。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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03『彼の者、『必然』を憎む者』

天姫side

 

私は一切なれ合うつもりはない。長く険しい旅をする以上、仲間との友好関係、普通なら気を配るとことであろう。映画とかなんかで未知なる地にて、それまでは全然喋ったこともない他人みたいな関係だったドキドキハラハラの体験を通じ仲良しこよしに。

晴れて絆を深めた仲間たちに、強敵などなんのその。無敵状態なのだ。

なんてことは私には必要ない。意味ないのだ。私は私の目的の為、必要最低限の行動しかとらんと決めた。私の目的は仲良しこよしじゃない。

ただ、あの子の為。そう、全てはあの子の為なんだ。少年が、腕に抱く少女の名を叫んだ。それが彼の目覚めとなる。

 

「さくらっ!」

 

文字通り飛びあがった彼の視界いっぱいに、

 

「ぷぅ、ちょりーす?」

 

なんとも可愛くない言い方をしたモコナが出張る。

というか邪魔している。そのモコナをひょいっとどかしてあげるのが、へらへら男。

 

「目が覚めたみたいだね~。御姫様は無事だよ」

 

「え、…さくらっ!?」

 

「一応拭いて置いたんだけど、オレたち雨に打たれてたみたいだから」

 

いきなりずぶ濡れになるとは思わなかった。窓から見える景色は、一応『日本』に近い世界というのはなんとなく理解できた。だって今私が座っている場所、畳だしね。

 

「ねぇねぇ~?」

 

視線を外に向けていればいつの間にか、ちょこんとモコナが私の肩に乗っかっていた。

 

「何」

 

完結に一言で聞いてみれば

 

「なんでもな~い」

 

と言うモコナ。思わずむぎゅっと絞めてやろうかと思ったが、ここは無視。

何やら、あちらさんは自己紹介を始めたようだ。私は加わる気は毛頭ないので、無言を貫く。モコナをてぃっと放り投げた。

 

「いや~ん」

 

何がいや~んじゃと思ったが、少年が抱く、少女が気になった。

気配が、弱弱しいのだ。男はどうでもいいが、少女がどうしても気がかり。

 

「そういえば、キミの名前ってなんていうーの?」

 

変に印象が決まってしまうのを承知で、私に自己紹介を求めるへらへら男を無視し、

少年の前で膝をつき、そっと少女の頬に触れた。冷たい、氷のようだ。体温が低すぎる。

 

「その子は何を失くしたの」

 

と問う。すると少年は切なそうに顔を歪め「記憶(こころ)です。たくさん飛び散ったんです。『羽根』として」と教えてくれた。

記憶=羽根、となるとまず、一番最初の羽根となるのは、

 

「マント」

 

「え?」

 

「マントの後ろを探してみなさい。そこに彼女の『羽根』があるから」

 

「!?」

 

ごそごそと少年は自分が身に着けているマントを探しはじめた。すると、彼の手に一枚の綺麗な羽根が。

 

「これ、さくらの?」

 

「器は記憶を求めている。…入れてあげなさい。多少体温も上昇するはず」

 

「はい」

 

少年の手から羽根はふわりと舞い上がり、溶け込むように少女の胸に入っていった。

 

「…体が、温かくなりました。…良かった」

 

心底ほっとした顔。私もほっとした。なんだか放っておけない気がしたから。ここでへらへら男が感心したように、私に声をかけてきた。

 

「へぇ~、『魔力』あるんだ」

 

「別に貴方に関係ないでしょう」

 

無駄話をする気はない。なれ合うつもりもない。自分が無益と感じた会話はしたくなかった。

 

「オレはファイって呼んで~?」

 

「呼ばない」

 

「あっちの黒いのは黒鋼で」

 

「だから呼ばない」

 

「彼は小狼で、この子はさくらちゃん。それでコレがモコナ」

 

へらへら男にコレ呼ばわりされたのがムカついたのか、モコナは「むきー」と怒っているのか怒っていないのかわからない鳴き声?を発した。私は「はいはいお黙り」とモコナをむぎゅっと抱き込んで強制的に黙らせることにした。実は抱き心地最高なんだよね。

 

「ご丁寧に説明どうも。でも頼んでませんから余計なおせっかいです」

 

「その余計なおせっかいをさっきしたのは何処のダレでしょう~?」

 

「ぐっ」

 

痛いとこつきやがるこの男。おせっかいはした。が、それは仕方なく無視することにした。が、無視できない状況が生まれた。これ、だ。

 

「魔女も言ってたでしょ?この世に偶然なんかない。あるのはひ」

 

認めない

その先の言葉を聞きたくなくて、私は瞬時に出現させた『月光』を奴の喉元ギリギリまで添わせる。くいこむか、くいこまないかの瀬戸際ギリギリまで。

少年が何事かと警戒心露わに、少女を抱きしめ、距離をとる。

黒いのも同じように、いつでも斬れるよう立ち位置は決めている様子。

だが、関係ない。今、この男の言葉を否定することが私の最大の行動理由だ。

理性は荒れた。

 

「それ以上言うな」

 

視線は険しく、声は押し殺し殺気を含ませ

 

「私は認めない」

 

へらへら男の視線が、すぅっと細くなった。私の心を、見向くかのように。

 

「全てが決まっているなど私は認めない」

 

だって、この運命が決まっているのならあの子は最初から死ぬことを定められていたということではないか。そんなの、誰が認めるか。あの子は『生きる』のだ。その為に、私は自らの命を差し出したのだ。その『理由』を奪わせは、しない。決して誰にも何者にも

 

「『必然』など、認めはしないっ!」

 

