。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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34『偽りだらけ』

まったく。なんて最悪な日かしら。

あいつに蹴飛ばされて落ちた世界でいきなり不良っぽいのに絡まれるなんて。もちろん、私がチンピラ共に負けるわけはなく、あっさりと勝利した。すると背後からなんか声がしたと思ったら、見知らぬ少年が佇んでいるではないか。ちょと背後霊みたいね。

しかも何を言い出すかと思えば、私の登場の仕方に飛び降り自殺だというではないか。

私は呆れてまともに返すのも馬鹿馬鹿しいと思ったから適当に言った。しかもついでと言わんばかりに名前を聞いてくるし。そこは自分から先に名乗るのがセオリーでしょ?と

言うと相手は一理あると頷いて、「―――だよ」と名乗った。

――-、なんて個性的な名前というのが第一印象。

それで?と先を促されて、ああそういえば次は私が名乗る番かと思い出した。

そこでちゃっちゃっと自己紹介してとんずらこくつもりだったのは、彼には内緒。

 

私って、個性的な男に惹かれるのかしら。

自分の好みなんて把握しちゃいないけど、ホントそう思う。

 

私が好きになった人は、偏食が酷い。特に気が付けばいつもマシュマロを好んで食べている。かなりの高カロリーだから、体に悪いと取り上げるのだけどいつの間に隠し持っていたのか、新たなマシュマロを手にしているのだから、ホント、手に負えない。

しかも私にもそのマシュマロ好きを押し付けようとする。勘弁してよ……、虫歯になりたくない。

 

そんな変な彼は特殊な能力を保持していて、並行世界(パラレルワールド)の自分が得た知識などを自分のものとして共有できるらしい。最初は何言ってるかわからなかったけど、あることを教えられてびっくりした。彼は蒼龍が生じた理由を知っていたからだ。そりゃ、マーレリングだとか、ボンゴレ?リング、それになんだっけ…。赤ちゃんのおしゃぶり、じゃなくて。アルコバレーノのおしゃぶり。そう、それがあれば時空の支配者になることだって可能だって、私がアイツを追っていることを知っているから、私のために集めようとしてくれた。でも私は全力で断った。

そんな支配者なんて求めてないし、絶大な力だって欲しくない。

 

やらなきゃいけないことがあるのはわかってる。

でも今はこの幸せを大切にしたい。あの子のことはすごく大切。大事にしたい存在よ。

でも、あの子だけじゃない。

 

あの子以外の人を大切に思えるようになったのは貴方が初めて。

だからこそ、思うの。

今、この時間を共有できることが嬉しいから。そんな争いごとなんていらない。

貴方と共にいることが私の今の幸せだから。

 

そう伝えると、彼はきょとんと呆けた顔した後、

 

『それって逆プロポーズ?』

 

なんて聞くもんだから

 

私は反射的に顔を赤くさせて

 

『違うから!居候先がなくなるの困るだけだから!』

 

と言い返していた。その後、彼がニヤニヤしてばっかりだったから、ムカついて私はマシュマロがたくさん入った袋を顔面に叩きつけたりした。

 

絶対違うから。

ゴメンと言うならその緩みっぱなしの笑みを何とかしてからもう一度ちゃんと謝りなさい。そうしたら、ちゃんとしたの、聞いてあげてもいいわよ。

 

そう、つっけんどんに言い返したら、彼は「どうか、この先も僕とあり続けて欲しい」と、絵本に出てくる王子様みたいに膝をついて、私の左手を取って、薬指に光る何かを通した。私は、それが何なのか、すぐにはわからなくて、でも自然と涙があふれてきた。

私にできることなんてたかが知れてる。

 

はにかんで、表情筋思いっきり緩ませた。

 

【うん、喜んで】

 

 

罠だった。私は最初から利用される立場だったんだ。あの子が危機に瀕してるなんて安っぽい嘘に騙されるなんて、私も落ちたものね。

 

この身、この魂は全て供物とされていたなんて。神が描く、筋書き。

はは、ちゃんちゃら可笑しいわね。

私がこうなる運命だとして、彼と出会うことも決まってたわけ?

何のために、何のためにこんな別れ方をしなくちゃならないの…!

