないらしい。続いて関心を示した小狼と頬を上気させて興奮気味なサクラが食いつくようにモコナに尋ねた。

 

「対価を支払ってまで天姫さんを助けようと」

「でもこれで天姫さんが目を覚ますんだよね!?」

 

状況を打破させる手立てが見つかったのだ。その期待はとても大きい。

鈴の音が聞こえないのも怪しいがモコナが聞こえるといえば、鈴は鳴っているのだ。

そういう道具なのだと思えばあっさりしたもの。なんせ、モコナは『あの』次元の魔女が皆に託したものなのだから。

 

「うん。今、天姫は天姫だけど天姫じゃない人の所に行っているの。だから誰も呼び戻せないの」

 

その言葉にファイは何か引っ掛かりを覚えた。この鈴を渡してきた謎の男。彼はこう説明していたのを思い出したのだ。『辛抱強く根気よく諦めなければ『向こうの彼女』が何かしら対処するはずです』と。彼が言う彼女とは、モコナが説明した天姫だけど天姫じゃない彼女のことを示すのではないかと。

 

「天姫ちゃんだけど天姫ちゃんじゃない人?」

「うん」

 

モコナは頷いて鈴から手を離すとまたぴょんと移動して今だ変化の見られない天姫の額に着地した。いつもは黒鋼と賑やかなモコナもこの時ばかりはしおれた花のように元気を失っていた。

 

「天姫、頑張り過ぎだからパンクしそう。モコナもパンパンな天姫見てるの、辛いよ…」

 

絞り出すような声に切なそうな顔でモコナの小さな手は天姫の額をなでなでと優しく撫でる。モコナは天姫の事情をこのメンバーの中で誰よりも一番理解している立場にある。少なからず不安定な天姫の精神面を支えていたのもモコナなのだ。

 

「…モコナ…」

「私、早く天姫さんの目を覚ましてあげたい。このままの状態なんて嫌だよ!」

「…姫……、俺も同じ気持ちです」

「いつまでも辛気くせぇのも飽きちまったからな、さっさと叩き起こしてやれ」

 

旅の目的はそれぞれ違うが、彼らの中で芽生え始めた絆が成長の兆しを見せし始めた。

かくして謎の男により託された鈴と無事サクラの羽根入手した一行であったが、天姫がこの世界で目を覚ますことはなく、また次なる世界へと飛び立っていったのであった。男が手渡した、鈴を鳴らすのを止めることなく。

 

(ちぐはぐな世界に花を飛ばして)

 

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