私の目的はただ、あの子を生かすこと。自分の身がどうなろうが知ったこっちゃない。

ああ、簡単に捨てられる。自分の身など命など全て捨てる。なのに、この目の前の男は私の存在意義を否定しようとするのだ。

 

『必然』

 

ひつぜんヒツゼンひつぜんひつぜんヒツゼンひつぜんヒツゼン

ひつぜんヒツゼンヒツゼンひつぜんヒツゼンひつぜんヒツゼンひつぜん

 

誰が認めてやるか。私にとってそれは禁句で、私にとってそれは絶対的に認めたくないもので、私にとって、それは潰すに値するモノ。

旅がどうとか、仲間だとかの前に敵だ。だから、この男の首を切り落とすことになぞ、なんの躊躇いもない。月光の煌めく刃がへらへら男の喉元に食い込む。

 

「無駄口叩けぬようにその御喋りな口、裂いてやろうか」

 

「…………」

 

「やめてくださいっ!」

 

少年には悪いがやめるつもりはない。首ごと飛ばしてやろうか。

 

男の態度は、何も変わらず、ただ私を見る。冷静に、狂っている私とは真逆な瞳で。

忌々しい……見透かすかのようなそれは、私の神経を逆なでするだけの理由を備えていた。

だが、月光を握りしめた手に更に力を込めようとした、その時!

ある気配が突如ドアの前に接近しガバリっと開く。

 

「ちょっと待ったーー!」

 

関西弁の男の乱入と共に私に向って一振りの攻撃が仕掛けられるが、私はそれを難なく避け一歩後ろへ後退。

 

「!」

 

小狼たちは私を警戒してか動く気配はない。なんだこれでは私が悪者扱いか。

それで向こうの関西弁の男と、いかにも綺麗なおねーさんは味方?

 

「ワイのハニーの愛の巣で殺傷沙汰なんて許さへんで」

 

「………」

 

睨みつけられても何とも動じない私。別に許して欲しいとも何とも言っていないし。けど綺麗なおねーさんから

 

「どうか刀を収めていただけませんか」

 

と言われて気がそがれた私は

 

「…………」

 

無言のまま月光を収めることにした。

 

「ありがとうございます」

 

「物騒なねーちゃんやな、よう侑子さんが許したわ」

 

呆れ半分、警戒心半分。なんかギスギスしてて居心地悪い。

仲良しこよしはする必要がないから一緒にいても意味ないよね。そう判断した私はモコナに声を掛けた。

 

「モコナ、その女の子の羽根が見つかるまでは異世界に飛ばないんでしょ」

 

「うん」

 

「そう、わかった」

 

私は一つ頷いて彼らに背を向けて窓辺へと歩いた。

 

「悪いがここで単独行動とさせて頂く。そこな男といるとどうにも血が騒ぐのでな。勢い余ってひねってしまいそうだ」

 

この場を汚してしまっては、後に目が覚めるであろう、あの少女を怖がらせることに繋がる。それは可哀想な事なので私は二階の窓ガラスを開け、足をかけた。

さっさとこの場を去りたいから私は二階から飛び降りることにしたのだ。

皆が私の突如としての行動に驚きを隠せないらしい。少しだけ顔を後ろへ向けておねーさんにだけわかるように自分の胸をトントンと指で突いて

 

「そこのおねーさん。【コレ】については内密に願う。余計な情報を彼らに与えられるのは困るのでな」

 

彼女の返事を聞くことなく窓から身を滑らせるように降りて行った。そして夜の闇に溶け込むように走って町の中へと向かった。

 

◇◇◇

 

後に残された関西弁の男は

 

「なんや、巧断の説明も聞かんと行ってしもうた」

 

と肩をすくめた。

 

「あの方に説明など不要でしょう」

 

「嵐?」

 

「あの方の内には、すでに……」

 

そこで嵐は、口を噤んだ。顔を青くさせどこか怯えた様子で嵐の夫である有洙川空太が

慌てて気遣う。それでも嵐の様子は変わらなかった。

何が彼女をここまで追い込ませたのか。

言葉にすることはできないのだ。

 

(人の身でありながら【神】を宿すことなどできはしないはず…それをあの方は…)

 

人の領域を超えた存在だから、こそ。恐ろしいと思ってしまったのだ。

 

神崎天姫という少女を。余りにも恐れ多い事ゆえ。

 

(阪神共和国の始まり始まり~)




◇◇◇

なんか妖精が似合いそうな少女を助けてしまった。

「アナタ気に入ったわ」

「私は気に入ってません」

プリメーラ、天姫。
さっきから押し問答を繰り返しています。
飛び出した時は時計の針は真夜中を示し、来たばかりの異世界で行先などたかが知れている。さてどうするかと悩んだ時に熱狂的なファンに追い掛け回されてブチ切れ寸前のプリメーラを成り行きで助けた天姫はなぜかプリメーラに気に入られ

「いいわよ、あたしの付き人にしてあげる♪」

とアイドルからのキュン!とくるお願いを受けていた。だが天姫はさらさらそんな気などないので

「いや、誰もそんな事頼んでないんだけど」

と断った。がアイドルはまったく人の話を聞かないで嬉々として

「遠慮なんてしなくていいんだから」

と言う。天姫も負けじと

「遠慮してないから」

と言うがアイドルは聞く耳持たないので強制的にプリメーラちゃんの付き人?になった。天姫はため息をついたが前向きに考えようとした。

「ま、いっか。金づるゲット」

「何ブツブツ言ってるのよ?さぁ!行くわよ。笙悟君に逢いにいくの♪」

「ハイハイ」

笙悟君って誰?と首傾げつつも成り行き任せでプリメーラの後に着いてく天姫。
この後笙悟君とやらと知り合いになるまで数十分前の出来事。

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