 

辛いものなら、出会いたくなかった。

だって、彼の悲しむ顔、想像できちゃうもの。

わかっちゃうもの。

一緒にいた時間が長ければ長いほど、理解できてしまう。

 

でも、今の私は、私だけのもの。

この想いも、この躰も、この魂も。

 

誰にだってやるものか。

誰かの器になるくらいなら、潔く【死】を選んでやる。

 

むき出しの感情は私の最後の力を放出させる。それはアイツにとっては予想外のようで、面白い顔になってるわ。

 

フン、いい気味よ。

女を舐めると痛い目みるってことを思い知りなさい。

 

躰、重たくなってきた。

終わりね、とうとう私も。

 

最後に、彼にこの想いを届けられたらどんなに最高か。

 

出会いが仕組まれていたとしても、私は貴方を好きになったことを後悔していません。

むしろ、その点だけはアイツに感謝してあげようと思うの。

 

どうか、彼が自分を見失うことがありませんように。

私の不始末にどうか、彼が負い目を感じませんように。

貴方が、馬鹿な真似しませんように。

 

どうか、自分の本当の幸せを見つけてください。

 

きっと、貴方なら。

 

【マシュマロみたいな恋をすると思うから】

 

※※※

 

ちりん、ちりんと頭の中で耳に心地よい鈴がなる。

でも、これは蒼龍からの警告だ。

 

【気を付けよ、気を付けるのだ】

 

何が――?

 

【―――が、が目を覚ました】

 

―――って、ダレ?

 

蒼龍は繰り返し続ける。

 

【気を付けよ、気を付けるのだ】

 

心がざわつくのは、そのせいなのね。

きっと、私達にとって、脅威になる、何かが動き始めたのだ。

 

モコナの次元移動でたどり着いた次なる世界は、荒廃しきった世界だった。

空はどんよりと灰色雲で空気は淀んでいて、建物はまるで今にも崩れそうなほど、いや。

違う。崩れているのだ。何もかもが。

まるで完全に壊された世界。

人の気配などまるで感じさせない砂漠化した、都市であった場所。

 

「ここは…!?」

「天姫さん、知ってる世界なんですか?」

「知ってるというかなんというか……。私が住んでた世界の建物によく似てるのよ。でも、ここまで崩壊してる世界じゃない。別世界よ、まるで、さ」

 

まるで世界の終わりを見ているかのようで天姫は身震いを感じられずにはいられなかった。

 

「そういえば、ファイさんは魔法使ってしまって大丈夫なんですか?」

「そうだね、俺が使ってるのとは別系統の魔法だけど」

「だが、魔法は魔法だろ」

 

黒鋼の厳しい視線をもろともせずに、ファイはにへらと笑い返して、「かもね」とおどけて言って見せる。

 

「イタ!」

「この、雨は?」

「酸性雨だわ!」「酸性雨?」

「説明は後でするから今はこの雨をしのげる場所を探しましょう!」

 

天姫は片腕で顔が濡れるのを庇いながら、あっちの建物がまだくずれていないわと指示を出す。皆はそれに向かって走り出す。一足遅れているファイに気付いた天姫が、

 

「ファイ、ぼさっとしてないで、走って!」

 

とファイの手を取って走り出そうとした。

だが、

 

「っ!」

 

ファイは反射的に天姫の手が触れる寸前、パシッと軽く叩いて拒んだ。

 

「いた!」

 

天姫は軽い痛みに顔を少し歪ませた。ファイはしまったと焦った表情をしたが、苦し気に視線を逸らして、小さく謝った。

 

「…!……ゴメン。…でも、今は……」

「…ファイ……」

「行くぞ!」

 

呆然とファイを見つめるしかない天姫。ファイはそんな天姫から逃げるようにサクラを抱く黒鋼に続いて走り出した。小狼は、一度振り返り自分を追い越していくファイを視線で追いかけ、そして後ろで立ち尽くしたままの天姫の元へ駆け戻った。

 

「天姫さん、行きましょう!」

「え、あ、うん…」

 

天姫は急かす小狼に手を掴まれたことで我に返り、頷き返して共に駆けだした。

 

【砂の国】

 

◇◇◇

 

酸性雨という地球を壊し続けた代償の雨が降り注ぐ中、小狼たちが避難先と選んだのは、荒廃した世界にいまだ辛うじて姿形を保っている、ビル。天姫はそのビルがなんであるのか一目見てわかった。首都、東京の都庁であると。だがこの変わり果てた世界が本当に日本なのかと信じたくない気持ちが強く、あえて皆に伝えることはしなかった。

入口近くにて、残虐死体の山がお出迎えしてくれた時は、心底サクラが寝ていてくれた助かったと安堵したことか。

さきほどのファイとのやり取りがまだ天姫の頭の中で衝撃として残っているが、今は現状を知るべきと悟り、天姫は小狼とモコナで皆から少し離れ、都庁の中を調べることにした。その時、珍しく黒鋼から「すぐに戻れ」とぶっきらぼうながらも声を掛けられ、天姫は「わかった」と頷いて一足先を歩く小狼を追って走った。

二人と一匹でしばし、調べてみたけれど人の気配はまるでない。そんな静寂の中、天姫は小狼にあることを語った。

 

「……ここね、私が知ってる世界かもしれない」

「え!?もしかして天姫さんが住んでた?」

「ううん、そうじゃないけど似てる世界。この建物も本当は東京っていう首都の都庁なんだよ」

「東京?……でもなんで、こんなに壊れかかっているんだ?」

「たぶん、地球を破壊し続けた代償だと思う。あの酸性雨もそのうちの一つだよ、きっと」

「天姫さん、詳しいんですね」

「もしかしたら、私が元いた世界でも同じことが待ってるかもしれないからね。そういうことを危惧して全世界に訴える人たちもいたし。だから、ある意味この世界は私の世界の未来を映した世界なのかな」

 

吸いつくして吸い尽くして最後に残るのは、無情なほどに亡骸だけ。

地球という資源からエネルギーだけをむさぼり続けた結果、自業自得と言わんばかりの結果だけが残された世界。この世界に仮に人がいなくとも仕方ないといえる。

だって、責任逃れなんてできないだろう。

 

知らない知らないとのたまわっていようが、背負う罪に軽い重いもないのだから。

 

「……モコナ。羽根の気配は?」

「…わからない、でもすごく大きな気配があるの。たぶん、下」

 

小狼からの問いかけにモコナは戸惑いながらも小さな手で天姫たちが立つ床を示した。下、ということは地下。

 

天姫は一旦皆の所へ戻ろう、と小狼に声を掛けようとした。だが、複数の人物の気配。それに自分たちに向けられる殺気に勘づいた途端、襲い掛かるボーガンの矢の雨。

 

「小狼君!」

「なっ!」

 

天姫は舌打ちしながらしなやかな身のこなしで自分らに襲い掛かるボーガンの矢を避けていく。顔面すれすれに狙いを定めていることから最初から殺す目的だと冷静に判断。すぐに月光を出現させて、体制を整え戦闘態勢へ切り替える。小狼も見事な体術で矢を蹴り返したりとしているが、途中でぐらっと小狼の体がふらついた。そこにまた矢が飛んでくる。

 

「小狼君!」

 

天姫はヤバイ!と小狼めがけて駆け出し勢い殺さずそのままタックルをかました。

 

「天姫さんっ!?」

「ぁあっ!」

 

目を見張る小狼、そして小狼の代わりにボーガンの矢を腕に受けぽたぽたと血を流す天姫。痛みから顔を歪ませるが、月光をぎゅっと握りしめぎっとある方向を睨み付け、

 

「さっさと、顔ぐらい見せたらどうなのよ。もぐらさん?」

 

とわざと嘲った言い方をして挑発をする。だが複数の気配はガヤガヤと何かを話し合うだけで一行に姿を見せようとしない。小狼に庇われながら、天姫は強いな態度に出た。

 

「それとも見せられない顔でもしてるわけ、性根腐りきってゾンビ化でもしちゃってるのかしら。それはお気の毒様。それはそうよね、陰から闇討ちするしか能のない方々ですものね~」

「天姫さん…」

 

小狼が天姫の態度に戸惑う表情を見せた。だがこれとてちゃんと考えてのこと。黒鋼辺りが勘付いているはずなので、彼が来るまでの時間稼ぎと少しでも敵の人数と武器とリーダー格を頭に叩き込むこと。こちらが負傷している分、少しでも戦況有利な作戦を立てるために。

そう、これも天姫の作戦。

小狼が避けられなかった点は予想外であったが、自分が庇わないという選択肢は天姫の中ではなかった。自分の領域が壊されようとするならば身を挺してでも守る。

小狼はすでに天姫の中で守る、対象になっている。だからこそ、このような姑息な手段に腸煮えくり返ってもいたのだ。

 

「さっさと出て来いよ、溝鼠」

 

そう吐き捨てるように言うと、小狼が「何を!?」と声を荒げて止めようとするのも無視してすっと立ち上がると、自分の腕に突き刺さる弓に手をかけ、それを無理ずずっとやり引き抜いた。歯を食いしばり鋭い痛みを堪えて堪えて、抜き取った血まみれの矢を地面に投げ捨てる。カランカラン!と反響して音が響く中、ついに動きがあった。

 

「神威、あんな言い方してるけどー。って神威!?」

 

すっと現れた謎のボーガンを携えた集団。天姫は瞬時に人数を把握した。

 

七人、か。

各々背丈は個人差があるようだが、総じていて殺害に抵抗はないとみた。

ということは殺しのプロ、と推測できる。あの入口付近にて死んでいた遺体もこいつ等の仕業であると判断できる。

 

仲間の呼び声を無視して、あるフード付きのマントをかぶった人物が崩れたビルの一部から降りてきた。そいつはすっとフードを下す。

整った容姿に僅かながらの表情の変化。神威と呼ばれた少年は、自分と対峙する天姫を見ては驚いた表情をし、小さく呟くように言った。

 

「強い神力、……神子か?……いや…だが『エ』に近い」

「み、こ?……天姫さんが…?」

 

神子というキーワードに天姫はすぐに反応した。小狼に知られてしまったことは仕方ない。後で言い訳するとして。優先すべき相手は、アイツ。

ごく限られた情報もこうもあっさりというとは。

 

『彼奴は敵である。』『殺すに値。』『抹消するべき。』

 

スイッチが入ったかのように天姫の両目が紫紺から赤へと濃く染まっていく。

 

「順番に殺していってやるよ、まずは貴様だ」

「アイツも、『エ』か……、やはり神子も『エ』だな」

 

小狼を一瞥してから天姫を見やる神威は『エ』をいう意味不明な言葉をつづける。

 

『エ』が何を示すのは今はどうでもいいこと。

今、天姫の脳内を占拠するのは、神威というあの少年を殺すこと。

 

無理に矢を引き抜いた所為で鮮血に染まっていく腕部分の袖など気にせずに、天姫は月光を改めて構え直し、

 

「小狼君、下がってなさい」

 

と、有無を言わさず声音で小狼に下がるよう指示する。小狼は一変してしまった天姫を止めようと動こうとするが、それは間に合わなかった。

 

「天姫さんっ!」

「天姫!」

 

髪を翻して、目を見張る速さで駆けだす天姫の捕らえる標的は神威のみ。奴の仲間がボーガンを構え天姫に向けていようともものともしない。いや、見えてすらいないのか。

 

「神威!」

 

神威の仲間だろう一人がボーガンを駆けだす天姫に向けて放ったのは同時で、その鋭い矢が天姫の後頭部狙って今にも突き刺さろうというとき、

 

「バカ娘が」

「あ?」

 

突如高速で投げられた男の握りこぶし大の石によって、見事矢は叩き落された。

そのような神業を成したのは、そして天姫をバカ娘呼ばわりできるのはただ一人。

 

「黒鋼さん!」

 

皆のおとーさん華麗に登場。黒鋼は狂戦士【バーサーカー】化した天姫と、その天姫を止めようとしていた小狼を一瞥しては、大げさにため息をついた。

 

「お前らはちょっとうろついてだけでこうか。しかも…」

 

天姫の瞳が紅いこと、いつもよりも好戦的な態度に黒鋼は何かを感じ取ったのか、

 

「なによ」

 

と不機嫌に返す天姫からフイッと視線を逸らし、神威へと視線を変えて

 

「別に、白まんじゅう。刀」

 

とモコナに刀を出すことを要求。モコナは心得たと

 

「うん!」

 

と応え口からぽいっと刀を出す。それをパシッと受け取った黒鋼は、むんずと天姫の射貫かれた腕をわざと少し強めに掴んで、

 

「イタ!」

 

と声を上げて反応する天姫を遠慮なしに後方にいる小狼目がけて投げる。というか放り投げた。

 

「どぁ!?」

「うわ!」

 

女らしい悲鳴あげない天姫は投げられた勢いのまま小狼に背中から突っ込んだ。小狼は突然のことに驚きながらもなんとか天姫を抱きとめることに成功。

黒鋼はフッと意地悪そうに笑みを浮かべ、こういった。

 

「下がってろ、怪我人の癖に」

「な、なんですって?!こ、の黒鋼のくせしてぇぇえ!」

 

ムキーと怒りをあらわにする天姫に、小狼は驚きを隠せなかった。先ほどまでの天姫が嘘のように消えて、今では自分が知る天姫に戻っている。

 

「元に、戻ってる…」

「へ?」

 

小狼の言葉の意味を理解できずに間抜けな表情をする天姫に、モコナが飛びついて

 

「良かった!天姫が天姫になったー」

 

と涙浮かべてまで喜ぶ姿に、小狼も場違いながらもほっと胸を撫で下ろした。

 

「だからなに?」

「後で説明しますから今は黒鋼さんに任せましょう」

「え、あ、うん。小狼君がそういうなら」

 

なぜか強い口調でそう言われて天姫は戸惑いながらも頷くしかなかった。

 

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